文献情報
文献番号
200100647A
報告書区分
総括
研究課題名
CAGリピート病に対する治療法の開発に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
貫名 信行(理化学研究所 脳科学総合研究センター 病因遺伝子研究グループ)
研究分担者(所属機関)
- 辻 省次(新潟大学脳研究所神経内科)
- 祖父江元(名古屋大学大学院医学研究科神経内科)
- 垣塚 彰(京都大学大学院生命科学研究科分子医学)
- 宮下俊之(国立生育医療センター研究所 疾患遺伝子構造研究室)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 脳科学研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
35,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
CAGリピート病(ポリグルタミン病)はハンチントン病、遺伝性脊髄小脳変性症、球脊髄性筋萎縮症などの代表的な神経変性疾患を含み、近年病因遺伝子が同定された後その病態解明が急速に進歩した疾患群である。しかしながら本疾患は未だ治療法に関しては十分な進展が見られていない。本研究では従来の研究で蓄積した本疾患群のモデルシステム(分子モデル、細胞モデル、マウスモデル)を有効に用い、従来の仮説の検証、病態解明の展開、治療法の開発を行おうというものである。具体的には1)ポリグルタミンによる凝集体形成過程の解明とその抑制、2)ポリグルタミンによる細胞死、あるいは細胞機能障害機構の解明とその抑制、3)動物モデルを用いた神経細胞死、神経細胞機能障害の抑制の試みを中心的な課題として行う。
研究方法
<シャペロン系とプロテアソーム系を連結する因子の検討>
Machado-Joseph病遺伝子産物ataxin-3完全長またはアミノ端をtruncateした部分蛋白をEGFPと融合し、この蛋白に対するHSP70,40,の結合とユビキチン化を検討した。さらに伸長したポリグルタミン特異抗体1C2との反応性を検討した。またCHIP発現による変異ハンチンチン発現系及び上記のataxin-3発現系でのハンチンチン及びataxin-3のユビキチン化について検討した。
<アミロイドモチーフのよるホスト蛋白への影響>
凝集性アミノ酸配列の性質を詳しく検討するために、C-Dコーナーに種々の凝集性アミノ酸配列を挿入したキメラミオグロビンを設計した。挿入した凝集性アミノ配列はヒトプリオン(OPR)、Sup35p (R5)、α-シヌクレイン(NAC)、50グルタミンリピート(Q50)由来の40-60アミノ酸からなる凝集体形成に関わると考えられる配列である。これらキメラミオグロビンの構造および性質を分光学的、生化学的手法により検討した。
<Machado-Joseph 病原因蛋白質切断酵素の解析>
MJD蛋白質がプロセシングされた細胞で薬剤耐性遺伝子が発現するシステムを構築し、MJD蛋白プロセシング活性を有する細胞を単離し、解析した。
<CAGリピート病における神経細胞機能障害機構の解明を基盤とした治療法の開発>
培養細胞系を用い、種々の長さのポリグルタミン鎖、核移行シグナル、GFPの融合タンパクを発現する実験系を確立する。この実験系を用いて、種々の長さのポリグルタミン鎖が、cAMP応答遺伝子群の転写にどのような影響を与えるか、培地にcAMP analogueを添加することによりその転写を活性化できるかどうかを検討する。
<球脊髄性筋萎縮症の病態解明と治療法開発>
Chickenβ-actinプロモーターの調節下で異常延長したCAGリピートをもつヒトの全長のAR遺伝子を発現するトランスジェニックマウスを作成し、雄に対し去勢術、雌に対しtestosterone enanthateの皮下投与を施行した。
<ポリグルタミンによって誘導される細胞死の機序解明とその抑制法の研究>
ラット褐色細胞腫由来細胞株PC12を用いてテトラサイクリン(Tet)依存性に正常ポリグルタミン(19回)と伸長したもの(56回)をそれぞれ発現する遺伝子導入株を作成した。これらの細胞株を神経細胞に分化させた後、Tetを培地に添加する前後で遺伝子発現プロフィールを解析した。
