文献情報
文献番号
200100497A
報告書区分
総括
研究課題名
科学的根拠に基づくクモ膜下出血診療ガイドラインの策定に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
吉峰 俊樹(大阪大学大学院医学系研究科(神経機能制御外科学講座)
研究分担者(所属機関)
- 上島弘嗣(滋賀医科大学教授)
- 大本堯史(岡山大学医学部教授)
- 小川 彰(岩手医科大学教授)
- 河瀬 斌(慶應義塾大学医学部教授)
- 桐野高明(東京大学医学部長)
- 小林茂昭(信州大学医学部教授)
- 齋藤 勇(杏林大学医学部教授)
- 種子田護(近畿大学医学部教授)
- 永田 泉(国立循環器病センター部長)
- 貫井英明(山梨医科大学教授)
- 橋本信夫(京都大学医学部教授)
- 山浦 晶(千葉大学医学部附属病院長)
- 山口武典(国立循環器病センター総長)
- 山田和雄(名古屋市立大学医学部教授)
- 吉本高志(東北大学大学院医学系研究科科長・医学部長)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 21世紀型医療開拓推進研究(EBM研究分野)
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
-
研究費
25,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
平成 10 年厚生省人口動態統計によればクモ膜下出血による死亡は 10 万人あたり 11.8 で脳卒中死亡全体の約 1/10 にあたる。しかし、若年者層に目をむけると脳卒中による死亡の約半数がクモ膜下出血によるものであり、働き盛りの年代に好発し、しかも死亡ないし重篤な機能障害を残し、国民健康上重大な支障をきたしている疾患と位置づけられる。クモ膜下出血の診療においては臨床診断、病態評価、手術時期、手術法、全身管理の問題や、急性脳腫脹、脳血管攣縮、水頭症などの合併症への対応など多くの場面において的確な判断と処置が求められる。また患者の転帰は死亡から完全な社会復帰まで幅広い範囲にわたっている。これらから考え、適切な治療指針に従って本疾患を治療すれば、より良好な結果がもたらされる例が増加する可能性がある。
このように本疾患の治療は国民医療の面で極めて重要であるにもかかわらず、日常診療においては未解決あるいは意見の統一が不充分な問題が多数みられ、いち早く適切な治療指針が策定されることが切に望まれる。厚生省医療技術評価推進検討会の報告(平成11 年3月)において治療ガイドライン対象疾患として第10位にあげられているとおりである。以上のように、クモ膜下出血患者に対する診療ガイドラインの作成は、EBM の実践の基礎となる情報を広く提供し、医療サービスの向上と均質化に資すること大であり、限られた医療資源を活用し、国民健康の向上に大きく貢献するものと考えられる。
このように本疾患の治療は国民医療の面で極めて重要であるにもかかわらず、日常診療においては未解決あるいは意見の統一が不充分な問題が多数みられ、いち早く適切な治療指針が策定されることが切に望まれる。厚生省医療技術評価推進検討会の報告(平成11 年3月)において治療ガイドライン対象疾患として第10位にあげられているとおりである。以上のように、クモ膜下出血患者に対する診療ガイドラインの作成は、EBM の実践の基礎となる情報を広く提供し、医療サービスの向上と均質化に資すること大であり、限られた医療資源を活用し、国民健康の向上に大きく貢献するものと考えられる。
研究方法
このガイドライン作成にあたってはとくに本邦で独特の進歩をとげた医療技術や、独特に整備された医療体制、および欧米とは異なる可能性のある病態や疾病構造にも留意し、本邦で集積された医学情報についてもとくに重視し、以下のような段階で作業を進めた。
(1)クモ膜下出血患者の診療に関連する領域の中から、優先して検討を行う課題、疑問点を決定した。
(2)検討課題、疑問点についてMedline、Cochrane Library、医学中央雑誌の英文ならびに和文文献から1990年-2001年に刊行された文献を対象として検索し、最新の情報を収集した。
(3)収集された医学文献に対し、EBM の手法に基づいて疑問点との関連性を中心に一定の基準で取捨選択を行い、批判的吟味を行ってエビデンスの質の評価を行いアブストラクトフォームを作成した。
