器官・組織の形成不全症の責任遺伝子から発症機能の解明と再生医療への応用(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100458A
報告書区分
総括
研究課題名
器官・組織の形成不全症の責任遺伝子から発症機能の解明と再生医療への応用(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
山田 正夫(国立成育医療センター研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 宮下俊之(国立成育医療センター研究所)
  • 東範行(国立成育医療センター病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究事業(ヒトゲノム分野)
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
小児に見られる各種の組織や器官の形成不全症について、責任遺伝子を探求し、患者に生じた変異を同定し、遺伝子と病態との対応付けを図る。発生時期に作動する転写因子は変異(特にミスセンス変異)によって様々な病態を呈することを明らかにしてきた。PAX6(眼形成不全症)とWT1(腎形成不全症)を中心に、正常型および変異型の機能を解析し、形成不全を生じる分子機構を明らかにする。また、CAGリピート伸長病による伸長ポリグルタミンやアポトーシス関連遺伝子を手段として活用し、形態形成におけるアポトーシスの役割を明らかにする。
研究方法
眼・腎臓・肝臓・四肢などの形成不全症の患者ゲノムDNAについて、候補遺伝子アプローチ、関連疾患アプローチによって変異を同定する。疾患責任遺伝子およびアポトーシス関連遺伝子の機能を培養細胞系で解析する。PAX6やWT1などの疾患責任遺伝子の正常型および変異型蛋白質の転写調節能を試験管内反応によって解析し、また支配下遺伝子を同定する。さらに、電気穿孔法によって、疾患責任遺伝子(変異型を含む)やアポトーシス関連遺伝子の発現ベクターを動物胚に導入して形態形成能を直接解析する。
結果と考察
〔眼形成不全症とPAX6〕PAX遺伝子群はpaired boxをDNA結合ドメインとする転写因子をコードする。その内、ヒトPAX6は無虹彩症の責任遺伝子として1991年に単離され、各種の研究から眼の形成に関与することが確立している。我々は無虹彩症に限定せず、広範な眼形成不全症についてPAX6変異を解析し、これまでに多数の変異を同定してきた。PAX6のハプロ不全によって無虹彩症となり、一方、PAX6のミスセンス変異によって、黄斑低形成症、白内障、Peter奇形など、様々な病態を呈する不全症となるということを確立してきた。この延長として、視神経低形成症7例でPAX6のミスセンス変異を同定した。これらの変異部位は従来報告の無い領域にあり、PAXにおけるHomeoボックスの役割解析に有効であると考える。〔PAX6変異の転写調節能とPAX2発現制御〕PAX6変異の見出された視神経低形成症患者の一部にコロボーマが認められた。Renal-coloboma症候群(OMIM120330)ではPAX2が責任遺伝子である。そこでPAX6によるPAX2の発現調節を培養細胞系で解析し、またPAX6変異体についても解析した。コロボーマの程度とPAX2発現制御との相関は見られなかったが、PAX6の転写活性部位(PTS領域)はhomeoボックスを介するDNA結合に大きく作用することがわかった。〔Russell-Silver症候群における遺伝子変異〕Russell-Silver症候群は、出生前および出生後の発育遅滞と左右非対称成長、小指の弯曲を主徴とする。これまでに解析された約7-10%の患者で、7番染色体は母親由来のuni-parentalダイソミーであることが報告され、7番染色体上のゲノム刷り込みを受ける遺伝子が責任遺伝子である可能性が示唆されていた。東京工業大学遺伝子解析施設の石野助教授らは、マウス胚を用い、父親由来に限り発現する一連の遺伝子pegと母親由来に限り発現する一連の遺伝子megを単離してきた。その内、peg1(Mest)は7番染色体に位置していることから、Russell-Silver症候群の責任遺伝子の可能性が考えられた。そこで、本研究課題の研究協力者である田中敏章 国立成育医療センター病院内分泌・代謝医長の協力により、Russell-Silver症候群5家系を収集し、多型解析したが、uni-parentalダイソミーであるといえる家系は無かった。次に、相当する領域のゲノム配列を解析したが変異を見出さなかった。この結果は他施設から収集された症例と
あわせ、解析した15例の日本人患者では変異が無かったとして今年度報告した。〔電気穿孔法による発現ベクター導入による眼の形成変化〕昨年度の報告書に記載したように、ソニックヘッジホッグ(Sonic Hedgehog, SHH)のミスセンス変異を持つ緩和型のholoprosencephaly (type 3, OMIM 142945)患者の黄斑の位置が通常より視神経乳頭に近くに位置していることを見出したことに基づいて、SHHの眼形成に及ぼす効果を、電気穿孔法による発現ベクターのニワトリ胚への導入法によって解析した。ニワトリ胚の、眼の広範な部位にSHH発現ベクターを導入すると、小眼球が形成され、SHHは眼の形成を抑制することがわかった。次に、局所的にSHHを発現させた。たとえば、眼の下側で局所的に発現させると、眼の下側の形成が遅滞し、本来中央に位置するレンズが下側に偏り、あたかも下向きに見るのに都合が良い構造となった。これらの場合、SHHの発現する部位の近傍ではPAX6の発現が抑制されていた。本年度、導入する位置を替えて実験を行い、SHHの濃度勾配に応じて眼形成が抑制されることを更に明確にした。一方、洞窟に生息するいくつかの種類の魚では眼が退化しており、これらの原因としてShhの高発現によるアポトーシスの亢進の機構が報告されている。我々の実験系では眼組織でのアポトーシスの程度は変化がないことを確認した。
〔アポトーシス関連研究〕組織や器官の形成にアポトーシスは重要な働きをなす。我々は、常染色体優性の神経変性疾患である歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症がCAGリピート伸長に起因することを1994年に報告したが、この分野では発症機構の解明が進み、伸長ポリグルタミンによるアポトーシス誘導が主要な課題となってきている。その早期過程にcaspase8と10が活性化されることを見出した。これを手段として活用し、初期胚の肢芽部位で伸長ポリグルタミンやcaspaseを強発現してアポトーシスを誘導し、四肢の形成異常を誘導できる実験系を構築した。
結論
発生時期に作動する転写因子は変異(特にミスセンス変異)によって様々な病態を呈することを明らかにしてきた。転写調節能を試験管内反応で解析し、また発現ベクターをニワトリ胚へ電気穿孔法によって導入し、形態形成を直接解析し、両者に基づいて、形成不全症の発症機構を解析した。

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