肝がんに対する肝移植の有効性とその適応基準の確立に関する研究

文献情報

文献番号
200100549A
報告書区分
総括
研究課題名
肝がんに対する肝移植の有効性とその適応基準の確立に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
川崎 誠治(順天堂大学医学部第二外科)
研究分担者(所属機関)
  • 田中紘一(京都大学移植免疫医学講座)
  • 清澤研道(信州大学医学部第二内科)
  • 門田守人(大阪大学大学院医学系研究科病態制御外科)
  • 菅原寧彦(東京大学肝胆膵外科、人工臓器移植外科)
  • 古川博之(北海道大学大学院医学研究科置換外科・再生医学講座)
  • 田中榮司(信州大学医学部内科二)
  • 橋倉泰彦(信州大学医学部第一外科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 21世紀型医療開拓推進研究(がん研究分野)
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
17,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、従来の治療法では救命し得なかった肝がん症例のなかで、肝移植(特に生体肝移植)という治療の適否を客観的に評価する基準を確立することを目的とするものである。肝がんに対する肝移植の最大の問題点は、術後における肝がん再発による生存率の低下である。欧米の肝がん症例に対する脳死肝移植の適応としては、移植後の再発率が低いと考えられるミラノ基準(<3cm以下なら3個まで、<5cm以下なら単発)が一般的に受け入れられているが、ドナーとレシピエントの関係が限定される生体肝移植では、独自の適応基準が必要と考えられる。(1)各班員の施設における肝がんに対する生体肝移植実施例の術後再発率、生存率を確認し、再発症例の術前因子で再発に関与するものを検索する。(2)肝移植後の肝がん再発を規定する最重要因子は、「肝移植前および術中における流血中肝がん細胞の存在である。」という仮説にもとづいて、流血中の肝がん細胞の指標となり得る末梢血中 AFP mRNAを一部症例で測定し、これと再発の関係をみる。(3)肝がん症例の大半に合併するB型・C型肝炎の移植後の予防、再発、治療につき検討する。(4)移植までの架橋治療としての肝がんに対するラジオ波焼灼療法を検討する。
研究方法
(1)生体肝移植実施例の再発率・生存率(田中、門田、古川、橋倉、川崎)
京都大学68例、大阪大学8例、北海道大学16例、信州大学15例の肝がんに対する生体肝移植を検討した。
(2)骨髄中・末梢血中 AFP mRNA
生体肝移植8例(門田)で末梢血中 AFP mRNA、16例(古川)で骨髄中AFP mRNAを測定した。また、肝がんに対する肝切除例56例で術前に骨髄中AFP mRNAを測定し、予後との関係をみた(古川)。
(3)B型・C型肝炎肝硬変に対する生体肝移植(菅原)
B型肝炎肝硬変症の生体肝移植実施例23例:術前にlamivudineを投与し、術後はHBVDNAの陰転が確認されている症例では免疫グロブリン(HBIG)のみで管理し術後1年はHBs抗体価が1000 IU/L以上それ以後は200 IU/L程度になるようHBIGを投与した。
C型肝炎肝硬変症の生体肝移植実施例31例:術後約1か月から肝炎再発予防を目的として、Interferon alpha2b(300-600万単位週3回)とRibavirin (400-600 mg/日)の併用療法を行った。
(4)肝がんに対するラジオ波焼灼療法(清澤)
以下の条件の肝がん症例(97名107結節)にラジオ波焼灼療法を施行した。1) 腫瘍径3 cm以下、個数3個以内。2) 血小板数5万以上、PT40%以上。3) 穿刺経路に問題ない症例。 4) 腹水のない症例。5) 重篤な合併症のない症例。
(倫理面への配慮)
本研究における臨床例での検討では、基本的に従来の手法と照らし合わせて倫理性に問題のあるものは含まれていないと考えられるが、それぞれの検討において患者に充分な説明の後に同意書に署名を得た上で施行した。
結果と考察
(1)京都大学では、3年患者生存率56%、肝がん再発は8例、3年再発率22%であった。大阪大学では、8例全例が無再発生存中であった。北海道大学では、16例中11例が生存中で、死亡例5例のうち1例が再発死であった。信州大学では、15例中3例に再発を認め、1年生存率78%、5年生存率65%と他疾患に対する成績(1年88%、5年84%)と比較し不良であった。従来の臨床病理学的因子で再発と関連するものは、組織学的腫瘍分化度、脈管浸潤の有無があげられた(田中)が、術前に再発を判定し得る因子は認められなかった。ミラノ基準に合致した症例では、再発率が低率であることが確認されたが、ミラノ基準を越えて進行していた症例では、再発が22例中6例(田中)、5例中0例(門田)、11例中1例(古川)であり、ミラノ基準を逸脱した症例でも無再発生存する症例が相当数認められ、少なくとも生体肝移植に関しては、ミラノ基準を厳格に適応基準とするのは妥当ではないと考えられた。
(2)8例中末梢血中 AFP mRNAが陽性であったものが1例存在したが、この1例を含めて再発を認めなかった。骨髄中 AFP mRNAを測定した生体肝移植16例中陽性は1例でこの例は術後10か月で再発死亡した。他の例は骨髄中 AFP mRNA陰性であり再発を認めなかった。肝切除56例のうち骨髄中 AFP mRNAが陽性であったものは22例であり、これら22例の肝切除後の再発率は54%と、陰性例の27%と比較し有意に高値であった。
以上より、骨髄中・末梢血中 AFP mRNAの測定が、同部位の肝がん細胞の存在の有無を評価することにつながり、生体肝移植後の肝がん再発の予測因子になり得る可能性が示唆された。
(3)B型肝炎肝硬変症例では、平均観察期間20か月で肝炎の再発は1例も認めなかった。1例のみ術後8か月で肝がんの再発で死亡した。この良好な成績の要因として、生体肝移植は脳死肝移植と異なり予定手術として施行されるためにB型肝炎再感染予防対策として移植前にlamivudineを適切な期間投与でき、変異株出現のリスクの低下、HBVDNAの高率の陰性化につながるものと考えられる。C型肝炎肝硬変症例(平均観察期間22か月)は、31例中30例が軽快退院した。術後1年以上経過の15例中8例では併用療法により血清中HCVRNAは陰性化し併用療法の有用性が確認された。
(4)平均腫瘍径は22.7 mm、平均治療セッション数1.2回、平均必要入院日数6.3日であった。合併症は、1例(1%)に皮膚熱傷を認めたのみで重篤なものはなかった。術後平均観察期間は12.6か月でラジオ波焼灼療法後の局所再発率は3%と良好な成績であり、肝移植への架橋治療になりうることが示唆された。
結論
ミラノ基準よりも進行した肝がん症例の中にも生体肝移植の良い適応と考えられる症例が存在した。骨髄中あるいは末梢血中 AFP mRNA測定は移植後肝がん再発予知の指標となり得る可能性が示唆された。

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