科学的根拠に基づく乳がん診療ガイドライン作成に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100501A
報告書区分
総括
研究課題名
科学的根拠に基づく乳がん診療ガイドライン作成に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
高嶋 成光(国立病院四国がんセンター)
研究分担者(所属機関)
  • 池田正(慶應義塾大学医学部)
  • 大内憲明(東北大学大学院医学系研究科)
  • 佐伯俊昭(国立病院四国がんセンター)
  • 下妻晃二郎(財団法人パブリックヘルスリサーチセンター附属ストレス科学研究所)
  • 中村清吾(聖路加国際病院)
  • 平岡真寛(京都大学大学院医学研究科)
  • 渡辺亨(国立がんセンター中央病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 21世紀型医療開拓推進研究(EBM研究分野)
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
食生活、社会生活の変貌に伴ったホルモン環境の変化により、わが国の乳がんの死亡数、罹患数は急増している。特に45-59歳の壮年期女性の乳がん死亡率は人口10万対19.4-27.9と胃がん、肺がんを抑えて第1位であり、社会的に重要であるとともに国民の関心の高いがんである。
乳がんは早期から臨床的に発見できない微小転移を伴う全身病とされており外科療法、放射線療法、化学療法、内分泌療法を組み合わせた治療戦略が必要であるが、本邦では乳がん診療に携わる専門医は欧米と比較し極端に少なく、乳がん患者の多くは、がん専門病院を訪れるのではなく、乳がん専門医のいない施設で、診断、治療を受けている。乳がんを専門としない一般臨床医が多忙な日常診療の中でEvidence-based Medicine(EBM)を実践することは困難であり、標準的な診断、治療を行うための支援としての診療ガイドラインの整備が急務である。
本ガイドラインは、臨床医が日常診療での疑問点を解決するための支援として利用するとともに、結果として患者のアウトカムの改善に結びつくことを目指した乳がん診療ガイドラインをEBMの手順に則って作成する。
研究方法
診療ガイドラインの作成の手順(ver. 4.1)に基づいて作業を進めている。広範囲にわたる乳がん診療を網羅するために、分野別のガイドライン作成委員会を設置し、小班単位で乳がん診療の現状の把握とResearch Questionの選定、文献の検索、文献の評価を行った。
結果と考察
結果:第1回班会議(平成13年10月6日:東京)において乳がん診療ガイドライン作成の目的を上記のごとく定め、本ガイドライン作成の手順を決定した。13年度は以下の事項について、下記の小班単位での作業を行った。進捗状況の把握と小班間の整合性を保つため、第2回班会議(平成13年12月1日:東京)、第3回班会議(平成14年3月8-9日)を開催した。
1.ガイドライン作成委員会の設置
乳がん診療には外科学、放射線学、臨床腫瘍学、臨床薬理学、疫学など広範囲の知識が必要であり、これらを網羅するために、各分野の専門家集団によるガイドライン作成委員会を設置した。委員会は分担研究者のもと下記5分野の小班構成とした。
2.小班の設置
1) 疫学・予防(担当:下妻晃二郎班員他3名)
疫学、発がん因子、がん遺伝子、緩和医療、QOL等を担当する。
2) 検診・診断(担当:大内憲明、中村清吾班員他9名)
診断分野として、マンモグラフィ、超音波、CT、MRI、病理等を担当する。検診分野として、対象年齢と方法、検診間隔、マンモグラフィ検診等を担当する。
3) 外科療法(担当:池田 正班員他5名)
手術術式(乳房切除術、乳房温存療法)、センチネルリンパ節生検、乳房再建、合併症、術後経過観察等を担当する
4) 薬物療法(渡辺 亨、佐伯俊昭班員他12名)
早期乳がんの術前・術後補助療法、局所進行乳がん・転移性乳がんに対する薬物療法、副作用対策等を担当する。
5) 放射線療法(平岡真寛班員他7名)
乳房温存・乳房切除術後補助放射線療法、転移性乳がんに対する放射線治療、副作用対策等を担当する。
3. 13年度の作業
1) Research Questionの選択
小班別に乳がん診療において経験する臨床上の疑問点を集積し、班員・協力者全員が参加する班会議で本ガイドラインに採択するResearch Question について検討した。
2) 文献検索
検索の手順:MEDLINE(1966-2001)の検索から乳がん関連文献としてヒットした109,320件を本研究の対象基礎文献とした。
