脳科学研究事業に係る企画及び評価に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100642A
報告書区分
総括
研究課題名
脳科学研究事業に係る企画及び評価に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
高橋 清久(国立精神・神経センター)
研究分担者(所属機関)
  • 佐藤光源(東北大学医学部)
  • 浅井昌弘(日本橋学館大学)
  • 武田雅俊(大阪大学医学部)
  • 金澤一郎(東京大学医学部)
  • 鴨下重彦(社会福祉法人賛育病院)
  • 竹下研三(鳥取大学)
  • 柳沢信夫(国立中部病院)
  • 柳原武彦(大阪大学大学院)
  • 平川公義(東京医科歯科大学)
  • 北本哲之(東北大学)
  • 杉田秀夫(国立精神・神経センター)
  • 御子柴克彦(東京大学)
  • 鍋島陽一(京都大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 脳科学研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究班は脳科学研究に関する現状分析と今後の研究課題について検討を加え、脳科学研究事業の成果を評価し、今後のあるべき方向を示そうとするものである。
研究方法
各分担研究者がそれぞれの専門分野に関して、今後行うべき研究方向を試案として示し、班会議にて報告した。各分担研究者がそれぞれの立場から意見を述べ、最終的に主任研究者がまとめた。それらの中から特に緊急性あるいは実現性のある課題を選定し、今後の課題として提言した。
結果と考察
・脳科学研究の現状分析について
精神疾患に関する研究については、精神分裂病には遺伝的異種性があり、多因子または複数遺伝子性で、two-hit 仮説を含む神経発達仮説が注目されている。また、心因性精神障害については、外傷後ストレス障害をはじめとするストレス性精神障害において反復するストレス刺激により脳の機能的、構造的変化が生じるとの報告、高齢者精神障害ではアルツハイマー病の分子病態の解明が進んでいること、睡眠障害および生体リズム障害研究では時計遺伝子解析が急速に進展しること、などが注目されている。
神経疾患に関する研究では遺伝性家系の遺伝子同定を目指す研究が大きく進展し、研究の中心が遺伝子の機能解析を含む病態解析にシフトしてきていること、神経免疫疾患の治療法に進展がみられること、高次脳機能障害研究大脳機能の評価法が十分に開発されてない点が問題であること、脳血ク管性障害では虚血性神経細胞死のメカニズムの解明が進んでいると。頭部外傷による精神神経障害に対する研究の評価は低く、現在は、従来の研究の反省に基づて、共同研究により基本的なデータのまとめを行っているのが段階であること、などが指摘された。
筋疾患研究は遺伝性筋疾患に対する分子生物学的研究と遺伝子治療、幹細胞を用いた治療法の開発の二つの方向に進んでいることが認められている。
発達障害では知的障害、ADHD、自閉症などが、周産期障害としての広汎性脳障害、学習障害などと病態面でかなり共通点を有していること、虐待、不登校、ADHD、高機能自症、学習障害研究などが社会的意義が大きいことなどが指摘された。
・脳科学研究の今後の課題について
非常に広範囲にわたる課題が挙げられたが、その背景には遺伝子解析や画像解析等の研究方法の進展があると思われる。また、再生医学など最も新しい方向性が今後の研究の重要な課題としてあげられており、基礎科学の進展を厚生科学研究に応用することの重要性が指摘されたものと考えられる。さらに臨床に結びつく研究が期待される一方で、基礎的研究の重要性を指摘する意見も出され、今後、その点の検討が必要であることが示唆された。