(4)評価された医学文献のアブストラクトフォームをデータベースに登録し、エビデンスの統合蓄積を行った。
(5)データベースをもとに、エビデンスの質と当該診療行為による利得の大きさ、個人や社会の負担の大きさなどを総合して、勧告の強さを明記した一般診療医務家向けの診療ガイドラインを作成した。さらにこれを簡略化し啓蒙的要素を織り込んで、国民対象のガイドラインとした。また脳神経外科専門医を対象としたより詳細な専門医向けガイドラインの作成を行った。
なお、本研究で取り扱う研究調査データは、患者家族に対するインフォームドコンセントを含めその手法が倫理面で充分に配慮されたものに限定した。症例報告などに関しても患者のプライバシーなどの倫理面に充分配慮されたもののみを取り扱った。
(1)クモ膜下出血患者の診療に関連する領域の中から、優先して検討を行う課題、疑問点を決定した。
(2)検討課題、疑問点についてMedline、Cochrane Library、医学中央雑誌の英文ならびに和文文献から1990年-2001年に刊行された文献を対象として検索し、最新の情報を収集した。
(3)収集された医学文献に対し、EBM の手法に基づいて疑問点との関連性を中心に一定の基準で取捨選択を行い、批判的吟味を行ってエビデンスの質の評価を行いアブストラクトフォームを作成した。
(4)評価された医学文献のアブストラクトフォームをデータベースに登録し、エビデンスの統合蓄積を行った。
(5)データベースをもとに、エビデンスの質と当該診療行為による利得の大きさ、個人や社会の負担の大きさなどを総合して、勧告の強さを明記した一般診療医務家向けの診療ガイドラインを作成した。さらにこれを簡略化し啓蒙的要素を織り込んで、国民対象のガイドラインとした。また脳神経外科専門医を対象としたより詳細な専門医向けガイドラインの作成を行った。
なお、本研究で取り扱う研究調査データは、患者家族に対するインフォームドコンセントを含めその手法が倫理面で充分に配慮されたものに限定した。症例報告などに関しても患者のプライバシーなどの倫理面に充分配慮されたもののみを取り扱った。
結果と考察
EBMの手法に基づき、まずクモ膜下出血患者の診療に関する中から、下記のごとくの検討領域を設定した。
I. 疫学
1. クモ膜下出血の発症率
2. クモ膜下出血の危険因子
3. クモ膜下出血の経過、予後と予後悪化因子
II. 診断
1. 臨床症状
2. クモ膜下出血の診断
3. 脳動脈瘤の診断
III. 治療
1. 初期治療
2. 脳動脈瘤の治療
1) 治療法の選択
2) 外科的治療法
3) 血管内治療法
4) 保存的治療法
3. 脳血管攣縮
1) 脳血管攣縮の診断
2) 脳血管攣縮の治療
4. その他合併病態の治療
5. リハビリテーション
各領域について担当班員を定め、個々の領域における疑問点(リサーチクエスチョン)の設定を行った。次に、個々の疑問点について科学的な根拠を収集するために文献の渉猟を行うのであるが、検索対象については、時間的制約を考慮して1990年-2001年に刊行された文献ついてMedline、Cochrane Library、医学中央雑誌に収載された英文ならびに和文文献を検索することとした。文献検索に際しては系統的に再現性を持って行う必要があるため、財団法人国際医学情報センターの協力を得て検索式を設定して行った。その結果、昨年度は1990年-2000年に刊行された文献のうちMedlineより6851件、Cochrane Libraryより61件、医学中央雑誌より7917件、総計14376件の文献を対象としたが、今年度は2001年に刊行された文献のうちMedlineより620件、医学中央雑誌より834件の文献を新たに対象として加え、その結果として総計16283件の文献が収集された(重複収載文献は除外)。各研究班員により分担して疑問点との関連性を中心に一定の基準のもとに取捨選択を行い、批判的吟味を行ってアブストラクトフォームを作成した。アブストラクトフォームには、書誌事項、研究期間、研究デザイン、対象者数、研究施設、検証対象となったマネージメント、測定された効果指標、用いられた統計手法、結果、意義、レビューアの意見などを記入した。研究デザインの分類、エビデンスレベルの分類は、各種のものが提唱されてはいるが、本研究班では厚生省より提示された「診療ガイドラインの作成と評価の手順Ver3.1」に準じて行った。