検索方針:疫学・予防、検診・診断、外科療法、薬物療法、放射線療法の分野毎に検索語を選択した。海外文献については、使用データベース、検索年代、文献言語、研究デザインについても、分野毎に設定した。
使用データベース:海外文献はMEDLINE (1966-2001)、Cancerlit (1975-2001)、PsycINFO (1987-2001)、Cochrane Library (2001 Issue 4)、国内文献は医学中央雑誌(1987-2002年1月)を用いた。
検索結果:海外文献はのべ65,697件(各分野間の重複を含む)、国内文献は9,639件が検索された。分野別では、疫学・予防(海外;12,420件/国内; 2,386件)、検診・診断(36,204件/3,518件)、外科療法(1,169件/2,761件)、薬物療法(13,165件/2,291件)、放射線療法(2,739件/441件)であった。
文献選択:上記検索文献から、分野別小班会議で文献選択を行い、海外文献5,995件、国内文献1,200件の計7,195件(分野間の重複を含む)を採択した。
3) エビデンスレベル分類
エビデンスレベルの評価はOxford Center for Evidence-based Medicine levels of Evidence(2001)の分類を用いることとした。
Ⅰ-1a:ランダム化比較試験のシステマティックレビュー
Ⅰ-1b:個々のランダム化比較試験(狭い信頼区間を伴う)
Ⅰ-1c:治療群以外全てが亡くなっている場合(a11)または治療群は全て生存している場合(none)
Ⅱ-2a:コホート研究のシステマティックレビュー
Ⅱ-2b:個々のコホート研究(質の低いランダム化比較試験を含む;経過観察が80%以下)
Ⅱ-2c:アウトカム研究
Ⅲ-3a:ケース・コントロール研究のシステマティックレビュー
Ⅲ-3b:個々のケース・コントロール研究
Ⅳ:ケース・シリーズ(または質の低いコホート研究、ケース・コントロール研究)
Ⅴ:明確な批判的吟味のない、または生理学、基礎実験に基づく専門家の意見
4) 勧告の強さ
勧告の強さの分類は、エビデンスレベルと本邦の乳がん診療の現状を勘案して総合的に判断することとし、以下の案を作成した。
A:行うことを強く推奨:結果が一貫したLevelⅠの試験が多数ある場合
B:行うことを推奨:結果が一貫したLevelⅡ、Ⅲの試験がある、あるいはLevelⅠの試験から結果が外挿できる場合
C:推奨する根拠がはっきりしない:LevelⅣの試験がある、あるいはLevelⅡ、Ⅲの試験から結果が外挿できる場合
D:行わないよう勧められる:LevelⅤの試験がある、あるいは1eve1にかかわらず結果が一貫しない場合
考察:本邦における乳がん診療に関るガイドラインとしては、日本乳癌学会の「乳房温存療法に関するガイドライン」、日本放射線学会・日本放射線技術学会の「マンモグラフィガイドライン」、日本臨床腫瘍研究会・日本癌治療学会の「抗がん剤の適正使用ガイドライン」がある。何れのガイドラインも各専門領域におけるガイドラインであり、乳がん診療全般を網羅したものではなく、忠実にEBMの手法に則ったものとは言い難い。
本ガイドライン作成作業に先立ち、委員会を構成する関連領域の専門家にEBMの基本的な概念の理解とEBMに基づくガイドライン策定の手法の学習が重要と思われ、班会議における講演などをとおして本ガイドラインの意義を明確にし、意思統一に努めた。
また、乳がん診療に関するエビデンスレベルの高い論文のほとんどは欧米のものであり、これに匹敵する本邦の論文はほとんどなく、特にMEDLINE検索で抽出できるものは皆無であった。すでに、欧米ではエビデンスレベルに基づき策定された乳がん診療ガイドラインが整備されつつある。たとえば、①米国臨床腫瘍学会(ASCO)ガイドライン、②米国がん診療ガイドライン(NCCNガイドライン)、③カナダオンタリオ州がん診療ガイドライン、④米国厚生省による診療ガイドラインのデータベース(NGC)などである。そこで、これらのガイドラインから本邦の乳がん診療の現状を勘案し、外挿可能なものについては二次利用を考慮した。具体的には、上記ガイドラインから、重要なResearch Question抽出し、その根拠として採用されている文献の中から重要と思われるものを選別し、日本語の構造化抄録を作成して、本ガイドラインに採用することを考えている。また、医学中央雑誌から抽出した良質な邦文論文は勧告の強さに反映したい。
結論
乳がん診療ガイドラインを根拠に基づいた医療(EBM)の手順に則って作成するための基礎的作業が達成された。14年度には全体の構成を整え乳がん診療ガイドライン(案)を完成し、第3者評価に委ねることを作業工程として想定している。

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