文献情報
文献番号
200100477A
報告書区分
総括
研究課題名
ハイブリッド型人工血管の作成(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
野一色 泰晴(横浜市立大学)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究事業(再生医療研究分野)
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
患者自身の治癒力を最大限に引き出すことによって、血管壁組織の自己形成を誘導する技術を開発し、この手法を活用して治癒力の低下した高齢者にも有利な治癒をもたらす小口径人工血管を開発することを、3年計画の本プロジェクトの目標としてとらえ、2年度である本年は、血管壁を患者自身の治癒力で形成させる方法、すなわち自然治癒力の人為的な誘導による血管の創成を臨床的に最も需要が高い虚血性心筋障害に使用可能な血管として、心筋内に創成する工夫をおこなう事を研究目標とした。
一般に虚血性心疾患に使用する血管は心室壁に沿う様に配置させて、冠状動脈へ吻合を行う。それには内胸動脈のような自己動脈が使用される。しかしながら臨床で求められているのは、このような手術的処置の不可能な部位に使用すべき血管であった。そこで我々は、虚血心筋への血流確保のための血管創成として、血管を創る部位を心筋内とした。
我々の基本的考え方は、「生体内環境」を活かし、幼弱で好奇心の旺盛な活動的細胞を用いて「生体内細胞培養」を行い、患者自身の体内で血管壁を創成させることである。世界中の研究者は幹細胞の使用を行っている。しかし、我々は生体内出大多数を占める成熟細胞に刺激を与えることによって、「成熟細胞の幼弱化現象Blastogenesis」を起こさせ、組織修復を行わせた。この時に細胞外マトリックスの形状を工夫することで、細胞の修復活動の方向性を誘導する、という、新しい考え方を導入した。本研究では管状物を創成するために、丸紐状のハイドロゲルを使用して、その外側に血管壁を構成する最も大切な細胞である血管内皮細胞を配列させるように誘導し、2週間で血管壁を形成させる事を試みた。
一般に虚血性心疾患に使用する血管は心室壁に沿う様に配置させて、冠状動脈へ吻合を行う。それには内胸動脈のような自己動脈が使用される。しかしながら臨床で求められているのは、このような手術的処置の不可能な部位に使用すべき血管であった。そこで我々は、虚血心筋への血流確保のための血管創成として、血管を創る部位を心筋内とした。
我々の基本的考え方は、「生体内環境」を活かし、幼弱で好奇心の旺盛な活動的細胞を用いて「生体内細胞培養」を行い、患者自身の体内で血管壁を創成させることである。世界中の研究者は幹細胞の使用を行っている。しかし、我々は生体内出大多数を占める成熟細胞に刺激を与えることによって、「成熟細胞の幼弱化現象Blastogenesis」を起こさせ、組織修復を行わせた。この時に細胞外マトリックスの形状を工夫することで、細胞の修復活動の方向性を誘導する、という、新しい考え方を導入した。本研究では管状物を創成するために、丸紐状のハイドロゲルを使用して、その外側に血管壁を構成する最も大切な細胞である血管内皮細胞を配列させるように誘導し、2週間で血管壁を形成させる事を試みた。
研究方法
前述の研究思想に従って、我々は心筋組織内に血管を創ることを行った。具体的方法は、心筋組織内に16ゲージから14ゲージ程度の太めのエラスター針を挿入し、それを介して心筋組織内へ、ヒアルロンサンで作成したゲルの紐を挿入した。このゲルを留置すると、ゲル周囲に管腔が形成される。この時管腔形成に動員される細胞の多くは血管内皮細胞である。したがって、自然に血管腔ができるという設計である。しかしながら、この時の血管内皮細胞の活動を阻害することなく、管腔形成を行うために、ヒアルロンサンの持つべき性質を定め、さらに血管内皮細胞によって管腔形成が完成した後には、ヒアルロンサンのゲルが消失するような条件設定も行った。
結果と考察
前述したように、私どもは組織内の細胞の持つ特殊性を活用して血管を創成する方法を考案した。その結果、世界に先駆けて、心筋組織内に人為的に血管を創成するための基本的考え方を作り上げることができた。具体的には血管を創成させる組織を心筋とした。心臓の特異的な構造として心内膜及び心外膜付近には、結合組織が多くて、無数の線維芽細胞や平滑筋細胞などが有るが、心筋の内部に於いて最も多い細胞は心筋細胞である。次に多いのは心筋細胞に栄養を与えるために発達した毛細血管を構成する血管内皮細胞である。このような細胞構成である心筋の壁内に於いて、もしも障害が起きると、最初に組織修復に動員される細胞は血管内皮細胞である。心筋が傷つくと、血管も傷つき、これによって、前述したBlastogenesisが惹起される。従って、無数の内皮細胞が組織修復に動員される。ここではVEGF等のGrowth factorを使用する必要はない。この点が前述した細胞の特異性の差違を活用している新しい方法である。ただし、無秩序にそれらが動いていては、瘢痕組織への治癒と言う道筋にそって組織修復が進む。つまり血管はできない。そこで、私どもは、この動きを制御して、血管壁を作らせる方法を開発した。すなわち、自然治癒の人為的誘導による組織の創成である。これによって、心筋組織内に、自由自在に、内径1mmから4mm程度の血管を創成させる原理をうち立てることに成功した。
