ヒト肝組織からの肝幹細胞分離・同定及び分化誘導と肝不全治療(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100468A
報告書区分
総括
研究課題名
ヒト肝組織からの肝幹細胞分離・同定及び分化誘導と肝不全治療(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
山岡 義生(京都大学)
研究分担者(所属機関)
  • 塩田浩平(京都大学)
  • 三高俊広(札幌医科大学)
  • 猪飼伊和夫(京都大学)
  • 廣瀬哲朗(京都大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究事業(再生医療研究分野)
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
正常機能を持つヒト肝細胞の供給源の開発とその臨床応用をめざし、ヒト肝組織から小型肝細胞や肝幹細胞を分離・同定し、これらの細胞を成熟肝細胞へ分化誘導させ、肝不全の治療に有効であるかを検討することを主たる研究目的とする。本研究1年目の当該年度は実験動物での検討を中心として、ラット小型肝細胞の分化誘導、凍結保存方法の確立、マウス成体肝に存在する肝幹細胞の同定・分離・精製、およびヒト正常肝組織からのヒト小型幹細胞・肝幹細胞の同定・分離を目標とした。
研究方法
(1)ラット小型肝細胞の分化・成熟化誘導およびその凍結保存実験では成熟雄ラットから肝構成細胞を分離後、laminin, fibronectin, type IV collagen, mixture of laminin and type IV collagen, Matrigel等の細胞外基質やTGFβ, basic FGF, bNGF, PDGF等の増殖因子を加えつつ小型肝細胞コロニーの培養をおこなった。tryptophan dioxygenase (TO), fibrinogen, carbamoylphosphate synthetase (CPS) I, transferrin,などの肝成熟マーカーや HNF4α, HNF6, C/EBPα 蛋白質などの肝細胞特異的転写因子発現で分化・成熟化検討を、PCNA蛋白質の発現で増殖能の検討を行い、さらに電子顕微鏡にて超微形態も検討した。CellBankerを用いて小型肝細胞を-80度で長期間保存し、さらに急速解凍後の培養により、接着したコロニー数、コロニーの増殖率、albuminの分泌能、肝成熟マーカー蛋白質産生、超微形態を凍結前と比較検討した。(2)マウス成体肝組織からの肝幹細胞分離・同定・分化誘導実験では、分離した成熟マウス肝非実質細胞分画を低酸素浮遊培養させることで、成熟肝細胞の除外された細胞集塊が採取された。その細胞コロニーの特性は免疫染色やWestern blot 法での蛋白発現、RT-PCRによるマーカー発現で確認し、肝幹細胞同定後には分化誘導培地での長期培養を行い、肝成熟化マーカー発現および電子顕微鏡による超微形態観察にて成熟化の有無を検討した。一方クローナルな肝幹細胞解析のために、肝内の内胚葉系細胞に強くgreen fluorescent protein(GFP)を発現するマウスを用いて、細胞の大きさとGFP強度を指標にしてフローサイトメトリーによる肝幹細胞分離を行い、その特異的表面マーカーを検討した。(3)京都大学医学部付属病院で肝腫瘍のため肝切除を施行された症例において、「京都大学医学部医の倫理委員会」の承認のもと腫瘍に付随する正常部肝臓組織からのヒト肝前駆細胞分離を試みた。さらにアルファフェトプロテイン、アルブミン、サイトケラチン19等の発現をRT-PCR法や細胞免疫染色法で検証し、肝幹細胞の同定及びその多分化能を検討した。
結果と考察
