13C-MRSを用いた痴呆性疾患に対する新しい診断技術と治療薬の開発に関する基礎的研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100640A
報告書区分
総括
研究課題名
13C-MRSを用いた痴呆性疾患に対する新しい診断技術と治療薬の開発に関する基礎的研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
大槻 泰介(国立精神・神経センター武蔵病院)
研究分担者(所属機関)
  • 金松知幸(創価大学生命科学研究所)
  • 湯浅龍彦(国立精神・神経センター国府台病院)
  • 梶原正宏(明治薬科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 脳科学研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
24,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢化社会をむかえ、痴呆の早期診断と治療法の開発が現在の課題となっている。痴呆症の病態を知り治療法を開発する上で、これまでポジトロンエミッショントモグラフィー(PET)を用いた研究が主に行われてきたが、PET は、放射性物質を用いること、投与薬物の合成にサイクロトロンが必要であることなど、広く行われるには制限がある。一方、13C-MRSは、自然界にも微量に存在する非放射性同位元素13Cを用い、核磁気スペクトロスコピー(MRS)にて生体に取り込まれた13C を検出する新しい方法であり、その非侵襲性が大きな特徴とされる。又、生体に取り込まれた13Cは、自然の代謝経路に従って、様々な代謝産物に姿を変え消費されてゆくが、MRS はこの過程を経時的に測定することが可能であり、脳内の代謝経路及び代謝速度に関する様々な情報を in vivo で得ることができる画期的な方法である。本研究は、この13C-MRS を用い、これまで測定不能であったヒトの脳代謝過程を in vivo に解析し、痴呆性疾患に対する13C-MRS を用いた新しい診断技術と治療法の開発に結びつけることを目的としている。
研究方法
本研究プロジェクトは、I)痴呆性疾患患者における臨床研究、II)動物を用いた基礎実験、III)13C安定同位体開発、の3つ研究チームより構成され、臨床研究チーム(国立精神・神経センター)は、1)痴呆性疾患の臨床的神経放射線的評価、2)健常ボランティアでの検討、及び3)痴呆性疾患患者での検討を行い。また、基礎実験チーム(創価大学生命科学研究所)は、健常及び疾患モデル動物での検討、13C安定同位体開発チーム(明治薬科大学)は、新しい13C-化合物の合成を行う。
結果と考察
1、3C-MRSを用いた痴呆性疾患の評価 本年度は、痴呆症、てんかん、MELAS患者を対象とした。痴呆症患者ではVTCAは0.21μmol/g/分、Vglnは0.035μmol/g/分であり、昨年度実施した正常老年ボランティアに対しTCA回路の代謝速度の低下を示した。一方、前年度/前々年度に引き続き、てんかん患者2例について患側と健側での代謝速度比較を行った結果、VTCAは健側:0.25μmol/g/分、患側:0.19μmol/g/分であった。これにより全5例となったVTCAデータの平均を取ると、健側:0.31μmol/g/分、患側:0.24μmol/g/分で患側の脳代謝低下を示す結果となった。また患者脳では、患側/健側にかかわらずグルタミン酸濃度に比べグルタミン濃度が高い傾向が見られ、グリオーシスを示すものと考えられる。一方MELAS患者では、投与後30分~60分の13Cグルタミン酸および13C乳酸濃度を健常人と比べると、前者の低下と後者の増大を示すデータが得られた。ミトコンドリア障害により、グルタミン酸合成が抑えられる一方、エネルギー獲得のために盛んに嫌気的解糖が行われていることを示す知見となった。2、[1-13C]-ブドウ糖経口投与法と静脈内投与法の比較: Yale大学との共同研究として、経口投与法と静脈内連続投与法の測定を、4人の健常ボランティアで行った。その結果、静脈内連続投与法では、投与開始後5~10分で血中[1-13C]-ブドウ糖分画は20~60%に達するのに対し、経口投与法では10% 以下であった。しかし投与後60~90分後では静脈内連続投与法、経口投与法ともにほぼ等しい値を示した。Vglu、Vglnは経口投与法、静脈内連続投与法ともにほぼ等しい値を示したが、経口投与法において4被検者の値の標準誤差が大きかった。
3、13C標識神経伝達物質の作成 本年度は、脳研究に際し安全性が高く脳幹を通過する光学活性アミノ酸を効率良く、安価に13C標識合成出来る位置選択的合成法を検討した。脳内の13C標識神経伝達物質を簡便、安価に生成することが、本研究課題達成に必須であり、13C標識アミノ酸の同一合成法によるフェニルアラニン、チロシン、アスパラギン酸等の簡便高選択的13C標識アミノ酸合成法の開発を達成しており、13Cメチオニンの合成も達成した。これらの13C標識アミノ酸の医学応用を検討した。うつ病患者の初期においては従来考えられていなかった肝臓でフェニルアラニンの脱炭酸反応は健常人に比して2倍に達する活性が13C呼気試験結果から認めた。また、合成した13C標識アミノ酸の活用例としてラット脳内への移行について検討した。投与した13Cフェニルアラニン、13Cメチオニンが脳幹を通過して、脳内に移行し存在することを13C-NMR のスペクトルから確認した。
結論
13C-MRS装置を用いることにより、1位標識13Cグルコースを経口投与してTCA回路の代謝速度などの脳代謝に関する重要な知見を得られることを確認した。痴呆症患者、てんかん患者、MELAS患者でそれぞれの特徴的な脳代謝動態を計測できた

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