取り上げるべき課題については、精神疾患では内因性精神障害に共通して発症に関わる遺伝子の同定は重要な課題であること、また、画像を用いた脳の機能解析研究も重要であり、特に覚醒剤依存や特異的な眼球運動を示す患者での脳内機能異常を同定することは精神症状の病態を明らかにする有力な方法であることが指摘された。一方、心因性精神障害では、今後の研究方向としては各ライフステージやライフイベント等を総合的に見て、ストレスの多様な影響について検討することの重要性が指摘された。また、高齢者精神障害では脳の老化と認知機能の関係が一つの研究課題となることや幻覚妄想状態及びうつ状態の病態解明などが重要課題でありその発症因子を検討する必要が指摘された。睡眠・生体リズム障害ではその中心課題は時計遺伝子の研究でありが、疾患との関係の解明が最終的な課題であると思われた。
神経疾患に関する研究では同定された遺伝子の機能解析を含む病態解析や脳の機能解析による責任病巣の同定が重要であることが指摘されるが、このような研究の流れは機能回復を目指した治療法の開発に繋がるべきものであろう。高次脳機能障害研究では評価法の確立がまず求められとの指摘があったが、これは研究の基盤として必須なものである。その確立がなくては、病因の解明研究や治療法の開発研究の進展は望めないであろう。脳血管性障害研究では虚血性神経細胞死のメカニズム解明や薬物療法の開発研究にアポトーシスとネクローシスの両者を考慮すべきであるとの指摘がされたが、それによって臨床に結びつく成果が期待できるものと思われる。脳血管性障害も頭部外傷による精神神経障害のいずれにおいても患者のQOLを高める視点の必要性が指摘されたが、厚生科学研究の使命として適切な指摘であると考えられた。プリオン病研究では、診断法や治療法の開発研究に力点がおかれるのは当然であるにしても、本来最も力を入れるべきはプリオン蛋白の異常化に焦点をあてた基礎的研究であるとの指摘がなされ、厚生科学研究の在り方に大きな示唆を与えるものと思われた。
筋疾患研究の課題として、筋細胞外マトリックスと筋疾患 が新テーマとして、その重要性が指摘された。また、病因を糖鎖修飾の異常に求める研究を推進すべきでとの示唆があり、今後の方向性を示す重要な指摘である。治療に関しては遺伝子治療に加え、幹細胞を用いた研究が行われているが、世界的にも数少ない筋ジストロフィー犬を用いるという方法上の発展も重要課題であり、このような研究を推進する意義が厚生科学研究にあるものと思われる。
発達障害では知的障害や自閉症などの病態解析、低酸素状態による行動異常の詳細な比較検討、モデル動物による比較実験、多動や認知障害における遺伝子研究など多岐にわたる課題の重要性が示唆された。小児の問題は社会的にも大きな課題であり、そのようなニーズに応える研究の推進が今後必要であろう。
精神神経疾患に関連した基礎研究として、神経系に発現する遺伝子研究と神経系の発達研究との二つの側面からの研究課題の提言を行った。厚生科学研究が最終的には疾患の解明や治療法の開発を目指すものであるが、それへ至る過程として、ここに挙げられたような基礎的な研究が重要であり、それを十分認識することが課題選定にあたって必要であると考えられる。
結論
脳科学研究の現状を分析し、今後の研究方向を示した。その中で緊急性及び実現性を考慮すれば、以下の課題が重要課題としてあげられるであろう。
1.精神疾患
1)発症に関わる遺伝子の同定と脆弱性あるいは危険因子の解明
2)画像を用いた脳の機能解析研究と精神症状の病態の解明
3)内因性精神疾患の生物学的マーカーの同定
4)ストレス性精神疾患の画像研究による中枢神経系の病態研究
5)睡眠のホメオスターシス、同調機構、脱同調機構の解明
2.神経疾患
1)遺伝性家系の遺伝子の機能解析研究
2)孤発性神経変性疾患の病態解明
3)機能解析・画像解析のリハビリテーションや脳定位固定手術への応用研究
4)神経免疫疾患の有効な治療法開発のためのモデル動物作成
5)脳損傷の局在と障害度の判定法と高次機能評価法の確立
6)脳血管障害の急性期および超急性期における治療研究
7)プリオン蛋白の異常化の分子機構の解明
3.筋疾患
1)筋細胞外マトリックスと筋疾患に関する研究
2)E遺伝子性筋疾患の分子治療への基盤研究
4.発達障害
1)周産期発達障害の臨床像の分析による周産期因子の同定
2)高機能自閉症や注意欠陥/多動性障害(ADHD)の成因と治療に関する研究
3)学習障害の評価法の確立と治療法の開発研究

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