文献情報
文献番号
200100665A
報告書区分
総括
研究課題名
遺伝子診断法ならびに遺伝子診断システムの実用化研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
森谷 宜皓(国立がんセンター中央病院)
研究分担者(所属機関)
- 藤田 伸(国立がんセンター中央病院)
- 松村保宏(国立がんセンター中央病院)
- 佐々木博己(国立がんセンター研究所)
- 永井良三(東京大学大学院医学系研究科循環器内科)
- 森田啓行(東京大学大学院医学系研究科循環器内科)
- 神原 秀記(日立製作所中央研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 高度先端医療研究事業(治療機器等開発研究分野)
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究は、生活習慣病であるがんや心筋梗塞、脳卒中に関連する遺伝子多型、変異、発現をプローブによって検出する遺伝子診断法の開発・実用化を目的とし、がんの中でも遺伝子解析の進んでいる大腸がんと心筋梗塞と脳卒中の原因である動脈硬化症を研究対象疾患としている。大腸癌に関しては比較的少量の便の生細胞RNAを用いた大腸がんスクリーニング法の実用化を目的とした。動脈硬化症に関しては、本疾患に関連する遺伝子多型、変異、発現をプローブによって検出する遺伝子診断法の開発・実用化を目的とした。いずれの研究も日立製作所との共同で汎用的で実地臨床に還元される遺伝子診断システムの構築を行う。
研究方法
大腸がんのスクリーニング法は、便中からがん細胞を含む細胞群を効率良く分離することを基盤に置いた方法である。便の前処理システムの開発に向け、便中の生きた細胞からRNAを精製する方法の簡便化を行う。また検査システムの開発としては、検査対象遺伝子の決定とそのmRNAの検出系の開発を行う。動脈硬化症の遺伝子検査は、心臓カテーテルを施行した全症例を対象として臨床データの網羅的なデータベース化を行なう。動脈硬化症との関連性の示唆される遺伝子のSNPについて解析を日立製作所開発のBAMPER法に代表される新しい遺伝子解析システムを活用して解析し、臨床データベースと統合的に相関性を検討し、発症および予後、治療反応性を規定する遺伝子マーカーの同定を試みる。
結果と考察
大腸がんのスクリーニング法
便の前処理システムの開発では、最初に0.5 - 5 gの便を生理食塩水でけん濁後、ろ過によって未消化物を除き、次にパーコール密度勾配遠心によって、ヒト細胞を分離するか、またはヒトの細胞のみを選択的に溶解する方法でRNAを精製する方法の検討を行っている。蛍光標識したがん細胞と便を混ぜる実験で、24時間室温で放置しても、生きたがん細胞がパーコール法で分離できることを確認した。一方、分別溶解法に関しては、デタージェントの濃度などの検討を行っている。検査対象遺伝子のスクリーニングとしては、大腸がん患者および健常人の便中の細胞、大腸がん組織および大腸正常粘膜から抽出したRNAを用いマイクロアレイ解析(12600遺伝子)を行い、大腸がんのスクリーニングのための新たな候補遺伝子の分離を開始した。現在、大腸がん細胞および炎症性リンパ球を含む間質を構成する細胞で、特異的かつ顕著にに発現している約20種の遺伝子の同定に成功した。陽性率等の実用化評価を行うため、年間100症例のサンプルの精製、保存体制を構築した。便の前処理システムの開発における、ヒト生細胞の分離の基礎的実験は今年度で終了したものと考える。一方ヒトの細胞のみを選択的に溶解する方法は次年度の前期に終了する予定である。国立がんセンターでは、既に患者から採取した約5 gの便からCD44遺伝子のスプライシングバリアントを検出することによって、大腸がんの症例の60%以上で検出できることを報告している。一方、大腸がん組織にはがん細胞の他、炎症性リンパ球などが含まれていることから、がん細胞で特異的かつ顕著にに発現している遺伝子や間質を構成する細胞で発現する今回同定した遺伝子もまた大腸がんの検出に有用であると考えられる。
動脈硬化症
2002年3月の段階で心臓カテーテル検査施行患者約1400症例をデータベース化し、遺伝子検体数は約700例に達し、この遺伝子検体を用いて動脈硬化の発症、進展に寄与する遺伝子マーカーの検出を進めた。既知の動脈硬化関連因子に着目し、その遺伝子に存在する遺伝子多型の解析を行い、すでに構築してある臨床データベースとの間で相関解析を行った。一例として動脈硬化の発症・進展に関与が示唆されるマトリクスメタロプロテナーゼ(MMP)の遺伝子多型に関して心筋梗塞発症との有意相関を見いだした。各々の転写活性に関与するMMP-1プロモーター領域-1607 1G/2G多型、MMP-3プロモーター領域-1171 5A/6A多型には互いに強い連鎖不平衡を認め、MMP3の5AアレルおよびMMP1 1G-MMP3 5Aハプロタイプを保有することは有意に心筋梗塞発症のリスク因子となることを明らかとした。