その考え方は前述したとおりTissue Engineeringの原則から考えついた方法である。すなわち、心筋内には心筋細胞とそれを養う毛細血管がある。前者は細胞分裂や遊走を行わないので、心筋が障害を受けたときには組織修復にかり出されない。しかしながら、後者には血管内皮細胞が多くあって、それらは組織修復のために遊走し細胞分裂を活発に行う。したがって、心筋内で障害を人為的に起こすことで内皮細胞をかり出すことが可能となる。さらには、心筋が障害を受けると、心筋細胞や内皮細胞が多量の細胞成長因子を出す事が知られている。したがって、組織工学の3要素である、細胞、成長因子、の二つはそろっている。残りは細胞外マトリックスである。そこで、管腔形態を維持した筒状のマトリックスを心筋内に人為的に作るため、我々はヒアルロンサンのゲルの紐を使用した。この処置によって、ヒアルロンサンが1週間ほどで分解され吸収される過程において、ヒアルロンサンの周辺に遊走してきた内皮細胞が管腔の内面を覆って、新たな血管ができる。実際にイヌを用いた実験では、意図したとおりの血管腔を作らせることに成功した。
世界中の主な研究者の考え方は、生体の外で、細胞培養技術を駆使して、組織や臓器を創り上げる事に研究の方向性をおいている。しかしながら、我々は生体内という、細胞にとって極めて有利な環境を活用することで、生体内での組織や臓器の創成を行う工夫を行ってきた。一般に、生体内では、生体外に比べて種々の条件の設定が難しい。したがって、人為的に環境を操作するには、生体外の細胞培養が容易である。しかしながら、生体内環境は体外では今日の科学技術では得られない特殊で安定した状況を創り出しているので、我々はそれを積極的に活用し、生体現象を人為的に誘導する事を考えている。これがin vivo tissue engineeringである。このような考え方の創成によって、それが広く一般的に使用可能と思われる。そして我々はその考え方が如何に素晴らしいかを見せつけるためにも、この度のプロジェクトで、優れた成果を世のヒトに見せつける予定である。
本年度は、当初の計画ではハイブリッド型の「人工血管を創る」であったところを、「人工的に血管を創る」に変更した。しかしながら、その基本的考え方、手法、その他には変更はない。その基本的考え方はin vivo tissue engineeringである。
その考え方は前述したとおりTissue Engineeringの原則から考えついた方法である。すなわち、心筋内には心筋細胞とそれを養う毛細血管がある。前者は細胞分裂や遊走を行わないので、心筋が障害を受けたときには組織修復にかり出されない。しかしながら、後者には血管内皮細胞が多くあって、それらは組織修復のために遊走し細胞分裂を活発に行う。したがって、心筋内で障害を人為的に起こすことで内皮細胞をかり出すことが可能となる。さらには、心筋が障害を受けると、心筋細胞や内皮細胞が多量の細胞成長因子を出す事が知られている。したがって、組織工学の3要素である、細胞、成長因子、の二つはそろっている。残りは細胞外マトリックスである。そこで、管腔形態を維持した筒状のマトリックスを心筋内に人為的に作るため、我々はヒアルロンサンのゲルの紐を使用した。この処置によって、ヒアルロンサンが1週間ほどで分解され吸収される過程において、ヒアルロンサンの周辺に遊走してきた内皮細胞が管腔の内面を覆って、新たな血管ができる。実際にイヌを用いた実験では、意図したとおりの血管腔を作らせることに成功した。
世界中の主な研究者の考え方は、生体の外で、細胞培養技術を駆使して、組織や臓器を創り上げる事に研究の方向性をおいている。しかしながら、我々は生体内という、細胞にとって極めて有利な環境を活用することで、生体内での組織や臓器の創成を行う工夫を行ってきた。一般に、生体内では、生体外に比べて種々の条件の設定が難しい。したがって、人為的に環境を操作するには、生体外の細胞培養が容易である。しかしながら、生体内環境は体外では今日の科学技術では得られない特殊で安定した状況を創り出しているので、我々はそれを積極的に活用し、生体現象を人為的に誘導する事を考えている。これがin vivo tissue engineeringである。このような考え方の創成によって、それが広く一般的に使用可能と思われる。そして我々はその考え方が如何に素晴らしいかを見せつけるためにも、この度のプロジェクトで、優れた成果を世のヒトに見せつける予定である。
本年度は、当初の計画ではハイブリッド型の「人工血管を創る」であったところを、「人工的に血管を創る」に変更した。しかしながら、その基本的考え方、手法、その他には変更はない。その基本的考え方はin vivo tissue engineeringである。
結論
組織内の細胞の持つ特殊性を活用して血管を創成する方法を考案した。具体的には、冠動脈をそのターゲットとして選び、血管を創成させる場としては心筋を選択した。心臓の特異的な構造として、心筋の内部に於いて最も多い細胞である心筋細胞が再生しないことに着目し、心筋細胞周囲にある毛細血管を構成する血管内皮細胞を組織修復に動員させた。心筋を人為的に傷をつけることによって、内皮細胞のBlastogenesisが惹起させ、心筋組織の構造的特異性を活用することで結果的に自然に血管壁を作らせる方法を開発した。すなわち、自然治癒の人為的誘導による組織の創成である。これによって心筋組織内に、自由自在に、内径1mmから4mm程度の血管を創成させる原理をうち立てることに成功した。
最終年度には実際にヒトの臨床に於いて使用可能であるかどうか、その効果がどのように予測されるかと言った、臨床応用のための詳細な条件設定を、犬などの比較的大きな動物を用いて明らかにしてゆく予定である。
最終年度には実際にヒトの臨床に於いて使用可能であるかどうか、その効果がどのように予測されるかと言った、臨床応用のための詳細な条件設定を、犬などの比較的大きな動物を用いて明らかにしてゆく予定である。
公開日・更新日
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