人工血小板開発研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100672A
報告書区分
総括
研究課題名
人工血小板開発研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
池田 康夫(慶應義塾大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 末松誠(慶應義塾大学医学部)
  • 半田誠(慶應義塾大学医学部)
  • 谷下一夫(慶應義塾大学理工学部)
  • 武岡真司(早稲田大学理工学部)
  • 池淵研二(東京医科大学)
  • 長澤俊郎(筑波大学臨床医学系)
  • 鈴木英紀(東京都臨床医学総合研究所医薬研究開発センター)
  • 後藤信哉(東海大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 高度先端医療研究事業(人工血液開発研究分野)
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
90,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
血小板輸血は、癌・造血器腫瘍などの治療や、外科手術における欠くことの出来ない補助治療法として非常に重要である。しかし、血小板輸血には解決すべき2つの大きな課題がある。一つはその需要の増加と血小板の短い保存期間(72時間)の為に起こる供給不足・緊急時供給体制の不備であり、他はウィルス感染症をはじめとする輸血後副作用の発現である。これらの課題を解決し得る人工血小板・血小板代替物の開発・臨床応用は、21世紀の医療の当然目指すべき方向といえる。常時使用可能な人工血小板・血小板代替物を開発することは、血液事業の効率化のみならず、緊急災害時の備えという観点からも重要である。この様な背景のもと、本研究班は人工血小板・血小板代替物の創製とその実用化を目指した基礎研究を行う。
研究方法
[①血小板膜糖蛋白固相化リポソームの作製とその機能解析] 
CHO細胞を用い、vWF受容体蛋白(GPIbα)、コラゲン受容体蛋白(GPIa/IIa)を培養上清中に可溶性蛋白として大量に回収し、その精製蛋白をdetergent dialysis法で調製したリポソームに結合させた。その機能解析はrhodamineで標識したリポソームのtype Iコラゲン、vWFへの粘着をフローシステムで蛍光顕微鏡を用いて観察し、得られたビデオ画像により、定量的解析を行った。
[②アルブミン高分子重合体の調製とその機能評価] 
リコンビナントアルブミンを用い、pHと温度の変化により、分子間にジスルフィド結合を作り、粒径が数十nmから数十μmまでのアルブミンマイクロスフェア(AMS)を調製した。これにrGPIbα、rGPIa/IIa、fibrinogenを結合させた。これら各種AMSの機能評価は、リポソームと同様、流動状態下で行った。
[③流動状態下における人工血小板の機能解析] 
流動状態下で基質蛋白(コラゲン、vWFなど)、血小板との相互反応をみる目的で、フローチャンバー内にこれらを固相化した基板を作成し、全血またはリポソーム、AMSを含む再構成血を環流させ、蛍光顕微鏡下で観察し、解析した。
[④人工血小板・血小板代替物の止血能評価と生体内挙動の検討] 
(1.止血能評価)F344近交系雄ラットにγ線7Gyを照射し、種々の程度の血小板減少ラットを作製、人工血小板・血小板代替物の止血能評価として、投与前後の出血時間をラット尻尾を用い、シンプレート法で測定した。
(2.生体内挙動の観察システム)ラット腸管微小循環系を用い、rhodamin標識したrGPIbα-リポソームの高速度高感度撮像を得て、解析した。
(3.光化学反応による血栓形成)
1.25% Fluorescent-Na 200μl /100gBWをラット静脈内に投与する。直径40μmの腸間膜静脈を選び、600-700nm の波長の光を照射した。Fluorescent -Naは、光化学反応によりsingle molecule oxygen を放出し血管内皮を障害する。これにより形成される血栓を観察し、血流の完全停止までの時間を測定した。
(倫理面への配慮)代替物の止血能検討の為の動物実験に際しては、次のそれぞれの施設における規定(慶應義塾大学:実験動物委員会倫理規定、筑波大学:動物実験取り扱い規定)の承認を得て、動物愛護に十分な配慮を行い、適切な処置を施した。
結果と考察
[①流動状態下での血小板血栓形成機序]
