臍帯血を用いた移植・再生医療に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100487A
報告書区分
総括
研究課題名
臍帯血を用いた移植・再生医療に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
齋藤 英彦(国立名古屋病院)
研究分担者(所属機関)
  • 高橋恒夫(東京大学医科学研究所細胞プロセッシング部門 教授)
  • 加藤俊一(東海大学医学部小児科 助教授)
  • 原 宏(兵庫医科大学輸血部 教授)
  • 直江知樹(名古屋大学大学院医学研究科臨床感染統御学 教授)
  • 高倉伸幸(金沢大学がん研究所細胞分化研究分野 教授)
  • 仲野 徹(大阪大学微生物病研究所遺伝子動態研究分野 教授)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究事業(再生医療研究分野)
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
43,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
(1)造血細胞移植における臍帯血移植のEBM(根拠に基づく医療)を確立する。
(2)臍帯血の特性を生かしつつその弱点を克服するため、臍帯血造血幹細胞の未分化性の維持/増幅、移植後の造血・免疫システムの早期再構築に関する研究を促進する。
(3)臍帯血や胎盤由来の間葉系細胞の基礎的研究を進め、臍帯血の有効利用により再生医療の適応を拡大する。
研究方法
(1)わが国で行われたすべての臍帯血移植の臨床成績を6ヶ月に一回の月例報告と年一回の詳細報告により追跡調査し詳細に解析すると共に、検体収集のシステムを確立し前向き登録による臨床研究を推進する。臍帯血移植における至適GVHD予防法の臨床研究を行う。
(2)造血幹細胞と血管内皮細胞の相互作用に焦点をしぼり、両者の接着と造血幹細胞の未分化性の維持に必要な分子機構を解明する。また臍帯血造血前駆細胞から巨核球系への分化動態を末梢血造血前駆細胞と比較する。臍帯血CD陽性細胞をマウスに移植して免疫システムの再構築を評価するモデルを確立する。
(3)間葉系細胞を遺伝子導入により不死化した後に造血支持能を維持しうるか検討する。
(倫理面への配慮)
GVHD予防に関する前向き無作為臨床試験にあたっては、各施設の倫理委員会の承認と患者および患者家族から十分なインフォームドコンセントを得て行う。臍帯血を研究目的で使う場合には、ドナーに研究目的、期間、プライバシーの保護などにつき説明し同意を得た上で実施する。
結果と考察
昨年に引き続き非血縁者間臍帯血移植の全国調査を行い456例の解析を行った。その結果、1)移植細胞数が4×107/kg以上ではそれ未満に比較して3年後の無病生存率が高い(41.3±4.0% vs 28.8±3.5%)、2)年齢別では16歳未満の群がそれ以上に比較して3年後の無病生存率が高い(36.4±3.1% vs 30.8±4.6%)、3)急性骨髄性白血病においても急性リンパ性白血病においても患者リスク(standard riskまたはhigh risk)は予後に大きく影響する、ことを明らかにした。ALLのstandard risk群(65例)の2年後の無病生存率は64%、high risk群では12%(97例)であった。この結果はALLのstandard risk患者に対しては臍帯血移植をFirst Choseとしてもよいことを明らかにしたものである。また270例の詳細な解析により,GVHD予防法として2剤以上使用した群は1剤群に比較して無病生存率がよいことを多変量解析により明らかにした。この結果は国際的にも新しいものである。この結果に基づいて、至適GVHD予防法を確立するための無作為割付臨床試験(サイクロスポリン+メソトレキセート群 100例とタクロリムス+メソトレキセート群 100例の比較)を開始した。
造血幹細胞の自己複製に重要な未分化性の維持は、血管内皮細胞との相互作用により支持されること、造血幹細胞上のTIE2の活性化により幹細胞の未分化性を個体内で誘導できることを示した。ヒト臍帯血前駆細胞からの巨核球への分化は末梢血前駆細胞からに比べて遅延した。また巨核球のDNA量を経時的にみると臍帯血からは末梢血に比較して多倍体化が少なかった。これらの結果は臍帯血移植後の血小板回復の遅延の一端を明らかにしたものである。
臍帯血移植後の免疫能の回復を骨髄移植やCD34陽性幹細胞移植と比較するとリンパ球総数の回復は良好であるが、CD4,CD8,CD19いずれの細胞群でも幼若な細胞を中心とした回複であった。そのためリンパ球の機能が低下していると考えられた。NOD/shi-scidマウスに臍帯血CD34陽性細胞を移植するin vivoの系を開発しB細胞再構築過程の解析を可能にした。またIL2受容体のcommon γ鎖をノックアウトしたNOD/scid-γc-/-マウスを用いて免疫系の再構築を解析するモデルを確立した。さらに臍帯血単核球よりNK細胞をIL15とFlt3Lを用いて5-10倍に増幅する方法を確立した。このNK細胞は末梢血中のものと同等の細胞障害活性を有するので移植後の抗腫瘍効果のために臨床応用可能である。
臍帯血の再生医療への適応を拡大する研究としては、ヒト間葉系幹細胞をレトロウイルスベクターSSR#69により可逆的に造血支持能をもちつつ不死化することが出来ることを示した。
結論
我が国における非血縁者間臍帯血移植の成績を集計、解析し「移植細胞数」、「患者リスク」と共に「GVHD予防法」が無病生存率に重要なこと、小児ALLに対しては臍帯血移植がFirst Choseになりうることを明らかにした。臍帯血中の造血幹細胞や免疫担当細胞の生物学的特性がさらに明らかになった。

公開日・更新日

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