アブストラクトフォームの入力にはコンピュータプログラム(データベースソフト)を活用し、平成13年12月末までに1101件のアブストラクトフォームを集積しデータベース化した。代表的なリサーチクエスチョンについてアブストラクトテーブルを作成した。このデータベースをもとに、疑問点についての勧告の強さを決定し、エビデンスや勧告を織り込んだ一般臨床医対象の診療ガイドラインを作成した(報告書冊子参照)。勧告の強さの決定に当たっては、エビデンスのレベル、数と結論のばらつき、臨床的有効性の大きさ、臨床上の適用性、害やコストに関するエビデンス、などの各要素を勘案して総合的に判断した。決定された勧告の記述にはその強さを以下のように表示した。
A 行うよう強く勧められる
B 行うよう勧められる
C 行うよう勧めるだけの根拠が明確でない
D 行わないよう勧められる
本研究班では昨年度はエビデンスの質と当該診療行為による利得の大きさ、個人や社会の負担の大きさなどを総合して、勧告の強さを明記した一般診療医務家向けの診療ガイドラインを作成し、さらにこれを簡略化し啓蒙的要素を織り込んで、国民対象のガイドラインとした。今年度はさらに脳神経外科専門医を対象にしたより詳細な専門医向けの診療ガイドラインの作成を行った(報告書冊子参照)。専門医向けガイドラインでは、脳神経外科専門医が実際の治療現場で遭遇するクモ膜下出血の臨床病態に対する治療指針をまとめた。特に破裂直後(超急性期)における診断法や管理指針、再出血予防法(外科的治療法、血管内治療、保存的治療)の適応決定および治療法、重症例、脳血管攣縮などの未解決の臨床課題、慢性期における外来診療(特に脳動脈瘤再増大、新生について)、解離性動脈瘤破裂への対処法等について、現時点での最も良質でかつ最新のエビデンスに基づき、臨床現場での判断を支援しうるように具体的な記載を行った。
クモ膜下出血診療にあたっては脳神経外科専門医を中心とした他診療科の医師、パラメディカルスタッフの連携した医療体制が重要であり、また救急診療を受け持つ一般医家の適切な初期診療はクモ膜下出血急性期患者の予後を大きく左右するものと考えられる。また患者および患者家族のEBMに基づいた診療への理解も重要である。本ガイドラインは幅広い読者に活用されるものと期待する次第である。本研究では、時間的な制限もあり対象文献を1990年以後のものとして作業を進めた。これ以前にすでにエビデンスとなり得るデータを提供する論文については、米国およびカナダにおいてEBMの手法にのっとって作成されたガイドラインを参考とした。また、本邦で作成発表された論文のうち、エビデンスレベルが高いと考えられるものの多くは英文文献として発表されていることが多いことが判明した。
I. 疫学
1. クモ膜下出血の発症率
2. クモ膜下出血の危険因子
3. クモ膜下出血の経過、予後と予後悪化因子
II. 診断
1. 臨床症状
2. クモ膜下出血の診断
3. 脳動脈瘤の診断
III. 治療
1. 初期治療
2. 脳動脈瘤の治療
1) 治療法の選択
2) 外科的治療法
3) 血管内治療法
4) 保存的治療法
3. 脳血管攣縮
1) 脳血管攣縮の診断
2) 脳血管攣縮の治療
4. その他合併病態の治療
5. リハビリテーション
各領域について担当班員を定め、個々の領域における疑問点(リサーチクエスチョン)の設定を行った。次に、個々の疑問点について科学的な根拠を収集するために文献の渉猟を行うのであるが、検索対象については、時間的制約を考慮して1990年-2001年に刊行された文献ついてMedline、Cochrane Library、医学中央雑誌に収載された英文ならびに和文文献を検索することとした。文献検索に際しては系統的に再現性を持って行う必要があるため、財団法人国際医学情報センターの協力を得て検索式を設定して行った。その結果、昨年度は1990年-2000年に刊行された文献のうちMedlineより6851件、Cochrane Libraryより61件、医学中央雑誌より7917件、総計14376件の文献を対象としたが、今年度は2001年に刊行された文献のうちMedlineより620件、医学中央雑誌より834件の文献を新たに対象として加え、その結果として総計16283件の文献が収集された(重複収載文献は除外)。各研究班員により分担して疑問点との関連性を中心に一定の基準のもとに取捨選択を行い、批判的吟味を行ってアブストラクトフォームを作成した。