現在、新しい遺伝子多型タイピングシステム(BAMPER法(日立製作所))を利用しつつ数十の遺伝子のSNPについて解析を行い、すでに半数程度の解析が終了しており、今後臨床事象との関連性の検討を行う予定である。国内外で遺伝子多型の検討が多く施行されているが、包括的な臨床情報と遺伝子情報を統合的に解析し、かつ臨床事象を前向きに観察してその予後、治療反応性、薬剤副作用などの関連性を検討を試みている研究は稀少であり、非常に有用である。本研究の問題点としては、健常対照群が必ずしも冠動脈疾患保有患者と年齢、性別などの点で合致しない点が挙げられるが、今後関連医療機関および健康診断などからの高齢男性健常者のサンプリングを検討する必要がある。
便の前処理システムの開発では、最初に0.5 - 5 gの便を生理食塩水でけん濁後、ろ過によって未消化物を除き、次にパーコール密度勾配遠心によって、ヒト細胞を分離するか、またはヒトの細胞のみを選択的に溶解する方法でRNAを精製する方法の検討を行っている。蛍光標識したがん細胞と便を混ぜる実験で、24時間室温で放置しても、生きたがん細胞がパーコール法で分離できることを確認した。一方、分別溶解法に関しては、デタージェントの濃度などの検討を行っている。検査対象遺伝子のスクリーニングとしては、大腸がん患者および健常人の便中の細胞、大腸がん組織および大腸正常粘膜から抽出したRNAを用いマイクロアレイ解析(12600遺伝子)を行い、大腸がんのスクリーニングのための新たな候補遺伝子の分離を開始した。現在、大腸がん細胞および炎症性リンパ球を含む間質を構成する細胞で、特異的かつ顕著にに発現している約20種の遺伝子の同定に成功した。陽性率等の実用化評価を行うため、年間100症例のサンプルの精製、保存体制を構築した。便の前処理システムの開発における、ヒト生細胞の分離の基礎的実験は今年度で終了したものと考える。一方ヒトの細胞のみを選択的に溶解する方法は次年度の前期に終了する予定である。国立がんセンターでは、既に患者から採取した約5 gの便からCD44遺伝子のスプライシングバリアントを検出することによって、大腸がんの症例の60%以上で検出できることを報告している。一方、大腸がん組織にはがん細胞の他、炎症性リンパ球などが含まれていることから、がん細胞で特異的かつ顕著にに発現している遺伝子や間質を構成する細胞で発現する今回同定した遺伝子もまた大腸がんの検出に有用であると考えられる。
動脈硬化症
2002年3月の段階で心臓カテーテル検査施行患者約1400症例をデータベース化し、遺伝子検体数は約700例に達し、この遺伝子検体を用いて動脈硬化の発症、進展に寄与する遺伝子マーカーの検出を進めた。既知の動脈硬化関連因子に着目し、その遺伝子に存在する遺伝子多型の解析を行い、すでに構築してある臨床データベースとの間で相関解析を行った。一例として動脈硬化の発症・進展に関与が示唆されるマトリクスメタロプロテナーゼ(MMP)の遺伝子多型に関して心筋梗塞発症との有意相関を見いだした。各々の転写活性に関与するMMP-1プロモーター領域-1607 1G/2G多型、MMP-3プロモーター領域-1171 5A/6A多型には互いに強い連鎖不平衡を認め、MMP3の5AアレルおよびMMP1 1G-MMP3 5Aハプロタイプを保有することは有意に心筋梗塞発症のリスク因子となることを明らかとした。現在、新しい遺伝子多型タイピングシステム(BAMPER法(日立製作所))を利用しつつ数十の遺伝子のSNPについて解析を行い、すでに半数程度の解析が終了しており、今後臨床事象との関連性の検討を行う予定である。国内外で遺伝子多型の検討が多く施行されているが、包括的な臨床情報と遺伝子情報を統合的に解析し、かつ臨床事象を前向きに観察してその予後、治療反応性、薬剤副作用などの関連性を検討を試みている研究は稀少であり、非常に有用である。本研究の問題点としては、健常対照群が必ずしも冠動脈疾患保有患者と年齢、性別などの点で合致しない点が挙げられるが、今後関連医療機関および健康診断などからの高齢男性健常者のサンプリングを検討する必要がある。
結論
大腸がんのスクリーニング法では、便の前処理システムに関しては、今後、各ステップを自動化に向けて、簡便化する必要がある。またさらに陽性率を高めるため、新たな候補遺伝子の探索が必要である。動脈硬化では、MMP1、MMP3の遺伝子多型が心筋梗塞発症に関連する有用なマーカーであることが確認されたが、今後、さらに有用な疾患感受性、治療反応性を規定する遺伝子マーカーの同定が必要である。以上、いずれの研究も実用化に関しては途上であり、今後さらに対象例を増やし、日立製作所が開発したBAMPER(バンパー)法と対象遺伝子特異的プローブによる検査用マイクロアレイ解析の適用を検討し、実用的なシステムを開発していく予定である。
公開日・更新日
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