安全な移植技術の確立に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100489A
報告書区分
総括
研究課題名
安全な移植技術の確立に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
磯部 光章(東京医科歯科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 中村敏一(大阪大学)
  • 鈴木盛一(国立小児医療病院)
  • 澤芳樹(大阪大学)
  • 上出利光(北海道大学)
  • 金田安史(大阪大学)
  • 井上一知(京都大学)
  • 中山俊憲(千葉大学)
  • 山岡義生(京都大学)
  • 清野裕(京都大学)
  • 宮島篤(東京大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究事業(再生医療研究分野)
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
92,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
世界をリードする画期的な移植医療技術を生み出し、現在の移植医療がもつ医学的問題点を解決することにより、臓器移植の成績を向上させることを主目的とする。まず急性拒絶反応を予防するために、より緩和で確実な免疫抑制療法を確立し、さらには免疫寛容を誘導する技術を開発し、臨床応用を目指す。また、慢性拒絶反応の発症に関する要因を明らかにし、予防法を確立する。さらに画期的な遺伝子工学的手法の開発と移植医療への応用技術を確立する。また、臓器移植を再生医療の一環として捉える立場から、拒絶反応を伴う組織移植において、免疫回避を可能とする画期的技術の開発を行い、臨床応用へ直結する成果をあげる。NKT細胞移植による寛容誘導、免疫隔離システムによる免疫回避技術を確立して膵島移植での安全性と効果を検討した上で、臨床応用を目指す。また肝幹細胞移植の確立を目指す。
研究方法
磯部らはICOSにの阻害により、免疫寛容が誘導できるか否か、②慢性拒絶である冠動脈硬化が移植時の小動物(マウス)ドナー心に対するMMPリボザイムの導入により予防されるか、③大動物(ミニブタ)における慢性拒絶反応の実験モデルを作成して遺伝子治療の基礎データを収集すること、④抑制T細胞を同定して、大動物モデルでその移入により特異的免疫抑制が誘導されるかどうかを確認した。
中村はマウスの左腎動脈の遮断解除によって作成した腎虚血モデルにおいて血中HGF濃度を測定するとともに、腎臓でのc-Met/HGF受容体の発現動態を調べた。次にHGF中和抗体を投与し、尿細管上皮細胞のアポトーシス、腎機能を示すBUN値等を指標にHGF中和処理の影響を調べた。またリコンビナントHGFを投与し、尿細管上皮の破壊や腎機能傷害に対する改善効果を検討した。さらに尿細管萎縮の機序を明らかにする目的で、アポトーシスを検出し、また免疫組織学的検討をした。
鈴木らはICOSなど補助シグナル経路の臓器特性を解析し、移植臓器に対する拒絶反応阻止効果、免疫寛容導入・維持とその作用機序を検討する目的で、ラット同所性肝移植、異所性心移植を行った。ICOS抗体単独投与およびCTLA4Igアデノベクターとの併用について検討した。さらに寛容動物から得られたリンパ球の用紙移植実験を行った。
澤らは肝細胞増殖因子(HGF)のもつ心筋保護作用に注目して心筋虚血・再灌流障害における内因性HGFの役割とその外的補充による心筋保護効果につき検討する目的で、ラットの冠動脈の短時間虚血再灌流モデルを作成した。再灌流後の心機能を測定し、血中・心筋内HGF値の測定、心筋中のc-METレセプター数の測定、梗塞巣の大きさ、生存率、虚血領域のアポトーシスの検出などの評価を行った。またrHGF、HGF抗体投与による各指標の変化と心筋中Bcl-xLの発現を検討した。
