文献情報
文献番号
200100628A
報告書区分
総括
研究課題名
福山型先天性筋ジストロフィーの病態解明と治療法の開発に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
清水 輝夫(帝京大学)
研究分担者(所属機関)
- 戸田達史(大阪大学)
- 砂田芳秀(川崎医科大学)
- 松村喜一郎(帝京大学)
- 武田聖(大塚製薬)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 脳科学研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
36,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
日本で最も高頻度、最重症の常染色体性劣性疾患である福山型先天性筋ジストロフィーの分子病態を解明し、治療法の開発を行なう。
研究方法
結果と考察
戸田(fukutin分子遺伝、fukutin生理機能、fukutin欠損動物モデルの分子病態、遺伝子治療)、砂田(fukutin結合蛋白、fukutin遺伝子、遺伝子治療)、松村(fukutin蛋白/fukutin結合蛋白の生理機能、FCMD蛋白病態)、武田(fukutin欠損動物モデル作製とその分子病態、遺伝子治療)の4名との共同研究で、年数回の全体討論をもち、主として分子生物学、蛋白免疫化学、糖鎖構造解析をもちいて遂行する。
結論
福山型先天性筋ジストロフィーFCMDの原因遺伝子産物fukutinの生理機能について大きな進展がえられた。①fukutin遺伝子;fukutin遺伝子は10 exonからなり、1-9 exonが翻訳されるが、intron領域から新たに3A、3B、9Aの3種の短いexonsが発見され、また、exon 9は31塩基延長してexon 9' としても使われることが新らたに判明した。これにより、筋・脳のそれぞれに6種類のsplice variantsが発現していた。それぞれのvariant transciptの量比、蛋白生理機能は今後の課題である。
②fukutin生理機能;fukutin遺伝子から主に分子量約5万のfukutin蛋白が産生されると推定しているが、特異抗体が依然出来ておらず、fukutinの生理機能や分子病態は未解決である。しかし、コンピューター解析から酵母のマンノシルリン酸化酵素、肺炎球菌とインフルエンザ桿菌のホスホリルコリン転嫁酵素との相同性が認められたことから、糖鎖修飾酵素であろうとの想定をし、幾つかの組織膜成分の糖鎖染色をイムノブロット上で検討した結果、リンパ球膜成分の分子量200 kDa領域にglycan染色不良な成分を確認できた。また、FCMD類縁疾患であるmuscle eye brain病(MEB)の遺伝子解析で、1p32-34のPOMGnT1遺伝子を同定し、Ser/Thr-mannoseにGlcNAcを転嫁するO glycanaseであり、Golgi体でO glycan転嫁を担う2型Golgi膜蛋白であったこと、その変異としてsplice異常と点変異が認められ、短いmRNAが転写され、その結果失活した酵素が産生されていたことを明らかにした。これらから、fukutinはPOMGnT1同様に何らかの筋膜/脳表蛋白のO glycan生成転嫁酵素であろうとの強い傍証を得るにいたった。
③FCMD蛋白病態;筋基底層の未知の蛋白p180がFCMDで欠損していることを指摘し、FCMDの基本病態として筋基底層の破綻を想定して来た。このp180は筋以外に末梢神経のSchwann細胞周囲の基底層や脳表glia limitansの基底層にも存在することが明らかとなり、さらに同部位にはα,βdystroglycanが共存することが示された。ただし、p180の脱落はMEBにはないことも判明している。
筋膜蛋白dystroglycan連関をみると、FCMDとMEBに共通してみられるのは、laminin、β-dystroglycan、dystrophinが比較的よく保たれているのに対し、α-dystroglycanの糖鎖成分に対する抗体ではα-dystroglycanが認められない点である。これは両疾患でα-dystroglycanが全く欠損しているか、α-dystroglycanは存在してもその糖鎖(特にO glycan)が障害されlamininとの結合性が失われていることを示している。従って、 MEBの結果ともあわせ考えるとfukutinはPOMGnT1同様にα-dystroglycanのO glycan生成転嫁過程の酵素であり、その酵素活性障害によりα-dystroglycanのO glycan形成が不良となり、laminin-dystroglycan-dystrophin連関が破綻した病態であろうとの仮説がえられた。今後、直接証明されるべき最重要点である。
また、FCMDではβ-dystroglycan がその細胞外ドメインでmatrix metalloproteinase(MMP)により分解される機序もあることが判明した。このMMPは過去の18種のMMPのいずれとも性質が異なり、新種のMMPである可能性がでている。この点も今後検討されるべき点である。
