EBMを支えるリサーチライブラリアン養成についての調査研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100516A
報告書区分
総括
研究課題名
EBMを支えるリサーチライブラリアン養成についての調査研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
緒方 裕光(国立公衆衛生院放射線衛生学部)
研究分担者(所属機関)
  • 津谷喜一郎(東京大学大学院)
  • 野添篤毅(愛知淑徳大学)
  • 磯野威(国立公衆衛生院附属図書館)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 21世紀型医療開拓推進研究(EBM研究分野)
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
-
研究費
12,440,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ここ数年わが国の医療現場において、科学的根拠に基づく医療(EBM)に対する関心とニーズが高まってきている。しかし、わが国においては、システマティックレビューの方法論や教育が不十分であるために、EBMの根幹ともいうべき情報基盤を支えるリサーチライブラリアンの育成がなされていないという問題がある。そのため、情報基盤を整備し活用を促すものとして、「リサーチライブラリアン」の養成は緊急の課題であるといえる。ここでいう「リサーチライブラリアン」とは、図書館員のみならず、医学データベース作成者、雑誌編集者などEBMに関わる広い領域の情報関係者を含む。
本研究は、先行研究である平成10年度厚生科学特別研究「リサーチライブラリアン養成についての調査研究」(以下、平成10年度研究)を引き継ぐものであり、広くEBMに関わる情報関係者のための教育プログラムの開発と実際の人材養成を目的とする。3年計画の第1年度は、平成10年度研究において開発された教育プログラムの改良と実際の使用に重点をおいて実施された。第2年度においては、平成10年度研究の成果として出版されたテキスト「EBMのための情報戦略」(監修:中嶋宏、編集:津谷喜一郎、山崎茂明、坂巻弘之、出版:中外医学社)を利用し、その効果を確認するとともに、新たな取り組みとして、エビデンスを「つたえる」立場にある医学雑誌の編集者を対象としたワークショップを実施した。さらに、今年度においては、これまでの成果をふまえて、教育プログラム、教材等を改定し、EBMの情報基盤に関わる、より広範な人材の育成を目的として、東京(対象者:医学雑誌編集者)および福岡(対象者:リサーチライブラリアン)でそれぞれワークショップを実施した。
研究方法
主任研究者は、EBMを支えるリサーチライブラリアン養成についての調査研究(総括)を、分担研究者は、研究デザイン教育とハンドサーチの方法論に関する研究、リサーチライブラリアン養成プログラム・教材の効果測定に関する研究をそれぞれ担当した。
本年度研究は、次に挙げる2つのワークショップを実施し、その参加者に対するアンケート調査をもとにそれぞれのワークショップおよび教材の有効性を評価した。
1)第2回EBM時代の医学メディアのあり方ワークショップ
平成13年11月6日(火)に国立公衆衛生院で開催した。トレイニーとして医学雑誌編集者を中心とする32名、トレイナーとして9名、準備のための研究協力者・スタッフが9名、合計50名が参加した。
本プログラムは、医学雑誌の編集者を対象としたワークショップとして、通常のリサーチライブラリアン・ワークショップ、および前年度に行われた医学メディア対象の第1回ワークショップの教育プログラムに修正を加えるかたちで今回新たに開発された。教材は同様に前述の「EBMのための情報戦略」を主とし、それを補足するものとして当日の講演内容(Power Pointのプリントアウト)をまとめたファイル1冊、他に参考書として「わかりやすいEBM講座」を用い、時間配分もそれぞれの理解がより進むように調整した。
2)第4回EBMリサーチライブラリアン・ワークショップ
平成14年1月22日(火)、23日(水)の2日間にわたり九州大学附属図書館で開催した。トレイニーとして大学・病院の図書館関係者を中心とする20名、トレイナーとして10名、準備のための研究協力者・スタッフ4名、合計34名が参加した。前年度の教育プログラムを改良し、教材は前述の「EBMのための情報戦略」を主とし、それを補足するものとして当日の講演内容(Power Pointのプリントアウト)をまとめたファイル1冊、他に参考書として「わかりやすいEBM講座」を用い、時間配分もそれぞれの理解がより進むように調整した。