血小板固定化基板上への血小板の集積過程を蛍光顕微鏡下CCDカメラで連続的に観測したところ、600sec-1?2400sec-1の広い範囲のずり速度下において血小板血栓形成には流血血小板のGPIb/IXが必須であることが証明され、流動状態下での粘着反応のみならず血小板血栓形成においてもGPIb/IXが重要な役割を演じていることが確認された。血小板固定化基板上の分子で流血血小板膜上のGPIb/IXと反応する標的となるものとしては抗体による阻害実験の結果からvWFとP-selectinが同定された。特に低ずり速度下ではP-selectinの重要性が明らかとなった。この結果は人工血小板を設計する上で全ての範囲の血流状態下でGPIb/IXは不可欠な膜糖蛋白である事が明らかとなった。
[②rGPIbα、フィブリノゲン結合 AMSの機能]
ヒト血小板の大きさに近づけたAMS、ラテックス粒子、リポソームの表面に同密度になるように、rGPIbαを結合させ、それらの人工粒子の流動状態下におけるvWF基板上への集積を比較検討した。
AMS、ラテックスではvWF基板に直ちに粘着し、その後解離することはなかったが、リポソームではヒト血小板と同様、vWF基板へ粘着後、流動方向に向かって基板上を転がり、脱着する挙動が観察された。転がる速度はリポソームの膜流動性の増加に伴って低下し、リポソームの脱着はリポソーム表面からのrGPIbα結合脂質の脱離によることが確認された。この事実からrGPIbαを認識蛋白質として利用した場合、AMSでは生体内における出血部位への集積が可能となるが、リポソームの系ではrGPIa/IIaなどが必要となる事が考えられた。
一方、fbg-AMSは流動状態下で(低ずり速度350sec-1)血小板固定化基板に可逆的に粘着し、この粘着は抗GPIIb/IIIaモノクローナル抗体により完全に抑制された。Fbg-AMSが反応する血小板固定化基板上の標的分子はGPIIb/IIIa複合体であることが明らかとなった。高ずり速度下ではfbg-AMSの血小板同定化基板への集積に起こりにくかった。またfbg-AMSが血小板基板へ粘着・集積するに伴い、ヒト血小板の粘着数も有意に増加した。
[③rGPIbα-リポソームの生体内挙動 - ラット微小循環系での解析]
これまでに血小板は微小血管系において内皮細胞近傍を流れており、その挙動に血小板膜糖蛋白GPIbαが重要な役割を演じていることが本研究班末松誠分担研究者らの研究で明らかとなったが、rGPIbα-リポソームの生体内挙動を明らかにする目的でヒトGPIbαと交叉反応性を示すラット微小循環系を用い、超高速感度ビデオ観測法で解析した。
rGPIbα-リポソームはずり速度の速い細動脈において一過性の粘着反応を呈しながら小凝集塊を形成し、血管壁近傍を流れる。このような粘着は、低ずり速度の細静脈でも認められるが、その一部は内皮細胞上をローリングする白血球と塊を形成して流れていることが明らかとなった。これらの挙動は抗GPIbαモノクローナル抗体、抗vWFモノクローナル抗体により特異的に抑制されることから、ヒト血小板同様、rGPIbα-リポソームの生体内挙動はGPIbα、vWF相互反応により規定されることが確認された。
[④rGPIbα-AMS、rGPIa/IIa-AMSの生体内血栓形成能の評価]
ラット腸間膜を用い、光化学反応により傷害された血管内皮細胞部位での血栓形成におけるAMSの役割について検討した所、コントロールAMSに比べてrGPIbα-AMS、rGPIa/IIa-AMS投与では、血管閉塞に至るまでの時間が著しく短縮した。この実験系は生体内における血栓形成過程を見る上で、再現性に優れた良い方法ではあるが、その促進は血管を閉塞し、致死的な臓器障害を惹起する病的血栓の実験モデルとしても用いられており、本年度得られた知見は臨床上、重要な問題を提起しており、今後の重要な研究課題である。
結論
リポソーム、AMSを人工担体として遺伝子組み換えGPIbα、GPIa/IIa並びに純化フィブリノゲンを結合させ、その機能解析をin vitro、in vivoで行った。人工血小板の設計に必須の膜糖蛋白としてのGPIbαの重要性が単に流動状態下での粘着反応のみならず、血小板血栓形成過程においても証明されたことにより、これまでの本研究班の開発方針の妥当性が改めて確認された。本研究班で初期から用いて来たrGPIbαアミノ酸配列がnativeなGPIbαと異なっていることが研究の過程で明らかとなったが、本年度の分子生物学的な詳細な検討の結果、GPIbαはdimerを形成していることで(これまで使用してきたrGPIbα)vWFとの結合親和性が増大する事が明らかとなった。
rGPIbα-リポソーム、rGPIbα-AMSともにラットに投与され、それぞれ実験系は異なるものの止血機能を保持する人工担体としての有利な特徴を有している事が示された。
即ち、rGPIbα-リポソームは細動脈内で内皮細胞近傍を流れていること、rGPIbα-AMSは光化学反応によって作られた腸間膜血栓モデルにおいて血栓形成を著しく促進することが示されたことである。
人工血小板開発に向けて、これらの基礎的研究の成果を踏まえて、より詳細なin vivo研究計画が今後予定されている。

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