(1)Matrigelの投与によりラット小型肝細胞は3次元構築を伴って索状構造を形成し、さらに背丈の増加・細胞質の大型化・豊富な細胞質顆粒や発達した毛細胆管構造など成熟分化形態を示すとともにTO、fibrinogen、CPS I、transferrin、HNF4α、HNF6、 C/EBPα 等の分化マーカー発現も増加した。一方、Laminin、Fibronectin、type IV collagen、mixture of laminin and type IV collagen投与では小型肝細胞による3次元構築は誘導されなかったが、分化マーカーのTO蛋白質の発現は増加した。PCNA蛋白質発現による増殖能検討では、Matrigel投与では増殖能が抑制されたが、その他の細胞外基質の投与では変化はなかった。増殖因子に関しては、TGFβが0.1 ng/ml 以上の濃度では小型肝細胞の増殖を抑制し、1 ng/ml以上では細胞死を誘導したが、その他の増殖因子では3次元構築・分化マーカー発現・増殖能に変化はなか
った。小型肝細胞の保存方法の開発に関しては、単細胞状態の小型肝細胞では不可能な-80度凍結保存が、コロニー状態で保存することで長期凍結保存が可能となった。凍結解凍後の生着率は約60%であり、最長90週凍結保存後もその増殖能・アルブミンの産生能・他の蛋白産生能が維持されていた。(2)成体マウス肝臓の肝非実質細胞分画細胞を低酸素条件下で数時間浮遊培養させることにより混入した成熟肝細胞を除外しつつ、未分化内胚葉細胞マーカー陽性で上皮様形態を示す細胞コロニーが採取できた。このコロニーを分化培地で培養すると、培養初期に混入していたクッパー細胞・血管内皮細胞・星細胞が消失していく一方、アルブミン、サイトケラチン19単独陽性のコロニーが出現し、さらに成熟肝細胞特異的遺伝子発現も認めた。形態学的にも2核細胞の出現や細胆管の形成、電子顕微鏡での細胞内顆粒の増加およびtight junctionやmicrovilliの存在からも肝細胞への成熟化が確認され、この上皮様形態を示すコロニー中における幹細胞の存在が示唆された。次いで、クローナルな解析を目的として、肝臓では内胚葉系細胞に強くGFPを発現するGFPトランスジェニックマウスから細胞の大きさとGFP発現を指標として肝幹細胞分離を試みた。肝非実質細胞分画(SSC low)中でGFP強発現群のみをフローサイトメトリーで細胞分離・培養すると、形態学的に未分化内胚葉系細胞に類似したアルファフェトプロテイン陽性細胞が分離された。この細胞一つ一つからアルブミン、サイトケラチン19単独陽性細胞やそれらを共発現する細胞が出現・増殖すること、分化成熟細胞出現後にも元と同じサイズとGFP発現を示す内胚葉系細胞が存在したことから、多分化能・自己複製能を有する肝幹細胞と考えられた。さらにこのGFP high, SSC low細胞表面抗原解析から肝幹細胞特異的な表面抗原に関する知見が得られつつあり、細胞表面抗原を用いたヒト肝幹細胞分離への応用が期待できる。(3)マウス成体肝幹細胞採取と同様の手法を用いてヒト検体正常部肝臓からも形態学的に類似した細胞の採取がされ、培養後の免疫染色ではアルファフェトプロテイン、アルブミン、サイトケラチン19が陽性であることから、肝幹細胞に相当する細胞がヒト検体正常部肝組織からも採取可能であることが示唆された。
結論
ラット小型肝細胞の増殖と分化・成熟化は肝非実質細胞の産生する細胞外基質により調整され、基底膜様構造・成分の存在下で成熟化する。さらに小型肝細胞は、増殖能・分化能を維持しながら長期間凍結保存可能で、解凍後にも増殖可能である。マウス成体肝から自己複製能および肝細胞・胆管細胞への分化能を有する肝幹細胞を効率よく分離・同定することが可能となった。肝幹細胞を分化誘導培地で培養することにより成熟肝細胞特異的遺伝子発現の誘導が可能となるとともに、ヒトでの肝幹細胞を分離するために必須である肝幹細胞特異的表面抗原に関する知見が得られつつある。以上の結果及び平成14年度に予定している肝細胞の分化・増殖のマスター遺伝子解析とともにの解明は、ヒト肝幹細胞の効率的な成熟肝細胞分化誘導法の確立や我々が本研究で同時に進めているヒトES細胞からのヒト肝幹細胞・ヒト成熟肝細胞への分化誘導法の確立に寄与すると期待される。

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