糖尿病とその合併症の治療・予防についての最適ストラテジーの探索とそのデータベース化(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100522A
報告書区分
総括
研究課題名
糖尿病とその合併症の治療・予防についての最適ストラテジーの探索とそのデータベース化(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
野田 光彦(朝日生命糖尿病研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 折笠秀樹(富山医科薬科大学)
  • 佐々木敏(国立がんセンター研究所)
  • 島田 朗(慶応義塾大学医学部)
  • 松島雅人(東京慈恵会医科大学)
  • 大原 毅(神戸大学大学院)
  • 杉本俊郎(滋賀医科大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 21世紀型医療開拓推進研究(EBM研究分野)
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
糖尿病はその患者数が現在40歳以上の10人に一人以上を占めると推定され、細小血管症を引き起こし、また虚血性心疾患や脳卒中(大血管合併症)の危険を増大する生活習慣病の大きなテーマである。一方で、昨今の医療技術の進歩や医療ニーズの多様化に効率的に対応するためには、"根拠に基づいた医療"(EBM)を実践することが重要であり、この点は糖尿病の領域も例にもれない。
糖尿病は、成因論的には1型から2型まで、病期としては一次予防の段階から種々の合併症を併発した時期まで、治療手段としては食事療法単独からインスリン療法まで、病態的にも昏睡を生ずる急性期から進行した慢性期まで、年齢層的にも小児・青年層から高齢者まで、また妊娠中の患者と、非常に広範なスペクトラムを含む疾患である。従って、糖尿病の臨床現場で対応すべき状況や設問も多岐にわたる。
このような多様性は、一方で糖尿病の領域における大規模研究によるエビデンスの集積を困難にしており、さらに糖尿病の治療には容易に変容しうる食事など生活習慣が絡んでくることから、種々の臨床研究の施行は他疾患に比べ容易でなく、患者数の多さにもかかわらず糖尿病に関するエビデンスは豊富とはいえない。したがって現時点で、定量性をもって明確に答えられている設問が、必ずしも多いとはいえない。
本研究では以上のような状況に鑑み、糖尿病臨床における種々の設問にシステマティック・レビューの手法を用いて最善の解答を与えることを目的とする。
研究方法
本研究では、現時点で解答が明確でない設問に対し、入手しうる限りの文献情報(Medlineや医学中央雑誌など)に当ることにより、糖尿病臨床における種々の設問にシステマティック・レビューの手法を用いて最善の解答を与える。レビューの手法としてはメタアナリシスを中心とし、これが困難な場合は記述的なレビューを行う。また、エビデンスの乏しい分野についてはそれを明らかにし、今後の研究の方向性を呈示することをも目的とする。
得られた結果は論文として公表し、また最終的にデータベース化して出版物、インターネット等を介して公表する。
年次計画
平成13年度:設問(研究テーマ)の立案・設定、文献蒐集、分析の開始
平成14年度:分析の継続、一部のテーマでは完了
平成15年度:分析の終了・論文化、データベースの完成と公表
結果と考察
昨年度は、当初からの研究計画に基づき、本研究班によるレビューの方針を決定し、候補課題を持ち寄り、文献蒐集を行い、研究課題(研究テーマ)として適切であるかどうかを2度の班会議により検討した。その結果以下のテーマを課題として設定し、分析を開始した。
まず、扱うテーマは以下の条件を満たすものとした。
1)糖尿病を専門とする医師が臨床の場において遭遇し、高い関心を現在もっているテーマであること。血糖のコントロールと細小血管症との関係など、すでにほぼ結論が得られており、種々のガイドライン等に盛り込まれている事項については研究対象としない。
2)システマティック・レビューを行うにたる十分な数の臨床研究がなされていること。
3)ここ2~3年以内に同種のシステマティック・レビューが行われていないこと。
その結果、下記の12テーマを研究課題として選択した。
1)1型糖尿病の有効な予防法についてのシステマティックな検討
