遺伝子解析研究、再生医療等分野において用いられるヒト由来資料に関する法的倫理的研究-その体系的あり方から適正な実施の制度まで-(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100466A
報告書区分
総括
研究課題名
遺伝子解析研究、再生医療等分野において用いられるヒト由来資料に関する法的倫理的研究-その体系的あり方から適正な実施の制度まで-(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
宇都木 伸(東海大学)
研究分担者(所属機関)
  • 松村外志張((株)ローマン工業)
  • 佐藤雄一郎(横浜市立大学)
  • 増井徹(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 石井美智子(東京都立大学)
  • 小林英司(自治医科大学)
  • 齋藤有紀子(北里大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究事業(生命倫理分野)
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
7,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ヒト由来資料の採取、保管、利用に関する内外の規制状況に関する情報の収集・分析を一つの目標とし、さらに内外の各種の組織、細胞バンクの設立・運営に関する実態調査をし、その問題点を探ることを第二の目標に、そしてさらにヒト由来資料の法的性格や承諾に関する理論的検討という三本の目標を立て、これを第一次的な目標とする。さらにそれらの成果をふまえて、わが国の社会状況に適し、かつ受け容れ可能な新しい制度を提示することを最終目的とする。2001年度においては第一次目的に向けて、それぞれの分担を定めて検討を開始した。初年度のためいずれもが継続中であるが、中間的な成果は以下に見る通りである。
研究方法
法的あるいは倫理的問題の所在を探り、理論的・制度的な解決の道を探ることを目的とする本班の研究方法は、文献的考察が主体となるが、実地調査、関係者への聞き取り調査による資料収集にも努めた。さらにそれらを共有した上で、研究班員相互間のみならず、多方面の研究協力者との意見交換、という方法によって、分析と判断の適正さの確保に努めた。上述の三つの柱ごとに、研究方法には重点の置き方に違いは生じているが、それらは各分担研究報告において明示されている。
上述の三本の柱は、それぞれの中が細分されており、研究班員はそれぞれの専門領域毎に、いくつかのテーマに関わるという形で参画しているから、各分担研究報告は必ずしも報告者のみの研究結果ではなく、それぞれの中に研究班全員の、また研究協力者の寄与が含まれている。
結果と考察
本研究班の最終目的とするところは、各分担研究班の成果を総合して説得性のある新しい考え方とそれを実施に移すための制度とを提示することにあるが、本年度は各分担研究班の成果を個別に提示するにとどめざるを得ない。
それらの主たる成果は次のようであった。
1.当該問題に関する現行の法令・関連諸規範には不明晰な部分が多く、人権の確保という観点からの早急な対策が必要とされている。また、本年度に我々のなした移植用バンクの実施調査において明らかになったことは、不明確な状況の中で先駆的に勇気をもって開始された移植バンクは資源的にも経済的にも孤立無援に近く、綱渡りのような危うさの中に置かれているということである。そして、そこにはまた法的にも倫理的にも危うさが潜まざるを得ないように思われた。そしてまた、基礎研究の領域では研究の滞り、外国への委託などという現象が生じている。内容的に適切な規範を探る作業を早急に必要とするとともに、いかなるレベルの規範を、どのような制定手続きの中で実体化してゆくかの検討が必要とされている。
2.世界的に見ても当該問題に対するアプローチには、個人の意思を重視する立場と、社会の連帯性を強調する立場との対立が見られ、わが国の今後のあり方についてもこの点の決断が迫られよう。そして、松村研究班員によると、研究に対する信頼性の確保こそがキーポイントであるが、それは精神論で片づく問題ではなく、独自の制度的工夫が必要とされよう。そのためには地方自治体やNPOの活用が考えられるようである。
3.増井報告においては、自身現地に赴いて調査した資料を基に、現在イギリスにおいて進められている、極めて雄大な規模でのイギリス国民の遺伝子関連の基礎情報の収集計画が検討されている。10年も前に手を付けられていた計画が大詰めを迎えた段階で、BSE問題と小児の解剖体からの組織の無断保存の暴露(Alder Hey事件、この問題については、後掲文献中の宇都木論文が詳論をしている。)という医学研究に対する逆境状況が発生し、細心の注意を払っての計画になって行く状況が、増井報告においてよく浮かび上がっている。個人情報、患者の人格が無視された行政や研究が、現実に支払わなければならないツケがいかに大きいものかが如実に示されており、わが国の今後のあり方に示唆するところは極めて大きい。
その逆境の中でも同計画はさらに慎重に進められつつあり、我々も注意を払い続けていく必要があると考えられる。
4.個別の研究資源用の組織バンクについては、研究班全体による実地調査に加えるに、斎藤班員が独自に幾つかの現存組織バンクの訪問調査をし、またインフォームド・コンセント文書に関するアンケート調査をしている。それぞれの結果は、さらなる調査とあわせて別途公表される予定であるが、どちらの点に関しても、今後は標準化のための作業が必要であるとの認識に至っている。
5.佐藤報告においては、ヒト由来資料の法的性格に関するコモンローの国々における判決と論議が紹介・検討されている。そこでは、主として教会法に基礎を置くno-propertyルールがこれまで支配的であったが、20世紀に入り漸次姿を変えつつある様が伺われる。しかしいまだ、技術革新の激しい状況の中で新しい「体の価値」の性格付けは定まってはいないようである。知的財産権問題にも目を配りつつ、わが国の扱い方を見定めてゆく必要がある。
6.新制度構築のための足がかりとして、上記の諸研究班の研究発表の中から抽出された問題点が石井研究班員により整理されている。そこでは、当該問題に関するキー概念(tissue、retain、useなど)の整理、諸規範の制定手続きの検討、過去の実態の総ざらいと国民感情のくみ取り、包括的承諾や代諾といった論点の整理、制度の実施状況に対する監視制度など、検討するべき課題は多いことが明らかになっている。
結論
多様な側面を各研究班員が手分けをして、検討をしてゆくという方法をとったため、三年計画の第一年度である本年度には、しっかりと確定した結論は提示し得ない。それぞれの研究班において得られた中間的な結果は、上記に示した通りである。

公開日・更新日

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