自家修復能力を用いた軟骨欠損の修復法の確立

文献情報

文献番号
200100472A
報告書区分
総括
研究課題名
自家修復能力を用いた軟骨欠損の修復法の確立
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
糸満 盛憲(北里大学)
研究分担者(所属機関)
  • 馬渕清資(北里大学)
  • 岩本幸英(九州大学)
  • 石黒直樹(名古屋大学)
  • 越智光夫(島根医科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究事業(再生医療研究分野)
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
40,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
(1)マイクロ波を用いた骨加温技術の開発:同種骨は人工骨に比べ骨誘導能に優れているが、ウイルスや細菌などの感染性疾患の伝播の危険を有する。また従来の滅菌処理方法では、骨誘導能を損なう可能性がある。本研究の目的は、マイクロ波加温装置を用いて不定形の骨を均一に加温する条件を検討し、適切な加温技術を確立し、骨誘導能を維持しつつ感染性疾患の伝播の可能性のない同種骨の滅菌法を実用可能とすることである。(2)自家修復能力を用いた軟骨欠損の修復法の確立:変形性膝関節症、慢性関節リウマチ,外傷、腫瘍切除術によって生じる骨軟骨欠損を同種あるいは自家骨軟骨組織片移植にて修復する試みがなされているが、いまだ不十分な点が多い。一方自家軟骨細胞により補填修復する試みは、関節軟骨から軟骨組織を採取する必要があること、軟骨細胞の単層培養では細胞の形質の維持が困難であること、また移植時に移植細胞が流出する可能性があることなどの問題がある。本研究の目的は、組織工学的手法を用いてコラーゲンゲルやポリグリコール酸などの鋳型に軟骨細胞あるいは軟骨細胞の前駆細胞を三次元的に培養し、必要とされる大きさや形状の軟骨組織を作製し、欠損部に移植することで自家細胞による軟骨欠損を修復する方法を確立することである。
研究方法
(1)マイクロ波を用いた骨加温技術の開発:マイクロ波誘電加温装置を用いて牛骨を加温し、骨内の温度分布を測定することにより、ウイルスの不活化、殺菌の温度条件、均一に加温するための制御方法を設定する。また温度分布の測定結果をもとに、有限要素法によりマイクロ波磁場における骨の加温状況を数値解析し、さまざまな形状や大きさの骨における処理条件を求める。最終的には温度制御可能なマイクロ波加温処理技術を確立し、加温処理装置を実用化するためのプロトタイプを作製する。(2)自家修復能力を用いた軟骨欠損の修復法の確立:(I)まず適切な担体を用い、動物及びヒトの軟骨細胞あるいは軟骨前駆細胞の三次元培養法を確立する。担体としてコラーゲンゲル、ポリグリコール酸、生体吸収性ポリマー、II型コラーゲンスポンジを用いる。移植細胞としては、動物(ラット、ウサギ)やヒトの軟骨細胞、骨髄由来未分化間葉系細胞、臍帯血由来未分化間様系細胞、遺伝子導入した細胞などを三次元培養する。これらの培養細胞が軟骨の形質を表現することを検討するために、軟骨基質蛋白の発現をmRNA及び蛋白レベルで評価する。評価にはpolymerase chain reaction (PCR)法、ノーザンブロット法、免疫組織化学的方法などを用いる。また軟骨細胞あるいは軟骨細胞に分化しうる細胞を、成長因子、ホルモン、ヒアルロン酸などの生化学的因子や、静水圧、超音波などの物理学的因子を加えることで効率的に増殖、分化させ、またこれらの細胞の細胞外基質産生を促進させ、適切な担体の中で軟骨様組織を形成させる。次に生体における移植軟骨の有効性を検討する。動物の骨軟骨欠損モデルにこれらの軟骨様組織を移植し、移植組織の短期及び長期の力学的及び生化学的特性を評価する。評価にはpolymerase chain reaction (PCR)法、ノーザンブロット法、免疫組織化学的方法などと、各種の力学試験機を用いる。最後にヒトの外傷性あるいは離断性骨軟骨炎による軟骨欠損に対して、適切な自家細胞と適切な鋳型を用いた移植軟骨様組織による移殖実験を行い、その有用性を検討する。
(II) CRYBP1およびFPM315に対するポリクローナル抗体を用いて、初代培養軟骨細胞、骨髄由来未分化間葉系幹細胞、未分化間葉系細胞ATDC5での蛋白発現を調べる。また、人工関節置換術の際に切除した変性関節軟骨を採取し、ホルマリン固定後パラフィン包埋し、組織切片を作成、免疫染色によるCRYBP1およびFPM315の発現パターンの解析を行う。また、アデノウイルスベクターにCRYBP1、FPM315 cDNAを組み込み、発現ベクターシステムを構築する。これらを軟骨細胞や各種細胞株に感染させ、導入効率と遺伝子発現を調べる。
