冠動脈形成術後再狭窄に対する新規遺伝子治療法[抗MCP-1療法、抗転写因子療法]の基礎研究ならびに臨床研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100464A
報告書区分
総括
研究課題名
冠動脈形成術後再狭窄に対する新規遺伝子治療法[抗MCP-1療法、抗転写因子療法]の基礎研究ならびに臨床研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
江頭 健輔(九州大学医学部附属病院循環器内科)
研究分担者(所属機関)
  • 竹下 彰(九州大学医学部附属病院循環器内科)
  • 居石 克夫(九州大学医学部病理学)
  • 米満 吉和(九州大学医学部病理学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究事業(遺伝子治療分野)
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
35,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、冠インターベンション後「再狭窄」の新しい遺伝子治療法(抗MCP-1療法、抗転写因子療法)を開発し、臨床研究を目指すことにある。実験動物モデルとして、1)高コレステロール食負荷ウサギならびにサルの頚動脈内膜傷害モデル、2)ステント植え込み後再狭窄ウサギならびにサルモデル、を用いる。さらに、厚生労働省・文部科学省合同審査委員会の承認を得て、臨床研究を行うことを最終目標とする。
研究方法
研究方法ならびに結果=
A. 研究の必要性と目的
動脈硬化を基盤として発生する虚血性心疾患や脳卒中などの虚血性臓器障害の頻度は増加しており(我が国の死因の約4割を占める)、その治療法の確立は高齢化社会を迎えている我が国の医学の最も重要な課題の一つである。動脈硬化による血管内腔狭窄を拡張する経皮的冠動脈形成術の有用性は確立し、世界的に普及している。しかし、拡張した血管内腔が再び狭くなる「再狭窄」が高率(冠動脈では40%)に発生することが医療上だけでなく社会的にも問題となっている。再狭窄率ならびに合併症の発生が高齢者に多いことも深刻な問題である。しかし、現在のところ再狭窄に対する有効な治療法はない。したがって、新規治療法の開発が強く望まれている。
最近、我々は1)変異型monocyte chemoattractant protein-1(MCP-1)がMCP-1受容体のdominant-negative inhibitorとして作用すること、2)その遺伝子導入によって動脈硬化性病変が抑制されること、を明らかにした(FASEB J 2000、Circulation 2001)。また、 転写因子NF-_Bを阻害するデコイ導入によりNO産生抑制モデルの動脈硬化が抑制されることも明らかにした(Circulation 2000) 。これらの結果から、抗MCP-1遺伝子治療あるいは抗転写因子療法が再狭窄の画期的新規治療法となる可能性が示唆された。
本研究の目的は、上記の我々の成果をふまえて再狭窄の新しい遺伝子治療法(抗MCP-1療法、抗転写因子療法)を開発し、臨床研究を目指すことにある。実験動物モデルとして、1)高コレステロール食負荷ウサギならびにサルの頚動脈内膜傷害モデル、2)ステント植え込み後再狭窄ウサギならびにサルモデル、を用いる。さらに、厚生労働省・文部科学省合同審査委員会の承認を得て、臨床研究を行う。
B. 研究方法・計画ならびに研究結果
今年度は4項目のサブテーマについて研究を進めた。
1.再狭窄に対する抗MCP-1遺伝子治療法の開発 
―ラットならびにサルのバルーン傷害モデルでの検討―
我々が開発した変異型MCP-1遺伝子を用いた遺伝子導入が抗MCP-1遺伝子治療として有用であることを報告してきた。今年度はラットならびにサルの動脈バルーン傷害モデルを用いて有効性を明らかにしたので報告する。これらの研究成果から、MCP-1をターゲットとする治療が再狭窄に対する有用な新規治療になる可能性が明らかとなったので、現在、「再狭窄に対する遺伝子治療臨床研究」を厚生労働省へ申請している(現在審議中)。
2.カフによる外膜傷害による新生内膜形成におけるMCP-1の役割 
血管傷害によって生じる炎症が新生内膜形成の要因となる可能性がある。本研究では外膜傷害による新生内膜形成におけるMCP-1の役割を検討し、MCP-1を介する単球を主体とする炎症が外膜傷害後に生じる新生内膜形成に必須の役割を果たすことを明らかにした。
3.Early growth response factor-1(Egr-1)デコイ導入によるバルーン傷害後新生内膜形成の抑制 
転写因子の活性を制御できれば複数の遺伝子群の転写を抑制出来るので、再狭窄防止戦略して適していると考えられる。本研究では炎症、増殖、血栓に関与する転写因子であるEgr-1(Early growth response factor-1)に注目した。Egr-1デコイオリゴ核酸をバルーン傷害後に導入し、再狭窄(内膜肥厚)が抑制されることを明らかにした。Egr-1デコイ導入がヒト冠動脈再狭窄に対し治療標的になりうることが示された。
4.チャンネルバルーンカテーテルによる血管壁へのオリゴ導入
転写因子を抑制する方法としておとり人工核酸(デコイ)の導入がある。デコイが導入された細胞では目標転写因子が制御する遺伝子群の発現抑制をもたらす。本研究では、チャンネルバルーンカテーテルを用いてデコイを血管傷害後に局所投与すれば、デコイが血管壁細胞に導入されることを霊長類(サル)を用いて明らかにした。この成績は、冠インターベンション後再狭窄抑制を目指した「デコイ導入による治療」が可能であることを示唆するものである。
結果と考察
C. 考察ならびに結論
1. 今年度の成績から、ラットならびにサルにおいて再狭窄反応(血管傷害後内膜肥厚)の原因にMCP-1を介する炎症が必須の役割を果たすことが明らかとなった。申請者は、従来、ラットやウサギモデルにおいて有効性が示された治療法であっても、ヒトでは再狭窄に対する作用が全く認められないということが殆どであったことから、ヒトに近い霊長類での検討が必要と考え霊長類(サルモデル)での実験を行った。霊長類でMCP-1をターゲットとする治療が再狭窄に対する有用な新規治療になる可能性が初めて示された。
2. MCP-1を介する炎症反応は動脈外膜傷害後に生じる炎症や新生内膜形成に重要な役割を果たすことも明らかとなった。
3. Egr-1デコイ導入によるegr-1活性化の抑制によって炎症が阻止され新生内膜形成が減少することが明らかとなった。このことから、egr-1を介する遺伝子群(PDGF-B、TGF-β、MCP-1など)の発現が高コレステロール食負荷ウサギにおける新生内膜形成に必須であることが示唆された。Egr-1デコイ導入がヒト冠動脈再狭窄に対し治療標的になりうることが示された。
4.チャンネルバルーンカテーテルを用いてデコイオリゴ核酸を血管傷害後に局所投与すれば、デコイが血管壁細胞に導入されることが明らかとなった。
結論

公開日・更新日

公開日
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更新日
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