生物材料の特性を利用したバイオ血液浄化システムの開発

文献情報

文献番号
200100661A
報告書区分
総括
研究課題名
生物材料の特性を利用したバイオ血液浄化システムの開発
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
鈴木 盛一(国立成育医療センター研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 雨宮 浩(国立成育医療センター研究所)
  • 絵野沢 伸(国立成育医療センター研究所)
  • 大政健史(大阪大学大学院工学研究科)
  • 藤村昭夫(自治医科大学)
  • 松村外志張((株)ローマン工業)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 高度先端医療研究事業(治療機器等開発研究分野)
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
23,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
血液透析あるいは濾過と血漿交換を組み合わせた血液浄化法は中空糸カラムの出現により急速に発展し、現在、劇症肝炎をはじめ様々な疾患に対する治療法の基幹をなしている。しかしながら、亜急性劇症肝炎では昏睡からの一時的な覚醒効果はみられるものの最終的な救命率の向上が得られないことや、大量の血漿が必要であること等、問題点も数多い。さらに、脳死肝移植や近年普及がめざましい生体部分肝移植後の救援治療としてはまだ不十分である。このような現行の血液浄化法の限界の背景には、中空糸カラムによる透析あるいは濾過が単に膜の孔径にのみ依存し、生体にとって要不要の別なく排除してしまう点がある。病期の体液には生体障害性物質だけでなく、疾患に反応して治癒を促す物質も存在し、これらをあえて透析・濾過によって排除する必要はない。そこでバイオの力を利用した、生体防御機構を模倣した新しい血液浄化法の開発が本研究の目的である。
研究方法
バイオ人工肝はほぼ総ての場合細胞と血漿という2要素で構成されている。しかしながら実際の肝では細胞は脈管系と胆管系に接し、また解毒という観点から腎をも含めた代謝・排泄システムが必要である。一方、工学的人工肝と称される中空糸モジュールによる透析や血漿交換は、血漿成分を要不要に関わらず分子量に依存して排除する。我々は毒性物質を選択的に能動輸送するバイオ血液浄化システムの構築をめざし、肝由来細胞と腎由来細胞の共培養系を検討している。肝細胞としてヒト肝芽種由来HepG2細胞、腎細胞として家兎腎由来PCTL細胞を選択、HepG2はグルタミン合成酵素(GS)遺伝子導入によりアンモニア除去能を付加したGS-HepG2とし、PCTLは薬物輸送膜タンパク(Multi Drug Resistance Protein(MDR))を導入したPCTL-MDRとした。それぞれの細胞の共培養による毒性物質の選択的能動輸送システムを構築するとともに、個々の細胞について更なる高機能化を行った。
2.研究項目
1)肝由来細胞への薬物代謝酵素系の付加
2)能動輸送用腎細胞のヒト由来細胞化
3)肝・腎由来細胞の共培養装置のスケールアップ(2区画式培養装置の製作)と動物実験
結果と考察
1)肝由来細胞への薬物代謝酵素系の付加
薬物代謝能の強化を目指して、グルタミン合成酵素遺伝子とチトクロムP450酵素(CYP3A4)遺伝子を含む発現ベクターを構築し、CHO細胞とHepG2細胞に導入した。CHO細胞では27pmol/min/mg-proteinの薬物代謝活性(テストステロン6β位水酸化活性)が現出し、また、HepG2細胞から構築したGS-3A4-HepG2細胞においては、導入前の0.60から430pmol/min/mg-proteinへの活性上昇が見られ、長期培養(80日間)後も低下しなかった。この結果を外挿すると、リドカインクリアランスは7.0mL/minとなり、ラット初代肝を用いたホロファイバー型バイオリアクターの値(8.0mL/min、Nybergら)と同レベルとなった。GS-3A4-HepG2細胞のテストステロン6β位水酸化活性では、Km=50.3μM、Vmax=990pmol/min/mg-proteinと良好な値を示した。また、同様な方法でUDP-グルクロン酸抱合酵素導入HepG2細胞を作出した。
2)能動輸送用腎細胞のヒト由来細胞化
本研究の初年度―第二年度に開発・利用した家兎腎由来PCTL-MDRに加え、将来の臨床応用をふまえ、ヒト腎由来細胞の高機能化を行った。昨年度報告の新規な有機アニオン輸送MRP-2様タンパクABCA8遺伝子をベクターとともにヒト腎尿細管由来ACHN細胞へ電気的に導入し、ハイグロマイシン耐性を指標にクローニングした。膜上培養を用い、基底膜側から管腔膜側へのグルクロン酸抱合型エストラジオール運搬能を評価した。基底膜側に同薬物(0.1-100μmol/l)を添加すると管腔側への分泌が確認され、推定Vmax値はコントロールの約30倍であった。また、抱合型ビリルビン(10mg/dl)を用いた検討でも3時間の添加により、対照の5%に対し約6倍の30%が管腔側へ移動した。
3)肝・腎由来細胞の共培養装置のスケールアップ(2区画式培養装置の製作)と動物実験
生体内において上皮細胞によって区分された体液間の物質の能動輸送に倣った補助人工臓器を目指し、細胞培養装置を試作、機能評価を行った。細胞の緊密な層状構造を維持するための細胞固定化基質に、物理的強度、柔軟性、細胞付着性に優れる多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜(ePTFE膜(住友電工))を用いた。中型実験動物への接続が可能な規模の装置として、有効膜面積215cm2で両面の周辺を3mm厚のシリコンシートで囲み、さらにガラス板で挟んだ2区画式培養装置を設計、製作した。この膜の両側に、それぞれ肝由来HepG2細胞と腎由来PCTL-MDR細胞を生育させ培養液を灌流したところ、細胞層が界面を区切り、両面で代謝物が濃度勾配を生ずることを確認した。動物実験では、リドカインクリアランスを著しく遅延させたY字チューブ利用完全無肝兎モデルに本装置を接続したところ、初動1時間に渡り血圧も安定し、リドカイン代謝物が透析液側に検出され、代謝と輸送がin vivo系でも行われうることがわかった。
結論
血液浄化システムに細胞を組込み、生体が有する選択性と能動輸送能力を人工構築し、不要分子のみを排除する効率的な治療機器の開発を目的としている。細胞素材面の研究では、生体におけるアンモニア除去の副経路であるグルタミン合成酵素遺伝子を遺伝子工学的に導入・増幅したヒト由来肝細胞株HepG2を基本に、薬物代謝酵素遺伝子CYP3A4及び薬物代謝第二相を触媒するUDP-グルクロン酸抱合酵素を導入・強化し、選択的な解毒機能を与えた。一方、薬物輸送タンパクを強制発現させたヒト由来尿細管上皮細胞を作出し、解毒代謝体の能動輸送能を付与した。人工器材面では、中型実験動物を用いたin vivo実験に使用可能な大きさの2区画式培養装置を設計、無肝ウサギへ適用し、方向性と選択性のあるバイオ血液浄化システムの動物実験が可能となった。

公開日・更新日

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