(倫理面への配慮)
動物実験に関しては、動物実験規則(各大学の動物実験指針)に沿い、実験操作に関しては動物に不必要な不安や苦痛を与えないよう取り扱いに注意する。また、ヒトの組織細胞を扱う場合には病院内の倫理委員会の承認を得て(各大学医学部・病院の研究倫理基準)、提供者の自由意思による同意を得て行う。
結果と考察
(1)マイクロ波を用いた骨加温技術の開発:平成12年度は民生用電子レンジと電力調節器を組み合わせ、温度調節が可能なシステムを構築した。生理食塩水により加湿することで、海綿骨と皮質骨が別々であれば、温度を均一に近づけることができた。しかし、民生用電子レンジは低出力のコントロールに限界があるため、海綿骨と皮質骨の温度を同時に均一化する事はできなかった。平成13年度は既成の工業用のマイクロ波加熱装置に変更した。その結果、骨全体の温度を均一にする事ができる処理条件をほぼ確立した。また有限要素法によりマイクロ波磁場における骨の加温状況をシミュレーションしたところ骨が中心より温められていることを確認できた。今後は温度制御可能なマイクロ波加温処理技術をさらに確立し、骨処理に最適な加温処理装置を実用化するためのプロトタイプを作製する。プロトタイプを使用し、ヒトの骨での評価を行う。また骨の温度分布の測定結果を基に、有限要素法によりマイクロ波磁場における骨の加温状況を数値解析し、様々な大きさ・形状・性状の骨における処理条件を求める。本研究により、骨誘導能があり感染性疾患の伝播の危険のない同種骨の供給が可能となる。またこの加温処理方法は、悪性腫瘍の手術時における腫瘍細胞を消滅させる加温処理にも応用可能である。(2)自家修復能力を用いた軟骨欠損の修復法の確立:1)ヒト及び動物の軟骨細胞のアテロコラーゲンゲル内での三次元培養法を確立した。動物の軟骨細胞では、ヒアルロン酸やbasic fibroblast growth factor(bFGF)などのサイトカインや超音波照射が移植組織の質的向上をもたらすことを確認した。また単層培養と三次元培養の適切な組み合わせ方法を確認した。2)ウサギの骨髄より未分化間葉系細胞を単離し、軟骨細胞への分化誘導を確認し、三次元培養にて軟骨組織作製のための適切な細胞密度を確認した。3)生体分解性ポリマー及びII型コラーゲンスポンジにて軟骨細胞を培養し、軟骨細胞の形質が維持されることを確認した。4)完全長SOX9 cDNAを骨髄由来未分化間葉系細胞に遺伝子導入し、この細胞が分化し軟骨の細胞外器質を発現、産生することを確認した。5)臍帯血由来未分化間葉系細胞が単層培養にて軟骨細胞に分化しうることを確認した。6)CRYBP1,FPM315は正常軟骨では発現せず、変性した軟骨にて強く発現すること確認した。7)アデノウイルスベクターを用いCRYBP1,FPM315遺伝子を軟骨細胞で強制発現させると、ほとんどの細胞が形質を失い細胞死にいたることがわかった。以上のことより、軟骨細胞の形質を維持しうる三次元培養法が確立された。また三次元培養された移植材料の質を向上させる培養条件が明らかとなった。軟骨細胞以外では、骨髄由来未分化間葉系細胞、臍帯血由来未分化間葉系細胞、SOX9を遺伝子導入した骨髄由来未分化間葉系細胞が細胞移植に使用可能であることが確認された。三次元培養を行う鋳型としては、アテロコラーゲン以外に、生体分解性ポリマー、II型コラーゲンスポンジが使用可能であることが確認された。これらの細胞、鋳型、細胞条件を使用することで、関節軟骨をドナーとして使用することなく、骨軟骨欠損を修復しうる新しい方法が確立しうる可能性が示された。またCRYBP1, FMP315が軟骨の変性に関わる可能性が明らかとなり、軟骨欠損部を自家細胞で修復する際、これらの転写因子の発現を調節することで修復軟骨の変性を予防しうる可能性が示された。
結論
(1)マイクロ波を用いた骨加温技術の開発:本年度は工業用のマイクロ波加熱装置に変更することで、性質、形状の異なる骨全体の温度を均一にする事ができる処理条件をほぼ確立した。(2)自家修復能力を用いた軟骨欠損の修復法の確立:本年度の研究により、軟骨細胞の三次元培養法が確立された。骨髄由
来未分化間葉系細胞、臍帯血由来未分化間葉系細胞あるいはSOX9を遺伝子導入した骨髄細胞が軟骨欠損の修復に活用できることが示された。また細胞培養の鋳型として、生体分解性ポリマー、II型コラーゲンスポンジの有用性が検討された。また転写因子CRYBP1とFPM315の発現を調節することで修復軟骨の変性を予防しうる可能性が示された。

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