アブストラクトフォームには、書誌事項、研究期間、研究デザイン、対象者数、研究施設、検証対象となったマネージメント、測定された効果指標、用いられた統計手法、結果、意義、レビューアの意見などを記入した。研究デザインの分類、エビデンスレベルの分類は、各種のものが提唱されてはいるが、本研究班では厚生省より提示された「診療ガイドラインの作成と評価の手順Ver3.1」に準じて行った。アブストラクトフォームの入力にはコンピュータプログラム(データベースソフト)を活用し、平成13年12月末までに1101件のアブストラクトフォームを集積しデータベース化した。代表的なリサーチクエスチョンについてアブストラクトテーブルを作成した。このデータベースをもとに、疑問点についての勧告の強さを決定し、エビデンスや勧告を織り込んだ一般臨床医対象の診療ガイドラインを作成した(報告書冊子参照)。勧告の強さの決定に当たっては、エビデンスのレベル、数と結論のばらつき、臨床的有効性の大きさ、臨床上の適用性、害やコストに関するエビデンス、などの各要素を勘案して総合的に判断した。決定された勧告の記述にはその強さを以下のように表示した。
A 行うよう強く勧められる
B 行うよう勧められる
C 行うよう勧めるだけの根拠が明確でない
D 行わないよう勧められる
本研究班では昨年度はエビデンスの質と当該診療行為による利得の大きさ、個人や社会の負担の大きさなどを総合して、勧告の強さを明記した一般診療医務家向けの診療ガイドラインを作成し、さらにこれを簡略化し啓蒙的要素を織り込んで、国民対象のガイドラインとした。今年度はさらに脳神経外科専門医を対象にしたより詳細な専門医向けの診療ガイドラインの作成を行った(報告書冊子参照)。専門医向けガイドラインでは、脳神経外科専門医が実際の治療現場で遭遇するクモ膜下出血の臨床病態に対する治療指針をまとめた。特に破裂直後(超急性期)における診断法や管理指針、再出血予防法(外科的治療法、血管内治療、保存的治療)の適応決定および治療法、重症例、脳血管攣縮などの未解決の臨床課題、慢性期における外来診療(特に脳動脈瘤再増大、新生について)、解離性動脈瘤破裂への対処法等について、現時点での最も良質でかつ最新のエビデンスに基づき、臨床現場での判断を支援しうるように具体的な記載を行った。
クモ膜下出血診療にあたっては脳神経外科専門医を中心とした他診療科の医師、パラメディカルスタッフの連携した医療体制が重要であり、また救急診療を受け持つ一般医家の適切な初期診療はクモ膜下出血急性期患者の予後を大きく左右するものと考えられる。また患者および患者家族のEBMに基づいた診療への理解も重要である。本ガイドラインは幅広い読者に活用されるものと期待する次第である。本研究では、時間的な制限もあり対象文献を1990年以後のものとして作業を進めた。これ以前にすでにエビデンスとなり得るデータを提供する論文については、米国およびカナダにおいてEBMの手法にのっとって作成されたガイドラインを参考とした。また、本邦で作成発表された論文のうち、エビデンスレベルが高いと考えられるものの多くは英文文献として発表されていることが多いことが判明した。
結論
本疾患の治療は国民医療の面で極めて重要であり、クモ膜下出血患者に対する診療ガイドラインの作成は、EBM の実践の基礎となる情報を広く提供し、医療サービスの向上に資すること大であり、限られた医療資源を活用し、国民健康の向上に大きく貢献するものと考えられる。ただし、診療ガイドラインは、患者に対する診療内容を包括的に規制することを目指したものではなく、実際の診療においては、個々の患者の病態と背景を正確に把握したうえで、個々の担当医が適切な判断を行うための一助として利用されるべきものである。作成されたエビデンステーブル、診療ガイドラインは日本脳卒中の外科学会により検討され承認を得て出版物として公開される見込みである。また最新の文献によるエビデンステーブルのアップデート化を継続し、診療技術・社会情勢の急速な変化に対応した診療ガイドラインとして改訂されるべく学会レベルで検証・改定作業が続けられる見込みである。また、エビデンスの乏しい課題について、今後の研究と解明を行うことが検討されている。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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