子宮内膜症病態解明を目的とした罹患同胞対連鎖及び患者・対照群相関解析を用いた遺伝学的研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100451A
報告書区分
総括
研究課題名
子宮内膜症病態解明を目的とした罹患同胞対連鎖及び患者・対照群相関解析を用いた遺伝学的研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
田中 憲一(新潟大学医学部産科婦人科学教室)
研究分担者(所属機関)
  • 谷上信(大塚製薬株式会社藤井記念研究所)
  • 岡村均(熊本大学医学部産科婦人科学教室)
  • 伊熊健一郎(宝塚市立病院産科婦人科)
  • 杉並洋(国立京都病院産科婦人科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究事業(ヒトゲノム分野)
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、マイクロサテライトマーカー及びSNPsを用いた患者・対照群相関解析により、子宮内膜症発症に関与する疾患感受性遺伝子を同定し、本症の発症メカニズムの解明、発症予防、新たな治療法の開発に貢献することを目的とする。
研究方法
(1)検体収集:研究参加施設において、下記対象となる患者及び対照症例より文書による同意を取得し、検体収集を行う(全血10ml)。
(子宮内膜症症例)
1)腹腔鏡検査あるいは開腹手術下にて診断されたR-AFS分類 III・IV期の子宮内膜症症例
2)画像診断にて測定可能な2あるいは3方向の平均値が3cm以上の卵巣子宮内膜症性嚢胞を認める臨床的子宮内膜症症例
(対照症例)
1)高度の月経困難症を認めずまた不妊治療の既往のない2回経産の健常婦人
2)開腹手術あるいは腹腔鏡下手術にて子宮内膜症病変を認めなかった症例
(2)解析方法
1)Individual DNA genotyping法を用いた第22染色体全領域における患者・対照群相関解析:子宮内膜症組織において高頻度の欠失が報告されている第22染色体全領域を候補領域とし、約200kb間隔のマイクロサテライトマーカー設定を行う。これらのマーカーを用いて、患者・対照群相関解析を行い、各マーカーにおけるアレル頻度をカイ2乗検定し、アレル数で補正した後のp-value≦0.05を有意基準として、子宮内膜症との間に相関を認めるマーカーの近傍を候補遺伝子領域とする。
2)Pooled DNA genotyping法を用いたゲノムワイドの患者・対照群相関解析:ゲノムワイドに設定した約3万個(約100kbに1個の間隔)のマイクロサテライトマーカーを使用する。PicoGreenという蛍光色素を用いた定量法によりIndividual DNAの量、すなわちゲノムDNA分子のコピー数を正確に揃えたPooled DNAを鋳型としてPCRを行う。推定アリル頻度は、GeneScan解析により得られた波形パターンから全てのピークの高さの総和を求め、その値に対してそれぞれのピークの高さの割合を求めることで算出される。このようにして求めた推定アリル頻度を2つの集団間でカイ2乗検定することにより相関解析を行う。
3)疾患感受性遺伝子の同定:候補領域内のSNPsマーカーを用いて連鎖不平衡を検出する。同時に、アミノ酸配列からの機能予測により細胞の成長、分化、分裂あるいは免疫異常、環境ホルモンに影響される因子など子宮内膜症の発症に関連があると予測される候補遺伝子を選定する。ハプロタイプ相関解析及び突然変異解析、あるいは子宮内膜症組織における発現解析を行い、子宮内膜症発症に関与する疾患感受性遺伝子の同定を目指す。
結果と考察
現在までに、研究参加施設より患者・対照群相関解析の一次、二次スクリーニングに必要な子宮内膜症400例を収集した。臨床進行期はR-AFS分類 III期症例35.6%、IV期40例症例41.1%、また、臨床的子宮内膜症症例23.3%であった。主訴として61.4%の症例が鎮痛剤を必要とする高度の月経困難症を訴え、27.7%の症例が不妊を訴えていた。また、不妊治療の既往を既婚者の38.5%、分娩歴を有する症例の28.7%に認めた。子宮内膜症の発生に月経血の関与が示唆され、初経年齢11歳以下、月経期間7日以上、正常より短い月経周期であることが子宮内膜症の危険率が高いと報告されているが、今回集積した症例では、平均初経年齢12.2歳、平均月経期間6.1日、83.1%の症例が正常な月経周期であり有意なものは認めなかった。また、平成11年度厚生省子ども家庭総合研究では子宮内膜症症例の約7%に姉妹発症を認めているが、今回集積した症例では、19症例(4.8%)に姉妹発症を認めた。本研究では、Individual DNA genotyping法を用いた第22染色体全領域における患者・対照群相関解析により、AP000346.1(22q11.23)、D22S929(22q12.2)、AL022238.1(22q13.2)の3マーカーにおいてアレル数で補正した後のp-valueが0.05以下(カイ2乗検定)を示した。D22S929はNF2(neurrofibromin 2)遺伝子のイントロン1に存在し、また、AP000346.1の近傍にIGLL1(immunoglobulin lambda-like polypeptide 1)遺伝子、MMP11(matrix metalloproteinase 11)遺伝子、AL022238.1の近傍にADSL(adenylosuccinate lyase)遺伝子、GPR24(G protein-coupled receptor 24)遺伝子が存在し、これらの遺伝子の子宮内膜症発症への関与が示唆された。次に、ゲノムワイドに設定した約3万個(約100kbに1個の間隔)のマイクロサテライトマーカーを用いたPooled DNA genotyping法による患者・対照群相関解析を開始した。子宮内膜症200例、対照群200例のPooled DNAを作製し、現在までに約15000マーカーの解析を終了している。推定アリル頻度を患者と対照群間でカイ2乗検定することにより相関解析を行い、全染色体領域にわたり約700マーカーで有意な相関(p-value≦0.05)を認めている。12q23.1-2、15q21.3、15q24.2-3、16p13.13、17q23.1-2領域において3マーカー連続して有意差を認めている領域が存在するため、特にこれらのマーカー近傍に子宮内膜症発症に関与する疾患感受性遺伝子の存在が示唆された。数ヶ月以内に一次スクリーニングを終了する予定であり、次いで、新たな子宮内膜症200例、対照群200例を対象とした二次スクリーニングにより約70個前後の候補マイクロサテライトマーカーを選出する。候補領域内に位置する遺伝子の中から、子宮内膜症発症に関与する疾患感受性遺伝子の同定を目指す。本疾患感受性遺伝子が解明された暁には、治療薬の創生による治療法の改善、あるいは高感受性対象者における発症前診断による予防法の確立等に貢献するのみならず、遺伝的要因の疑われる他疾患、特に、悪性腫瘍、common diseaseなど従来原因遺伝子の単離が困難であるとされてきた疾患の原因遺伝子究明にも大きな進歩をもたらすものと期待される。
結論
Individual DNA genotyping法を用いた患者・対照群相関解析により第22染色体領域のAP000346.1(22q11.23)、D22S929(22q12.2)、AL022238.1(22q13.2)の3マーカーで子宮内膜症に有意な相関が認められ、これらのマーカー近傍に疾患感受性遺伝子の存在する可能性が示唆された。現在までにPooled DNA genotyping法によりゲノムワイドの約15000マーカーの患者・対照群相関解析を終了し、全染色体領域にわたり約700マーカーで有意な相関(p-value≦0.05)を認めている。今後
は、一次、二次スクリーニングにより候補領域を選出し、子宮内膜症発症に関与する疾患感受性遺伝子同定へと進む計画である。

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