文献情報
文献番号
200100631A
報告書区分
総括
研究課題名
中枢神経損傷後の機能回復機構の解明、治療法の開発
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
杉本 壽(大阪大学)
研究分担者(所属機関)
- 嶋津岳士(大阪大学)
- 田中裕(大阪大学)
- 鍬方 安行(大阪大学)
- 塩崎忠彦(大阪大学)
- 速形 俊昭(大阪大学)
- 種子田護(近畿大学)
- 吉峰 俊樹(大阪大学)
- 西川 隆(大阪大学)
- 山下 俊英(大阪大学)
- 喜多村 祐里(大阪大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 脳科学研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究の目的は、受傷から社会復帰までを見通した総合的な視点に立って重症頭部外傷の治療法を開発することである。重症頭部外傷患者の急性期から慢性期にかけての経過を長期間追跡調査することにより、『脳機能回復機構の解明と機能回復を積極的に促進する慢性期治療法の開発』を目標にして、以下の研究を行った。臨床研究では、1.長期植物状態からの回復時期の解明。2.長期植物状態からの意識回復に影響を及ぼす因子の解明。3.長期植物状態からの回復予知法、回復機構の解明と回復促進法の開発。4.意識回復例での高次脳機能の障害発生機構、回復機構解明と回復促進法の開発。5.外傷後遅発性進行性脳萎縮(delayed neuronal loss)の機序の解明。基礎研究では、6.動物ならびに培養細胞を用いた脳損傷モデルにおける神経損傷と修復機序の解明:①ニューロトロフィン受容体p75による神経再生抑制機序の解明。②ラット頭部外傷モデルにおける神経幹細胞の動向に関する研究。③脳虚血モデルにおけるアポE発現に関する研究。④Src family kinase inhibitor PP1による外傷性脊髄浮腫抑制効果に関する研究。⑤遺伝子治療(NF-kβデコイ投与)による虚血性脊髄損傷の修復に関する研究。⑥二次的脳損傷におけるミクログリアの役割に関する研究。
研究方法
臨床研究では、1.受傷後1ヶ月の時点で植物状態を呈している重症頭部外傷患者24例の長期予後追跡調査をprospectiveに行った。2.上記24症例を解析して、受傷後1年間の意識回復度合いに影響を及ぼす因子について検討した。3.14例の重症頭部外傷患者でキセノンCT法を用いて受傷から6週間後まで脳血流量を経時的に測定した。そのうち6例では、近赤外光トポグラフィーを用いて手関節の他動的屈伸運動刺激に対する感覚運動野の局所脳血流反応の有無を測定した。4.神経心理学的検査が可能であった重症頭部外傷患者24例を対象として高次脳機能検査を施行した。5.我々が最初に報告した8例のうち、追跡調査の可能な症例では、follow up CTを撮影した。基礎研究では、6.①P75ノックアウトマウスを用いてニューロトロフィン受容体p75の作用を検証した。②頭部外傷モデルラットにBrdUを腹腔内投与し、損傷後の増殖細胞を経時的に解析した。③中大脳動脈閉塞後3日目~7日目にかけての脳梗塞部ならびに梗塞周囲部でのApo E mRNAの発現を調べた。④脊髄圧挫損傷モデルを作成し、損傷直後にPP1並びに溶解液を腹腔内投与して、経時的に損傷範囲の検討並びに、浮腫の広がり、マクロファージの浸潤の程度を検討した。⑤大動脈遮断による脊髄虚血再潅流モデルを用い、FITC標識NF-kBデコイを遮断時に動脈内投与して虚血性損傷が抑制されるかどうかを検討した。⑥培養ミクログリアを用いてLPS/IFN-gamma刺激に対するMMP-2, MMP-9, tPA, uPA, uPA receptorのmRNA発現の変化をリアルタイム定量的RT-PCR法を用いて検討した。
結果と考察
