組織工学技術を用いた骨・軟骨の再生に関する研究(総括・分担研究報告書)

文献情報

文献番号
200100476A
報告書区分
総括
研究課題名
組織工学技術を用いた骨・軟骨の再生に関する研究(総括・分担研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
上田 実(名古屋大学大学院医学研究科頭頸部・感覚器外科学講座顎顔面外科学)
研究分担者(所属機関)
  • 畠 賢一郎(名古屋大学医学部組織工学講座)
  • 鳥居修平(名古屋大学医学部形成外科)
  • 小林 猛(名古屋大学大学院工学研究科生物機能工学専攻生物プロセス工学講座)
  • 高井 治(名古屋大学大学院工学研究科材料プロセス工学専攻)
  • 小林 一清(名古屋大学大学院工学研究科生物機能工学専攻生体材料工学講座)
  • 木全 弘治(愛知医科大学分子医科学研究所)
  • 春日 敏宏(名古屋工業大学工学部材料工学科ハイブリッド機能機構学講座)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究事業(再生医療研究分野)
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
40,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢者の多くは何らかの身体機能の障害を抱えており、組織移植や人工材料による再建治療を必要とすることが多い。なかでも運動機能の障害は高齢者のQOLに深刻な影響を与えるものとして重視されている。これに対し、現状では人工関節置換術が行われているが、金属イオンの溶出、感染、ゆるみなどの理由で人工関節の耐用年数は10年が限界と考えられている。一方、ヒト凍結乾燥骨の骨再生能力はその有効性が認められているものの、わが国での利用はドナー不足、法規制等の理由でほぼ不可能な状況にある。かかる状況下で、近年注目されているティッシュエンジニアリング技術を用い、自家あるいは同種の骨移植にかわりうる、新しい人工骨あるいは軟骨材料を開発し臨床応用に至る道筋を拓くことが本研究課題の主眼である。以下、本研究の具体的目標として、骨、軟骨組織に分けて述べる。
骨:整形外科または顎顔面外科においては欠損した骨の再建を日常臨床として行っている。現在までの研究により骨形成能を有する細胞を培養増殖することが可能となり、これらを用いた人工骨への可能性は高い。したがって本研究課題としては、これらマトリックスの開発を含めた細胞の移植方法の確立が主なテーマである。
軟骨:現在までに軟骨形成能を有したままでの軟骨細胞の大量培養法は確立されていない。これは軟骨細胞の分化と増殖の制御が困難であることに由来する。本研究ではその前半でこれら軟骨細胞の大量培養法を試みる。その方法としてはバイオリアクターを用いた培養や、メカニカルストレス下での培養を試みる。またこれら培養軟骨細胞を種々のマトリックスを用いて生体に移植し、関節軟骨を作成する。
さらに、未分化間葉系細胞(MSC)を分離し、それらを骨および軟骨に分化させる因子の解明を行っていく。本研究の成果いかんでは、推定1000万人ともいわれる重症骨系統疾患患者の運動機能の回復に大きく貢献すると確信する。また本研究では最終的に臨床応用することを強く意識し、臨床現場で有効かつ使用が簡便な材料形状を念頭に置いた人工骨の開発を目指すことを付言したい。
研究方法
名古屋大学大学院医学研究科顎顔面外科学講座(上田)において、MSC移植に用いるマトリックスの検討を、分子生物学的手技を用いて解析する。また、注入型骨の開発やその臨床応用として口腔外科的に、インプラント治療や歯周病における応用へも広げていく。MSC分離解析に関する研究は名古屋大学医学部組織工学講座(畠)でautoMACSを用い、分離培養を行う。また、超音波刺激(15 mW/cm2)および伸展ストレス(10 %)が細胞機能におよぼす影響を検索し、人工骨、軟骨作製のためのメカニカルストレスの有用性を明らかにすることを目的として実験を行う。一方、名古屋大学医学部形成外科学講座(鳥居)において軟骨作製に関わる、組織マトリックスの検討や実際の臨床応用を視野に入れた検討を行っていく。軟骨作製においてもメカニカルストレスの影響があることが考えられ、細胞変化における観察項目は、細胞の増殖能変化に加え、コンドロカルシン量、ムコ多糖量などを中心とした軟骨マーカーを指標に観察する。名古屋大学大学院工学研究科生物機能工学専攻生物プロセス工学講座(小林猛)において細胞の大量培養システムの確立を念頭においた、バイオリアクターの開発を行う。