日本人の薬物動態に関連する遺伝子の多型及びタンパク質等の機能の解明に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100449A
報告書区分
総括
研究課題名
日本人の薬物動態に関連する遺伝子の多型及びタンパク質等の機能の解明に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
隅野 靖弘(武田薬品工業株式会社)
研究分担者(所属機関)
  • 鎌田直之(東京女子医科大学)
  • 石川智久(東京工業大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究事業(ヒトゲノム分野)
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
・インフォームド・コンセントを含む試料等ドネ-ションの標準的手法を三省の「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」に従って確立することにより、日本におけるゲノム・遺伝子解析研究に対するパブリック・アクセプタンスを得る。さらに変異・組換えの少ない安定な試料(DNA、セルライン)を得、本研究に利用するとともに研究資源バンク化を図る。
・薬物トランスポーターは薬物の体内動態において極めて重要な役割を果たしている。例えば、小腸上皮細胞や脳血管内皮細胞に発現したトランスポーターは、経口投与した薬剤のバイオアベイラビリテイーや中枢神経系への薬物移行に大きく影響を与える。本研究は薬物輸送に関連するトランスポーター遺伝子の包括的なSNP解析とSNPの機能に及ぼす影響を検証する。
研究方法
1)試料等ドネーションの標準的手法の研究と検証(鎌谷、隅野)
試料等を提供いただくための同意・説明文書を作成し、インフォームド・コンセントを得る手続きを確立して、公募により血液試料等の提供者を募集し、採血等を行う。
提供された白血球からDNA調製し、連結不可能匿名化を行う。その後、DNAを理化学研究所に解析のために送付する。また、セルラインをEBウイルスにより作製する。
2)トランスポーター変異型タンパク質の発現、機能解析(石川、隅野)
薬剤トランスポーター蛋白をコードする全長cDNAを作製してデステイネーションベクターに組み込み、その後エントリーベクターに導入して、細胞に発現させる。そして各々の薬剤トランスポーターの基質を用いて機能解析を行う。一方SNPに関しては、トランスポーター遺伝子のSNP情報に基づいてsite-directed mutagenesisを行い、上記の方法で細胞に発現させて機能解析を行い、SNPによる影響を分析する。
(倫理面への配慮)
本研究は当初、厚生省の「遺伝子解析研究に付随する倫理問題等に対応するための指針」を遵守して開始されたが、現在はその後施行された三省による倫理指針に適応して進めている。提供いただいた試料については連結不可能匿名化を行ったが、これはコンピュータプログラムを用いた完全な匿名化手法である。研究経過のファルマ スニップ コンソーシアム(代表:隅野靖弘)および東京女子医科大学の遺伝子解析に関する倫理審査委員会への報告など、注意深く行っている。
結果と考察
1)試料等ドネーションの標準的手法の研究と検証
・三省の倫理指針の施行前は厚生省大臣官房厚生科学課長通知「遺伝子解析研究に付随する倫理問題等に対応するための指針」(厚科第305号、平成12年4月28日)に沿って研究を行った。三省の「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」施行以降はこれに従った。
・ファルマ スニップ コンソーシアムのホームページを通じてボランティアを募集し、最終的に1111人のボランティアの登録、受付を行った。
・このうち、1032人のボランティアより文書によるインフォームドコンセントを得た後に採血、臨床検査、アンケート調査を行った。
・すべての試料について連結不可能匿名化を行い、だれも遺伝子情報と個人情報を永久に連結できないようにした。
・SNP頻度解析用のDNA調製法により、1032人のDNAを調整し、SNP頻度解析のために理化学研究所に送付した。
・1032人のうち、セルライン作製の同意が得られた提供者についてのみ細胞を凍結した。
・現在、そのうち数百をセルラインに調製している。
・以上の経過をファルマ スニップ コンソーシアムおよび東京女子医科大学の遺伝子解析研究に関する倫理審査委員会に研究経過報告として提出した。また、ファルマ スニップ コンソーシアムでは外部の者による調査を実施し、「本研究におけるインフォームド・コンセントは、ファルマ スニップ コンソーシアムに関して、適正に実施された」および「本研究に関してファルマ スニップ コンソーシアムの管理する個人識別情報について、その保護は適正に行われた」旨がファルマ スニップ コンソーシアム代表に報告された。
本研究はマスコミ等にも紹介されたが、おおむね好意的な論調であった。
調整されたDNAは、理化学研究所に渡され、現在頻度解析が行われている。
本研究によるセルライン化された細胞株は本研究以外のヒトゲノム・遺伝子解析研究にも重要なものになると推測される。なぜならば、例えば疾患関連遺伝子を探索する場合に患者さんの試料は得られても、コントロールとして使用する正常人の試料が大変不足しているからである。セルライン化された試料は公的な資源バンクに寄託する予定であるが、これを利用することにより、ヒトゲノム・遺伝子解析研究が加速されることが大いに期待される。
2)トランスポーター変異型タンパク質の発現、機能解析
・ABCトランスポーターの基質特異性スクリーニング系を構築した。まず、薬物輸送に深く関係するヒトABCB1(P-糖蛋白質)、ABCC1(MRP1)、ABCC2(cMOAT)、ABCG2(BCRP)のcDNAをクローニングし、バキュロウイルス・ベクターを用いてSf9昆虫細胞に発現させた。細胞膜に発現したABCトランスポーターは、特異的抗体を用いたウエスタンブロットにより確認した。
・それらABCトランスポーターの基質特異性に関しては、96穴マルチプレートを用いてATPase活性を測定するシステムを構築した。この方法により、大量の化合物を短時間でスクリーニングする事が可能になった。
・ABCG2については少なくとも3種類の遺伝子多型が報告されており、482番目のアミノ酸がArg、Gly、Thrである。それら全てのcDNAを準備して、Sf9昆虫細胞に発現させている。Arg482型のABCG2はSf9昆虫細胞にさせて、既にATPase活性のスクリーニングで基質特異性を検討した。
・さらに新規のヒトABCトランスポーターであるABCC11とABCC12のcDNAのクローニングに成功した。ABCC11とABCC12はそれぞれ30個および29個のエクソンからなり、この2つのABCトランスポーターはヒト染色体16q12に局在し、約20kbを隔てて直列に並んでいることが判明した。また、ABCC11には2個のスプライスバリアント、ABCC12には合計5個のスプライスバリアントがあることが明らかになった。現在これら全てのcDNAを昆虫細胞に発現させて機能解析を行っているところである。
薬物輸送トランスポーターは近年特に注目されているが、遺伝子多型については不明な点が多い。薬剤応答性に関連するトランスポーター遺伝子とその機能的多型を解明することは、薬の効果および副作用の関連を解明する上で重要である。本研究は、まさにその点に焦点を絞った研究であり、世界的にもユニークである。日本の知的財産を確実にするためにも、今後研究のスピードアップとインフラの強化が必要であろう。そのため、国内のトランスポーター研究者と薬物トランスポーターのSNP機能解析に関する準備会議を行った。現在、共同研究の具体的な内容について、話し合いが進行しており、SNP機能解析の体制が整いつつあると考える。
結論
三省による「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」に従って1032人のボランティアから試料等を提供いただき、連結不可能匿名化を行った後、DNA調整を実施した。現在セルラインを作製中である。
ABCトランスポーターの基質特異性スクリーニング系を構築した。これにより、機能解析を迅速に行うことが出来ると考えられる。今後、他の薬物トランスポーターについても同様に行う予定であり、トランスポーターの遺伝子多型と機能、薬物動態との関連を解明する国内における研究基盤ができた。

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