遺伝性精神遅滞症脆弱X症候群の分子機構解析とその治療へ応用(総括研究報告)

文献情報

文献番号
200100653A
報告書区分
総括
研究課題名
遺伝性精神遅滞症脆弱X症候群の分子機構解析とその治療へ応用(総括研究報告)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
塩見 春彦(徳島大学)
研究分担者(所属機関)
  • 武井延之(新潟大学)
  • 難波栄二(鳥取大学)
  • 加我牧子(国立精神・神経センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 脳科学研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
25,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、「脆弱X症候群の発症機序の解明」を出発点として、得られた知見を治療法の開発につなげることにより社会還元を目指す。トリプレットリピート病の代表例の一つである脆弱X症候群は最も高頻度に精神遅滞を伴う遺伝性の病気であり、しかも患者が頻繁に自閉症様症状を呈するため、これら二つの病気に至る分子病理学的経路に共通部分があると考えられる。脆弱X症候群と自閉症はいずれも小児精神神経疾患の中で極めて重要な位置を占めるものであり、少子化社会を迎える我が国の医療問題の大きな比重をしめることが予想され、有効な医薬の開発を必要とする疾患である。我々は、「(CGG)nリピートの伸長の分子機構」と「FMR1の機能」の理解を通して治療戦略開発を目指す。
研究方法
本研究では、以下の4つの方法により研究を進めた。第一の方法は、生化学を用いてFMR1が形成する複合体の構成成分を同定し、それらのFMR1蛋白質による翻訳調節機構への関与を解析し、神経シナプス形成におけるFMR1蛋白質の役割を明らかにする。第二は、罹患同胞対や多数の患者家系を対象として、SNPs等の多型情報を解析して(CGG)nリピート伸長機構の理解に迫る。第三は、FMR1の発現異常の影響を個体レベルで容易に解析できる遺伝子改変動物モデルを作製し、FMR1の関与する遺伝学的経路を同定する。第4は、脆弱X症候群という疾患を理解するための社会的基盤整備。
結果と考察
主任研究者は、病態モデル動物としてショウジョウバエのFMR1相同遺伝子(DFMR1)の変異体の作製し、この変異体が概日リズムの異常を示すことを発見した(論文投稿中)。脆弱X患者の多くが睡眠障害を示すことが知られている。ヒトとショウジョウバエとの間では、学習、記憶、概日リズムといった複雑な行動を支配する遺伝子の機能が驚く程よく保存されており、この変異体の詳細な解析から得られる知見は、FMR1機能の理解を深めるだけでなく、治療法開発の基盤となることが期待できる。また、DFMR1タンパク質が形成する複合体の解析を行い、現在までに4種類のタンパク質を同定している。この内2種類がRNAi因子であることが判明し、DFMR1-Circadian rhythm-RNAiという一見全く関連を考えることができないものの生化学的経路がどこかで交差している可能性を得た(論文投稿中)。一方、分担研究者武井は初代培養神経細胞を用いて翻訳調節機構の解析を行い、中枢神経細胞において翻訳因子が存在し、細胞外からの刺激、脳由来神経栄養因子(BDNF)によってその活性が調節されて、蛋白合成がコントロールされていることを示し、神経シナプス形成におけるFMR1蛋白質の機能解析のための基盤を確立した。また、難波は、PCRを用いた簡易かつ迅速な脆弱X症候群診断システムを確立し、すでに900例以上の精神遅滞患者を検討し、10名以上の患者を診断するのみならず、(CGG)nリピート伸長機構を理解するためリピート近傍のSNP多型解析に着手した。さらに、この研究を遂行するにあたって不可欠な倫理面への配慮を行い、この研究は「鳥取大学医学部ヒトゲノム・遺伝子解析研究倫理審査委員会」において審議され、承認された。加我は、精神遅滞患者に対して、各種誘発電位やミスマッチネガティビティ検査などの方法で、臨床生理学的検討を行い、その特徴を明らかにするとともに、アンケート配布による日本における脆弱X症候群の実態調査を行なった。
結論
FMR1が位置する遺伝学的経路を同定するための病態モデル動物を得ることができた。FMR1が位置する生化学的経路の解析を進めていくための道具とアッセイ系を立ち上げた。また脆弱X症候群の発症機序解明のための倫理的、さらに
は社会的基盤の整備が大きく前進した。患者及びその家族、そして発達障害に関わるより多くの専門家の脆弱X症候群への関心と協力を高めることが、今後、本疾患の治療・療育システム構築に不可欠である。以上のように既にそれぞれの分野において大きな成果が出ており、主任研究者がインターフェイスとなり、これらを統合・発展させていくことで、日本がこの分野において世界的な競争力を維持するための先導的拠点となることができる。

公開日・更新日

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更新日
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