痴呆性高齢者のグループホーム及びケアユニット等における有効・効率的なケアのあり方に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100600A
報告書区分
総括
研究課題名
痴呆性高齢者のグループホーム及びケアユニット等における有効・効率的なケアのあり方に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
加藤 伸司(東北福祉大学,高齢者痴呆介護研究・研修仙台センター)
研究分担者(所属機関)
  • 長嶋紀一(日本大学)
  • 阿部哲也(東北福祉大学、高齢者痴呆介護研究・研修仙台センター)
  • 阿部芳久(東北福祉大学、高齢者痴呆介護研究・研修仙台センター)
  • 高橋誠一(東北福祉大学)
  • 大橋美幸(東北福祉大学、高齢者痴呆介護研究・研修仙台センター)
  • 狩野徹(岩手県立大学)
  • 足立啓(和歌山大学)
  • 井上博文(社会福祉法人東北福祉会せんだんの杜)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 21世紀型医療開拓推進研究(痴呆・骨折研究分野)
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
21,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、グループホーム、小規模ケアユニットを多面的にとらえ、利用者の対人関係構造、生活環境が及ぼす効果など痴呆性高齢者の生活にそった視点から検討し、結果を総合的に分析することによってグループホームケアや、ユニットケアの有効性を検証し、痴呆性高齢者の実際のケアに役立てていくことを目的に行われた。またグループホームやケアユニット等の小規模ケアを運営と経済的側面からとらえ、効率的な運営方法もあわせて検証することを目的に行なわれた。
研究方法
本研究は、大きく「住環境分析」と「人間関係形成分析」、「経済学的視点からの分析」に分けられる。「住環境分析」に関しては、さらに「痴呆性高齢者グループホームの生活の場に関する研究(狩野)」、「ユニットケアの生活と今後の方向性に関する研究(井上)」、「既存特養における痴呆ユニットケアへの環境移行が入居者に与える影響に関する研究(足立)」、「生活環境の変化が痴呆性高齢者の痴呆症状に及ぼす影響についての実証的研究(大橋)」の4つに研究グループを細分化して研究を行なった。
1.[住環境分析]で狩野は12ヵ所のグループホームを対象に訪問によるヒアリング調査を実施し、グループホーム形態の特色による分類を試みた。また観察シートを用いて10分ごとに入居者の居場所と行動を観察して検討した。井上はユニットケア実施施設に対するアンケート調査と訪問調査を実施し、事例を集積して検討を行なった。足立は、ユニットケア実施前と実施後の入居者の行動内容と行動場所を5分おきに観察記録し、ユニットケア導入前と導入後のデータを比較して検討を行なった。大橋らは施設の近隣に実験的に民家を借り上げ、特養の入居者を対象に、週5日、日中の時間帯を民家で生活するという試みを実施してその効果を検討し、さらに住環境分析に関する研究を総括して検討した。
2.[人間関係形成分析]で阿部らは、グループホームのリビングに小型カメラを設置し、入居者とスタッフの行動や表情を時系列で記録した。評価はLawtonのQOL指標をもとに「感情」を6分類した尺度で行われ、2名のスタッフが映像データをもとにそれぞれ評価し、感情に関連している周辺状況や他者の行動要因との関係性を分類整理して検討した。
3.[経済学的視点からの分析]で高橋は、ユニットケアを実施している20施設を抽出し、主任クラスのスタッフ同士の論議の中から課題抽出を行った。次に対象施設に訪問し、管理者クラス、介護主任クラス、介護者クラスからのヒアリング調査を行い、ユニットケアのハード面とソフト面からの検討を行なった。
4.[総括研究]で加藤と長嶋は、8ヵ所のグループホームに対する訪問ヒアリング調査を実施し、管理者及びスタッフを対象に住環境の効果や人間関係が及ぼす効果、経営上の問題点などについて、実際にどのように感じているのかを調査した。またこの訪問調査の結果と3分担研究の結果をもとに、痴呆性高齢者のグループホーム及びケアユニット等における有効・効率的なケアのあり方についての検討を行なった。
結果と考察
