文献情報
文献番号
200100507A
報告書区分
総括
研究課題名
EBMを指向した「診療ガイドライン」と医学データベースに利用される「構造化抄録」作成の方法論の開発とそれらの受容性に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
中山 健夫(京都大学大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
- 津谷喜一郎(東京大学大学院薬学研究科)
- 福井次矢(京都大学大学院医学研究科)
- 木内貴弘(東京大学付属病院)
- 山崎茂明(愛知淑徳大学)
- 野村英樹(金沢大学医学部)
- 稲葉一人(シビルプロネット関西)
- 平位信子(医学中央雑誌刊行会)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 21世紀型医療開拓推進研究(EBM研究分野)
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本課題の目的は次の2点である。(1)診療ガイドライン」作成に資する医学文献の形として「構造化抄録」に注目し、その普及を通じてEBMプロセスの効率化を目指す。(2)わが国における「診療ガイドライン」の意義と課題を医学内だけではなく社会的な広がりの中でとらえ、適切な位置付けを提言する。良質な「診療ガイドライン」が各領域で整備されることへの社会的期待は大きい。「診療ガイドライン」が適切に機能するには、その策定過程と実際の利用法に注目する必要がある。海外文献はPubMedやThe Cochrane Libraryにより比較的効率よく入手できる。その背景にはエビデンス・レベルの高い患者志向の研究が広く行われていることもあるが、データベース内の適切な見出し語、MeSHやPublication typeが付与されてEBM志向の検索に対応していることも大きい。このシステムを効率化する一法として国際的に注目されているのが「構造化抄録」である。国内でも徐々に普及しつつあるが、必要にして十分な情報を含む「構造化抄録」の在り方は十分検討されていない。EBMの実践に役立ち、「診療ガイドライン」策定に際して文献へのアクセスビリティを高めるには今日的なニードを反映させた「構造化抄録」の普及が望まれる。公表された「診療ガイドライン」は、医師だけの手にあるものではなく、社会との接点でもある。今後「診療ガイドライン」を意思決定の基準と考える医療消費者は増えようし、従来以上に広い領域で医療訴訟の判断の拠り所と見なされるであろう。しかし「診療ガイドライン」の持つ不確実な部分やその限界、拘束力の妥当性についての認識が医療者間だけでなく、非医療者との間でも共有されていなければ今後大きな社会的齟齬を生じる懸念がある。「診療ガイドライン」策定と併せて、より広い社会的な議論に備えこれらの課題を整理することは急務である。本研究により期待される効果は次の通りである。(1)「構造化抄録」作成の教育プログラムが開発され、「構造化抄録」作成のための具体的方法が示される。(2)「構造化抄録」の普及により、「構造化抄録」を用いたより質の高い「診療ガイドライン」やデータベースの作成に貢献できる。(3) 研究者・編集者において患者志向の研究に適した研究デザインはじめEBMの意義がより広く認知される。(4)「診療ガイドライン」を介して医療者と非医療者のコミュニケーションを深める基盤ができる。
研究方法
平成13年度は構造化抄録関連課題について次の作業を行なった。PubMedと文献管理ソフト(ProCite)を用いて文献計量学的手法により、非英語圏からランダム化比較試験が構造化抄録で報告されている割合を検討した。またISI社のJournal of Citations Reports(2000年版)を参照して一般臨床医学領域のインパクト・ファクター上位10誌の構造化抄録採用状況を調べた。構造化抄録の意義を明確化する資料として2001年に改定された医学雑誌編集者国際委員会の「生物医学雑誌への投稿のための統一規程」とCONSORT声明に注目し、これらの翻訳を行なった。2年目に予定している「構造化抄録が論文の質・情報量などに与える影響の研究」については、改訂版CONSORT声明に準拠した論文評価法の標準化、複数の課題に対応するワーキンググループを発足させた。厚生科学研究で進行中の12疾患についてShaneyfelt
