遺伝子解析研究・再生医療等の先端医療分野における研究の審査及び監視機関の機能と役割に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100467A
報告書区分
総括
研究課題名
遺伝子解析研究・再生医療等の先端医療分野における研究の審査及び監視機関の機能と役割に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
白井 泰子(国立精神・神経センター精神保健研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 丸山英二(神戸大学大学院法学研究科)
  • 徳永勝士(東京大学大学院医学系研究科)
  • 吉田輝彦(国立がんセンター研究所分子腫瘍学部)
  • 玉腰暁子(名古屋大学大学院医学研究科)
  • 佐藤恵子(国立がんセンター中央病院)
  • 掛江直子(国立精神・神経センター精神保健研究所)
  • 武藤香織(北里大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究事業(生命倫理分野)
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
7,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
20世紀後半に開始されたヒトゲノム・遺伝子解析研究の驚異的な進展が生命科学、医学研究、医療ケアの発展や新しい産業の育成に多大な影響を及ぼすことを見通して文部科学省・厚生労働省・経済産業省は「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する指針」を平成13年3月に策定した。当該指針では、倫理審査委員会に対して、被験者および資料提供者等の人権尊重とプライバシー保護という観点からの研究審査とその監視という重大な責務を課している。本研究では、当該分野の研究実施における倫理審査委員会制度のあり方に関する提言策定の一助として、(1)倫理審査委員会の役割および機能の分析、(2)3省指針に内在する問題点の検討、(3)日本の倫理審査委員会の現状把握および審査の在り方、の3点について検討することとした。
研究方法
(1)「倫理審査委員会の役割および機能に関する研究]では、関連資料等の分析を通じて米国における倫理委員会の系統・起源及び役割に対比させる形で日本の倫理委員会の抱えている問題を明らかにすると共に、米国において設置主体の異なる施設内倫理委員会の実務的運営状況について実地調査を行った。また、倫理審査委員会ガイドブックの作成に向けて英米の関連資料の検討に着手した。(2)「3省指針に内在する問題点の検討」では、指針策定過程で提出されたパブリック・コメントの内容分析や世界医師会の「ヘルシンキ宣言」(エジンバラ修正 2001年10月)等の関連する国際指針との対応関係の検討を通じて、倫理指針としての妥当性や指針の策定手続き、運用上の問題点等について検討した。(3)「日本の倫理審査委員会の実状把握および審査の在り方」では、全国2,244施設を対象としたアンケート調査を実施すると共に、倫理審査委員会の運営等に関する聴き取り調査を開始した。また、倫理審査委員会での審査に際して提出する研究計画書の雛型の提示を目指して、ミレニアム・プロジェクト関連の研究計画書関連書類について検討した。
結果と考察
「倫理審査委員会の役割および機能に関する研究」ついて:(1)米国における倫理委員会の2つの流れ(倫理審査委員会と病院倫理委員会)についてその系統・起源および役割の後付けを行い、これに対応させる形で日本の倫理委員会のかかえる問題点の洗い出しを行った。(2)米国ロードアイランド州・マサチューセッツ州において、州およびBrown大学の設内倫理委員会の運営方法、審査業務の内容および委員会スタッフと委員との役割分担について聴き取り調査を行うと共に、民間の倫理審査委員会の活動状況についても聞き取り調査を行い、倫理審査委員会の運営体制や委員会機能の向上についての方策を立てる上での資料とした。(3)倫理審査委員会の役割と機能を十全に発揮させるため、委員会構成員および申請者向けのガイドブックの作成に向けて米国および英国の関連資料(前者 "Protecting Human Research Subjects: Institutional Review Broad Guidebook", OPRR, USA;後者 "Briefing Pack for Research Ethics Committee Members", Dept. Health, UK)を入手し内容の検討を開始した。
「3省指針に内在する問題点の検討」について:(1)3省指針の下での国際共同研究(特にアジア・アフリカ諸国との共同研究)の際に生じる問題に対処するための過渡的措置としての研究ルールを提示すると共に、当該問題について各国の研究者と意見交換を行う際の資料として指針の英訳に着手した。(2)被験者保護の視点から、医学研究への参加や試料提供に際しての「代諾」の是非や、国内の複数施設が共同して遺伝子解析研究を実施する場合の問題点(特に、個人情報の管理をめぐる問題)について検討した。(3)3省指針(案)に対するパブリック・コメントの内容分析を行い、指針策定時における研究者や市民の考え方を把握すると共に指針策定の過程におけるパブリック・コメントの位置づけについて検討した。
「日本の倫理審査委員会の現状把握および審査の在り方」について:(1)全国の大学医学部、医科大学、医学系研究機関および病院など2,248施設を対象としたアンケート調査を実施した。3月末日現在の回答数は630である。(2)現時点での倫理審査委員会の役割および審査の仕方等について具体的に理解するために、医療機関・医学部の倫理委員会の幾つかを訪問して聴き取り調査を行った。(3)研究計画に則した被験者への説明と同意の手続きを保障するための必要要件を備えた雛型フォームの作成を目指し、ミレニアム・プロジェクトに関わっている幾つかの研究機関から利用許可を受けて、倫理審査時に提出された研究計画書等関連書類4件の検討を行った。
結論
(1)倫理審査委員会の役割および機能に関する研究の成果は、日本における倫理審査委員会の機能および役割の明確化、本来的な役割遂行のためのシステムの提示、倫理審査委員会のメンバーの教育・研修のための資料(日本版IRBガイドブック)の作成に活用する予定である。日本版IRBガイドブックの作成は、一般市民のジェネティク・リテラシーを高めるための教育資料としても活用できると考えている.
(2)3省指針に関する研究の成果は、当該指針策定の精神に則ってヒトゲノム・遺伝子解析研究を行う場合に生じる種々の問題への対応策を考えるための資料として活用すると共に、今後予定されている指針改訂作業のあり方を考えるための資料とする。また、当該指針の英訳版の作成は、アジア・アフリカ諸国等との国際共同研究を行う場合の国際的ルールの策定作業において日本の状況を説明する上で不可欠な資料を提供することになると考える。
(3)日本の倫理審査委員会の現状把握に関する研究の成果は、倫理審査委員会の本来的役割遂行を阻害している要因を解消するための方途の検討と、実質的な倫理審査および研究モニタリングを行うためのシステムの提示に活用する予定である。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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