アルツハイマー病に対するアデノウイルスベクターを用いた新しい治療法の開発(統括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100596A
報告書区分
総括
研究課題名
アルツハイマー病に対するアデノウイルスベクターを用いた新しい治療法の開発(統括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
原 英夫(国立精神・神経センター神経研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 高橋慶吉(国立精神・神経センター神経研究所)
  • 田平 武(国立長寿医療研究センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 21世紀型医療開拓推進研究(痴呆・骨折研究分野)
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
最近の報告では、アルツハイマー病の動物モデルに対し、A_ペプチドを免疫投与したところ、老人斑の減少と高次機能の回復が認められている。この様にA_ペプチドをワクチンとして投与し、抗体を体内で産生させ、抗体が老人斑を除去し、さらに分泌されたA_の凝集・沈着を抑制することにより神経細胞の脱落を防止しようとする免疫療法が、アルツハイマー病の新しい治療法として注目されている。欧米では、ELAN社によりアルツハイマー病患者にA_ペプチドのワクチン投与が行われているが、我々は、アデノウイルスベクターを用いたアルツハイマー病に対する経口内服治療法の開発を試みている。アデノウイルスベクターにA_ cDNAを組み込み、このリコンビナントアデノウイルスを経口投与し、腸管上皮細胞に感染させる。そしてA_抗原を腸管細胞に発現させ、免疫系に抗原提示し、A_に対する抗体産生を誘導するのが目的である。
研究方法
1. アデノウイルスベクターの構築;分泌型A_43 cDNAを作成し、pAdeno-Xベクターへ組み込んだ。このベクターをHEK293 cellにtransfectionsし、recombinant adenovirusを得た。さらにアデノウイルス粒子をHEK293細胞内にて大量に産生し、セシウムクロライド超遠心にて精製した。
2. ウエスタンブロット解析
分泌型A_43 cDNAを発現ベクターに組み込み、CHO細胞へ導入した。48時間後に培養上清とcell lysateを抽出し、SDS-PAGE gelに泳動した。Nitrocellulose membraneに蛋白をtransfer後、抗A_抗体_4G8)にてA_蛋白を検出した。
3. アデノウイルスの経口投与
C57BL/6JマウスにA_アデノウイルス1.5x107 pfu, コントロールとしてLac Zアデノウイルス1.0x107pfu経口投与した。
4. マウス血清中の抗A_抗体の検出
A_42ペプチド(5_g/ml)を96 well plate (Nunc, MaxiSorp)の各wellに付着させ、ブロック後、アデノウイルスを投与したマウスより採取した血清を加え(500倍希釈)、peroxidase標識抗マウスIgG抗体で検出した。測定は、ELISAリーダーで吸光度を測定した。マウスの血清がA_凝集反応を阻害するか検討した。A_1-40ペプチドを350_Mの濃度に調整し96well plateに加え、370Cでインキュベーションした。24時間後にA_の凝集が見られた。このA_の凝集に125I- A_1-40を20nCi/wellの濃度で加え、2時間後に洗浄しガンマカウンターで測定した。125I- A_1-40の結合・凝集をマウスの血清が阻害するかどうか、マウスの血清を5%濃度で加え測定した。
5. 組織からのRNA精製及びRT-PCR。
アデノウイルスを投与したマウスより心、肺、脾臓、肝臓、上部消化管、腎臓を摘出し、RNAを精製した。 Total RNA 5 _gに逆転写酵素を加え1st strand cDNAを作成した。次に、特異的PCR用primerを作成し、PCRを行った。PCR産物は、2 % agarose gelに泳動し、目的とする200bpのバンドを確認した。
6. マウス脾細胞のA_42ペプチドに対する細胞増殖反応。
アデノウイルスを投与したマウスより脾細胞を分離し、96 well plateの1 wellに5 x 104細胞を加え、A_42ペプチドを各濃度で加えた培養液中で48時間培養した。細胞培養終了後、テトラゾリウム塩(WST-1)を加えた。ELISAリーダーで色素溶液の吸光度を測定することにより、細胞増殖能反応を判定した。
7. 組織染色