2)緩徐進行型1型糖尿病の適切な治療法のシステマティックな検討―抗GAD抗体陽性者の取り扱い
3)糖尿病食事療法における食物繊維の意義
4)糖尿病食事療法におけるGlycemic Indexの意義
5)糖尿病食事療法における多価不飽和脂肪酸の意義
6)糖尿病食事療法におけるエイコサペンタエン酸・ドコサヘキサエン酸の意義
7)就眠前インスリン療法のスルホニル尿素薬二次無効例に対する有効性
8)経口血糖降下薬の併用による効果の評価
9)顕性腎症に対する蛋白制限療法の有効性
10)アルドース還元酵素阻害薬の糖尿病神経障害に対する有効性
11)糖尿病足病変の二次予防に対する教育の有効姓
12)低用量アスピリン療法の、とくに日本人糖尿病患者の脳卒中における有効性
上記のうち多くの課題について、文献蒐集を開始し、一部の課題については分析に入っている。これらを以下に示す。
4) 糖尿病食事療法におけるGlycemic Index(GI)の意義
中・長期(長期:2ヵ月以上)のGI値と血糖コントロールとの関係については、検索の結果、GI値について記載がある文献として全体で15文献が該当した。このうち(1)高GI群、低GI群におけるGI値の差が大きい(中期で20%、長期で10%以上)こと、(2)食物線維についてのデータがあり、その差が小さい(~25%以下)こと、(3)適切な血糖コントロールの指標が選ばれていること、の3条件満たす文献として6文献がピックアップされた。これら6文献からは、低GI食によって血糖コントロールの改善が可能であると結論づけられた。これらの検討はいずれも欧米からのものであり、今後わが国での検討が必要であろう。
7) 就眠前インスリン療法のスルホニル尿素薬二次無効例に対する有効性
Bedtime insulin limited to (Randomized controlled trial)の検索式により、5文献が得られた。
8) 経口血糖降下薬の併用による効果の評価
SU(sulfonylurea)+ピオグリタゾン:1文献
SU+ビグアナイド:4文献
SU+αGI(glucosidase inhibitor): 8文献
ナテグリニド+ビグアナイド:2文献
の文献が見いだされた。
9) 顕性腎症に対する蛋白制限療法の有効性
diabetic nephropathies[MESH] をkey wordし、(diabetic nephropathies[MESH]) AND ((double [WORD] AND blind* [WORD]) OR placebo [WORD]) Clinical Queriesを用いての検索、diabetic nephropathies [MESH]limits Human, Clinical study)や、NEJM, Lancet等の雑誌のHome Pageの検索機能を用い論文を検索した。またこれらの論文や過去5年の糖尿病、腎臓病関係の総説(英語、日本語も含む)に引用されている論文もHand Searchし、2型糖尿病患者の糖尿病性腎症に関するcohort studyやrandomized controlled trial (RCT)の論文を選択し(平成14年3月末現在)、EBMの手法を用いて、批判的吟味を行った。
10)アルドース還元酵素阻害薬の糖尿病神経障害に対する有効性
1996年以降systematic reviewは行われていないが、その後のRCTを検索したところ、MEDLINEで9件、国内で1件(1998年のもの)が見つかった。藤沢の開発品が開発中止、三和化学のものが現在やり直し試験計画中であり、これらのunpublished reportsについてもpublication biasをよく考えてreviewする必要があると思われる。
以上のように、当初の検索で確認された文献数と実際の検討段階で対象に含めうる文献数がかなり異なる(実際に検討対象にしうる文献数が減少する)場合もあるが、おおよその課題においてレビューするにたる文献数が得られており、一部課題でシステマティックなレビューをを行っている。
結論
以上のように本研究では、研究課題であるテーマについて検討し、これを確定するとともに、文献蒐集を行った。また、一部の課題について実際にシステマティックに検討を行っている。このように、本研究では、本年度の研究計画を予定通り終了した。

公開日・更新日

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