アルツハイマー病の診察・介護に関するガイドラインの作成(一般向け)

文献情報

文献番号
200100504A
報告書区分
総括
研究課題名
アルツハイマー病の診察・介護に関するガイドラインの作成(一般向け)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
本間 昭(東京都老人総合研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 田子久夫(福島県立医大)
  • 中野正剛(国立精神・神経センター武蔵病院)
  • 浦上克也(鳥取大学医学部)
  • 繁田雅弘(東京慈恵会医大)
  • 天野直二(信州大学医学部)
  • 長田久雄(都立保健科学大)
  • 太田喜久子(慶応義塾大看護医療学部)
  • 加瀬裕子(桜美林大経営政策学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 21世紀型医療開拓推進研究(EBM研究分野)
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
36,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
文献等既存の医療情報を整理、評価し、日本人の特性に配慮したEBMに準拠したアルツハイマー型痴呆(AD)の診断・治療・ケアに関するガイドラインを作成する。インターネットホームページを活用し、医療福祉従事者のみならず家族介護者も対象として知りたい情報を知りたい時にいつでも得られる双方向通信システムを含めたシステムを開発すること。
研究方法
既存の文献データベースを用いて、ADの診断、画像所見の利用、鑑別診断のための生物学的マーカーの利用、認知機能障害に対する薬物療法、認知機能障害以外の精神症状・行動障害に対する薬物療法、非薬物療法・アプローチ、ケア、ケア・マネジメントの8領域についてそれぞれ8名の分担研究者がリサーチクウェスチョンを設定し、それぞれのリサーチクウェスチョンに関する文献を検索するためのキーワードを用いて、文献の収集を行い、採用する文献を一定の基準に従って吟味し、abstract tableを作成し、リコメンデーションを含めたガイドラインを作成する。また、ホームページ上でこれらの情報を公開するためのコンテンツ項目案および構造案を作成する。
結果と考察
以下に8領域のガイドライン作成の進捗状況を示す。
1.診断基準の有用性・診察手順ガイドライン
Medlineよりdiagnostic criteriaをキーワードとして32496個の文献が抽出され、Alzheimer's diseaseを用いて2666編が選択された。国内では医学中央雑誌をデータベースとして同様に3772編から288編が対象とされた。妥当性、信頼性、臨床病理学的研究をキーワードとして絞り込んだ。
2.画像所見の解釈ガイドライン
リサーチクエスチョンを、(1)脳形態画像は診断精度向上に有用か(2) 脳萎縮の評価は診断精度向上に有用かについて検討した。キーワードにはCTとAD、MRIとADを設定し、それぞれ706、907件の文献が検出された。さらに得られた文献をRandomized Controlled Trial(RCT)、Clinical Trialや検査特性分析を行っている文献などのカテゴリーやで絞り込み、(1)に関して2件、(2)に関して12件の文献を採択した。結論として、(1)の問いには、頭蓋内占拠性病変、血管病変の存在を否定するために、単純CTおよびMRIは有用である。(2)の問いには、診断には有用であるが、補助的な位置づけとするべきであると考えた。また、海馬の容積測定は有用だが現時点では推奨できない。
3.生物学的指標の有用性・鑑別診断ガイドライン
Pub Medを用い、治療可能な痴呆では302件が該当し、その頻度は、多いもので10%以上、少ないものでは1%以下であった。内科疾患に伴う痴呆では79件が、非アルツハイマー型の神経変性疾患に伴う痴呆では60件が、脳外科疾患に伴う痴呆では489件が該当した。ADと診断マーカーというキーワードでは505件が該当した。ADを積極的に診断するための生物学的診断マーカーとしては、特にリン酸化タウ蛋白は、感度、特異度共に80%を越える結果を示しており、単独のマーカーとしては最も良いデータを示していた。より簡易なスクリーニング検査として、血液の診断マーカーに関する文献は136件とかなり減少し、さらに尿の診断マーカーに関する文献は5件と著減した。
4.認知機能障害に対する薬物療法ガイドライン
