静脈内投与用脳卒中・脊髄損傷治療薬の開発に関する研究

文献情報

文献番号
200100654A
報告書区分
総括
研究課題名
静脈内投与用脳卒中・脊髄損傷治療薬の開発に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
阪中 雅広(愛媛大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 大西丘倫(愛媛大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 脳科学研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
-
研究費
12,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我々はこれまでにジンセノサイドRb1(コード名:S2819)の静脈内投与が、ラット中大脳動脈皮質枝永久閉塞モデル(皮質梗塞モデル)及びラット脊髄損傷モデルに対して優れた治療効果を示すこと、ならびにS2819がin vitroでBcl-xL及び血管内皮増殖因子(VEGF)発現を誘導し、抗アポトーシス作用又は血管再生作用を示すことを見出してきた(国際特許出願公開番号:WO00/37481、WO00/48608、WO01/15717; 出願人:科学技術振興事業団)。
これらの研究成果を踏まえ、将来遺伝子改変マウスなどを用いたS2819作用機構解析を実施するために、平成13年度は(1)マウス静脈内持続投与技術の確立とマウス中大脳動脈本幹永久閉塞モデル(すなわち皮質線条体梗塞モデル)に対するS2819単回静脈内投与の効果判定、(2)マウス脊髄損傷モデルの確立、(3)S2819静脈内投与によるin vivoでのBcl-xL発現誘導の解析を研究目的とした。
研究方法
吸入麻酔下でマウスの中大脳動脈本幹永久閉塞モデルを通常のスレッドを用いて作製したのち、同モデルにS2819(12μg又は60μg)を単回静脈内投与して、その効果をTTC染色により判定した。マウスの脊髄損傷モデルについては、吸入麻酔下で下位胸髄に10gの圧力を5分間負荷することにより作製を試みた。さらに、S2819の静脈内投与が中枢神経組織においてBcl-xL発現を誘導するか否かを、ラット脊髄損傷モデルを用いて検討した。ラット脊髄損傷モデルは吸入麻酔下で下位胸髄に20gの重錐を20分間負荷することにより作製した。なお、Bcl-xL発現を解析するために、RT-PCR法及びウエスタンブロット法を用いた。
結果と考察
(1)マウス中大脳動脈本幹永久閉塞後TTC染色法により脳梗塞病変の発生部位および病変の体積・形状を検討したところ、一定の脳梗塞病変を再現性よく作製できることが明らかになった。従ってこのマウスモデルはS2819単回静脈内投与の効果を検討する実験系として有効であると考えられた。このモデルマウスに生理食塩水に溶解したS2819を単回静脈内投与した群(投与群)では、同量の生理食塩水のみを投与した群(コントロール群)に比し脳梗塞体積は約3分の1に縮小した。以上の結果において、我々は、従来のラット脳梗塞モデル(皮質梗塞モデル)と同様に有用なマウス脳梗塞モデル(皮質線条体梗塞モデル)を確立し、実際に、S2819単回静脈内投与がマウス脳梗塞モデルにおいても極めて有効であることを明らかにした。
(2)マウス脊髄損傷モデルを作製することはほぼ可能となり、病態解析に有用であった。しかし、ラット脊髄損傷モデルに比し個体差が大きくやや再現性に劣るため、今後薬効評価系として利用するには今少し同モデルを改善する余地があることが判明した。おそらく、胸髄への圧負荷の程度と時間が不十分であったため個体差が生じたと思われるので、今後、圧負荷の手技を改善することが肝要と考えられる。
(3)S2819の静脈内投与により中枢神経組織においてBcl-xLの発現が誘導されることがラット脊髄損傷モデルを用いた研究で判明した。さらに、S2819を静脈内投与した脊髄損傷ラットでは、Bcl-xL発現誘導に伴い、対麻痺の改善もみられた。
以上の研究結果より、S2819は脳卒中急性期にはBcl-xL発現誘導を介して神経細胞を保護し、その後VEGF発現誘導を介して血管再生を引き起こし、脳血流を長期にわたり改善するものと考えられる。なお、我々の最近の研究によりS2819のBcl-xL発現誘導作用は、エリスロポエチン、インターロイキン3及びプロサポシンの作用と類似することが判明した(研究発表論文参照)。
本研究は、静脈内投与可能な優れた脳梗塞・脊髄損傷治療薬の候補物質とその作用を世界に先がけて見出したものであるので、学術的にも国際的にも評価に耐え得るものと考えられる。また、本研究成果は、将来脳卒中・脊髄損傷の治療に結びつくことが期待されることから、社会的意義の大きいものと思われる。
今後、安定したマウス脊髄損傷モデル、遺伝子改変マウスを用いてS2819静脈内投与の効果を解析するとともに、S2819のin vivoでの血管再生作用の検討及びS2819の効率的精製法の確立を急ぐ予定である。さらに、マウスに対する薬物静脈内持続投与技術が確立されれば、今後種々の遺伝子改変マウスを用いた薬効解析に道が開かれるものと期待される。
結論
ジンセノサイドRb1(コード名:S2819)の静脈内投与は、Bcl-xL発現を介して、脳卒中急性期において強力に神経細胞を保護する。さらにS2819は、その後VEGF発現を誘導して、脳卒中病変において破綻した血管網を再生せしめ、脳血流を修復することにより、脳卒中患者の長期予後を改善すると考えられる。なお、脊髄損傷においては、S2819の静脈内投与はBcl-xL発現誘導を介して、オリゴデンドロサイト及び神経細胞のアポトーシスを抑止することにより治療効果を発揮すると推測される。従って、S2819は静脈内投与用脳卒中・脊髄損傷治療薬の候補物質として有望な化合物であることが明らかとなった。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-