脊髄小脳変性症の新規遺伝子の同定と治療法の開発(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100456A
報告書区分
総括
研究課題名
脊髄小脳変性症の新規遺伝子の同定と治療法の開発(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
水澤 英洋(東京医科歯科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 石川欽也(東京医科歯科大学)
  • 大和田潔(東京医科歯科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究事業(ヒトゲノム分野)
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、まず当該期間内でこれまでに同定した候補遺伝子領域についてポジショナルクローニングの最終的な段階である検索をすすめ、本邦に存在する原因不明の遺伝性脊髄小脳変性症のうち最も頻度が高いと思われる病型、すなわち16q連鎖常染色体優性遺伝性皮質性小脳萎縮症(16q-linked ADCCA)の原因遺伝子を同定することである。その後、この遺伝子の機能解析と本症の発症機序の解明を進め、それらの情報にもとづき新しい治療法の開発に努める。本研究の必要性は、本病型が現在のところ原因不明でかつ有効な治療法がない神経難病であることからも明らかであるが、さらにこの病型の頻度が我々の統計では全優性遺伝型失調症の約15%程度を占めるほど高いことからもその重要性が明らかである。なお、本病型は同様な症候を呈する脊髄小脳失調症6型(SCA6)を含め脊髄小脳変性症の中で最も高齢発症である。原因遺伝子が同定できれば、本疾患の正確な病態の解明と、ひいては発症機序にもとづいた治療法の確立に大きく寄与することと期待される。本疾患に類似した臨床像を呈する失調症の家系が海外からも記載されていることや、同じ領域に連鎖するも臨床症状の異なる家系が、脊髄小脳失調症4型(SCA4)として米国から報告されていることから、本研究により原因遺伝子が解明されれば、世界的にもこの分野の研究の推進に大きく貢献するものと期待される。
研究方法
昨年までに本遺伝子を含む約5Mbの領域をカバーする様に、BACクローンによるcontigを構築し物理地図を完成させたが、まずデータベースからこの領域に存在する遺伝子の最新情報を取得する。すでにCAGリピートをプローブにハイブリダイゼーションを行い、陽性のシークエンスについては異常伸長変異の検索を終了したが、データベース上で明らかになったCAGを含む三塩基配列はもちろん二塩基配列、四塩基配列、五塩基配列などのリピートについても異常伸長変異の有無を検索する。神経系での発現が報告されているものや連鎖不平衡の高度なものから順に候補遺伝子の全エクソンについて変異の有無のスクリーニングを行う。全国から依頼される検索症例を含め、さらに家系を増やして候補領域をできる限り狭める努力も継続して行う。とくに倫理面への配慮については、平成12年4月の厚生科学審議会の指針にもとづき新設された遺伝子研究のための倫理審査委員会の審議を経て許可されており、動物の取り扱いも本学動物実験委員会の指針に基づいて行うなど十分な配慮がなされている。
結果と考察
これまで、まず候補領域約10cMの領域に存在するマイクロサテライトマーカーを20個選択し、患者に共通のハプロタイプと有意な連鎖不平衡を認め候補領域を16q13上の約2cMにまで絞り込むことに成功した (Takashima et al. J Hum Genet, 2001)。さらに我々独自で発見したマーカーを加え、かつ検索家系を増やして候補領域を狭める努力を行い、患者群にしか存在しない高度の連鎖不平衡を示すマーカーを同定した。さらに本遺伝子を含む約5Mbの領域をカバーする様に、BACクローンによるcontigの構築を行い物理地図を完成し候補領域を確定した。ヒトゲノムデータベースの情報から、この候補領域内にはまだ非常に多数の遺伝子が存在していることが判明した。これらの遺伝子の中の二塩基、三塩基、四塩基、五塩基の反復配列(リピート)を全て検出し、それらの異常伸長を検索したが患者群にて有意に伸長している変異は認められなかった。さらに、連鎖不平衡の高度なマーカーを中心に、脳に発現している遺伝子の中から候補遺伝子を順次選出して全エクソンのシー
クエンスを決定したが、患者群にユニークな病的な変異は認められなかった。すなわち、まず連鎖解析により患者に共通のハプロタイプが存在することが認められており、これらの患者には共通の祖先が存在する可能性が高く、さらに独自に発見したマーカーを加えかつ家系を増やして連鎖解析を詳細に行うことで候補領域を絞り込むことに成功している。しかし、まだ不十分であり、継続的に努力することが必要である。また、遺伝子の検索も同時に並行して進めているが、これまでにCAGを含むリピートの異常伸長の変異は患者にて見いだされていない。最も原因遺伝子に近いと思われるところに存在する遺伝子、あるいは機能や発現部位から可能性の高いと思われる遺伝子などの候補遺伝子についても順次、全てのエクソンの配列を比較して病的変異の有無を検索しているが、まだ原因遺伝子の同定には至っていない。現在までにかなりの遺伝子の検索を完了しており、かつ新しい家系の連鎖解析も進んでいるためさらに領域が限定される可能性も高く、研究期間内には原因遺伝子の同定に成功するものと期待される。
結論
詳細な連鎖解析により16q連鎖常染色体優性遺伝性皮質性小脳萎縮症の原因遺伝子をさらに絞り込みつつある。同時に、ゲノム情報から本遺伝子座の物理地図上に存在する候補遺伝子の検索を進め、CAGを含めた様々なリピートの異常伸長については否定的であることが判明した。すでに、他の変異についても順次候補遺伝子の検索を始めているが、さらに強力に推進する予定である。

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