ゲノム多型情報を基盤としたパーキンソン病原因遺伝子の同定とオーダーメイド医療の確立に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100453A
報告書区分
総括
研究課題名
ゲノム多型情報を基盤としたパーキンソン病原因遺伝子の同定とオーダーメイド医療の確立に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
戸田 達史(大阪大学大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 村田美穂(東京大学大学院医学系研究科)
  • 服部信孝(順天堂大学医学部)
  • 山本光利(香川県立中央病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究事業(ヒトゲノム分野)
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
パーキンソン病(PD)は、中高年に発症し、ドパミンニューロンの変性により振戦、筋固縮など運動障害を主症状とするアルツハイマー病とともに多い神経変性疾患であり、我が国には現在約10万人以上の患者がいるが、加齢に伴い発症率が増すため今後の患者の増加が予想される。神経変性疾患としては唯一治療薬が豊富であるが、多くの薬剤はドパミンの補充が主体であり根本的な治療ではなく、真の原因や発症の引き金を突きとめることが重要である。
PDにおける遺伝子の重要性は意見が分かれていたが、最近になって一卵性双生児の疾患一致率が約60%もあり二卵性の約3倍、他などから、多因子遺伝性疾患と認知されるようになった。家族性PDではa-synucleinやparkin遺伝子が発見されたが、患者の大部分を占める弧発性PDでは疾患感受性遺伝子は証明されていない。
一方で弧発例では、振戦を主体とする群、抗パ剤で副作用を起こしやすい群など、その経過・中心となる症状・薬剤の効果は患者により異なり、このことは従来PDとして一括して行われていた遺伝解析に階層化を可能にしそれには卓越した専門家の目が必要であり、また遺伝子多型によって患者個人個人に必要な薬剤を必要な量投与するオーダーメイド医療が可能であることを意味する。これまでパーキンソン病(PD)疾患感受性遺伝子探索は多数なされてきたが明らかなものは見出されていない。この最大の原因はPDの多様性を無視してPDであるかないかのみを指標にDNA解析が行われてきたことにある。従って患者の階層化をいかに行うかがカギとなる。
本研究では1)神経伝達物質関連など候補遺伝子から、続いて全ゲノムから未知のSNPを探索する2)効率的な患者の階層化を行うための臨床データ取得のチェックシートを作成する。3)多数のSNPをもとに約1000人の患者群と正常群で階層化も考慮した関連解析を行い疾患感受性遺伝子を同定する。4)同時にSNPと各薬剤への反応性、副作用との関連を明らかにしオーダーメイド治療法を確立する、ことを行う。
一方パーキンソン病は疾患概念が確立した疾患単位であるが、実際には各種の抗パーキンソン病薬に対する効果や副作用の出現の仕方は患者により様々である。患者により個体差が大きくかつパーキンソン病治療中の最も大きな問題点の一つにwearing-off現象がある。抗けいれん薬として我が国で開発されたzonisamideが著明な抗パーキンソン効果を持つことを見い出したのでオープン研究を行い、さらに動物実験により作用機序を明らかにする。
また常染色体劣性若年性パーキンソンニズム (AR-JP)の原因遺伝子であるパーキン遺伝子は若年発症の家族性パーキンソン病において頻度の高い原因遺伝子として認識されつつある。しかしながら、パーキン遺伝子の変異を全く持ち得ない家系や症例が存在することが分かってきており、劣性遺伝に伴う若年発症のパーキンソン病もまた別の遺伝子による可能性が検討されている。最近になり、ヨーロッパを中心に常染色体1番に連鎖する家系の報告があった。新規遺伝子座に連鎖する家系の存在有無を検討すると伴に新しい原因遺伝子単離を目指すことを目的とした。
研究方法
研究方法、(1)大量高速SNPタイピング法の検討
大人数の対象を数多くのSNPでタイピングするには、時間、労力、費用などの面で効率的なタイピング法を決定することが重要である。古典的なAllele Specific Oligonucleotide Hybridization (ASO)法でタイピングを行うと共に、Pyrosequencing法、SnapShot法、TaqMan法などを試用検討した結果、384個同時に測定できるTaqMan法が一番有用であり、この方法だと2000検体同時に先にPCRし、測定も1時間以内に終了し、コンピューター内でデータ処理されることがわかった。
(2)効率的な階層化を目的としたチェックシートの作成
村田、山本らは患者の主たる病像、副作用出現のしやすさ、随伴症状などが、特徴として抽出できること、また、特異な病型を抽出できること、比較的短時間の診察で充分な情報をえられることなどを考慮して、チェックシート及び質問表を作成した。特異な病型として、1) 振戦型 2) 固縮無動型 3) 動作緩慢型 4) 姿勢調節障害型 5) 重症痴呆合併例 を抽出した。
(3)患者対照関連解析
