マイクロサテライトマーカーによる動脈硬化関連遺伝子および白内障関連遺伝子の全ゲノムスクリーニングと同定(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100450A
報告書区分
総括
研究課題名
マイクロサテライトマーカーによる動脈硬化関連遺伝子および白内障関連遺伝子の全ゲノムスクリーニングと同定(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
田口 淳一(東海大学循環器内科)
研究分担者(所属機関)
  • 猪子英俊(東海大学分子生命科学)
  • 半田俊之介(東海大学循環器内科)
  • 田宮 元(東海大学分子生命科学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究事業(ヒトゲノム分野)
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
50,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
成人病の主要な原因疾患である動脈硬化性疾患や、老人性白内障に関しては、その国民健康そのもの及び医療費に与える重大な影響のため現在も精力的に研究が進められている。現在のところ多遺伝子疾患である両疾患原因遺伝子候補は多数上がっているが、その重要性に関して全ゲノムを視野に入れた判断が求められるようになってきている。マイクロサテライトマーカーはSNPに比べて、原因遺伝子領域同定に関して圧倒的な有効性を有している。本研究の目的はゲノムワイドに設定した3万のマイクロサテライトマーカーを両疾患の原因遺伝子領域決定に使用して、日本人における動脈硬化と白内障に関する遺伝的検討を全ゲノムに対して行うことにある。
研究方法
1)既知のマイクロサテライトマーカー1万を用いて、冠動脈硬化症、大動脈瘤、脳動脈硬化、老人性白内障と健常者で相関解析を行う。健常者、冠動脈硬化症、皮質内白内障から進行している。
2)ヒト全ゲノムドラフトシークエンスを用いて、ゲノムワイドに3万のマイクロサテライトマーカーを設定し上記のスクリーニング・相関解析を行う。健常者、冠動脈硬化症、皮質内白内障から進行している。
3)提携している大学・病院から広く家族歴の特に強い家系を選択し、3万のマイクロサテライトマーカーを用いexclusion mappingの手法にて疾患関連遺伝子領域を決定する。現在冠動脈疾患候補家系の選択中である。
4)相関のあるマイクロサテライトマーカー近傍の100kb程度に絞り込まれた複数の遺伝子領域内にDNAチップを用いて動脈硬化関連遺伝子、白内障関連遺伝子を検索する。特に疾患対象組織に発現している遺伝子を検索する。関連遺伝子内の単一遺伝子変異(SNP)をDNAチップやシークエンスで検査し、遺伝子同定を行う。
具体的には、マイクロサテライトマーカーの組み合わせによるハプロタイプ解析で相関を確認し、続いてその中のSNPに関して相関解析・ハプロタイプ解析を行っている。SNPに関しては既知のものから検討するが、必要に応じてその領域の完全シークエンスにより日本人におけるSNPを決定してから、相関解析・ハプロタイプ解析を行う。また大動脈瘤組織など疾患関連組織における遺伝子発現を、Affymetrix GeneChipを用いてゲノム全体をカバーする6万以上のマーカーを用いて解析を行う。
今後もマイクロサテライトマーカーで得られた情報とGeneChipで得られた発現遺伝子情報を組み合わせることにより、単独だけの方法による偽陽性と偽陰性ともに減らせると期待される。
5)同定された遺伝子が未知のものの場合には、完全シークエンスによるエクソン構造の解析、RNA発現解析や蛋白構造解析を行う。可能であれば遺伝子導入やジーンターゲッティングなどの発生工学的手法も用いる。
上記のうち平成14年度には1)-4)の続きと、少なくとも142C05近傍遺伝子に関して5)を行う予定である。
結果と考察
1) ヒト全ゲノムドラフトシークエンスを用いて、ゲノムワイドにまず5万の候補マイクロサテライトマーカーを設定した。引き続き正常日本人のpooled DNAを用いて、多型性を検証した。その結果日本人において有意な多型をもつ3万のマイクロサテライトマーカーを設定した。
ゲノムドラフトの不完全さより、設定したマーカーのゲノムカバー率は約85%と考えられる。今後ゲノムシークエンス情報が更新されれば順次マーカーを追加する予定である。またこの3万のマイクロサテライトマーカーを染色体上の位置の順に配置したプレートを作成した。このプレートにより相関解析はいっそう簡便になるものと期待される。