④FCMD動物モデル;fukutinホモ欠損マウスは胎生致死であり、6.5日胚病理像では基底膜、中胚葉は正常だが、胚全体が折れ曲がり体軸形成の異常が示唆された。fukutinホモ欠損型ES細胞に由来するキメラマウスは屈曲姿勢で、歩容は足をひきずり、歩幅が短く、まっすぐ歩けない状態であった。回転するrodに乗せると落下が多く、金網につりさがれる時間も短かった。骨格筋HE染色では生後1ヶ月齢では著明な壊死再生像、間質の増大、7および9ヶ月齢では中心核、筋線維の大小不同がみられ部分的に壊死線維が散見された。免疫染色では筋膜での抗α-dystroglycan糖鎖抗体の染色性が特異的に激減していた。Laminin、β-dystroglycan、dystrophin、α-,β-sarcoglycans、utrophinは筋膜に比較的よく保存されていた。従って、このfukutinキメラマウスは骨格筋の壊死が早い時期に生じ、その後再生が進むと考えられる。脳病変では大脳皮質分子層の消失、分子層の皮質深部での滞留など層構築障害が観察され、腰髄へのHRP注入による皮質錐体路の逆行性標識を行なうと、正常ではV 層に整然としたHRP陽性細胞が並んでいるのに対し、fukutinキメラマウスでは皮質の全層にわたって散在しており皮質の層構築異常が明らかとなった。小脳では顆粒層の構築異常、小脳構の消失、小脳と下丘の癒合、が認められた。眼病変として、血管増生を伴う角膜混濁、眼球奇形、網膜剥離と層構造異常・水晶体との癒合、角膜の肥厚とレンズとの癒合などの奇形が観察され、FCMD類似の病態発症が確認され、fukutinが筋ジス発症と脳・眼発生に必須の要素であることが証明された。
⑤キメラマウスでの遺伝子導入を検討しており、AAVをベクターとしてfukutin遺伝子を注入する方法に加え、fukutin遺伝子を電気穿孔法にて直接導入する方法を始める方針である。
本年度、FCMD類縁疾患であるMEBの遺伝子解析に成功し、O glycanase活性消失によるα-dystroglycan障害(laminin-dystroglycan-dystrophin連関破綻)が証明された。これによりfukutinの機能としてα-dystroglycanの糖鎖修飾障害、特にO glycan形成障害が有力となった。モデルマウスがえられたことから、この仮説証明に邁進するとともに、二次的減少であろう基底層蛋白p180の解明を完遂し、治療法の開発に進みたい。fukutin生理機能について有力仮説がみつかり以下の結論がえられた。①FCMD類縁疾患であるMEBの遺伝子解析結果およびFCMDのリンパ球膜蛋白でglycan染色不良の蛋白が存在したことから、fukutinの生理機能として筋形質膜・脳表glia limitansに存在するα-dystroglycanの糖鎖修飾、特にO glycan形成に携わる酵素であろうとの仮説がえられた。②fukutin欠損によるlaminin-dystroglycan連関の破綻と、脳表および筋の基底層蛋白p180の脱落とがおこり、脳での神経細胞遊走障害、筋のジストロフィー変化が発症すると推定する。③fukutin欠損キメラマウスでもFCMD/MEBと同じくlaminin-dystroglycan-dystrophin連関の破綻が認められた。④fukutin遺伝子構造(10 exons)に新たに3A、3B、9Aがみつかり、exon 9は31塩基延長し手exon 9'としても用いられることが判明し、筋・脳それぞれ6種のsplice variantsが存在する。それぞれがどのような作用に関係するかが今後の問題である。⑤FCMDのβdystroglycanは、その細胞外ドメインでmatrix metalloproteinaseによる分解をうけ、laminin-α dystroglycan-βdystroglycan-dystrophin連関を破綻させる機序も存在する。
②fukutin生理機能;fukutin遺伝子から主に分子量約5万のfukutin蛋白が産生されると推定しているが、特異抗体が依然出来ておらず、fukutinの生理機能や分子病態は未解決である。しかし、コンピューター解析から酵母のマンノシルリン酸化酵素、肺炎球菌とインフルエンザ桿菌のホスホリルコリン転嫁酵素との相同性が認められたことから、糖鎖修飾酵素であろうとの想定をし、幾つかの組織膜成分の糖鎖染色をイムノブロット上で検討した結果、リンパ球膜成分の分子量200 kDa領域にglycan染色不良な成分を確認できた。また、FCMD類縁疾患であるmuscle eye brain病(MEB)の遺伝子解析で、1p32-34のPOMGnT1遺伝子を同定し、Ser/Thr-mannoseにGlcNAcを転嫁するO glycanaseであり、Golgi体でO glycan転嫁を担う2型Golgi膜蛋白であったこと、その変異としてsplice異常と点変異が認められ、短いmRNAが転写され、その結果失活した酵素が産生されていたことを明らかにした。これらから、fukutinはPOMGnT1同様に何らかの筋膜/脳表蛋白のO glycan生成転嫁酵素であろうとの強い傍証を得るにいたった。
③FCMD蛋白病態;筋基底層の未知の蛋白p180がFCMDで欠損していることを指摘し、FCMDの基本病態として筋基底層の破綻を想定して来た。このp180は筋以外に末梢神経のSchwann細胞周囲の基底層や脳表glia limitansの基底層にも存在することが明らかとなり、さらに同部位にはα,βdystroglycanが共存することが示された。ただし、p180の脱落はMEBにはないことも判明している。
