循環器系疾患の治療に用いる医用材料とそれを用いた治療デバイスの開発(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100663A
報告書区分
総括
研究課題名
循環器系疾患の治療に用いる医用材料とそれを用いた治療デバイスの開発(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
岩田 博夫(京都大学再生医科学研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 中山泰秀(国立循環器病センター研究所生体工学部)
  • 池内 健(京都大学再生医科学研究所)
  • 滝 和郎(三重大学・医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 高度先端医療研究事業(治療機器等開発研究分野)
研究開始年度
-
研究終了予定年度
-
研究費
28,450,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
カテーテル等を用いた血管内治療は、血管狭窄部位を拡張する血管再形成術と、動脈瘤や動静脈奇形等の正常でない血管部分を閉塞する血管塞栓術との二つに大別される。血管拡張術では、拡張後に高確率に再狭窄が発症し、その対策が急務である。血管の再狭窄を防止するために、種々の薬物のコントロールリリースや遺伝子治療等が試みられているが、コントロールリリース法や遺伝子の局所投与法が未熟であるため、その効果が十分上がらない、また、副作用が出るなどの問題が指摘されている。一方、血管塞栓術では、近年臨床で使用され始めたデバイスが多く、その長期成績が明らかでない。例えば、脳動脈瘤は白金コイルを留置することで治療が行われているが、瘤内に形成された血栓が器質化せず、後に再発してきたという報告も少なくない。本研究では、これらの問題を解決するために血管内治療に用いるデバイス、そのデバイスを作製するための要素技術の開発を進めている。
本年度は2年度でもあり、個々の要素技術の開発研究をほぼ完成させるとともに、作製されたデバイスの評価を行うためのin vivo評価系の確立を主眼に研究を進めた。
研究方法
血管内治療に用いるデバイス、そのデバイスを作製するための要素技術の開発を進めている。本年度開発を進めた要素技術は、炎症惹起物質固定化コイル作製のためのラクトンの表面開始開環重合法、温度応答性薬物コントロールリリースシステム、遺伝子担持ステント等である。開発したラクトンの表面開始開環重合法を用いることで合成物のみからなる器質化促進コイルを作製できると考える。温度応答性薬物コントロールリリースシステムはバルーンカテーテルやステントに適用することで、薬物の局所投与等が可能になり、遺伝子担持ステントとともに血管拡張術後の再狭窄予防システムの開発に応用できる。次年度では開発してきた要素技術をデバイス化し、一つでも多く臨床で使えるデバイスを作製していく予定である。また、液体塞栓物質と白金コイルの併用による動脈瘤の治療効果の検討を進めた。一部の動物モデルで動脈瘤のドーム部分の組織が消えてなくなっていた例もあった。欧米では液体塞栓物質と白金コイルの併用による動脈瘤の治療が臨床応用が行われているが、われわれの結果からは極めて慎重に臨床応用を進めるべきであると考える。
器質化促進コイルとして試作されている塩基性線維芽細胞成長因子(FGF-2)を表面に固定化した白金コイルのin vivo機能評価を行った。ラットの総頸動脈に留置し一定期間後にコイル周囲の血栓の器質化を組織学的に比較検討すると、2週間後ではFGF-2コイルにおいて有意に血栓が器質化していた。一方、より臨床に近いモデルとして検討したイヌの総頸動脈に静脈片を吻合した動脈瘤モデルでは、4週間後に摘出し組織学的に検討したところ、FGF-2固定化イルと未固定コイルの両群とも内膜が再生されており、その厚さには有意差を認めなかった。原因として動脈瘤モデルの吻合部の自然治癒過程も影響したと推測され、動脈瘤モデルと留置方法等評価モデルの改良が必要と考える。よりよいモデルとして、ウサギでbifurcation typeの静脈片を用いない動脈瘤モデルを検討している。未だ実験例は少ないが、一応コイルの評価に使えるとの感触を得ている。
光重合性たんぱく質(スチレン化ゼラチン、アルブミン)の光硬化特性を向上させる目的で、以下に示す2つの方法で溶質の高濃度化設計を行った。1)共架橋剤として用いるPEGジアクリレートとの相溶性を向上させ、スチレン化ゼラチンを高濃度化させることを目的として、PEGスペーサー鎖を介してスチレン基をゼラチンに導入したハイブリッド型スチレン化ゼラチンの合成、2)ゼラチン分子量を大幅に低下させたスチレン化ゼラチンの合成。PEG鎖を導入することにより、PEGジアクリレートと50wt%まで白濁、層分離することなく溶液状態を保たせることが可能となり、光硬化性の向上が期待された。一方、低分子量化スチレン化ゼラチンは60%まで流動性のある水溶液状態であった。1分程光照射すると弾力のある透明なヒドロゲルを生成した。ゲル生成能は高濃度化、照射の長時間化により増した。ステント表面への薬物固定化担体として有用な材料が開発できたといえる。
血管組織侵入に関するカバーフィルム材の多孔化設計の指針に基づいて、実際に多孔質カバーステントを作製し、慢性期に起こる再狭窄を抑制できるか兎を用いた動物実験で検証を行った。カバー材としてセグメント化ポリウレタンフィルムを用い、エキシマレーザーにより多孔化を高精度で施した。また、分子設計した先の光重合性ゼラチンをヘパリンと混合してフィルム表面に塗布した後に、光照射するとヘパリンを包埋したゼラチンゲルが形成され、カバーステント内腔面に固定化できた。多孔化により経孔的な組織侵入が起こり、新生内膜組織の再構築が促進され、並びにヘパリン包埋(局所投与)により血液凝固が大幅に抑制された。
重要な力学特性であるステントの曲げに対する柔軟性に注目して,それを正確に測定できる試験機を開発した.その試験機を使ってステントの曲げに対する柔軟性を測定したところ,リンクステント構造が優れていることが判明した.またリンクの形状と配置がステントの柔軟性に及ぼす影響を明らかにすることができた。
医師側からの要求や治療用デバイスのコンセプトの提言が行われ、工学側では要求されたデバイスの試作と、医師側でそれらを評価するための評価モデルの作製を行ってきた。医療現場での要求がかなり明確なデバイス、例えば液体塞栓材料、コイル、ステント、マイクロカテーテルについては順調に開発・評価を進めることが出来た。将来の新しい医療の方法のシーズとなる技術の開発については、光反応性高分子の合成、微細加工技術や極表面加工技術の開発を進めている。これらを医師側にその詳細を提示し、新たな治療用デバイスの開発に役立てるよう努力する必要があると考える。
結果と考察
結論
以上のように閉塞性脳血管障害の治療に用いるカテーテルシステムの重要な要素技術の開発を進め、その一部についてはデバイス化して共同研究者の滝らにより機能評価が進められている。次年度は本研究の最終年度に当たるため、開発してきた要素技術をデバイス化し一つでも多く臨床で使えるデバイスを作製していく予定である。

公開日・更新日

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