心疾患患者の生体情報を把握し,病態に応じた治療を行なうためのシステム開発に関する研究

文献情報

文献番号
200100666A
報告書区分
総括
研究課題名
心疾患患者の生体情報を把握し,病態に応じた治療を行なうためのシステム開発に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
砂川 賢二(国立循環器病センター研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 高度先端医療研究事業(治療機器等開発研究分野)
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
-
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
患者のQOL低下や医療現場の物理的混乱を防止し、生体情報をきめ細かく採取し、薬剤投与を一元管理する新しい枠組みのシステム(「①インテリジェント生体情報取得システム」、「②インテリジェント薬剤投与システム」、「③通信」)を開発すること。
研究方法
1.インテリジェント生体情報取得システムの開発
1-1.血液ガスセンサの開発
細径のカテーテルに装着可能な微小(0.3mm×60mm)酸素・二酸化炭素センサを開発した。このことを実現するために、変形を受けやすいことを考慮して基板をガラスやシリコンからポリイミドに変更し、従来並列的に並べていたアノード、カソードを積層することで微小化をはかった。
酸素センサのカソード、アノードにはともに銀を、電解質には0.1M KClおよび20mM NaHCO3を含むpoly HEMAを使用した。二酸化炭素センサの指示電極にはイリジウム酸化膜を、参照電極には銀/塩化銀を、電解質には酸素センサと同じものを用いた。試作では、応答が平衡に達するまでの時間が長く、平衡に達した後も顕著な残余電流が認められた。電極と絶縁層の間の密着性が悪く電界液が染みこんでいることが考えられたため、作用極と絶縁層との間の密着性を向上させて、これらの間に電解液が染みこまないように電極構造に改良を加えた。
1-2.電解質センサの開発
電解質センサの開発には目的とするイオンを選択的に吸収するイオノフォアの開発・合成が最も重要である。電解質センサでは電極表面(測定対象と接する界面)にイオノフォアを含む感応膜を置き、これによって特定のイオンのみを検出する。イオノフォア分子によっては長時間の測定中にイオノフォアが血液中に溶出しセンサの感度が徐々に減弱するという問題がある。そこでこれらの問題を克服するために本年度は高い選択性をもち、かつ溶出しにくい高脂溶性のナトリウムイオノフォアを開発し、これを用いた電解質センサを試作した。従来のナトリウムイオノフォアに比し今回開発したナトリウムイオノフォアは長鎖アルキル基の導入により脂溶性を格段に向上させることができた(log PO/W 11.8から18.1に向上)。
ナトリウムセンサの試作は2通りの方法で行った。1つは通常のイオンセンサの構造を用いたもので一方の銀/塩化銀電極の表面にイオノフォアを3%含有するイオン感応膜を(膜厚~100?m)配置し、両端に生じる電圧値を測定した。一方、イオン感受性FETを用いたセンサの試作では上記膜成分を溶剤に溶かして電極先端部に塗布し自然乾燥させた。FETに流れる電流値を測定した。イオン選択性を評価するために各種イオン単独の0.1M溶液を用い測定を行った。
1-3.カテコールアミンセンサの開発
血中のカテコールアミン濃度は極めて低く、微弱な電流値を測定する必要がある。櫛形電極表面においてカテコールアミン分子は酸化型⇔還元型の双方向の反応を行い、各電極間と電子の授受を行う。これが電流値となって観測される。そこで櫛形電極のようにカソードとアノードを近接して配置すれば、アノードで酸化型から還元型に変化した分子が隣のカソードで還元型から酸化型に変化することができ、繰り返して酸化・還元を起こすことができる。このようにして電流増幅が可能である。
1-4.センサ装着用カテーテルの開発
複数のセンサを装置できる細経のカテーテルを開発した。カテーテルの先端および側面に形成した窓にセンサを装着し内部のセンサ用ルーメンを用いて配線を行う。本年度はこのために必要なカテーテルの成形を行った。
1-5. カテーテル表面コーティングのための生体適合性材料の選定
超小型統合センサカテーテルの表面を適切な生体適合性材料でコーティングし血栓やタンパク質の付着を防止する必要がある。その際にコーティング剤自体がセンサの性能を劣化させないように配慮する必要がある。そこで本年度はすでに市販されている種々の生体適合性材料の抗血栓性をイヌの静脈内で評価した。
1-6. 無線伝送標準12誘導心電計の開発
標準12誘導心電図を無線伝送できるウェアラブルな心電図の送信機の開発を行った。本年度は必要な小型低消費電力のアナログ回路・AD変換器・ディジタル回路の試作を行った。本年度の小型化の目標はPCカード大、省電力の目標は電池動作で連続24時間動作である。
2.インテリジェント薬剤投与システムの開発
2-1. マルチルーメンカテーテルの開発
複数の薬剤が血管内ではじめて混合する(同時独立投与の)ためのマルチルーメン細経カテーテル(5ルーメン)の成形を行った。
2-2. 無線制御インフュージョンポンプの開発
市販のインフュージョンポンプ、点滴ポンプを改造し、外部より有線で制御するためのインターフェイスを組み込んだ。これらのポンプは制御用コンピュータと有線で接続し、制御用コンピュータ(クライアント)に無線伝送システムからの信号を受信する回路を装着した。