1.受傷1ヶ月後に植物状態を呈していた重症頭部外傷患者24例の長期予後追跡調査を施行し、16例(67%)が平均4.1±3.0ヶ月で意識を回復した。しかし、GOSでModerate Disability以上のレベルに改善したのは3例(19%)であり、意識回復後もADL(日常生活動作)は障害されていることが判明した。このpilot studyの結果を踏まえ、長期植物状態からの自然回復過程を明らかにする目的で、平成14年2月より10都府県にわたる26の3次救急医療施設で、prospectiveな長期予後追跡調査(約100症例/年)を開始した。2.上記24症例を解析した結果、来院時意識レベルのみが
受傷後1年間の意識回復度合いと有意な関係(p<0.01)を示し、年齢、頭蓋内圧の高低、脳損傷形態との間に明らかな関係は認められなかった。3.重症頭部外傷患者では、急性期から慢性期にかけて正常例に比して全般的に脳血流量が低下していること、受傷6週間後に機能予後良好となる症例では受傷3週間後に脳血流量が急激に増大して一度正常範囲内に到達すること、受傷6週間後に機能予後不良となる症例では脳血流量は全経過を通じて正常例より低い値を示すこと(p<0.05)、が判明した。4.少なくとも受傷1ヶ月後の時点では、意識の回復した重症頭部外傷患者の大多数(24例中20例で83%)で高次脳機能障害(特に記銘力障害)の生じていることが判明した。5.delayed neuronal lossを示している3症例(受傷10年後、受傷5年半後、受傷4年半後)で、それぞれfollow up CTを撮影したが、やはり現在もdelayed neuronal loss が緩徐に進行していることが確認された。6.①P75ノックアウトマウスを用いてMAGがp75を介して神経突起の進展を阻害していることを証明した。②ラット頭部外傷モデルにおいて、側脳室下帯(SVZ)と海馬歯状回顆粒細胞層(SGL)での細胞増殖が認められ、神経幹細胞/前駆細胞の増殖が示唆された。SVZの細胞増殖は両側性、SGLの細胞増殖は外傷側優位であった。③脳梗塞部及び梗塞周辺部に発現するApoE mRNAの産生細胞が神経膠細胞ならびに浸潤マクロファージであることを明らかにした。神経細胞にはApoE mRNAの発現を認めなかった。④脊髄圧挫損傷モデルにおいて損傷直後にsrc family kinase inhibitor PP1を腹腔内投与すると、24時間後の浮腫形成が抑制され、72時間後の損傷範囲も軽減することが判明した。⑤大動脈遮断による脊髄虚血再潅流モデルにおいて、遮断時にFITC標識NF-kβデコイを動脈投与することによってNF-kβが脊髄血管内皮や神経細胞に導入され、脊髄前角細胞の虚血性損傷の抑制や炎症性マクロファージの浸潤抑制に効果があることが判明した。⑥脳損傷部に集積するミクログリアは、LPS/IFN-gamma刺激により、MMP-9やuPA receptorを発現することが明らかとなった。
受傷後1年間の意識回復度合いと有意な関係(p<0.01)を示し、年齢、頭蓋内圧の高低、脳損傷形態との間に明らかな関係は認められなかった。3.重症頭部外傷患者では、急性期から慢性期にかけて正常例に比して全般的に脳血流量が低下していること、受傷6週間後に機能予後良好となる症例では受傷3週間後に脳血流量が急激に増大して一度正常範囲内に到達すること、受傷6週間後に機能予後不良となる症例では脳血流量は全経過を通じて正常例より低い値を示すこと(p<0.05)、が判明した。4.少なくとも受傷1ヶ月後の時点では、意識の回復した重症頭部外傷患者の大多数(24例中20例で83%)で高次脳機能障害(特に記銘力障害)の生じていることが判明した。5.delayed neuronal lossを示している3症例(受傷10年後、受傷5年半後、受傷4年半後)で、それぞれfollow up CTを撮影したが、やはり現在もdelayed neuronal loss が緩徐に進行していることが確認された。6.①P75ノックアウトマウスを用いてMAGがp75を介して神経突起の進展を阻害していることを証明した。②ラット頭部外傷モデルにおいて、側脳室下帯(SVZ)と海馬歯状回顆粒細胞層(SGL)での細胞増殖が認められ、神経幹細胞/前駆細胞の増殖が示唆された。