ヒトゲノム研究に基づく腫瘍免疫細胞療法の開発研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100459A
報告書区分
総括
研究課題名
ヒトゲノム研究に基づく腫瘍免疫細胞療法の開発研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
平井 久丸(東京大学医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 千葉滋(東京大学医学部)
  • 高橋強志(東京大学医学部附属病院)
  • 贄田美江(株式会社メディネット分子免疫学研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究事業(ヒトゲノム分野)
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
60,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我々は癌に対する免疫療法の開発を行っており、現在、慢性骨髄性白血病(CML)に対する樹状細胞を用いた治療法の開発を検討している。CML細胞はbcr/ablキメラ蛋白を発現しているが、その切断点を含むペプチドは腫瘍特異的であり腫瘍拒絶抗原となりうる。この抗原特異的な細胞障害性T細胞(CTL)は白血病細胞のみを傷害し他の正常細胞は傷害しないため、副作用のない、効果的な免疫療法として期待される。実際、この切断点部分を含むペプチドを特異的に認識するCD4陽性及びCD8陽性T細胞が健常人末梢血より誘導されうることが報告されている。我々もCML患者の末梢血からbcr/ablペプチド特異的T細胞の誘導が可能であること及びそれが患者bcr/ablの切断点(b3a2型に限る)とHLAの型(A*0201, A*2402など)に依存することを報告している。昨年までに末梢血樹状細胞あるいは未熟単球由来樹状細胞を用いて樹状細胞療法を行いその安全性を確認してきた。しかし、末梢血樹状細胞は、患者から得られる樹状細胞の数がわずかであり投与細胞量が充分でなく、またin vitoroで単球をIL-4とGM-CSFにより作製する未熟単球由来樹状細胞を用いる方法では、充分な数の投与樹状細胞量は確保できるが、その抗腫瘍免疫反応惹起効果は弱いという問題点が明らかとなった。そこで、今回は、さらに単球由来樹状細胞作製にTNF-_を併せて用い、成熟単球由来樹状細胞として樹状細胞療法に用いることで安全でかつより強力な免疫反応、治療効果の誘導を検討する。
研究方法
東京大学医学部倫理委員会の承認のもとに、CMLに対する成熟単球由来樹状細胞を用いた細胞療法の臨床応用を行った。対象は、CML患者で病期は問わず、骨髄移植ができない、インターフェロンが無効あるいは副作用で使えない患者とした。また、重篤な臓器障害や感染症のある患者は除外した。bcr/ablの切断点がb3a2型で、HLA型がA*0201またはA*2402を持つ患者とした。以上に該当した3名(前回の3名と同一患者)において、治療の説明を行い同意を得た上で樹状細胞療法を行った。方法は、患者末梢血よりアフェレーシスにて10L処理し、Ficollにて単核球を分離した。続いて50%Percollにて単球分画を回収した。このうち一部はそのまま培養し残りは以後の治療のためにCP-1にて冷凍保存とした。培養はRPMI+10%自己血清で行った。培養2時間後に上清を捨て(単球はフラスコに付着することを利用して単球を分離する)、再度RPMI+10%自己血清の培養液にIL-4(1000 u/ml)とGM-CSF(1000 u/ml)を加えて5日間培養しbcr/ablペプチドおよびKLH(コントロールとして)を5日目に加え12時間後にTNF-_(50ng/ml)を加え更に2日間培養した。PBSにて洗浄後、生食+5%自己血清にとき、患者大腿内側皮内に接種した。これを2週間間隔で計4回繰り返した。得られた樹状細胞の質に関してはフローサイトメトリーで樹状細胞に発現する細胞表面抗原を検討した。治療の副作用は、理学所見、検査所見(血算、生化、抗核抗体、自己抗体、CRP等)で評価した。免疫学的な評価としては、治療前及び治療後4週毎にbcr/ablペプチドあるいはコントロールとしてのKLH蛋白をパルスした樹状細胞を患者皮内に接種し遅延型過敏反応(DTH)試験を調べた。またELISPOT試験で末梢血中に存在するbcr-ablペプチドあるいはKLH蛋白に反応するT細胞の推移を調べた。また臨床評価としては骨髄における染色体、bcr/abl FISHの陽性率の推移による評価等を4週間おきに行った。
結果と考察
1.3症例とも1回のアフェレーシスで、4回の樹状細胞療法分の成熟単球由来樹状細胞が得
られた。しかしその回収率は未熟単球由来樹状細胞に比し少なく前者の70%程度であった。