2)上記のマーカーを用いたスクリーニング・相関解析は、健常者400名と冠動脈硬化症患者200名、大動脈瘤100名、皮質内白内障100名から進行している。通常の白内障患者を用いたスクリーニング検討では遺伝的要因よりも年齢要因の方が強く、通常の白内障患者におけるマイクロサテライトマーカー相関解析は中止した。相関解析はまず患者群と正常群のpooled DNAで行い、有意な関係が認められたマーカーとその近傍で、別の患群と正常群pooled DNAを使用して2次スクリーニングを施行した。それでも有意であったものに対して、改めて患者個人別のタイピングを行い、相関解析を施行した。現在順次、マーカーを検討中である。
3)候補遺伝子領域の絞込みに関して:現在すでに冠動脈疾患に関してはまず2つの有力な候補領域が発見された。一つは7q32-36の142C05と呼ばれるマーカーのきわめて近傍において冠動脈疾患と強い相関が観察された。同部位には既知の遺伝子は無く、未知の遺伝子であるESTのみ存在する。現在はその範囲内に存在する未知遺伝子の同定及びSNPを対象とした疾患感受性アリルの検索を行っている。同ESTは5つのエクソン構造から成り立つが、スプライシングが多いことが判明した。SNPによるハプロタイプ分析ではエクソン1かその上流域に相関が強いことが判明した。その部位における完全配列決定を行い、新たなSNPの解析を進めている。また11q22.2 (MMP cluster: MMP-7, 20, 27, 8, 10, 1, 3, 12)において、マイクロサテライトマーカーの組み合わせによるハプロタイプ解析で強い相関を認めた。この間にはMMP-7とMMP-20が存在し、その中の既知のSNPに関して相関解析・ハプロタイプ解析を行っている。
4)大動脈瘤組織など疾患関連組織における遺伝子発現を、Affymetrix GeneChip U95A-Eセットを用いて解析を行った。このセットは、6万以上のマーカーを有しており、遺伝子が4万と言われているところから、ゲノムをほぼカバーしているものと考えられる。動脈硬化組織においては既知の遺伝子(12600)の中、約4600の遺伝子が発現しることを確認した。またEST(55000)に関しては9000の発現を確認した。
現在はGeneChip上のマーカーを染色体の位置にマッピングしており、マイクロサテライトマーカーで得られた、染色体上の位置情報も含んだ情報と組み合わせることにより、単独だけの方法による偽陽性と偽陰性ともに減らせると期待される。上記のように実際にMMPに関してはその有用性が判明した。
本研究の目的は、医療上重大な問題である動脈硬化症および白内障の原因遺伝子検索に対して、1)実現可能な、全ゲノムスクリーニングを行い、2)環境因子も含めた分子的発症機序を明らかにし、3)より有効な予防・治療・創薬に結びつく道を開くことである。心筋梗塞・虚血性心疾患と脳梗塞・脳出血は日本人の3大死因の2つであることより、これらの原因である動脈硬化症のコントロールが重要であることは明白である。また、高齢者に高い頻度で発症する老人性白内障はその治療が外科的手術のみに頼っており、予防法や低浸襲療法の開発が急務となっている。
このため現在も多くの医療費・研究費がこれらの研究に費やされているが、研究テーマは多岐にわたっており、全ゲノムで遺伝子をサーチすることでこれらの研究を総合評価し今後の方向性を決定することができると考えられる。
我々が作成したマイクロサテライトマーカーセット・プレートは3万のマーカーであり現実的に全ゲノムスクリーニングができる世界で最初のものと考える。SNPの全ゲノムスクリーニングは、今後全世界的なハプロタイプスクリーニング情報が集積された後に現実応用が可能になるものと思われる。今後全ゲノムでの相関解析を進めてゆけば、冠動脈硬化症・その他大血管の動脈硬化の原因遺伝子領域がヒトゲノムシークエンスの判明した領域に関してほぼ同定されると予想される。また、皮質内白内障の全感受性遺伝子の同定が終了すると予想される。
実際に2002年2月のNature Medicineに心筋梗塞患者513家族で全染色体の相関解析を行ったデータが報告されているが、この場合には各染色体で検討されたマーカーは20以下(最小5)であり、今回我々の使用する各染色体1000以上と比較すると圧倒的に情報量密度が異なると考えられる。
今後は得られた情報には、既知の脂質関連遺伝子などの動脈硬化関連遺伝子が多く含まれると考えられる。しかしながらすでに我々の結果から、冠動脈硬化症と関連するEST候補に挙がっているように、未知の遺伝子が多くリストアップされる可能性は高い。
この得られた結果を公表の後には、多数の研究室と共同して、日本人における動脈硬化症・白内障関連遺伝子をつきとめてゆくことは、世界に先駆けて達成される可能性があり、ひいてはベンチャー創業等にも結びつく可能性が高いと考えられる。
またこのマイクロサテライトプレートはどのような疾患群にも応用が利き、また患者群を層別化して再検討する際にも簡便である。この点からも、日本における統合共同患者データベース作りをすることが望ましいと考える。
結論
マイクロサテライトマーカーおよびGeneChipを用いた、全ゲノムサーベイは有望な手法であり、今後も迅速に進めて行く必要がある。

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