Machado-Joseph病遺伝子産物ataxin-3完全長またはアミノ端をtruncateした部分蛋白をEGFPと融合し、この蛋白に対するHSP70,40,の結合とユビキチン化を検討した。さらに伸長したポリグルタミン特異抗体1C2との反応性を検討した。またCHIP発現による変異ハンチンチン発現系及び上記のataxin-3発現系でのハンチンチン及びataxin-3のユビキチン化について検討した。
<アミロイドモチーフのよるホスト蛋白への影響>
凝集性アミノ酸配列の性質を詳しく検討するために、C-Dコーナーに種々の凝集性アミノ酸配列を挿入したキメラミオグロビンを設計した。挿入した凝集性アミノ配列はヒトプリオン(OPR)、Sup35p (R5)、α-シヌクレイン(NAC)、50グルタミンリピート(Q50)由来の40-60アミノ酸からなる凝集体形成に関わると考えられる配列である。これらキメラミオグロビンの構造および性質を分光学的、生化学的手法により検討した。
<Machado-Joseph 病原因蛋白質切断酵素の解析>
MJD蛋白質がプロセシングされた細胞で薬剤耐性遺伝子が発現するシステムを構築し、MJD蛋白プロセシング活性を有する細胞を単離し、解析した。
<CAGリピート病における神経細胞機能障害機構の解明を基盤とした治療法の開発>
培養細胞系を用い、種々の長さのポリグルタミン鎖、核移行シグナル、GFPの融合タンパクを発現する実験系を確立する。この実験系を用いて、種々の長さのポリグルタミン鎖が、cAMP応答遺伝子群の転写にどのような影響を与えるか、培地にcAMP analogueを添加することによりその転写を活性化できるかどうかを検討する。
<球脊髄性筋萎縮症の病態解明と治療法開発>
Chickenβ-actinプロモーターの調節下で異常延長したCAGリピートをもつヒトの全長のAR遺伝子を発現するトランスジェニックマウスを作成し、雄に対し去勢術、雌に対しtestosterone enanthateの皮下投与を施行した。
<ポリグルタミンによって誘導される細胞死の機序解明とその抑制法の研究>
ラット褐色細胞腫由来細胞株PC12を用いてテトラサイクリン(Tet)依存性に正常ポリグルタミン(19回)と伸長したもの(56回)をそれぞれ発現する遺伝子導入株を作成した。これらの細胞株を神経細胞に分化させた後、Tetを培地に添加する前後で遺伝子発現プロフィールを解析した。
結果と考察
<シャペロン系とプロテアソーム系を連結する因子の検討>
HSP70,40の結合とユビキチン化はtruncationによって増強した。CHIPの発現によってユビキチン化が増強し、U-boxを除いたCHIPの発現ではユビキチン化は減少した。1C2の反応性もtruncationによって増強した。このことから異常ポリグルタミンはシャペロン系によって異常を認識され、CHIPによってユビキチン化され処理機構へ運ばれることが示唆された。一方1C2の反応性がtruncationによって増強するという点は、1C2がポリグルタミン鎖のβシートを認識し、そのturn部分の構造を認識していると考えられることから、ホスト蛋白の構造がポリグルタミン鎖のとる構造に影響することを示しており、一方で変異ミオグロビンの検討からは伸長したポリグルタミン鎖がホスト蛋白の構造に影響するという相互関係が存在することを示している。我々の提唱する伸長したポリグルタミンによる分子のアンフォールディングが病態に重要であるという仮説はプロセッシングによって増強されることが示唆され、プロセッシングの制御も治療の標的となりうると考えられる。
<アミロイドモチーフのよるホスト蛋白への影響>
キメラミオグロビンは、中性条件下、37°C放置によりQ50>R5>OPR>NAC>WTの速さで凝集体を形成した。凝集体の性質を生化学的手法、電子顕微鏡などで調べたところ、R5とQ50変異体の凝集物はSDSに不溶性のアミロイド繊維を含むことが明らかになった。また、Q50の繊維はR5の繊維よりも長く、また量も多いことから、グルタミンリピートはアミロイド繊維形成能がより高いことが判明した。これらキメラミオグロビンの安定性を尿素変性実験により検討した。R5、Q50変異体の安定性は他の変異体に比べて大きく不安定化し、またこれら蛋白質の慣性半径も予想値以上に増加していることがX線小角散乱の実験から明らかになった。このことからアミロイド形成モチーフが疾患の原因となる場合、分子の安定化というポリグルタミン病と同じ治療戦略がたてられることが示唆された。
