静止細胞への非ウイルス性遺伝子導入ベクターの開発(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100463A
報告書区分
総括
研究課題名
静止細胞への非ウイルス性遺伝子導入ベクターの開発(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
石坂 幸人(国立国際医療センター)
研究分担者(所属機関)
  • 志村まり(国立国際医療センター)
  • 大沢宜明(国立国際医療センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究事業(遺伝子治療分野)
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
-
研究費
38,700,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
静止細胞への外来遺伝子導入を可能にする安全で簡便なベクターシステムの開発は重要であり、突破口を切り開く新しい技術としてHIV改変ベクターが期待されている。HIVはレトロウイルスでありながら、単球細胞などの静止細胞に対しても感染することが可能で、改変HIVベクターが現在、静止細胞への遺伝子導入のために用いられている。しかし、ベクターの安全性や倫理的な側面から、将来的にはHIVの特性を生かしながら、より安全性の高い非ウイルスベクターの開発を行うことが重要と考えられる。
HIVアクセサリー遺伝子VprはHIVの静止細胞への感染様式を可能にする因子の一つと考えられており、ウイルス感染後に形成されるウイルスDNAを核内へ輸送する機能が備わっている。そして近年、Vprのこのような機能を利用した外来遺伝子導も試みられ、Vprによる外来遺伝子発現増加も期待されるようになった (J. Virol. 74, 5424-5431, 2000)。申請者はこれまでVpr遺伝子の機能解析を精力的に行い(FASEB J. 13, 621-637, 1999; Biochem. Biophys. Res. Commun. 258, 379-384, 1999; Cancer Res. 59, 2259-2264, 1999; Biochem. Biophys. Res. Commun. 261, 308-316, 1999)、野生型Vprが細胞周期異常やゲノム不安定性を誘発すること、さらにVprを培養液中に添加するだけで細胞内に取り込まれる作用(以下、トランス作用)が備わっていることを見出してきた。さらに今回、Vpr抗体で認識される約10kDaのVpr様蛋白質(以下VLP-1;Vpr-like protein)を牛胎児血清中に見出した。VLPは、調べた全てのロットの牛胎児血清中に検出されることから、Vprで問題となる細胞周期異常誘発能を欠失していることが予測される。以上の知見から、本研究ではVPR及びVLPを用いた新しい静止細胞への遺伝子導入ベクター開発を目的として、以下に示す3つの事項を明らかにすることを目的とする。
1. 静止細胞への遺伝子を可能にするVPRの最少機能ドメインの同定
2. VLP (Vpr-like protein) 遺伝子のクローニングと機能解析
3. VLPを用いた静止細胞への遺伝子導入法の確立
である。本研究により、造血幹細胞や神経細胞への安全な遺伝子導入法が確立され、様々な難治性疾患、特に神経変性疾患に対する画期的な治療法の開発が期待される。
研究方法
VprのC-末45アミノ酸中に遺伝子導入効率を増加させる活性が知られている。しかし、このペプチドが細胞周期異常を誘発することから、まずC末18個のアミノ酸を欠失させたペプチド(以下C45D18)を基本骨格として、種々の欠失変異体を作成し、胞体内に取り込まれるための最少機能ドメインを決定した。血清無しの状態で3日間培養した細胞に各種ビオチン化ペプチドを10 ug/mlで添加し、翌日、メタノールにて細胞を固定後、0.02%のTriton X-100で処理した。そして、ストレプトアビジン結合FITCを作用させることにより、胞体内に取り込まれたペプチドを検出した。また、ヒト臍帯血由来単核球細胞に同ペプチドを添加し、ペプチドの取り込みの有無をFACSで解析した。また、市販されている_-ガラクトシラーゼ蛋白質、ストレプトアビジン及び、マウスp53にC45delta18を-S-S-結合を用いて複合体を作成し、ヒト臍帯血由来単核球細胞や付着系細胞に作用させた。特にp53の取り込みを解析する際には、内在性p53が欠失しているSaOS-2細胞を用いた。ペプチドを作用させた後、_-ガラクトシラーゼ蛋白質については酵素活性能の有無をFDG(Molecular Probe社製)を基質として、FACSによる測定を行った。またp53については抗p53抗体による免疫染色により、取り込みの有無を解析した。
