臓器移植の社会基盤に向けての研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100491A
報告書区分
総括
研究課題名
臓器移植の社会基盤に向けての研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
大島 伸一(名古屋大学)
研究分担者(所属機関)
  • 大島伸一(名古屋大学)
  • 澤宏紀(鈴鹿医療科学大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究事業(再生医療研究分野)
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
42,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
病院開発モデル作成
平成9年10月に「臓器の移植に関する法律」(臓器移植法)が施行され、我が国においても、脳死下で臓器移植に法律的に途が開かれることとなった。しかしながら脳死臓器移植数は未だ少数であり、心停止下での臓器提供が可能な献腎移植については平成9年以降も減少傾向にある。献腎移植は脳死下でも、心停止下でも臓器提供が可能であるが、心停止下の献腎でも脳死臓器提供の際に行われる厳密な法的脳死判定が必要との誤解なども減少の一因である。一方、全国13057人(平成14年1月4日現在)いる献腎移植希望者のニーズに応える献腎移植の推進は緊急かつ重要な社会的課題である。このように献腎を必要とする多くの献腎移植希望者のニーズに応えるためにも、これまで献腎が可能であるにもかかわらず提供される機会が少なかった心停止後の腎臓により多く提供機会を与えることのできる本研究(献腎活性化研究)は現時点での最良の選択肢と考えられる。本研究は平成11年の研究で開発した病院開発標準モデルを引き続き実践的に応用し、その成果を分析評価し、各地域の地域特性に合せた病院開発モデルを開発し、それらの全国展開の途を探り、もって献腎ならびに献腎移植の増加、ならびにわが国での献腎移植の定着を目指すものとして企画されたものである。
腎バンクの今後のあり方について
献腎を推進するために、すでに構築されている腎バンクを有効に活用する方策を提言することを目的とする。すなわち日本臓器移植ネットワークと腎バンクの役割を明らかにし、且つネットワークコーディネーターと県のコーディネーターの役割と指導命令系統を明らかにすることによって、組織的、系統的、効率のよい献腎システムの再構築を行う。
研究方法
病院開発モデル作成
平成13年度には静岡県、新潟県、岡山県(平成11年開始群)、北海道、宮城県、高知県(平成12年開始群)、佐賀県(平成13年開始県)おいて病院開発モデルを実施し、研究グループでの病院開発数、死亡状況を把握した患者数、うち医学的な献腎が可能な症例数、臓器提供の意思が確認された症例数、献腎数などを指標にその成果を分析、検証した。
腎バンクの今後のあり方について
献腎移植の件数が長期低迷傾向にあり、抜本的にこれを解決する方策を検討するために、日本臓器移植ネットワーク、及び都道府県腎バンクのあり方を中心に、有識者によるワーキンググループを作り検討を行った。
結果と考察
病院開発モデル作成
病院開発モデルを作成し、平成11年度には3研究グループ(静岡県、岡山県、新潟県)、平成12年度には3研究グループ(北海道、宮城県、高知県)を加え、更に平成13年には1研究グループ(佐賀県)を加えた計7研究グループで病院開発研究を行った。
平成13年には、病院開発への協力を受託した病院を獲得した研究グループは5研究グループで、その数は静岡県16、岡山県14、新潟県10、北海道8、佐賀県8で、宮城県、高知県はいまだ協力病院の獲得に至っていない。獲得した協力病院より収集した個票数は静岡県86、岡山県30、新潟県201、北海道74、佐賀県22であった。これらの5研究グループの内、2研究グループ(静岡県、新潟県)では献腎数への明らかな増加が見られ、平成11年の献腎者数(献腎数)は静岡4例(7腎)、新潟0例、平成12年は静岡5例(10腎)、新潟1例(2腎)、平成13年は静岡11例(20腎)、新潟2例(4腎)と平成13年になって献腎数の増加が見られ、収集した個票の数の多い県での献腎数が多い傾向が見られた。また、協力病院を獲得した3研究グループの平成13年の献腎数は各1例、協力病院を獲得していない研究グループでは宮城県が1例、高知県は献腎が得られなかった。