PD患者、正常対照それぞれ約250名を対象にし、PDの疾患関連候補遺伝子の翻訳領域に存在しかつアミノ酸の変化を伴うもの数十遺伝子選択しタイピングを行い、BDNF遺伝子480G/AのAAホモ接合体がPD患者では正常対照に比し有意に多いこと、UCH-L1遺伝子S18YのCアレルに関してPDで有意に多いことを見い出した。
さらには、平成13年秋はじめて孤発性PDで連鎖のある領域が発表されたので、そこに重点をおき関連解析を行い得るし、またpool DNAによるゲノムワイドマイクロサテライト関連解析も同時に行う。また、患者の階層化を行いそれぞれのSNPについてwearing-off易出現群、dyskinesia易出現群、悪性症候群及びCK高値群などとの関連について検討したが、現時点では有意な差を生じるものは見つかっていない。今後さらに症例と検討するSNPを増やしていく必要がある。
(4)常染色体劣性遺伝性パーキンソン病の新規遺伝子座の同定と原因遺伝子の単離
服部らはパーキン遺伝子変異を持たない症例30家系について既報されているpark6、park7についてハプロタイプ解析を行った。lod scoreはparametric Two-point解析で行った。7家系についてハプロタイプからはpark6に連鎖している可能性があった。parametric two-point likageではθ= 0 でD1S478をピークにlod score = 3.04を示した。
Park6, 7に連鎖する家系が我が国も存在しうることが判明した。park7については現在マイクロサテライトマーカーの日本人頻度を検討中であり、lod scoreは算出していないが、ハプロタイプからは存在している可能性がある。またpark6,7と両遺伝子領域に連鎖する家系も存在していた。park7に連鎖する家系で発症年齢が10歳代で痴呆を伴う家系も存在していた。このpark7というよりpark9の臨床型に類似していた。現在park6, 7, 9は全て常染色体1番に連鎖しているが、それぞれの遺伝子座は十分に離れており、別の遺伝子であることが推測されているが、単一遺伝子である可能性も完全には否定できない。特にpark7とpark9はマーカーに重なりがあり、allelic disorderの可能性も否定できない。
(5)Zonisamideの著明な抗パーキンソン効果
村田らはパーキンソン病患者10名に現在の治療に加えzonisamide 50-200 mgを投与し、症状の変化及び副作用についてUnified Parkinson Disease Rating scale (UPDRS)により評価した。またラットにzonisamideを経口投与し、線条体のドパミン含量及びtyrosine hydroxylase(TH) 活性を測定した。zonisamideは50-100mg(抗けいれん薬での常用量は300-400mg)で明らかなな抗パーキンソン効果を示し、得にwearing-offには著効を呈した。副作用は軽い口渇のみで、極めて安全と考えられた。zonisamide投与によりラット線条体内でドパミン含量及びTH活性は有意に上昇していた。
Zonisamideは低用量で著明な抗パーキンソン効果を示すことを確認した。作用機序としてTH活性亢進を介したドパミン産生亢進が考えられた。現在村田らが中心になりzonisamideのパーキンソン病への適応拡大のための治験を進めている。
(6)MIBG心筋シンチグラムによる検討
山本らは特異的な検査としてMIBG心筋シンチグラムを実施している。若年発症では明らかに障害度が、中年期以降発症群よりも低いことが判明した。何らかのゲノム機能の背景との関連が想定される。
(7)DNAサンプル収集と次年度への期待
効率的な階層化を目的に臨床情報収集のための質問表及びチェックシートを作成し、特異な病型、特徴的な症状を抽出することが可能となった。本報告書時点で臨床分類、臨床評価シート作成、UPDRSでのscore化、文書によるインフォームドコンセントのあるDNAサンプルを約550収集した。特に順天堂大学はパーキンソン病患者は多く未採血700例が存在すると考えている。毎週drug controlなどで入院する患者が10例ほどいる。また香川ではパーキンソン病友の会の協力が得られることになり、100名の追加症例が期待できる。平成14年度早期には患者1,000人のDNAに到達できることが期待される。
結果と考察
結論
大量高速にSNPタイピングする方法を検討し決定した。効率的な階層化のために臨床情報収集のための質問表及びチェックシートを作成した。BDNF遺伝子480G/AのAAホモ接合体がPD患者では正常対照に比し有意に多いこと、UCH-L1遺伝子S18YのCアレルに関してPDで有意に多いことを見い出した。日本にもpark 6, 7, 9がハプロタイプ解析で存在していることが分かった。劣性遺伝形式を呈する家族性パーキンソン病もまた複数の遺伝子異常に伴うことが予想される。Zonisamideは低用量で著明な抗パーキンソン効果を示すことを確認した。作用機序としてTH活性亢進を介したドパミン産生亢進が考えられた。MIBG心筋シンチグラムにて、若年発症では明らかに障害度が、中年期以降発症群よりも低いことが判明した。共通チェックシートを使用し、DNAサンプル及び臨床情報を収集しており、平成14年度早期には患者1,000人のDNAに到達できることが期待される。連鎖のある領域も発表されつつあり、今後は患者1000人をもとに、そこにも重点をおき関連解析を大規模に行っていく。

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