パーキン蛋白の機能解析と黒質変性及びその防御

文献情報

文献番号
200100646A
報告書区分
総括
研究課題名
パーキン蛋白の機能解析と黒質変性及びその防御
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
水野 美邦(順天堂大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 永津俊治(藤田保健衛生大学総合医科学研究所)
  • 田中啓二(東京度臨床医学研究所)
  • 小川紀雄(岡山大学医学部)
  • 久野貞子(国立療養所宇多野病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 脳科学研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
98,020,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
常染色体性劣性遺伝の家族性パーキンソン病(ARJP)の原因遺伝子であるパーキン遺伝子とその遺伝子産物であるパーキン蛋白の機能解析を推進し、本症における黒質神経細胞死の機構を分子レベルで解明することを目的とする。更にその結果を応用し、頻度の高い孤発型パーキンソン病の発症機構解明をめざす。
研究方法
パーキン遺伝子の変異解析は、12のエクソンを特異的に増幅するプライマーを設定、PCRにて増幅後、アガロースゲル電気泳動にて各エクソンを検出した。本法でエクソン欠失が検出できなかった場合は、各エクソンを増幅後、直接塩基配列決定を行い、点変異や小さな欠失の有無を分析した。更に点変異も発見されない場合は、ヘテロ接合の変異の有無を、Taq Man Probeを使用して、gene dosage techniqueにて解析した。
パーキン蛋白の機能解析は、酵母two hybrid法にてパーキンの全長及びubl(ubiquitin-like domain)とlinker部分のcDNAをbaitにヒト脳cDNA libraryをスクリーニングした。更に単離した分子をmammalian cell内での結合を確認した。またパーキンと結合する脳内在性の分子をスクリーニングした。リコンビナントパーキン蛋白を精製し、若年性Parkinson病凍結剖検脳や孤発型Parkinson病の凍結剖検脳を使い抗パーキン抗体で免疫沈降法を行いパーキン蛋白と結合する分子を検索した。
パーキン蛋白の細胞内分布は、SH-SY5Y neuroblastomaを用い、抗パーキン抗体で細胞内局在を検討した。またGFPをtag蛋白として正常パーキン蛋白とmutant formでその分布の違いを検討した。更にシナプス小胞画分を精製し、免疫電顕で、パーキン蛋白の局在を確認した。
パーキンmRNAの発現分布は、ジゴキシゲニンでラベルしたパーキンcRNAをprobeにして、ラット脳を用い発達過程でのパーキン mRNAの分布とその変化を検討した。更にパーキン蛋白と結合するとされるE2であるUbcH7のrat型である UbcR7を、同じようにラベルしin situ hybridizationにて、その分布を観察した。
パーキントランスゲジックアニマルの作製は、ファウンダーマウスとして正常パーキン遺伝子導入トランスジェニックマウスは雄4匹、雌5匹を得た。また、パーキン(T415N)遺伝子導入マウスは雄5匹、雌8匹を得た。順次10週齢マウスになった個体から交配を行ってF1マウスを作製している。
更にトランスジェニックアニマルを用いた研究の準備の1つとして,グリア細胞因子(サイトカイン、抗原提示分子、神経栄養因子など)について,パーキンソン病患者剖検脳からパンチアウトされた組織,及びMPTP投与マウス脳を用い,酵素免疫測定法(ELISA)とRT-PCR法によって測定し、また免疫組織化学法で細胞分布を検索した。
パーキンノックアウトアニマルの作製は、BACクローンよりエクソン2周囲約12Kをブルースクリプトベクターにクローニングした。エクソン2のはじめの5塩基とGFPをインフレームで繋ぐDNAをPCRで作製し、さらにneo耐性遺伝子をloxで挟んだサイトを繋げ、3`側シーョトアーム1.5K、 5'側ロングアーム8Kのターゲティングベクターを構築した。ES細胞のスクリーニングは、TT2細胞を利用し、ターゲティングベクターをエレクトロポレーションで導入した。0.2 mg/mlのG418存在下で培養し、薬剤耐性細胞をピックアップした。3`側にプライマーおよびプローブを設定しPCR、およびサザンブロティングによりノックアウトESを探索した。得られたESクローンをマウス8細胞期胚にマイクロインジェクションし、翌日仮親の子宮に移植した。
線虫を用いた研究としては,線虫パーキン遺伝子のプロモーターの下流にGFP遺伝子を連結したベクターを構築し、これを用いてトランスジェニックパーキン線虫を作製した。また、パーキン遺伝子を欠損させたノックアウト線虫を作製した。