また、バイオリアクターを稼働させ、骨芽細胞および軟骨細胞の分化および増殖制御を検討する。名古屋大学大学院工学研究科材料プロセス工学専攻(高井)では新しい骨組織マトリックスの作成を検討し、名古屋大学大学院工学研究科物質制御工学専攻(小林一清)培養器の表面性状の改良という点で共同研究を行っていく。愛知医科大学分子医科学研究所(木全)では軟骨の基質マーカーの分子生物学的研究を詳細に行い、細胞分化の評価を行っていく。注入型骨作製に関するマトリックスの改良および開発は、名古屋工業大学工学部材料工学科ハイブリッド機能機構学講座(春日)において注入型骨作製に関わる新規マトリックスの開発を行う。
結果と考察
MSCに関する研究では、ヒト骨髄液からの分離、培養に関しては以前より成功をしており、さい帯血、ヒト末梢血中に存在するごく少量のMSCの採取、分離、培養技術に関して実験を試みている。CD29, 44, 73, 105, 166 positive抗体、CD14, 34, 45をnegative抗体としてマグネットビーズを付け、autoMACSによる分離法を行い、さい帯血、末梢血中に存在する微量なMSCを単離、濃縮することが可能となった。しかし、それらのとれた細胞からの十分な細胞増殖や骨芽細胞への分化能が得られておらず、更なる培養方法の検討が課題である。また、骨髄MSCに関しては、より効率的かつ大量採取する方法、培養条件下における骨芽細胞への分化促進の方法、移植に用いるマトリックスの検討を加え、より効率的な骨形成率実現のために実験を試みた。細胞外マトリックスとしてfibrinogen, Type I collagen, fibrinogen+ Type I collagen ディッシュ上で培養し、骨形成マーカーであるALP, osteocalcin, BMP-2, CBFA-1遺伝子により、骨形成能をRNAレベルで比較検討した。その結果、ALPにおいてはコントロールに比べてfibrinogenはおよそ2倍,osteocalcinはfibrinogen+ Type I collagenで約10倍,CBFA-1ではfibrinogen, Type I collagen, fibrinogen+ Type I collagenそれぞれコントロールに比べ3倍,6倍,12倍に骨形成能をあげることがわかった。また低出力超音波(US)や伸展刺激が細胞機能におよぼす影響を検索し、人工骨、軟骨作製のためのメカニカルストレスの有用性を明らかにすることを目的として実験を行った。その結果、伸展刺激およびUSを付加したものは対照群と比較してALP活性、細胞内カルシウム蓄積量、各種骨基質マーカーが上昇しており、骨芽細胞へ分化傾向にある細胞にとって、伸展刺激およびUSが何らかの
影響により分化を促進する効果がある事が示唆された。新しい注入型マトリックスを用いた骨補填剤の開発では、注入可能な骨形成マトリックスを作製し、ここにMSCを加え移植する検討を行っている。マトリックスには多血小板血漿(PRP)を用い、MSCより分化誘導した骨芽細胞を同時に投与することによって十分な骨形成が得られている。今後骨作製時おける血管が入りやすい基材や臨床応用に適した流動性を持つような新たな材料学的検討を行っていく予定である。軟骨再生に関する研究においても、超音波を15 mW/cm2一日10分間1週間かけた群で軟骨マーカーであるコンドロカルシン量やムコ多糖の量などが上昇する傾向にあった。今後、MSCからの軟骨作製時にも、超音波刺激によるより高性能な組織を作製する検討を行っている。
結論
今年度の実験結果により、高性能な骨および軟骨作製に関する有利な条件検討ができ、よりよい移植材料作製に関する指針を開発することができた。注入型マトリックスとしてよりよい骨形成能をもつ基材についての検討を続けていくことにより、臨床応用に向けた改良を進めたい。これらのことはMSCからより早く、またより多くの組織を作製することを目標に、パッケージングも含めこれら改良に着手する。具体的には、骨、軟骨形成率や分化度などを指標に、各種生理活性物質やサイトカイン類、細胞外マトリックス、メカニカルストレス刺激などの影響について本格的に検討を行う。
また、口腔外科的に、インプラント治療の治癒期間短縮への応用も考慮にいれて行き、より臨床応用を視野にいれていくこととする。また,歯周病における応用へも広げて行くよう研究を進めることとしている。

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