結果と考察
C45D18は、付着系細胞であるHT1080細胞に効率良く取り込まれた。また、ヒト臍帯血由来単核球細胞に対しても、一晩ペプチドを作用させることにより、ほぼ100%の細胞にペプチドが取り込まれた。種々の変異ペプチドを合成し、胞体内に取り込まれるのに必要な最少ドメインを決定した。用いたペプチドは、C39D18、C42D18、C45D21、C45D24、C45D27であった。この中で、C45D21及びC45D18は臍帯血に対して、取り込まれる傾向が認められたものの、C45D18のそれに比較すると、究めて低い取り込みであった。ヒト臍帯血由来単核球細胞に作用させる際、IL-3、IL-6及びSCFを添加の有無により増殖刺激の効果を検定した。その結果、これらサイトカインなしでも、取り込みの程度には、差が認められなかった。蛋白質との結合体による形質転換の有無を解析した。C45D18と_-ガラクトシラーゼとの複合体を一晩ヒト臍帯血由来単核球細胞に作用させたところ、ほぼ90%の細胞に同蛋白質の活性が誘導された。C45D18に結合させたp53遺伝子産物は、SaOS-2細胞に取り込まれた。しかし、DNA損傷を誘導するMitomycin C添加によってもp53の核内移行は検出されなかった。
今年度の解析により、VPR由来ペプチドが効率良く、細胞内に取り込まれることが明らかになった。無血清培地で4日間培養し、静止期に導入された細胞も、このペプチドを効率良く取り込むことから、このペプチドが造血幹細胞に対する新しい形質転換ベクターとして機能することが期待される。また、_-ガラクトシラーゼの分子量は、約550kDaであることから、C45D18が巨大な分子をも胞体内に運搬できる究めて興味深い特性を備えていることが想像される。今回導入したp53遺伝子産物DNA損傷後の核内移行は認められなかった。用いたp53遺伝子産物は、大腸菌で発現させたGST融合蛋白質であり、野生型p53としての機能を失っている可能性が考えられる。今後、バキュロウイルスで発現させたp53遺伝子産物を用いて、同遺伝子産物の補充療法の可能性を探る。また、C45D18を核酸に結合させ、蛋白質と同様、胞体内に運搬し得るか否かを検討したい。NF-kBの結合配列を含むDNAにチオール基を添加し、C45D18との-S-S-によりペプチドー核酸の複合体を作成する。また、siRNAを作用させることにより、内在性遺伝子の発現を修飾することを試みる。一方、核酸が導入できることが明らかになった場合には、導入する核酸の大きさを変化させ、導入し得る核酸の大きさを決定する。
現在までにVPRのようなペプチドベクターとして、3種類のウイルス由来ペプチドとショウジョウバエ由来ペプチドが知られている。即ち、ウイルス性蛋白質としては、HIV由来遺伝子であるTAT、Gag蛋白質とSV40T抗原核内移行シグナルペプチドのキメラ蛋白質及び、単純ヘルペスウイルスのVP22であり、ショウジョウバエ由来蛋白質としては、アンテナペデイア由来ペプチドが知られている。この中で、特にTATは静止細胞にも取り込まれることが知られており、TAT由来ペプチドとリコンビナント蛋白質の複合体を用いた細胞形質転換が報告されている。VPRは同様の機能を有する4番目の蛋白質ということが出来る。これらは、いずれもウイルス由来のペプチドであり、将来的な臨床応用においては、その抗原性が危惧される。本プロジェクトでは、VPRに相同性を示す蛋白質として、牛胎児血清中に約10kDの蛋白質を見出した(VLP-1)。これまでの解析により、部分精製したVLP-1を培養液に添加することにより、VPRと同様、胞体内に取り込まれることが明らかとなった。今後、このペプチドをベクターとして用いた細胞形質転換法の開発を試みたいと考えている。
結論
HIVアクセサリー遺伝子VPR由来ペプチドに、形質転換ベクターとしての機能が見出された。
このペプチドは、静止期にある細胞にも機能することが示唆された。次年度、このペプチドを用いた核酸の細胞への導入の可能性を明らかにする。

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