腎疾患機能遺伝子の同定及びゲノム創薬(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100457A
報告書区分
総括
研究課題名
腎疾患機能遺伝子の同定及びゲノム創薬(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
宮田 敏男(東海大学医学部内科学)
研究分担者(所属機関)
  • 深水昭吉(筑波大学先端学際領域センター)
  • 南学正臣(東京大学医学部腎臓内科学・分子生物学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究事業(ヒトゲノム分野)
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我々は腎疾患の発症進展に中心的役割を演ずるメサンギウム細胞に発現する特異遺伝子群の量的・質的解析を完了し、メサンギウム細胞に特異的に発現する機能的蛋白であるメグシンをはじめ幾つかの新規遺伝子群(PP4Rmeg、meg-2、meg-3、meg-4)を同定した。メグシンは活性型serpinに属し、ヒト腎炎や実験腎炎において発現が著明に亢進している。また、ヒトメグシン遺伝子導入マウスにおいてはヒトメサンギウム増殖性腎炎と類似の病像を呈することなどから、メグシンの発現増強がメサンギウム基質のリモデリングやメサンギウム細胞の免疫複合体処理能を低下させ、病態の形成に関与する事が示唆されている。
本研究の目的は、腎疾患ゲノム創薬に向けての標的分子などの情報と研究材料(リコンビナント蛋白、抗体、遺伝子改変マウス)などの研究基盤を提供することである。本年度の研究では、1)メサンギウム細胞特異的遺伝子発現システムの開発、2)メサンギウム特異的発現分子に対する抗体を用いた診断法の開発、3)メグシン蛋白活性を抑制する中和抗体の作製、4)メグシントランスジェニック(Tg)マウスを用いた評価系モデル動物の作製、5)腎特異的高発現新規遺伝子群の機能解析(PP4Rmeg、meg-2、meg-3、meg-4)を行った。
研究方法
1)メサンギウム細胞特異的遺伝子発現システムの開発
メグシン転写開始点上流域のcis転写領域を解析し、正の転写領域を解析する。腎臓メサンギウム細胞に特異的に遺伝子が発現するシステムの開発をめざして、メグシン転写開始点上流域の下流に緑色蛍光蛋白(GFP)を結合させ、メグシンプロモータートランスジェニックマウスを作製する。cis-acting elementを含むpromoter領域を安定導入したマウスメサンギウム細胞を樹立し、既存のサイトカインの影響につき検討する。
2)メサンギウム特異的発現分子に対する抗体を用いた診断法の開発
ヒトリコンビナント精製メグシンを免疫源として免疫を行い、単一クローン抗体を作製、メグシンを検出するサンドイッチELISAを確立する。このアッセイ系を用いて、健常人、腎不全患者、メグシントランスジェニックマウスの生体試料(血液、尿)中のメグシンを定量する。
3)メグシン蛋白活性を抑制する中和抗体の作製
得られた単一クローン抗体のなかから、メグシン活性の阻害作用(中和抗体)の検索を行う。中和活性の評価には、生物学的解析としてメグシンがプラスミン活性を阻害する事を、さらにメグシン・プラスミン複合体形成反応を利用する。中和抗体が得られれば、その抗体認識アミノ酸配列につき検討する。
4)メグシントランスジェニック(Tg)マウスを用いた評価系モデル動物の作製
Megsin Tg マウスはヒトに類似の糸球体腎炎を自然発症するのに40週間かかる。その表現型を加速するために、幾つかの負荷(片腎摘出、薬剤、抗糸球体基底膜抗体投与など)を与えて検討する。
5)腎特異的高発現新規遺伝子群の機能解析(PP4Rmeg、meg-2、meg-3、meg-4)
メグシン以外のメサンギウム細胞高発現遺伝子の機能につき解析する。meg-2、meg-3、あるいは meg-4トランスジェニックマウスを作製し解析する。meg-3及びmeg-4ノックアウトマウスを作製する。
結果と考察
1)メサンギウム細胞特異的遺伝子発現システムの開発
メグシン転写開始点上流域(約6kbp)のcis転写領域を解析し、正の転写領域(cis-acting element)を同定した。メグシン転写開始点上流域(約6kbp)の下流に緑色蛍光蛋白(GFP)を結合させ、メグシンプロモータートランスジェニックマウスを2系統作製したが、糸球体をはじめいかなる主要臓器にもGFP発現は認めなかった。おそらく正常メサンギウム細胞においてはメグシンプロモーターの活性が弱いためと推測された。promoter領域導入マウスメサンギウム細胞で検討したところ、既存のサイトカインのなかでTGF-betaがメグシンの転写を亢進した。