2.調製された樹状細胞の細胞表面抗原のフローサイトメトリーによる解析では、HLA class I, class II, CD40, 接着分子であるICAM-1,co-stimulatory分子であるCD80, CD86等、抗原特異的免疫の誘導に重要な樹状細胞に特徴的な分子の発現が確認された。その発現レベルは、未熟単球由来樹状細胞に比べいずれも高かった。また、電顕写真で形態を調べたが、未熟樹状細胞に比べ、成熟樹状細胞では樹状突起が長く形成され、より成熟した状態であることが確認された。
3.3例の患者においてbcr/ablペプチド及びKLH蛋白をパルスした成熟単球由来樹状細胞を患者大腿内側皮内に平均6.8×105個/kg接種し同治療を2週間間隔で計4回施行した。投与時及び投与後現在までに発熱や抗核抗体の出現など明らかな副作用は認められず、安全性に関しては現在のところ問題ないと考えられた。
4.治療に用いたbcr/ablペプチド及びKLH蛋白に対する遅延型過敏反応(DTH)試験は、KLH蛋白に対しては全例で陽性に転化した。またbcr/ablペプチドにおいては1例のみ陽性に転化した。またbcr/ablペプチド及びKLH蛋白に反応する患者末梢血T細胞の頻度をELISPOT法にて評価した。KLH蛋白に反応するT細胞の頻度の増加が確認されたが、bcr/ablペプチドに反応するT細胞の頻度の増加は確認できなかった。
5.治療による臨床効果に関しては、いずれの症例も血算や染色体およびbcr/abl FISHにて明らかな病態の改善は確認されなかった。
昨年度までに末梢血樹状細胞あるいは未熟単球由来樹状細胞を用いて樹状細胞療法を行ってきたが、末梢血樹状細胞は患者から得られる樹状細胞の数がわずかであり投与細胞量が充分でなく、またin vitroで単球をIL-4とGM-CSFにより作製する未熟単球由来樹状細胞を用いる方法では、充分な数の投与樹状細胞量は確保できるが、その抗腫瘍免疫反応惹起効果は弱いという問題点が明らかとなった。そこで今年度はTNF-_を用いて単球由来樹状細胞を更に成熟させて樹状細胞療法に用いることを検討した。調製された成熟単球由来樹状細胞は、形態的に未熟樹状細胞に比し樹状突起が長く伸び、また細胞表面マーカーにおいてもHLA class I, class II, ICAM-1, CD40, B7-1, B7-2などT細胞の活性化に関与するマーカーが高発現しており成熟樹状細胞としての性質を持っていた。樹状細胞の回収率は未熟樹状細胞に比し落ちるもののそれでも4回の治療にほぼ充分な数の成熟樹状細胞が1回のアフェレーシスにて得られることがわかった。
治療は安全に行うことができた。しかしまれに自己免疫疾患発症などが報告されていることから、今後も長期間の経過観察をし症例を積み重ねて安全性を評価しなければならないと考えている。
治療効果においては、免疫学的には、未熟単球由来樹状細胞に比べより強力な免疫反応を惹起できることがDTH試験やELISPOT試験で明らかとなった。しかし、抗腫瘍効果誘導の基礎となるbcr-ablペプチドに対する反応性が弱いことが今後の課題である。また、治療効果に関してはいずれの症例も血算、染色体およびbcr/abl FISHにて明らかな効果は確認されなかった。
今後は、治療効果をより強力にしていくために投与細胞量を更に増やすことや、投与回数を増やすことが必要であると考えている。また現在までの投与経験では、細胞投与後免疫反応が誘導されている期間は比較的短く最終樹状細胞投与後6-8週後には免疫反応は非常に弱まってしまうようである。現在、我々は生体内での免疫反応を積極的に抑制しているものがあるのではないかと推測しCD4-CD25-T細胞やV_24NKT細胞などの抑制性あるいは調節性T細胞の関与を検討している。さらに、動物実験では併用効果がみられることが示されている抗腫瘍免疫反応を増強するようなサイトカイン(IL-2、IL-12)などの投与を組み合わせたり、腫瘍抗原を多価にし腫瘍のエスケープを無くす、あるいは樹状細胞に免疫関連遺伝子やケモカイン及びそのレセプターなどを導入しより強力に抗腫瘍T細胞の誘導を行っていく、in vitroで増やした白血病細胞特異的CTLを投与するなどの方法を併せて検討していき、将来的に癌治療の核となる免疫療法として発展させて行くことを目標としている。
結論
CML患者に対し成熟単球由来樹状細胞を用いた免疫療法を行った。治療に用いる樹状細胞を患者単球より大量に調製することが可能であった。副作用は少なく安全な治療であると考えられた。未熟単球由来樹状細胞に比しより強力に免疫反応を惹起することが確認されたが、明らかな治療効果は認められなかった。今後治療方法を改善していき癌に対する免疫療法として確立させていきたい。

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