上出らは可溶性補助シグナル経路の阻害で免疫寛容を誘導する方法を確立する目的で、ラット及びマウスを用いて肝移植、腎移植、肢移植、気管支移植を行った。CTLA4Ig、ICOSIgG、HVEM Ig、CD40Ig、4I-BBIgを精製し、また樹状細胞(DC)を分離培養した。各移植モデルにおいて、これら可溶性補助シグナル分子、およびDCを単独あるいは併用し、移植臓器の生着を検討する。
金田らは移植臓器への遺伝子導入により、移植前後の移植臓器の機能保持、機能改善を行うための遺伝子導入法を開発し、HVJeベクターを用いてラットやマウスの移植臓器にどのような方法で注入するのが最も高い遺伝子導入が可能かどうかを検討した。また、HVJeベクターによる連続投与、複数の遺伝子の共導入について検討した。連続投与可能なHVJ-liposomeやHVJeベクターをベースにして移植後の臓器に対してターゲテイングできるように、細胞表面抗原に対する抗体やリガンドのキメラ蛋白を表面に有する標的融合ベクターを開発した。
井上らは砂村と共同して、免疫隔離膜を利用した膵島移植治療法の開発のために、新規移植ドナー細胞として有用なブタ膵島細胞の調製とその異種移植における有効性・安全性の確認を行った。免疫隔離膜として、polystyrene sulfonic acid (PSSa) を主成分に用いカプセル化膵島細胞を調製し、血管新生誘導はbFGFの除法化デバイスを用いて実施した。ブタ膵臓を材料とし、コラゲナーゼと膵内在性酵素(群)を用いた2段階消化後にセルプロセッサーを用いて密度勾配遠心法で分画し得た膵内分泌細胞を用いた。糖尿病モデルマウスにカプセル化膵島細胞移植を腹腔内および皮下に行い、血糖値の変化や耐糖能に関する検討などで評価した。
中山らは岸原と共同して、患者本人のNKT細胞や樹状細胞をin vitroで増殖・活性化させ、自己の細胞を使った細胞療法によって、これまでの免疫抑制剤だけではコントロールできなかった移植の慢性拒絶をコントロールすることを目的としてストレプトゾシン糖尿病マウスに、Lewisラットのラ氏島を経門脈的に注射した。このモデルを使い、ホストにV?14NKTノックアウトマウスなどを用いてトレランス誘導とNKT細胞の必要性について検討した。
山岡らはヒトへ細胞移植可能な肝細胞を同定・分離する目的で、マウス胎児肝から肝前駆細胞の同定・分離を行い、細胞集塊の細胞移植を行った。
清野らは再生膵β細胞の移植による内在性膵β細胞の機能回復を確認する目的で、ラットより分離した膵ランゲルハンス島をストレプトゾシンラットの腎皮膜下に移植してレシピエントの膵からのインスリン分泌を検討した。
宮島らは肝臓の幹細胞の分離・同定を行う目的で、オンコスタチンMによるマウス胎仔肝細胞in vitro分化系を利用して、分化マーカー遺伝子の発現および肝細胞の構造的な成熟化について詳細に調べた。
結果と考察
(1)慢性拒絶の病態と予防:マウス移植心モデルでドナー臓器へのMMP-2リボザイム導入にり冠動脈の新生内膜の増生が予防された。またミニブタを用いて心移植の手技と慢性拒絶実験モデルを確立した(磯部、天野)。
(2)免疫寛容の導入:混合培養で誘導された低応答性のリンパ球をレシピエントに移入した。2例は移植後各250日、200日を経過し生存中である。血清クレアチニン、尿素窒素共に基準値の範囲内を推移し、拒絶反応はない。移植後100日目に施行した生検でもグラフト内へのリンパ球の浸潤は軽度であった(磯部、場集田)。精製したDC細胞とCD40LIgをレシピエントラットに併用投与することにより移植腎の長期生着が可能なプロトコールを作成した。気管支移植モデルでは、CTLA4Ig投与により内腔閉塞の抑制ができた。CD40LIgアデノウイルスベクターの単回投与で肝移植で免疫寛容の誘導を確認した(上出)。ICOSIgとCTLA4Igの併用によりラット移植肝、マウス移植心モデルで免疫寛容が導入できることを確認した。寛容ラットから分離したリンパ球を養子移植した群の心移植片の生着期間が顕著に延長した(鈴木、磯部)。マウスのアロの心臓の移植では、抗LFA-1/ICAM-1抗体もしくは、抗CD80/CD86抗体によって誘導された免疫寛容で、NKT細胞ノックアウトマウスでは免疫寛容の成立が障害された。NKT細胞ノックアウトマウスに、正常のマウスからNKT細胞をあらかじめ移入しておくと、免疫寛容の成立は有意に回復した。NKT細胞の存在が移植免疫寛容誘導に必須であることが分かった(中山)