SVZの細胞増殖は両側性、SGLの細胞増殖は外傷側優位であった。③脳梗塞部及び梗塞周辺部に発現するApoE mRNAの産生細胞が神経膠細胞ならびに浸潤マクロファージであることを明らかにした。神経細胞にはApoE mRNAの発現を認めなかった。④脊髄圧挫損傷モデルにおいて損傷直後にsrc family kinase inhibitor PP1を腹腔内投与すると、24時間後の浮腫形成が抑制され、72時間後の損傷範囲も軽減することが判明した。⑤大動脈遮断による脊髄虚血再潅流モデルにおいて、遮断時にFITC標識NF-kβデコイを動脈投与することによってNF-kβが脊髄血管内皮や神経細胞に導入され、脊髄前角細胞の虚血性損傷の抑制や炎症性マクロファージの浸潤抑制に効果があることが判明した。⑥脳損傷部に集積するミクログリアは、LPS/IFN-gamma刺激により、MMP-9やuPA receptorを発現することが明らかとなった。
結論
今年度の研究により、重症頭部外傷受傷後に植物状態を呈している患者の『過去の医療レベルでの自然回復過程』と『現在の医療レベルでの自然回復過程』は全く違うことが明らかになった。このpilot studyの結果を基にして、10都府県にわたる26の3次救急医療施設が参加して、平成14年2月よりprospectiveな長期予後追跡調査(約100症例/年)を開始した。この多施設研究によって、長期植物状態からの自然回復過程を明らかにし、さらに意識回復に影響を及ぼす因子についても解明する予定である。意識回復の予知に関する研究では、重症頭部外傷患者での亜急性期から慢性期にかけての脳血流量の特徴的な変化をいくつか捕らえることができた。脳血流量と意識レベルの間に見られる乖離の原因を明らかにするために、高次脳神経機能も含めた脳機能全般と脳血流量の推移との関係を追及する必要がある。また、植物状態を呈している患者の脳活動に伴う脳血液量の変化を光トポグラフィーを用いて測定しているが、『他動的屈伸運動刺激に対する感覚運動野の局所脳血流反応』が植物状態からの意識回復予測に最も適していると考えられた。重症頭部外傷後の高次脳機能障害に関しては、今回の研究結果から少なくとも受傷1ヶ月後の時点では、重症頭部外傷患者の大多数(24例中20例で83%)で高次脳機能障害の生じていること、障害の種類としては言語性記憶障害が多いこと、が判明した。基礎実験に関しては、(ⅰ)神経再生阻害因子を抑制することによって中枢神経再生を試みる、(ⅱ)内在性の幹細胞を用いて神経再生を試みる、(ⅲ)神経損傷の過程を抑制することにより2次的損傷を最小限にする、の観点から精力的に研究を行った。(ⅰ)に関しては、myelin-associated glycoproteinがp75を介して神経突起の進展を阻害していることを証明した。(ⅱ)に関しては、外傷後の急性~亜急性期にかけて側脳室周囲の神経幹細胞は増殖するが、gliosisにもneurogenesisにも寄与していないことを明らかにした。(ⅲ)に関しては
、中枢神経系でのApoEのmRNA産生細胞が、神経膠細胞ならびに浸潤マクロファージであり、神経細胞にはApoE mRNAの発現を認めないことを明らかにした。また、脊髄圧挫損傷モデルにおいて損傷直後にsrc family kinase inhibitor PP1を腹腔内投与すると、24時間後の浮腫形成が抑制され、72時間後の損傷範囲も軽減することが判明した。
、中枢神経系でのApoEのmRNA産生細胞が、神経膠細胞ならびに浸潤マクロファージであり、神経細胞にはApoE mRNAの発現を認めないことを明らかにした。また、脊髄圧挫損傷モデルにおいて損傷直後にsrc family kinase inhibitor PP1を腹腔内投与すると、24時間後の浮腫形成が抑制され、72時間後の損傷範囲も軽減することが判明した。
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