各研究グループで収集し、分析可能な個票数は平成11年71才以上の286(71才以上群)、70才以下の479(70才以下群)の計765であった。71才以上群で献腎の説明を行ったのはわずか3例で提供に至った例はない。一方、70才以下群では、脳死を経て死亡する例が124例、医学的に献腎の適応となるのが115例あって、内、意思確認を63例に行い、献腎の説明を行ったのが半数の31例、献腎が実現されたのは16例であった。献腎に至らなかった理由が明らかにされたのは8例であり、医学的な理由が3例(腎機能低下、状態の悪化、急な心停止)、家族の理由が5例(家族が希望しない(2例)、最後まで治療を望む、年末で早く家に連れて帰りたい、本人が提供の意向がないと家族が言う。)などの理由であった。
以上より、献腎情報、献腎などの成果には各研究グループでその開発状況、献腎活性化の成果に多様性が見られるものの、病院開発、即ち個票の収集成果をあげた3県(静岡県、新潟県、佐賀県)で献腎の成果が見られたことは、今後の病院開発モデルの全国展開による献腎活性化効果が期待できる確かな手ごたえを感じさせるものである。
病院開発モデルの全国展開に関しては平成13年9月に日本移植学会腎移植推進委員会との合同会議の開催により献腎推進への協力体制の整備が開始された。その結果、東日本では病院説明会を開催した都道府県(研究参加グループを除く)は福島県、群馬県で、院内コーディネーターを設置したのは福島県、愛知県である。しかし、病院開発への協力を受託した病院の獲得、個票の収集の開始に至っていない。一方、西日本では病院開発への協力を受託した病院を獲得した都道府県は山口県、福岡県、長崎県、熊本県、沖縄県、愛媛県、京都府、富山県の8県で、このうち平成13年に個票収集を開始したのは福岡県、熊本県、京都府で西日本の病院開発モデルの浸透が東日本に比べ良好であった。
腎バンクの今後のあり方について
移植医療は1995年の社団法人日本臓器移植ネットワークの設立、1997年の臓器移植法施行にも関わらず十分に普及しておらず移植システムの維持が危ぶまれる深刻な事態に陥っている。特に献腎移植は件数からも移植医療の中心をなすが、件数は1989年をピークに長期低迷傾向にある。この状況を抜本的に解決する方策を検討するために、日本臓器移植ネットワーク、及び都道府県腎バンクのあり方を中心に、有識者によるワーキンググループを作り検討を行った。献腎移植が長期間低迷している原因としては、日本臓器移植ネットワークの設立にともない、・移植医が病院開発など臓器提供現場から離れたこと、・移植医の受け皿としてのコーディネーターの数・経験の不足、・ブロック内での配分を優先した結果、献腎数の多い都道府県では他県への流出を生じ、アクティビティの低下を生じたこと、・日本臓器移植ネットワーク・ブロックセンターコーディネーターと、腎バンク・県コーデイネーターの役割の不明瞭化、及び・臓器移植法の成立に伴い脳死下臓器提供と心停止後の献腎の混同を生じ、臓器移植法で定める臓器提供病院以外での献腎が減少したことが考えられた。現状の抜本的な解決のためには、(1)慢性腎不全対策(献腎移植を含む)は基本的に県の責務であることを確認する、(2)献腎配分ルールは、県単位の慢性腎不全対策に整合を図ったものとする(2002年1月より既に実施)、(3)各県の慢性腎不全対策に政策評価の概念を導入する、(4)小児など特殊な献腎移植の取り扱いを明らかにする、(5)小規模・運営能力などの理由から独立して運営できない場合の他県への業務委託を認める、などの環境整備を行った上で、ドナー・アクション・プログラムを県レベルで導入をはかることが必要であると考えられる。
結論
病院開発モデル作成
本研究では、各地域の地域特性が結果に与える影響があることが示唆されたことから、地域特性に合せた病院開発モデルへの改訂の必要性が示唆されたが、病院開発の標準モデルの実践によるその確かな有効性が一部で検証された。このように地域によっては着実に病院開発標準モデル(地域特性に合せた献腎モデル)の成果があがっていることの事実は大きな意味のあるもので、今後の病院開発の標準モデル全国展開の献腎推進効果が期待できる。
腎バンクの今後のありかたについて
日本臓器移植ネットワークの設立、臓器移植法の施行などの移植推進策にも関わらず、献腎など移植件数は長期低迷傾向にあり、移植システムの維持にも支障をきたしかねない深刻な状況にある。移植医療は諸外国の事例をみても、地域におけるネットワークを中核として、これらの連絡調整をするための機関としてUNOS、Eurotransplantなどが整備されている。今後、日本における移植推進政策も、これらの事例に鑑みて、腎バンクとネットワークの役割分担を明らかにし 県レベルの地域の活性化を図ることを主眼にすべきである。

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