<Machado-Joseph 病原因蛋白質切断酵素の解析>
MJD蛋白質がプロセッシングされた細胞で薬剤耐性遺伝子が発現するシステムを構築し、PC12細胞の亜株を選別することにより、プロセッシング活性の高い細胞株(約300倍に上昇)を選別・樹立することに成功した。この点でプロセッシングがMJD発症の第1ステップとする考えに対し、MJD蛋白質を限定分解する活性を有する神経細胞を実際に同定できたことは、その証明にむけての大きな前進となり、治療の標的の同定につながる可能性が出た。
<CAGリピート病における神経細胞機能障害機構の解明を基盤とした治療法の開発>
Neuro2a 細胞に、種々の長さのポリグルタミン鎖、核移行シグナル、GFPの融合タンパクを発現する実験系を確立した。c-fos、リン酸化CREBの発現を経時的に観察したところ、Q0, Q19, Q57とポリグルタミン鎖長依存性に、c-fos、リン酸化CREBの発現が抑制された。また、この抑制は、2mM CPT-cAMPの添加により、可逆性に回復した。核内封入体の形成による転写調節障害による神経機能障害については今回の結果より、c-fos、リン酸化CREBなどの内在性のcAMP応答遺伝子群の転写が、伸長ポリグルタミン鎖の共発現によって阻害されることを示した。さらに、CPT-cAMPの添加によりこの転写の阻害が回復することを見出したことは、治療法開発に向けての重要なステップであると考えられた。
<球脊髄性筋萎縮症の病態解明と治療法開発>
CAGリピートが異常延長した全長AR遺伝子を発現するトランスジェニックマウス(Tg)では、その症状や病理所見の性差が著しく、雄が雌より重症化した。タンパク質レベルで変異ARの発現を雄に多く認め、その殆どは核分画に存在しており、核への変異ARの蓄積量に性差がみられることが証明された。次に、4週齢の雄Tgに去勢術を施行したところ、対照群に比べ表現型、病理学的所見、western blot解析のいずれに関しても著明な改善が得られた。雌Tgに対しtestosterone enanthateの皮下投与を施行したところ、いずれの所見も著明に悪化した。以上の結果testosteroneを減少させることで変異ARの核移行が阻害され、治療効果が得られると考えられた。
<ポリグルタミンによって誘導される細胞死の機序解明とその抑制法の研究>
病的範囲のポリグルタミンによってのみ、113個の遺伝子発現が3倍以上誘導され、89個の遺伝子発現が1/3以下に抑制された。これらの遺伝子の中にはneuronatinα, apolipoprotein C1等があった。今後の解析によって病態に関与する重要な因子の同定により治療の標的が同定される可能性が出てきた。
HSP70,40の結合とユビキチン化はtruncationによって増強した。CHIPの発現によってユビキチン化が増強し、U-boxを除いたCHIPの発現ではユビキチン化は減少した。1C2の反応性もtruncationによって増強した。このことから異常ポリグルタミンはシャペロン系によって異常を認識され、CHIPによってユビキチン化され処理機構へ運ばれることが示唆された。一方1C2の反応性がtruncationによって増強するという点は、1C2がポリグルタミン鎖のβシートを認識し、そのturn部分の構造を認識していると考えられることから、ホスト蛋白の構造がポリグルタミン鎖のとる構造に影響することを示しており、一方で変異ミオグロビンの検討からは伸長したポリグルタミン鎖がホスト蛋白の構造に影響するという相互関係が存在することを示している。我々の提唱する伸長したポリグルタミンによる分子のアンフォールディングが病態に重要であるという仮説はプロセッシングによって増強されることが示唆され、プロセッシングの制御も治療の標的となりうると考えられる。
<アミロイドモチーフのよるホスト蛋白への影響>
