血管新生と血管保護療法の開発に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100479A
報告書区分
総括
研究課題名
血管新生と血管保護療法の開発に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
永井 良三(東京大学大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 宮田哲郎(東京大学大学院医学研究科)
  • 山崎 力(東京大学医学部薬剤疫学講座)
  • 佐田政隆(東京大学医学部附属病院)
  • 森下竜一(大阪大学大学院医学系研究科)
  • 室原豊明(久留米大学循環器病研究所)
  • 上野 光(産業医科大学医学部)
  • 松原弘明(関西医科大学第二内科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究事業(再生医療研究分野)
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
40,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
血管新生は、虚血性心疾患、閉塞性動脈硬化症、癌、糖尿病性網膜症などの病態形成に密接に関与する。近年、この考えを基にして、血管再生や血管新生の面から難治性疾患に対する治療法が提唱されるようになった。血管新生・再生だけでなく、血管内皮保護も動脈硬化予防と循環障害改善に重要である。そこで本研究は、血管新生・再生・保護を制御する血管医学の展開をはかり、これを応用した虚血性心疾患、血行再建術後再狭窄、閉塞性動脈硬化症、心筋症、癌などに対する新しい治療法の開発を目的とする。本研究の成果は、虚血性疾患の患者の生命予後、QOLを改善すると考えられる。また、従来から行われてきたバイパス手術や経皮的血管形成術といった高額医療の代替療法として普及し、医療費の削減に貢献すると期待される。
研究方法
(1) 骨髄細胞移植による血管新生療法の臨床治験
外科的、内科的治療が無効なFontaine IVの重症下肢虚血疾患患者(45人)を対象にする。自己骨髄を500ml 採取したのち、単核球成分を分離し濃縮したのち、約10億個の細胞を虚血肢40箇所に筋肉内注射する。治療効果と副作用を検討する。
(2) 肝細胞増殖因子(HGF)遺伝子導入による血管新生両方の臨床治験
Fontaine Ⅲ-Ⅳ度の重症下肢虚血疾患患者(6名)を対象にする。ヒトHGF発現プラスミド(0.5mg+2mg+2mg)を3回に分けて虚血肢に筋肉内注射する。治療効果と副作用を検討する。
(3) 血管リモデリングにおけるBTEB2の役割の検討
BTEB2遺伝子欠損マウスを作製し、各種の血管リモデリングモデルを施す。血管傷害として大腿動脈のカフ留置、血管新生として下肢虚血、腫瘍移植モデルを用いる。更にアンギオテンシン II 持続投与モデルにおける心肥大、心線維化を検討する。また、BTEB2の機能を修飾する薬物療法を開発する。
(4) 薬物を用いた血管新生促進療法の開発
マウスの下肢虚血モデルにおいて、側副血流発達に対するスタチン系薬剤、インスリン抵抗性改善薬などの効果を検討する。
(5) Klothoを用いた血管保護療法の開発
Klothoを遺伝子もしくは組み換え型蛋白として投与し血管保護作用を検討する。
結果と考察
研究結果=
(1) 骨髄細胞移植による血管新生療法
室原と松原は、久留米大学、関西医科大学、自治医科大学の多施設で自己骨髄細胞移植療法を施行した。約70%の患者で有効性を認めている。現在までに45人中31人で下肢の血圧が1月後にトは10mmHg以上上昇し、トレッドミル歩行距離は約2.9倍以上増加し、下肢の疼痛は45人中39人で消失した。虚血部潰瘍の治癒は18人中11人でみられた。腓腹筋注射部位の炎症・浮腫は認めず、血中のVEGF・FGF濃度、単核球細胞数は変化しなかった。
(2) HGF遺伝子を用いた血管新生療法
森下は、HGF遺伝子によるヒト遺伝子治療臨床研究を2001年6月より開始し、現在までに6人の閉塞性動脈硬化症およびビュルガー病患者にヒトHGF遺伝子を投与した。血管の増強が確認される一方、全例で0.1以上のABI改善もしくは疼痛の改善においてもVASスケールで1cm以上の改善を認めている。一方で、VEGF遺伝子治療で見られた投与部位の浮腫は認められなかった。HGF遺伝子を用いた閉塞性動脈硬化症の治療は、現在までの成績ではVEGF遺伝子治療より有効性が高く、安全性に優れる可能性が示された。
(3) 遺伝子変異マウスを用いたBTEB2機能解析
永井はBTEB2遺伝子欠損マウスを解析した。BTEB2が血管のリモデリングをはじめとして免疫系、消化器系などの生体反応で重要な役割を担っていることを明らかにした。さらに、BTEB2の機能を修飾する薬物を同定した。
(4) 薬物を用いた血管新生療法
佐田と山崎は、スタチン系高脂血症治療薬が虚血後の血管新生を促進するものの、癌や動脈硬化に伴う病的血管新生は促進しないことを明らかにした。さらに、インスリン抵抗性改善薬が糖尿病マウスの血管内皮機能を改善させ側副血行路形成能を亢進させることを解明した。
(5) Klothoを用いた血管保護療法の開発
永井は、Klothoの遺伝子導入が血管内皮機能を改善することを明らかにした。
(6) 遺伝子導入した自己細胞移植による血管新生療法の開発
宮田は、アデノウイルスベクターを用いたex vivo法によるbFGF遺伝子の遺伝子導入による血管新生療法を開発した。前臨床試験として、治療に最適な移植細胞数を同定した。また、ブタの狭心症モデルにおいて、有意な側副血行路の発達と虚血部位における心機能の改善がえられることを明らかにした。
(7) 腫瘍血管新生抑制療法の開発
上野は、血管新生因子に対する可溶型受容体を用いた抗腫瘍血管新生療法を開発した。可溶型VEGF受容体が無効であった腫瘍では可溶型FGF受容体の導入により腫瘍発育がほぼ完全に抑制されることを明らかにした。
考察= 今年度の研究計画はほぼ達成できた。世界に先駆けて、骨髄細胞移植もしくは、HGF遺伝子を用いた血管新生療法の臨床試験を行った。いずれの治療法も安全で有効であることが明らかとなった。今後、長期成績を検討する。また、多施設での二重盲検試験を行い有効性を確認する。平滑筋細胞の脱分化に関与する転写因子として単離されたBTEB2が様々な臓器リモデリングに関与していることが明らかとなった。今後BTEB2を標的とした治療法を開発していく。
結論
虚血疾患の新規治療法として血管新生療法、血管保護療法を考案し、臨床試験を行った。有望な初期成績を得ており、今後の研究の進展が期待される。今後、心疾患治療への応用を計画する。

公開日・更新日

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