(3)虚血耐性の増強と移植組織保護:rHGF投与で冠動脈結紮・再灌流ラットモデルで心筋アポトーシスが抑制され、梗塞巣の抑制と心機能の改善が見られた。また、Bcl-xlの発現亢進が確認された (澤)。マウス腎虚血-再灌流モデルにHGF中和抗体を投与すると尿細管上皮細胞でのアポトーシス誘導が増強し、腎機能不全が促進した。腎虚血のマウスに再灌流傷害後からrHGFを投与すると尿細管萎縮に基づく腎機能不全の発症はブロックされ尿細管上皮細胞にBcl-xLの発現が誘導され、アポトーシスの程度も軽度であった(中村)。
(4)細胞移植:ラット膵島をカプセル化したロッド型デバイスに封入し血管新生誘導前処置後の糖尿病モデルマウス皮下に移植した結果、血糖値は正常化した。ブタ膵内分泌細胞は経膵管でコラゲナーゼ溶液を注入し冷消化および温消化、さらに膵内在性酵素による自己消化で得た細胞縣濁液を密度勾配遠心法で分画した。この膵内分泌細胞は、安定したインスリン放出能を有し、カプセル化膵島細胞に用いるバイオリアクターとして充分な機能を示した。これらを用いたカプセル化膵島細胞を糖尿病モデルマウス腹腔内に移植した結果、45日以上血糖値は正常化した。膵β細胞に相当するブタ膵内分泌細胞をロッド型デバイスに封入したカプセル化膵島細胞を血管新生誘導前処置した糖尿病モデルマウス皮下に移植したところ、移植後30日血糖値が正常化した。ブタ膵内分泌細胞がカプセル化膵島細胞のバイオリアクターとして充分機能し、異種移植においてもモデル動物の糖尿病状態を改善することが証明できた(井上)。膵ランゲルハンス島移植を行ったラットでは、膵β細胞量、インスリン含量が著明に改善した。この方法で耐糖能の改善することにより、内在性の膵β細胞の質的量的な改善が出来ることが明らかになった。
(5)移植に用いる遺伝子導入ベクターの開発:低侵襲で高効率の遺伝子導入法としてHVJエンベロープベクターを開発した。これは各種培養細胞、生体組織、移植臓器に遺伝子や合成核酸の効率のよい導入法であることが明らかになった。連続投与も可能であった。Bcl-2遺伝子、HGF遺伝子はそれぞれ移植腎の機能保持、骨髄移植時のGVHDの抑制を促進した。また心停止下での脳虚血にNFkB decoy核酸の有効性等が明らかになった(金田)。
(6)肝幹細胞の分離・同定:マウス胎児肝からHGF存在下で浮遊培養することで細胞集塊を得た。この細胞塊は、形態的にも発現する蛋白の面でも肝前駆細胞と考えられた。この細胞塊はFCS、HGF、インスリン存在下で旺盛な増殖能を示し、細胞塊の形で肝への移植・生着が可能であった(山岡)。オンコスタチンMによるマウス胎仔肝細胞in vitro分化系での検討では、アミノ酸代謝酵素の一つであるTATのプロモーター領域が明らかとなった。また、成熟した肝細胞構造を形成するためにはE-カドヘリンの細胞間接着面への局在が重要であること、およびその局在化にはK-Rasのシグナルが必要であることが明らかとなった。
以上より、3年間の研究計画の第二年度に当たり、各領域で一定の成果をあげた。今後は細胞レベル、小動物で得られた本年度の成果を踏まえて、大動物での実験を行い、さらに臨床応用に必要なデータを得ていくこと予定である。
結論
免疫寛容、慢性拒絶、虚血耐性、膵島細胞移植、肝幹細胞分離同定の各領域で実験が進められた。三年計画の第二年度として期待された成果をあげたと考えられる。次年度以降、所期の目的を達成するためにさらに実験を重ね、実用可能な移植技術の開発を目指す必要がある。

公開日・更新日

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