キメラミオグロビンは、中性条件下、37°C放置によりQ50>R5>OPR>NAC>WTの速さで凝集体を形成した。凝集体の性質を生化学的手法、電子顕微鏡などで調べたところ、R5とQ50変異体の凝集物はSDSに不溶性のアミロイド繊維を含むことが明らかになった。また、Q50の繊維はR5の繊維よりも長く、また量も多いことから、グルタミンリピートはアミロイド繊維形成能がより高いことが判明した。これらキメラミオグロビンの安定性を尿素変性実験により検討した。R5、Q50変異体の安定性は他の変異体に比べて大きく不安定化し、またこれら蛋白質の慣性半径も予想値以上に増加していることがX線小角散乱の実験から明らかになった。このことからアミロイド形成モチーフが疾患の原因となる場合、分子の安定化というポリグルタミン病と同じ治療戦略がたてられることが示唆された。
<Machado-Joseph 病原因蛋白質切断酵素の解析>
MJD蛋白質がプロセッシングされた細胞で薬剤耐性遺伝子が発現するシステムを構築し、PC12細胞の亜株を選別することにより、プロセッシング活性の高い細胞株(約300倍に上昇)を選別・樹立することに成功した。この点でプロセッシングがMJD発症の第1ステップとする考えに対し、MJD蛋白質を限定分解する活性を有する神経細胞を実際に同定できたことは、その証明にむけての大きな前進となり、治療の標的の同定につながる可能性が出た。
<CAGリピート病における神経細胞機能障害機構の解明を基盤とした治療法の開発>
Neuro2a 細胞に、種々の長さのポリグルタミン鎖、核移行シグナル、GFPの融合タンパクを発現する実験系を確立した。c-fos、リン酸化CREBの発現を経時的に観察したところ、Q0, Q19, Q57とポリグルタミン鎖長依存性に、c-fos、リン酸化CREBの発現が抑制された。また、この抑制は、2mM CPT-cAMPの添加により、可逆性に回復した。核内封入体の形成による転写調節障害による神経機能障害については今回の結果より、c-fos、リン酸化CREBなどの内在性のcAMP応答遺伝子群の転写が、伸長ポリグルタミン鎖の共発現によって阻害されることを示した。さらに、CPT-cAMPの添加によりこの転写の阻害が回復することを見出したことは、治療法開発に向けての重要なステップであると考えられた。
<球脊髄性筋萎縮症の病態解明と治療法開発>
CAGリピートが異常延長した全長AR遺伝子を発現するトランスジェニックマウス(Tg)では、その症状や病理所見の性差が著しく、雄が雌より重症化した。タンパク質レベルで変異ARの発現を雄に多く認め、その殆どは核分画に存在しており、核への変異ARの蓄積量に性差がみられることが証明された。次に、4週齢の雄Tgに去勢術を施行したところ、対照群に比べ表現型、病理学的所見、western blot解析のいずれに関しても著明な改善が得られた。雌Tgに対しtestosterone enanthateの皮下投与を施行したところ、いずれの所見も著明に悪化した。以上の結果testosteroneを減少させることで変異ARの核移行が阻害され、治療効果が得られると考えられた。
<ポリグルタミンによって誘導される細胞死の機序解明とその抑制法の研究>
病的範囲のポリグルタミンによってのみ、113個の遺伝子発現が3倍以上誘導され、89個の遺伝子発現が1/3以下に抑制された。これらの遺伝子の中にはneuronatinα, apolipoprotein C1等があった。今後の解析によって病態に関与する重要な因子の同定により治療の標的が同定される可能性が出てきた。
結論
ポリグルタミン病の病態について伸長したポリグルタミンによる分子のアンフォールディングが重要であることを示した。アンフォールディングを促進する因子としてプロセッシングの存在が示唆された。プロセッシング因子の同定の可能性はこのような病態仮説に基づく治療戦略からも有効な制御対象の同定につながる。ポリグルタミンの転写調節障害仮説に基づく治療の可能性についても転写障害の解析が進み、その薬物による回復の可能性が示唆された。さらにSBMAでは抗アンドロゲン療法の可能性を示した。
公開日・更新日
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更新日
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