らの方法でそれらの質的評価を行なった。過去の判例をもとに医療水準、医師の裁量の視点から診療ガイドラインとEBMの意義について法的解釈を試みた。また医療者と医療消費者が診療ガイドラインをおいて向き合う状況を想定して社会人を主体とする大学院生対象のワークショップを行い、両者の視点の違い、予想される課題の検討を行なった。2002年3月には米国の国立医学図書館、Agency for Healthcare Research and Quality (AHRQ)、American College of Physicians (ACP)を訪問し、医学文献のindexing、診療ガイドラインのデータベース管理・運営、原著論文の情報から2次情報誌を編集する際の構造化抄録作成の過程について現状を把握した。
らの方法でそれらの質的評価を行なった。過去の判例をもとに医療水準、医師の裁量の視点から診療ガイドラインとEBMの意義について法的解釈を試みた。また医療者と医療消費者が診療ガイドラインをおいて向き合う状況を想定して社会人を主体とする大学院生対象のワークショップを行い、両者の視点の違い、予想される課題の検討を行なった。2002年3月には米国の国立医学図書館、Agency for Healthcare Research and Quality (AHRQ)、American College of Physicians (ACP)を訪問し、医学文献のindexing、診療ガイドラインのデータベース管理・運営、原著論文の情報から2次情報誌を編集する際の構造化抄録作成の過程について現状を把握した。
結果と考察
文献計量学的検討の結果、1987年から2001年にかけて全体に構造化抄録の採用は増加しているが、スペイン語45%、中国語24%、イタリア語21%に対して、日本語は3.5%と検討対象とした7カ国中で最低であり、最近3年間を対象としても10%に過ぎないことが示された。一般臨床医学領域の有力誌においてAltmanらの推奨する8項目パターン(原著論文対象)を採用しているのは3誌であり、そのバリエーションを採用しているのが4誌、旧来のIMRAD形式(導入・方法・結果・考察)が2誌、残りの1誌は構造化抄録を採用していないことが示された。構造化抄録・CONSORT声明を用いた文献調査に関しては、テーマ毎にワーキンググループを設置し、対象文献の選定を行なった。診療ガイドライン関連課題については、未熟児網膜症判決、乳房温存療法説明義務判決、裁量権議論を踏まえて法的視点からEBMの課題と診療ガイドラインの社会的意義の考察を行なった。国内で現在作成されつつある診療ガイドラインは、以前のものに比べてEBM的手法が取り入れられており、全体として改善傾向にある。米国視察では国立医学図書館、国際誌の構造化抄録作成の方法論、診療ガイドラインの社会的位置付けに関する調査は平成14年3月の米国視察によって所期の目的は概ね達成した。
結論
初年度は基本となる英文文献の翻訳・紹介、構造化抄録の採用実態調査、診療ガイドラインの法的検討、質的評価を中心に研究を進めた。構造化抄録は有力国際誌でもバリエーションが多く、必ずしも適切な形で採用されていない実態が明らかになった。非英語圏の国別の検討では、日本語文献の構造化割合が顕著に低く、この課題に対する国内の認識の不十分さが示された。現在、CONSORT声明を用いた定量的な文献評価法を開発中であり、構造化抄録の採用状況と併せて、2年目以降のランダム化比較試験報告の調査に展開させる。文献調査のモデルケースとしては3課題(麻酔科領域、日本人著者による和文・英文報告の質的差異、コクラン共同計画のシステマティック・レビュー過程における論文の内容評価への応用)に着手しているが、これに限らず広くEBM関連文献の評価に応用できるであろう。PubMedと文献管理ソフトの併用による文献計量学的手法は他の課題への応用も可能であり、複数の視点から医学文献における構造化抄録の実態調査を進めて行く。また米国視察によって得られた構造化抄録の作成指針に関する情報は、国内のランダム化比較試験に関する文献データベースの整備(JHESプロジェクト 責任者:津谷)への貢献が期待される。診療ガイドライン関連では、初年度に行われた医療水準、医師の裁量権の視点からの法的解釈の試みを土台として、より広範な事例について検討を進める。診療ガイドラインの質的評価について、Shaneyfeltらの方法の改善点を検討すると共に、EUを中心に進められている"AGREE Collaboration"の成果も今後取り入れていく。大学院生を対象としたワークショップで得られた医療者と非医療者の視点の違いから課題を整理し、さらに広く一般の医療消費者の期待や思いに接近する適切な方法(趣旨への理解が得られる患者団体との合同ワークショップなど)を検討する。
公開日・更新日
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