ADの認知障害に対して薬物療法が有効か否か、有効であればどういった薬物療法が有効であるかをresearch question(RQ)とした。PubMedを用い、Publication Type をRandomized Control Trialに、KeywordsをAlzheimerに設定して、476件が該当した。この中には、すでに設定した疑問点と直接関連しない論文が含まれているため、それらを除外する作業を行った。また、日本で厚労省が認可した薬剤および米国でFDAが認可した薬物については暫定的なabstract tableを作成した。Abstract tableの作成を開始した薬剤はdonepezi, galantamine, rivastigmine, tacrineである。
5.認知機能障害以外の精神症状・行動障害の治療ガイドライン
エビデンスに基づく薬物療法を検討した。今年度はagitationについての薬物療法を整理した。痴呆に伴うagitationにはリスペリドン等の非定型抗精神病薬の使用が有効であり、副作用が少ないことが明らかになった。今後、痴呆に伴う幻覚妄想、抑うつ状態等の薬物療法を検討する。
6.非薬物療法的アプローチガイドライン
本研究では、ADの非薬物的治療に焦点を当てて文献検索を行った。学術文献検索システムCINAHL、MEDLINE、psychLITを利用し、dementia, Alzheimer disease, non-pharmacological , reminiscence, memory rehabilitation, cognitive rehabilitation, reality orientation, animal therapy, music therapy, activityなどをキーワーズとして文献検索を行った。その結果、ADの非薬物療法に関する実証研究は必ずしも多くなかったが、現在、それらの研究成果を一定の基準に基づいて検討し、科学的根拠を有したガイドラインを作成中である。
7.ケアガイドライン
13年度はADへの看護に関する文献検索を行い,具体的にはADまたは痴呆性高齢者の実態把握と効果的ケアの試みをresearch questionとして看護文献の実情を捉えた.英文献と和文献から検討を行った結果,看護の文献では、ADという疾患名に限定すると文献数が少なくなるため、痴呆性高齢者を含める必要があった.また、看護の実情からケアの効果を把握していく必要があるため、文献の範囲も原著に限定せず幅広くとることにした.英文献と和文献の現状分析から、それぞれ文献数の多かったアクティビティに関する文献と行動障害に関する文献の検討を行った.
8.ケアマネジメントガイドライン
現在までの結果を整理し、今後の研究方向を明らかにすることを目的とした。Web-opac ではケア・マネジメントで63件(すべて和書)、アルツハイマーで93件(和書72、洋書21)、痴呆で243件(すべて和書)であった。マネジメントとアルツハイマーの組み合わせでは検索できなかった。Medlineを用いた検索ではalzheimer, care, case, management をキーワードで389編検索できた。また、ケア・マネジメントと家族の介護負担、社会的ケア費用削減の関連について明らかにした。ケア・マネジメントによる介護者の介護負担軽減と費用削減効果については、アメリカのディケアにおける大規模調査によるevidenceを明らかにする研究が進んでいることがわかった。また、EBMによるケア・マネジメントのガイドライン作成については、英米でいくつか行われており、North England evidence-based guideline を入手し、分析、およびリコメンデーションについては次年度の課題とした。
また、ADの診断・治療・ケアガイドラインに関するホームページの構成案およびコンテンツ項目案を作成し、URL はwww.alzheimer-dtc.comを取得した。
結論
ADの診断、画像所見の利用、鑑別診断のための生物学的マーカーの利用、認知機能障害に対する薬物療法、認知機能障害以外の精神症状・行動障害に対する薬物療法については十分な文献数を集積できた可能性があり、具体的なガイドラインの作成が期待できる。非薬物療法・アプローチ、ケア、ケア・マネジメントについては信頼性の高いエビデンスは乏しいが、少なくとも臨床的に有用と考えられる結果を示すことができる可能性がある。いずれにしても、ADに関する認識は一般を含めて必ずしも十分ではない現状を踏まえれば、ホームページ等の媒体を用いていかに啓発を進めていくかが最大の課題となろう。
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