結果と考察
各ワークショップ参加者を対象に、EBMに関する基礎知識やワークショップに対する評価を問うアンケート調査を実施した。
1)第2回EBM時代の医学メディアのあり方ワークショップ
アンケート調査は、事前アンケート事後アンケートともに参加32名中最大18名が回答した。本アンケートにより、ワークショップの開催形式、プログラム内容、教材などの評価、業務に役立つ点、理解できた点、今後の要望など多岐にわたる事項を調査した。
今回のワークショップは前回の経験を踏まえて、開催を半日間とし、また最後にフリーディスカッションの時間を設けた。開催形式の評価については概ね良好であった。
アンケート結果からうかがえる主な評価は、概略以下のとおりであった。
① プログラムおよび内容について
プログラム全体への評価は良好であったが、時間配分や、休憩時間などについては改善の余地があると思われる。また、質疑応答、実習、フリーディスカッションなどの時間に余裕を持たせるためには、半日の時間では時間不足であったとも考えられる。各セッションの内容については、参加者の日常業務との関係もあり、身近な問題として捉えられるテーマについては理解しやすかったようである。また、業務として担当する雑誌が商業誌の場合と学術誌の場合とでは、参加者の問題意識に少なからずギャップがあることがうかがわれた。
② 教材について
教材の内容については全般的に評価は高かった。見やすい図の作成、バインダーの形式、パソコンの使用、といったハード面の問題については今後の課題である。
③ 本ワークショップの効果および今後の要望について
本ワークショップの業務への有用性については、回答者全員(15名)が「役に立つ」と回答した。とくに、文献または情報の効率的検索、編集方針やEBMに関する理解、などの点において有用であるという意見が多かった。また、次回ワークショップに対して期待している参加者も多かった。さらに、EBMをテーマとした医学雑誌編集者と医師(研究者)との議論やより具体的な方法論などが今後のテーマになり得ることが示唆された。
2)第4回EBMリサーチライブラリアン・ワークショップ
アンケート調査は、事前アンケート事後アンケートともに参加20名中最大12名が回答した。本アンケートにより、上記と同様に、ワークショップの開催形式、プログラム内容、教材などの評価、業務に役立つ点、理解できた点、今後の要望などを調査した。
アンケート調査の結果を前年度ワークショップと比較すると、概ね良好な結果が得られた。また、リサーチライブラリアンについては今回が4回目のワークショップであり、内容、教材のいずれも充実度が増したものと思われる。その他特に注目される点は以下のとおりである。
① プログラム、内容について
一部、内容が豊富なため時間が短いと感じられたセッションもあったようだが、全体として、「分かりやすくよく理解できた」という意見が多かった。
② 教材について
今回のようなテキストの形態(PowerPointスライドのアウトプットをまとめたファイル、および出版物)は、前々回の受講者からの希望を取り入れたものであり、前回のワークショップから利用している。これについては全般に評価が高かった。
③ 本ワークショップの効果および今後の要望について
本ワークショップが今後の業務に役立つ点として、EBMに対する全体的な理解ができたこと、問題意識が持てたこと、などが挙げられた。さらに将来的なテーマとして、参加対象者の拡大、より系統的なカリキュラムの開発、などが考えられる。
結論
本研究の各ワークショップにて教育を受けたリサーチライブラリアンは、大学・病院等図書館員として、データベース作成者として、構造化抄録の推進者として、EBMの実践のための情報基盤作成に対する貢献が期待される。また、ワークショップを通じて医学メディア関係の編集者のEBMに対する認識を高め、今後は構造化抄録やEBMを指向した編集方針などが普及していくものと思われる。
本年度までに使用した教材とワークショップ内容に対する参加者の意見を通じて、今後は、より質の高い教育プログラムと教材開発が期待される。

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