パーキン過剰発現細胞株およびノックアウト細胞株樹立をめざし,マウスドパミン産生神経細胞CATH.aを用いて外来性の野性型または変異型のヒトパーキンcDNAの過剰発現細胞株、ノックウアウト細胞株の樹立を試みた。
また、パーキン蛋白の微量アッセイ系の確立をめざし,ヒト、ラット、マウスのパーキン遺伝子の推定アミノ酸配列を基準に、3つの領域に相当する部分ペプチドを合成し、それらをウサギに免疫して特異抗体を作製した。これらの抗血清よりアフィニティー抗体を調製し、サンドイッチ型ELISA系の作製を試みた。
結果と考察
パーキン遺伝子の変異は474家系のサンプルにについて変異解析を行い、劣性遺伝の明らかな152家系では58.9%にパーキン遺伝子の変異が発見された。また一見優性遺伝の家系にも11.3%にパーキン遺伝子変異が発見された。また若年発症(40歳未満)の孤発型Parkinson病患者260例の13.1%にパーキン変異が発見された。本邦ではエクソンの欠失が多いが、点変異も認められた。
パーキン蛋白の機能解析については、3つのパーキン結合蛋白を抽出した。即ちCDCrel-1、α-synuclein-22、Pael受容体である。CDCrel-1は、パーキンと結合するが基質とはならず、ユビキチン化はされなかった。後2者はユビキチン化され、患者前頭葉での蓄積が証明され、黒質変性に重要な働きをする物質と考えられ、今後これらの蓄積が細胞に及ぼす効果を分子レベルで探索することにより、黒質変性機序の解明が推進すると考えられた。
パーキン蛋白の細胞内分布は、ゴルジ装置、細胞質、シナプス小胞に存在することが判明した。CDCrel-1はシナプス蛋白の一種であり、パーキンと結合して伝達物質放出の制御に関わる可能性が考えられた。またラット脳で、パーキンmRNA及びパーキン蛋白と特異的に結合するユビキチン結合酵素UbcR7のmRNAの発現分布をラットにて分析した。両者のmRNA発現分布は極めて類似しており、胎生19日から発現が見られ、広く脳に発現していたが、大脳皮質、海馬、小脳で高発現をみた。
パーキントランスジェニックマウスに関しては、ヒト正常パーキン遺伝子と、415番のアミノ酸がトレオニン(T)からアスパラギン酸(N)に変異したパーキン(T415N)遺伝子とを用いて、パーキントランスジェニックマウスの作製を進め、F1マウスの作製に成功した。
孤発型パーキンソン病剖検脳と MPTPパーキンソニズムモデルマウスの黒質線条体におけるサイトカインや神経栄養因子の変化については、マイクログリアの活性化を示す予備的成績を得た。今後この方法をトランスジェニック、ノックアウトアニマルに応用予定である。
パーキンノックアウトマウスに関しては、パーキン遺伝子のエクソン2の最初の5塩基にインフレームする形でGFPを融合したノックインマウスを作製中で、現在、キメラマウスの作製に至っている。
線虫パーキンの遺伝学的機能解析については、パーキンのトランスジェニック線虫の作製を行い、パーキンが、脳神経組織や生殖器官に強く発現していることを明らかにした。また、パーキン遺伝子を欠損させたノックアウト線虫を作製したが、大きな行動異常は観察されていない。
パーキン過剰発現細胞株およびノックアウト細胞株の樹立に関しては,野性型、変異型とも一時的にコロニーを形成するものの、安定的に株化するものはなかった。ヒトパーキンcDNAは野性型、変異型に関わらず過剰発現させると、遺伝子導入された細胞数の有意な減少が認められた。また、ヒトパーキン遺伝子のアンチセンスcDNAをCATH.a細胞に一過性に遺伝子導入した場合にも、遺伝子導入された細胞数の減少がみられた。以上のことから、マウスCATH.a細胞においてはヒトパーキン蛋白・変異パーキンを過剰発現や、発現抑制は致死的であると考えられた。
パーキン蛋白の微量アッセイ系に関しては、ELISA法により、最小感度0.3 ngで1 33 ng/mlを定量できる方法を確立した。この方法は、今後パーキン蛋白を組織で治療する有用な方法となることが期待できる。
これらの研究成果は、多数の国際誌に発表し、また国内外からの共同研究の申し込みも多く、情報提供は活発に行ってきた。また研究成果は、孤発型パーキンソン病の発症機序解析にも貢献すると考えられ、この点で、症例の多い孤発型パーキンソン病研究への還元も視野に入れている。
結論
常染色体性劣性遺伝の家族性パーキンソン病(ARJP)の遺伝子診断法を確立し、ユビキチンリガーゼの一種であるパーキン蛋白の結合蛋白3つを抽出できた。更にノックアウト、トランスジェニックアニマルの作製を推進しており、本症における黒質神経細胞の分子レベルでの解明にせまっている。

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