筋膜蛋白dystroglycan連関をみると、FCMDとMEBに共通してみられるのは、laminin、β-dystroglycan、dystrophinが比較的よく保たれているのに対し、α-dystroglycanの糖鎖成分に対する抗体ではα-dystroglycanが認められない点である。これは両疾患でα-dystroglycanが全く欠損しているか、α-dystroglycanは存在してもその糖鎖(特にO glycan)が障害されlamininとの結合性が失われていることを示している。従って、 MEBの結果ともあわせ考えるとfukutinはPOMGnT1同様にα-dystroglycanのO glycan生成転嫁過程の酵素であり、その酵素活性障害によりα-dystroglycanのO glycan形成が不良となり、laminin-dystroglycan-dystrophin連関が破綻した病態であろうとの仮説がえられた。今後、直接証明されるべき最重要点である。
また、FCMDではβ-dystroglycan がその細胞外ドメインでmatrix metalloproteinase(MMP)により分解される機序もあることが判明した。このMMPは過去の18種のMMPのいずれとも性質が異なり、新種のMMPである可能性がでている。この点も今後検討されるべき点である。
④FCMD動物モデル;fukutinホモ欠損マウスは胎生致死であり、6.5日胚病理像では基底膜、中胚葉は正常だが、胚全体が折れ曲がり体軸形成の異常が示唆された。fukutinホモ欠損型ES細胞に由来するキメラマウスは屈曲姿勢で、歩容は足をひきずり、歩幅が短く、まっすぐ歩けない状態であった。回転するrodに乗せると落下が多く、金網につりさがれる時間も短かった。骨格筋HE染色では生後1ヶ月齢では著明な壊死再生像、間質の増大、7および9ヶ月齢では中心核、筋線維の大小不同がみられ部分的に壊死線維が散見された。免疫染色では筋膜での抗α-dystroglycan糖鎖抗体の染色性が特異的に激減していた。Laminin、β-dystroglycan、dystrophin、α-,β-sarcoglycans、utrophinは筋膜に比較的よく保存されていた。従って、このfukutinキメラマウスは骨格筋の壊死が早い時期に生じ、その後再生が進むと考えられる。脳病変では大脳皮質分子層の消失、分子層の皮質深部での滞留など層構築障害が観察され、腰髄へのHRP注入による皮質錐体路の逆行性標識を行なうと、正常ではV 層に整然としたHRP陽性細胞が並んでいるのに対し、fukutinキメラマウスでは皮質の全層にわたって散在しており皮質の層構築異常が明らかとなった。小脳では顆粒層の構築異常、小脳構の消失、小脳と下丘の癒合、が認められた。眼病変として、血管増生を伴う角膜混濁、眼球奇形、網膜剥離と層構造異常・水晶体との癒合、角膜の肥厚とレンズとの癒合などの奇形が観察され、FCMD類似の病態発症が確認され、fukutinが筋ジス発症と脳・眼発生に必須の要素であることが証明された。
⑤キメラマウスでの遺伝子導入を検討しており、AAVをベクターとしてfukutin遺伝子を注入する方法に加え、fukutin遺伝子を電気穿孔法にて直接導入する方法を始める方針である。
本年度、FCMD類縁疾患であるMEBの遺伝子解析に成功し、O glycanase活性消失によるα-dystroglycan障害(laminin-dystroglycan-dystrophin連関破綻)が証明された。これによりfukutinの機能としてα-dystroglycanの糖鎖修飾障害、特にO glycan形成障害が有力となった。モデルマウスがえられたことから、この仮説証明に邁進するとともに、二次的減少であろう基底層蛋白p180の解明を完遂し、治療法の開発に進みたい。fukutin生理機能について有力仮説がみつかり以下の結論がえられた。①FCMD類縁疾患であるMEBの遺伝子解析結果およびFCMDのリンパ球膜蛋白でglycan染色不良の蛋白が存在したことから、fukutinの生理機能として筋形質膜・脳表glia limitansに存在するα-dystroglycanの糖鎖修飾、特にO glycan形成に携わる酵素であろうとの仮説がえられた。②fukutin欠損によるlaminin-dystroglycan連関の破綻と、脳表および筋の基底層蛋白p180の脱落とがおこり、脳での神経細胞遊走障害、筋のジストロフィー変化が発症すると推定する。③fukutin欠損キメラマウスでもFCMD/MEBと同じくlaminin-dystroglycan-dystrophin連関の破綻が認められた。④fukutin遺伝子構造(10 exons)に新たに3A、3B、9Aがみつかり、exon 9は31塩基延長し手exon 9'としても用いられることが判明し、筋・脳それぞれ6種のsplice variantsが存在する。それぞれがどのような作用に関係するかが今後の問題である。⑤FCMDのβdystroglycanは、その細胞外ドメインでmatrix metalloproteinaseによる分解をうけ、laminin-α dystroglycan-βdystroglycan-dystrophin連関を破綻させる機序も存在する。
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