[住環境分析]で狩野は、立地条件や建築方法等からグループホームを5分類することを提唱し、さらに他の環境とのいくつかの組合せがグループホームの環境の特徴を形成していることを明らかにした。また行動観察では、①パブリックスペースにおける居場所は自然発生的に定まっていくる②セミパブリックスペースの利用頻度が意外に高い③自室は他者から干渉されずに静かに過ごす場所になっているなど痴呆性高齢者自身が自分なりに居場所を使い分けていることを明らかにした。井上はユニットケアにおける痴呆性高齢者への対応は、症状に対して対応するというよりその原因を理解して対応することが有効であり、①入居者の尊厳が守られること②入居者の役割ができてくること③これまでの生活の継続が大切であることを指摘した。足立は、ユニットケア実施前と実施後の入居者の行動変容を比較した結果、①デイ空間の滞在時間が倍増すること②デイ空間における会話時間が増加すること③入居者同士、入居者と職員間でほとんどの人に関わりの時間に増加が認められること④プライベートスペースよりもパブリックスペースにおける会話をもちいた関わりが増えていることなどを明らかにした。また職員の関わりに関しては、直接介護の時間よりも直接介護の後の関わりの時間が増えていることを明らかにした。大橋の「痴呆性高齢者が日中民家で生活する」という実験的試みでは、①時間の経過とともに家の中に落ち着き場所を見つけるように変化していくこと②利用者同士の自然な関わりが増え、関係性の不良な利用者同士が自ら居場所をかえてバランスをとる行動がみられることなどが明らかにした。また実験的試みを行なっていく中で、問題は環境がおよぼす入居者自身の変化だけではなく、職員のかかわり方と目的意識にあることも明かにした。
[人間関係分析]で阿部らが行ったグループホームのパブリックスペースにおける情緒反応の観察結果では、①リビングでは「関心」反応が最も多く、次いで「満足」「喜び」の順であること②居場所は大体固定しているが、居場所が占領されたときにいる別の居場所も確保していること③「居間」から「居室」へ移動するときの情緒反応は「不安」であり、逆の場合の情緒反応は「関心」「満足」であること④「対物関与」や、物や行為について目的的に関わっているような状況は、快感情と結びつきやすいこと⑤対人関与は、「喜び」にもっとも多く関与しているが、同時に「怒り」「不安」「悲哀」などの不快感情も引き起こしやすいこと⑥直接対人的関与がなくても、周囲の人的環境が落ち着かない状況では不安が喚起されやすいこと⑦一般に入居者が何もせず漫然と過ごしている場合には、安定と不安定という気分の変化を引き起こしやすいことなどを明らかにした。
[経済学的視点からの分析]高橋はユニットケアを実施している施設の分析を行い、①ユニットケアの規模と職員配置のトレイドオフの問題②ヒューマンケアとしてのユニットケアにおけるハードとソフトの技術的補完性③職員の分業体制における柔軟化の工夫という3つの課題を抽出した。
[ヒアリング調査と総括]加藤・長嶋が行ったグループホームの管理者に対するヒアリング調査では、①グループホームの理念は「これまでの生活の継続」「入居者の生活の理想の追求」というものをキーワードにしているところが多い②グループホームの優れている点は規模の適切さと利用者との関係の近さにある③スタッフ雇用は、スキルだけではなく人間性を重視する④雇用後も継続した研修が必要という回答が多くみられた。スタッフに対する調査では、①グループホームの優れている点は、規模の適切性と対人的距離の近さにある②家族的な対応が可能である③利用者同士がサポートしあうようになるなどの利点をあげているが、④空間の小ささとケアの質は別次元である⑤生活視点のケアは大切だが、専門性も必要である。⑤継続した研修が不可欠であるという回答も多くみられた。
今回の研究結果から、グループホームやケアユニットはケア環境面から有効であることが認められた。しかし有効なケア環境を提供するためには、質の高いスタッフの人員確保とスタッフ雇用に関する経済的側面など解決すべき課題は多い。今後は質の高いケア環境の中でいかに質の高いケアを提供するかということを考えることが重要であり、管理者の経営努力と、スタッフの継続的な教育を考えることが必要であろう。
結論
①グループホームは、その立地条件や建物構造によって分類され、その特徴がケアに有効に作用する。②ユニットケアなどを含めた小規模ケアによって痴呆性高齢者のパブリックスペースにおける滞在時間が増え、利用者同士の交流が促進される。③小規模ケアでは、スタッフの関わりの時間が増え、積極的に利用者と関わる行動がみられるようになる。④ユニット化された施設では痴呆性高齢者の徘徊が減少する。⑤小規模ケアにおけるスタッフの密な関わりが痴呆性高齢者の感情を安定させる。⑥小集団ケアの場では利用者同士の関係性が安定する。以上痴呆性高齢者にとってグループホームやケアユニットにおけるケアは有効な手段である。今後は質の高い環境で質の高いケアを提供するために、スタッフの継続的な教育が必要である。

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