わが国における看護共通言語体系構築に関する研究

文献情報

文献番号
200100512A
報告書区分
総括
研究課題名
わが国における看護共通言語体系構築に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
上鶴 重美(国立看護大学校)
研究分担者(所属機関)
  • 岡谷恵子(日本看護協会)
  • 飯村直子(日本赤十字看護大学)
  • 宇都由美子(鹿児島大学医学部保健学科)
  • 太田喜久子(慶応義塾大学看護医療学部)
  • 数間恵子(東京大学大学院)
  • 松木光子(日本赤十字北海道看護大学)
  • 柳田征宏(日本看護協会)
  • 輪湖史子(日本看護協会)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 21世紀型医療開拓推進研究(EBM研究分野)
研究開始年度
-
研究終了予定年度
-
研究費
12,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
国際看護師協会では世界規模の看護用語分類に1991年より取り組み、看護実践国際分類(ICNP)ベータバージョンを1999年に出版した。この開発段階で日本からのインプットはなく、現状のICNPが日本の看護実践全てを表現するとは考えにくい。岡谷らは平成12年度厚生科学研究補助金を受け「わが国における看護実践国際分類(ICNP)の妥当性と普及に関する研究」を行った。その結果ICNPは様々なシステムや他の用語体系との共存が可能で、わが国の看護の共通言語体系の構築に大きく貢献するとしている。医療分野の情報化が進む中、根拠に基づく看護(EBN)を推進する前提として、看護用語の標準化・コード化は不可欠である。わが国にとってICNPを足がかりに看護共通言語体系構築を試みることは有効な方策のひとつである。ICNPベータバージョンは約2500語の分類であり、岡谷らの研究で翻訳が一応終了した。ICNPをさらに検討・修正・洗練することで、わが国独自の看護用語を明らかにできると同時に、看護用語の標準化を推進し国際的な看護用語の標準化にも貢献できる。本研究の目的は以下のとおり:(1)ICNPベータバージョンの訳語の妥当性を検討し修正する、(2)ICNPの用語の妥当性を検討し追加すべき日本語を明らかにする、(3)ICNPの構造・用語の位置付けの妥当性を検討する、(4)ICNへのフィードバックに向けて準備する、(5)ICNP用語の同義語リストを作成する、(6)ICNPの妥当性検討を進めるプログラム(以下、検討支援システム)を開発する、(7)検討支援システムをwebに載せ、インターネットを活用した全国規模の検討を行う準備をする、(8)看護記録を電子化する際のICNP活用の可能性を検討する、(9)ICNPに関する国際的な動向をさぐる。
研究方法
(1)から(5)妥当性の検討。訳の妥当性、位置付けの妥当性、同義語の提案、ICNPに含むべき日本語とその位置付けを検討すべく、基礎、成人、老年、精神、母性、小児、地域在宅看護の7領域から臨床と教育のエキスパート28名対象の検討会を開催した。本年度は現象「A軸・看護実践の焦点」と「B軸・判断」、行為の「A軸・行為のタイプ」と「B軸・行為の標的」を検討対象とした。(6)から(8)検討支援システム開発。日本語版ICNPベータバージョンをデータベース化しICNP検討支援システムを開発。ICNP関連情報を定期的に発信するICNPオープンサイトを作成し検討支援システムをWebで公開。ICNP用語に関する意見を全国規模で集める方法を検討。目的の(9)各国の取り組み。国際会議(ICN大会)に参加して情報収集。年間を通じての文献調査より、各国のICNPに対する取り組みを調査。
結果と考察
(1)訳の妥当性。現象A軸では全685語中の95語(13.9%)に提案があり74語を修正した。現象B軸・判断では全343語中の58語(16.9%)に提案があり38語を修正した。行為A軸・行為のタイプでは全170語中の44語(25.9%)に提案があり23語を修正した。看護行為B軸・行為の標的では全552語中の83語(15%)に提案があり63語を修正した。ICNP用語がより実践的に表現されるよう、今後も多くの看護者からの意見を取り入れて修正を継続的に行う必要がある。軸名も修正した。現象H軸は「担い手」を「該当者」に変更し、行為B軸は「行為の焦点」を「標的」と変更した。(2)位置付けの妥当性。不適切との指摘のあったのは、現象A軸・看護実践の焦点で3箇所、行為A軸・行為のタイプで4箇所であった。(3)ICNPに含むべき日本語。追加すべき用語として現象A軸・看護実践の焦点で99
語、行為A軸・行為のタイプで22語、行為B軸・標的67語、計188語の提案があった。ICNPに追加すべき用語があったことで、現状では日本の看護を完全には反映しえないことが裏付けされた。ICNPは開発途上にあり、日本からも積極的に提案することが国際的看護用語体系の構築にとっても意義がある。(4)ICNへのフィードバック。ICNPに追加すべきとして明らかになった188語は、評価委員会で追加を検討してもらえるように定義を付けて提出予定。(5)同義語リスト。現象A軸・看護実践の焦点では全685語中115語(16.8%)に同義語が提案された。現象B軸・判断では全343語中18語(5.2%)に提案があった。行為A軸・行為のタイプでは全170語中45語(26.5%)に提案があった。行為B軸・行為の標的では全552語中70語(12.7%)に提案があった。用語によっては領域毎に異なる表現を使う可能性があり、看護用語統一の難しさを痛感する。ICNPを国内で普及・活用するためには同義語(シソーラス)リストを充実させ、既存の用語とICNP用語の照合が容易にできるシステムの開発が必要になる。(7)検討支援システムの開発。ICNP用語は2500以上あり翻訳修正が大幅に遅れた。それに伴いICNPのデータベース化が遅れ検討支援システム開発も遅れてしまった。支援システムを活用することで、より多くの看護職者からの意見を収集することができると同時に、同義語リストの作成も加速できると考えられる。(8)電子カルテとICNP。標準化・コード化された用語としてのICNPへの関心が高まっている。国内での実用化に向けた検討が今後必要である。(9)各国の取り組み。各国において様々な取り組みが展開されている。これまでの成果に基づき2001年末にICNPベータバージョン第2版が出版されている。今後は2005年にICNP第1版の出版が予定されている。第1版に日本の意見が盛り込まれるよう、タイムリーに提言してゆく必要がある。
結論
医療における情報化、特に電子カルテの普及が急速に進んでいる。看護の情報だけが電子化から取り残されることがないよう、わが国でも看護用語の標準化・コード化を早急に進める必要がある。しかし、国内での取り組みはようやく始まったばかりである。国際的な看護用語の標準化を目指すICNPをこの時期に活用することは、わが国における看護共通言語体系構築への近道だが、発展途上というICNPの特徴を理解した上での活用が不可欠である。臨床では、特に電子カルテの中ではICNPをどのように活用してゆけばよいのか。看護情報を電子化する際に求められる枠組みを明らかにしつつ、ICNPの具体的活用方法を検討する必要がある。また、わが国の現状では、看護用語の標準化・コード化の必要性が充分に理解されているとはいいがたく、ICNPの普及と併せて教育方法の開発も必要である。

公開日・更新日

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