Evidence-based Medicine (EBM)の手法による肺癌の診療ガイドライン策定に関する研究

文献情報

文献番号
200100499A
報告書区分
総括
研究課題名
Evidence-based Medicine (EBM)の手法による肺癌の診療ガイドライン策定に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
藤村 重文(東北厚生年金病院)
研究分担者(所属機関)
  • 村田喜代史(滋賀医科大学)
  • 福岡正博(近畿大学)
  • 有吉寛(県立愛知病院)
  • 門田康正(徳島大学)
  • 土屋了介(国立がんセンター)
  • 加藤治文(東京医科大学)
  • 近藤丘(東北大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 21世紀型医療開拓推進研究(EBM研究分野)
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
29,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、肺癌に関してEvidence-based Medicine (EBM)の手法に基づいた効果的・効率的な診断・治療法を体系化し、効果的な保健医療を確立することであり、豊かで活力ある長寿社会を創造するための一翼を担うことである。
我が国における肺癌患者数は、急速な増加の一途を辿り、悪性疾患死亡数の第一位となり、地域の多くの医療機関において診断・治療が行われている。しかしながら、EBMに基づいた診断・治療体系は未だ確立・実践されていない。このため、地域の医療機関によって行われる診断・治療行為には大きな格差があり、必ずしもすべての肺癌患者にevidenceに基づいた最善の治療法が施行されているとは限らない。
本研究では、各分野の肺癌研究・診療の代表的専門家を集め、現時点における文献を網羅的に検討し、最善の治療法は何かを明らかにする。このことにより、肺癌診療のレベルを全国的に向上せしめ、同時に広く国民にわかりやすく公開し、国民一人一人が肺癌診療の現状を理解し、自らの意志に基づいて治療法を選択する道を開くものである。本研究は、医療レベルの向上に寄与するのみでなく、広く国民の福利に貢献するものと期待される。
研究方法
本研究では、EBM の手法により、肺癌に対して(1)各診療・治療法別のガイドラインと、(2)組織型・病期別の実践的ガイドラインの2つの大きなガイドラインの作成を行う。
(1)肺癌診療の各領域を網羅すべく、7領域の検討課題(肺癌診断、肺癌化学療法、肺癌放射線治療、肺癌標準手術、肺癌術前・術後治療、肺門部早期癌診断および治療、肺癌内視鏡手術)を設定する。各領域に精通した分担研究者を中心に、各関係学会とも連携しながら、各領域ごとに個別検討トピックを選定し、検討する。 選定されたトピックをキーワードにして、既発表の文献等を検索・選定・評価し、各項目ごとの日本におけるevidence集を作成する。このevidence集では各治療法の合併症の発生率なども集計し、さらに、second opinionとして各科領域の専門家の意見も付け加える。このevidence集に基づき、上記7領域ごとの診療ガイドラインを作成する。
(2)さらに、上記の検討事項を統合・再編成し、小細胞肺癌・非小細胞肺癌の各病期別の実践的診療ガイドラインを作成する。この実践的ガイドラインは、患者一人一人の病態において最も有効な治療法は何か? 各治療法ごとの合併症の頻度はどの程度か? などを一目でわかるようにするものであり、広く国民のニーズに応えるものである。
結果と考察
本研究は2年計画で、今年度は初年度にあたり、肺癌診療の各領域を網羅すべく、7領域の検討課題(肺癌診断、肺癌化学療法、肺癌放射線治療、肺癌外科治療、肺癌術前・術後治療、肺門部早期癌診断および治療、肺癌内視鏡手術)を設定した。各領域に精通した分担研究者を中心に、各関係学会とも連携しながら、各領域ごとに臨床上の疑問点としての個別検討トピックを選定した。即ち、(1)肺癌診断ガイドラインでは、肺癌の検出の項目として、腫瘍マーカー、喀痰細胞診、胸部単純写真、CT、肺癌検診が挙げられた。肺癌の質的診断の項目として、画像診断、気管支鏡検査、経皮生検、胸腔鏡下肺生検、縦隔鏡が挙げられた。肺癌の病期診断の項目として、TN因子診断、M因子診断、PM・多発癌診断、臨床病期と病理病期が挙げられた。経過観察法の項目として、術後経過観察、小結節経過観察が挙げられた。(2)肺癌放射線治療ガイドラインでは、放射線治療の基本事項、単独照射、化学放射線療法、予防的全脳照射、姑息治療の項目が挙げられた。(3)肺癌外科治療ガイドラインでは、術式、リンパ節郭清、生理学的手術適応、腫瘍学的手術適応の項目が挙げられた。(4)肺癌術前術後治療のガイドラインでは、併用療法の対象、時期、方法の各項目が挙げられた。(5)中心型早期肺癌の診断・治療ガイドラインでは、中心型早期癌の特性、検査法、治療法の各項目が挙げられた。(6)肺癌内視鏡手術のガイドラインでは、定義、治療成績、根治性、侵襲性、安全性の各項目が挙げられた。ついで、これらの臨床上の疑問点に対して、文献検索を行い、文献の批判的吟味を行うためのアブストラクトフォームを作成した。これらの作成手順に関しては、「EBMの普及のためのシラバス作成と教育方法のEBMの有効性評価に関する研究」(研究代表者 福井次矢)「日本におけるEBMのためのデータベース構築及び提供利用に関する調査研究」(研究代表者 丹後俊郎)による診療ガイドライン作成の手順に従った。
結論
現在我が国の肺癌診療に際して、問題となっている臨床上の疑問点を肺癌診療の各領域毎(肺癌診断、肺癌化学療法、肺癌放射線治療、肺癌外科治療、肺癌術前・術後治療、肺門部早期癌診断および治療、肺癌内視鏡手術)に網羅した。臨床上の疑問点が網羅されれば、それに対して文献検索し、エビデンス集を改訂することは比較的容易で、今後のガイドライン改訂に際して今回網羅された臨床上の疑問点集は非常に有用である。今後は、この臨床上の疑問点に対して、文献検索し、エビデンス集を作成し、さらにエビデンスレベル、リコメンデーショングレードを決定していくことが可能になる。現在、日本肺癌学会において進行肺癌の治療ガイドラインや日本癌治療学会において肺癌化学療法の治療ガイドラインの作成などが、それぞれ個別に企画され、進められつつある。しかしながら、我が国には肺癌診療の各領域において、EBMに基づいた肺癌診療ガイドラインといった体系化されたものがないのが現状である。海外ではインターネットのホームページ上で、誰もが閲覧可能な診療ガイドラインが掲載されている。本研究では、肺癌に対して多方向から、各関係学会や各領域の第一人者などによって文献を十分に検討し、体系化されたガイドラインを作成することが目的であり、今回選定された肺癌診療の各領域にわたり網羅された臨床上の疑問点は、必須要件である。

公開日・更新日

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