根拠に基づく医療(Evidence-based Medicine)の手法を用いた医療技術の体系化に関する調査研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100494A
報告書区分
総括
研究課題名
根拠に基づく医療(Evidence-based Medicine)の手法を用いた医療技術の体系化に関する調査研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
福井 次矢(京都大学大学院医学研究科内科系専攻臨床生体統御医学臨床疫学)
研究分担者(所属機関)
  • 津谷喜一郎(東京大学大学院薬学系研究科医薬経済学)
  • 福原俊一(京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻理論疫学)
  • 伴信太郎(名古屋大学医学部附属病院総合診療部)
  • 中村清吾(聖路加国際病院外科)
  • 名郷直樹(作手村国保診療所)
  • 福岡敏雄(名古屋大学医学部附属病院救急/集中治療部)
  • 新保卓郎(京都大学大学院医学研究臨床疫学臨床疫学・総合診療)
  • 小山弘(京都大学医学部附属病院)
  • 松井邦彦(京都大学医学部附属病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 21世紀型医療開拓推進研究(EBM研究分野)
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
36,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
(1)Evidence-based Medicine(EBM)教育のための教材と教育方法について調査研究し、最良の教材(シラバスやビデオ)を作成する。そして、それらを用いてEBM教育ワークショップを開催し、わが国におけるEBMの普及に寄与する。(2)EBMの概念と手順が、実際に医師の診療行為と患者の健康アウトカムにどどのような効果をもたらしているのかについて、患者データの解析や文献のシステマティック・レビューにより評価する。
研究方法
(1)過去5年間、欧米において開催されたEBM教育セミナーやワークショップで使用されたシラバス、わが国でEBMの概念と手順が広く紹介され始めた4年前以降、さまざまなグループが独自に行なってきたセミナーやワークショップで用いたシラバスやビデオを収集し評価した。そのうえで、現在、わが国においてEBMを普及するために必要な研究教育事業は何かについて検討し、以下のような事業を行なった。教育セミナーを開催(共催)し、EBMの手順のひとつである文献検索の方法をわかりやすく示したビデオを作製し、EBMの教育に関する情報を広く提供するためのホームページを立ち上げた。
EBM普及の一環として各学会が作成中の診療ガイドラインの妥当性を高める目的で、「診療ガイドラインの作成の手順」を作成した。(2)医師の診療行為がどの程度、質の高いエビデンスに則っているのかを知る目的で、京都大学医学部附属病院総合診療部に入院した患者のデータを解析した。また、EBMの手順に則って作成された診療ガイドラインが、はたして患者の健康アウトカムを改善しているかどうかについて、文献のシステマティック・レビューにより評価した。
結果と考察
(1)EBM教育のための教材は、マクマスター大学(カナダ)、ハーバード大学(米国)、オックスフォード大学(英国)、ニューキャッスル大学(オーストラリア)、京都大学、東京大学、名古屋大学、愛知県臨床疫学研究会、聖路加国際病院、それに聖路加ライフサイエンス研究所などが開催したセミナーやワークショップで用いられたものが収集された。その結果、本研究班としては、愛知県臨床疫学研究会が作成した教材を元に改訂を行ない、それを平成13年9月および平成14年1月に本研究班が主催するEBM教育セミナーで用い、教育効果を評価することとした。平成13年2月24日、25日の両日、九州大学同窓会館で開催されたEvidence-Based Medicineセミナー(主催:愛知県臨床疫学研究会、九州EBMセミナー準備委員会)に協力した。チューターは14名、出席者は107名であった。EBMの実践上、必須手順のひとつである文献検索の方法をわかりやすく示したビデオ「“EBM"で診療を変える」(製作:インターメディカ)を作成した(コピー100本)。また、EBMの教育に関する情報を広く提供するために、ホームページを作成した(内容は増補、改訂中である)。アドレスはebmedu.comで、完成時の内容は「EBMとは」、「EBMシラバス」、「EBM用語集」、「EBMFAQ」、「EBM関連学会・研究会案内」、「EBM関連リンク集」などから構成される予定である。EBM普及の一環として、EBMの手順に則った診療ガイドラインもようやくわが国でも作成されるようになった。診療ガイドラインの妥当性を高める目的で、「日本におけるEBMのためのデータベース構築および提供利用に関する研究」の丹後俊郎研究代表者と協力して「診療ガイドラインの作成の手順」を作成した。それを、平成12年度中に診療ガイドラインを作成中の12学会に配布し、できるだけ「診療ガイドラインの作成の手順」に則るよう依頼した。(2)1990年代前半からEBMが速やかに普及した北米や英国では、プライマリケアの場で行なわれる治療の31%、入院患者について行なわれる治療の53~57%が、もっともレベルの高いエビデンスであるランダム化比較試験(RCT)の結果に基づいていると報告されている。そこで、わが国における治療のエビデンスについて検証する目的で、1994年の開設当初から、EBMの手順に可能な限り則って診療を行なってきた京都大学医学部附属病院総合診療の入院患者のデータを解析した。その結果、患者の一次的な問題に対する治療211のうち、103(48.8%)はRCTの結果に基づくものであり、二次的な問題226についても、そのうちの127(56.2%)がRCTの結果に基づくものであった。この結果は、欧米の先進的な医療施設での研究結果とほぼ同じであり、EBMの考え方・手順で診療を行なうことは、国際的に標準化された医療の提供を可能とする可能性を強く示唆するものである。さらに、EBMを日常診療に広く普及させる上で重要な手段である、EBMの手順で作成された診療ガイドラインの臨床的有効性を検証した文献のシステマティック・レビューを行なった。MEDLINE検索により、このテーマについて16篇の文献がみつかった。そのうち、7篇は診療ガイドラインが臨床的に有効なことを示していたが、残りの9篇では診療ガイドラインの有効性が明らかでなかったとの結論であった。しかし、これらの研究は、メタ分析が行なえるほど均質なものではなく、今後、診療ガイドラインの臨床的有効性に関する検証がさらに求められるところである。
結論
わが国においてEBMを普及させるための教材の作成に着手した。その一環として、文献検索の手順を示したビデオを作成した。EBMセミナーの開催、インターネットでのEBM教
育情報の提供、EBMを普及させる重要な手段である診療ガイドラインがわが国でも多く作成されつつあるが、その妥当性を確保するための「診療ガイドラインの作成の手順」の作成、などを行なった。また、EBMを意識した診療を行なうことにより、入院患者について実際に行なわれた治療のエビデンスの評価、診療ガイドラインの患者アウトカムに与える影響に関する文献のシステマティック・レビューを行ない、さらに厳密な評価が
必要であることが示された。

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