a) 組織中のA_蛋白や老人斑を検出するために、70% formic acidで処理し、5% H2O2で内因性のperoxidase活性を失活させた。抗A_抗体_1000倍希釈)またはマウス血清(500倍希釈)と反応させた後、 peroxidase標識2次抗体を加え、DAB染色を行った。
b) Lac Zの発現解析のため、_-gal staining kit (In vitrogen社)を用いて、_-galactosidase染色を行った。
結果と考察
研究と考察=我々は、効率よくA_が細胞外に分泌されるようなベクター(pAdeno-X-signal seq-A_43) を開発した。次に実際にA_が細胞外に分泌される事を確認するため、APP signal sequence+ A_43 cDNAを発現ベクターに組み込み、CHO細胞へ導入した。48時間後に培養上清とcell lysateを抽出し、SDS-PAGE gelに泳動した。A_ペプチドがoligomerを形成しながら細胞外に分泌されることをwestern blotにて確認した。細胞内ではA_ペプチドモノマー4kDaの蛋白が認められた。
C57BL/6Jマウスにウイルス粒子を経口投与し、経時的に採血し血清中の抗A_抗体の産生を解析した。血清中の抗体価は、主として経口投与後4週間でピークを示し、調べ得た範囲では、5ヶ月後まで抗体の産生を認めた。次にマウスの血清がA_凝集反応を阻害するか検討した。A_凝集塊に125I- A_1-40を加えた時の値を100%とすると、マウス血清は、コントロールのマウス血清と比べ有意に125I- A_1-40の凝集・結合を阻害した。
アデノウイルスが他の臓器、脾臓、肝臓、腎臓などには感染していないことを確認するため、アデノウイルスを投与したマウスより心、肺、脾臓、肝臓、上部消化管、腎臓を摘出し、各組織よりRNAを精製し、RT-PCRにより解析した。目的のバンドが上部消化管にのみ認められた。
腸管に免疫した場合には、細胞性免疫を惹起しにくい現象が報告されている。そこでアデノウイルスを投与したマウス脾細胞を分離しin vitroにおいてA_42ペプチドに対する細胞増殖反応を解析した。アデノウイルスを投与したマウスの脾細胞は、A_42ペプチドの濃度に関係なく、細胞増殖反応は低応答であった。
A_発現アデノウイルス粒子を経口投与したマウスにおいて、1ヶ月後の上部消化管上皮細胞にA_蛋白の発現を認めた。経口投与5ヶ月後にもA_蛋白の発現を認めた。さらに同組織切片をcongo red染色し、A_の沈着を認めた。
他の臓器に炎症反応が起こっていないか、各臓器の組織を検索したが、最も炎症が起こりやすいと考えられる脳および腎臓を含め、諸臓器に炎症所見は認められなかった。
我々は、アデノウイルスベクターを用いたアルツハイマー病に対する経口内服治療法の開発を行った。アデノウイルスベクターの経口投与の利点としては、1回の投与により、比較的長期 (約6ヶ月間) に腸管において抗原提示ができ、しかも胃液などにより分解されにくく、腸管上皮細胞に感染後はレトロウイルスのように染色体に組み込まれないため、細胞内でウイルスは自己増殖せず、腸管細胞の新陳代謝による脱落によりアデノウイルスも死滅し安全である。他の臓器への拡散・感染も無い。細胞性免疫は惹起せず抗体産生のみ誘導するなどが挙げられる。
欧米においてはElan社によるA_ワクチン療法の臨床試験が行われているが、最近の報告では、脳炎様の副作用が報告され一時中断されている。Elan社からの報告が発表されていないため詳細は不明だが、2-3人の患者からは単純ヘルペスウイルスが検出されたらしい。単純ヘルペスウイルスは、若年者では中枢神経系の潜伏感染が少ないが、高齢者では比較的多いとされている。脳炎が起こった理由として、老人斑に対する免疫反応により潜伏していた単純ヘルペスウイルスが活性化され、ウイルスが増殖した可能性が論議されている。それに対処する方法としては、acyclovirなどの抗ウイルス剤の併用も考えられている。
我々が開発したアデノウイルスベクターを用いたワクチン療法は、細胞性免疫を惹起せず液性免疫(抗体)のみを誘導する利点があり、脳炎などの副作用も軽減できると考えられる。
結論
我々のアデノウイルスベクターを用いた経口投与による免疫学的治療法の開発は、独創的であり将来有効な遺伝子治療の1つとして期待される。
アデノウイルスベクターの経口投与の利点としては、1回の投与で比較的長期 (約6ヶ月間) に腸管において抗原提示ができ、しかも胃液などにより分解されにくく、腸管上皮細胞に感染後はレトロウイルスのように染色体に組み込まれないため、細胞内でウイルスは自己増殖せず、腸管細胞の新陳代謝による脱落によりアデノウイルスも死滅し安全である。他の臓器への拡散・感染も無い。細胞性免疫は惹起せず抗体産生のみ誘導するなどが挙げられる。

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