2)メサンギウム特異的発現分子に対する抗体を用いた診断法の開発
ヒトリコンビナントメグシンを用いて最終的に64個の単一クローン抗体を得た。これら全ての抗体の反応特性をELISA、ウエスタンブロッティング、免疫組織染色、BIACOREなどの方法を用いた解析を行い抗体評価のパネル作製を完了した。次に、サンドイッチELISA解析用の抗体を選択する目的で様々な組み合わせの比較検討を行い、モノクローナル抗体とポリクローナル抗体による最適な組み合わせを決定し、精製リコンビナントメグシンを数ng/mlのオーダーまで検出できるサンドイッチELISA法の確立を完了した。
3)メグシン蛋白活性を抑制する中和抗体の作製
得られた単一クローン抗体につき、メグシン活性の阻害作用(中和抗体)の検索を行った。最終的に1個の候補抗体を得られ、抗原特異性(他のセルピンとの交差性)、中和活性能の特異性を確認した。中和抗体の抗体認識アミノ酸配列検索は、reactive center loop (RCL)内を中心とした様々なペプチドを合成し検討した。その結果、抗原認識部位が明らかとなり、RCL内のセリンプロテアーゼ切断部位であるP1-P1'を含む6残基 (NIVEKQ) のペプチドであることが決定された。
4)メグシントランスジェニック(Tg)マウスを用いた評価系モデル動物の作製
Megsin Tg マウスに認められた腎傷害を加速するために、幾つかの負荷(片腎摘出、薬剤、抗糸球体基底膜抗体投与など)を与えて検討したところ、抗糸球体基底膜抗体による糸球体傷害を与えることにより、正常では糸球体障害が継時的に回復するのに対し、Tgマウスは修復機能が遅延した。これによりTg腎炎の発症を短期間で加速させる一つの手法が見出された。
5)腎特異的高発現新規遺伝子群の機能解析(PP4Rmeg、meg-2、meg-3、meg-4)
メグシン以外のメサンギウム細胞高発現遺伝子に関しても、いくつかの知見が得られた。PP4Rmegはprotein phosphatase 4の新規調節サブユニットであることを同定した。meg-3は転写調節に関与するSH3ドメインとの結合モチーフを有する高プロリン領域を有すること、meg-4はATP依存性metalloproteaseに属することなどが示されたが、その腎臓に於ける病態生理学的意義は不明である。そこで、これらの遺伝子改変マウスを作製した。meg-2、meg-3、あるいは meg-4メグシントランスジェニックマウスを作製し、腎臓における発現が強い系統において経時的腎病理、腎機能変化を検討してきたが、40週令までの経過観察においては、有意な腎機能障害の自然発症は確認できなかった。
結論
我々は腎疾患の発症進展に中心的役割を演ずるメサンギウム細胞に発現する特異遺伝子群の量的・質的解析を完了し、メサンギウム細胞に特異的に発現する機能的蛋白であるメグシンをはじめ幾つかの新規遺伝子群(PP4Rmeg、meg-2、meg-3、meg-4)を同定した。メグシンは活性型serpinに属し、ヒト腎炎や実験腎炎において発現が著明に亢進している。また、ヒトメグシン遺伝子導入マウスにおいてはヒトメサンギウム増殖性腎炎と類似の病像を呈することなどから、メグシンの発現増強がメサンギウム基質のリモデリングやメサンギウム細胞の免疫複合体処理能を低下させ、病態の形成に関与する事が示唆されている。本研究の目的は、腎疾患ゲノム創薬に向けての標的分子などの情報と研究材料(リコンビナント蛋白、抗体、遺伝子改変マウス)などの研究基盤を提供することである。
本年度の研究により、メグシンに対する情報と研究材料の準備が完了した。特筆すべき点は、メグシン活性を中和する抗体が獲得されたことであり、その抗原認識部位がreactive center loop (RCL)内のセリンプロテアーゼ切断部位であるP1-P1'を含む6残基 (NIVEKQ) のペプチドに決定されたことである。また、メグシン遺伝子改変マウスに少量の抗基底膜抗体を投与することにより短期間でのメサンギウム傷害評価を可能にする腎炎モデルが得られたことである。来年度は、このモデルマウスに中和抗体を投与し、腎炎の軽減効果が得られるかにつき検討を行いたい。さらにより中和活性の高い抗体の獲得を目指し、効率的な免疫方法あるいはphage display法を行う。

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