3. 高機能無線伝送システムの設計
周波数拡散通信(符号分割多重)を用いた通信方式を開発した。周波数拡散通信は広い電波の周波数帯域を確保しその帯域に広く信号を拡散して通信する方法である。信号を拡散することにより特定の帯域に雑音が発生しても影響を少なくすることができ、またディジタル信号を送受信することにより誤り訂正を行うことができる。周波数拡散通信である周波数ホッピング法を用いることにより特定の周波数帯域に持続する雑音に対しても、別の周波数によって情報を再送することで誤り訂正を行うことができる。
本研究では、他医療機器への影響を抑え、同時に省電池消費、小型化、多人数(50人程度)同時送受信を実現する。
結果と考察
1. 血液ガスセンサの開発
細径のカテーテルに装着可能な微小(0.3mm×60mm)酸素・二酸化炭素センサを開発した。変形を受けやすいことを考慮してポリイミド基板を用い、従来並列的に並べていたアノード、カソードを積層することで微小化をはかった。これらのセンサはポリイミド基板、カソード(指示電極)、絶縁層、アノード(参照電極)、絶縁層、電解質層、ガス透過性膜の順に片面に積層して製造した。
酸素センサのカソード、アノードにはともに銀を、電解質には0.1M KClおよび20mM NaHCO3を使用した。二酸化炭素センサの指示電極にはイリジウム酸化膜を、参照電極には銀/塩化銀を、電解質には酸素センサと同じものを用いた。酸素分圧の測定にはこれらの電極間に一定電圧をかけた上で流れる電流値をポテンシォスタットを用いて測定した。二酸化炭素分圧の測定には電極間に発生する電圧値をエレクトロメータを用いて測定した。
空気を飽和させた水溶液に還元剤を添加した際の電流値の応答の時間経過を測定した。還元剤の添加に伴い電流値が減少したが、応答は速やかであり残余電流も小さかった。この応答時間は臨床での使用を考えれば十分に高速であると考えられた。また酸素センサの検量線(酸素分圧と応答電流値の関係)は、70~450mmHgの酸素分圧の範囲で良好な線形関係が得られた。二酸化炭素センサはプロトタイプで、電極構造の最適化は行っていないため酸素センサに比べると応答は遅かった。
2. 電解質センサの開発
電解質センサの開発には目的とするイオンを選択的に吸収する物質(イオノフォア)の開発・合成が最も重要である。電解質センサでは測定対象と接する電極表面にイオノフォアを含む感応膜を置き、これによって特定のイオンのみを検出する。長時間の測定中にイオノフォアが血液中に溶出しセンサの感度が徐々に減弱する問題を克服するために、高い選択性をもち高脂溶性のナトリウムイオノフォアを開発し電解質センサを試作した。
新規ナトリウムイオノフォアを用いたイオン電極の検量線はナトリウムイオン濃度10-5~10-1の範囲でイオン濃度の対数値とセンサの電圧値との間に直線関係が得られた。またこの直線の傾きは理論的に予想される値とほぼ一致していた。新規イオノフォアは高いナトリウムイオン選択性(約200倍)を発揮し、臨床上必要とされる選択性をはるかに上回っていた。小型化が容易であるイオン感受性FET(ISFET)でも同様の検量線、同程度のイオン選択性が得られた。
3. カテコールアミンセンサの開発
カテコールアミン濃度は酸素分圧と同様に電極間に一定電圧をかけておきその際に流れる電流値を測定する。血中のカテコールアミン濃度は極めて低く、極めて微弱な電流値を測定する必要がある。そこで電極自体で電流増幅作用のある櫛形電極についてその感度を検討した。カテコールアミンは電極において酸化型⇔還元型の双方向の反応を行い、各電極と電子の授受を行う。櫛形電極のようにカソードとアノードを近接して配置すれば、アノードで酸化型から還元型に変化した分子が隣のカソードで還元型から酸化型に変化することができる。酸化・還元を繰り返すことにより電流が増幅される。
櫛形電極(電極幅・電極間距離:2?m)を用いた流路型センサでは、500pMおよび200pMのカテコールアミン濃度を観測することができた。検出が必要な濃度範囲は50~30000pMであるので、あと数倍の感度向上が必要であった。
4. 無線伝送の設計
本年度は要求される生体側の要求仕様に基づき無線伝送システムの設計を行った。これまでに比べはるかに高容量の生体情報を伝送する必要があることから周波数拡散通信の技術が必須であることを確認した。その結果、最大50人の患者の生体情報を各々最低限72Kbpsの速度(3.6Mbps)で送受信することができることが明らかになった。さらに高速パケット通信とエラー訂正技術を組み合わせることにより、伝送遅れを100msec程度に抑えつつ伝送の信頼性を格段に向上させる(10-10)ことが可能であることを確認した。送信電力は他の医療機器への影響の少ないクラス3(1mW)を使用し10mの送信が可能である。
結論
私たちは心疾患の急性期の治療に必要なほとんどの情報を一括して連続的に取得することのできる超小型の統合センサ・カテーテルを開発した。このカテーテルは急性期に一度だけ挿入すれば、以後は侵襲を繰り返すことなく治療を進めることができ患者のQOLの改善する。さらに、統合センサからモニタへの情報伝達に新しい無線伝送方式を用いればスパゲッティ状態を解消できる。
センサや無線伝送の個別技術の開発を進行中であり、これらが統合されれば心疾患の自動治療・最適治療に向けて大きく前進することは明らかである。

公開日・更新日

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