脳血管障害およびパーキンソン病の遺伝子多型の同定に関する研究

文献情報

文献番号
200100447A
報告書区分
総括
研究課題名
脳血管障害およびパーキンソン病の遺伝子多型の同定に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
下方 浩史(国立療養所中部病院長寿医療研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 中川正法(鹿児島大学)
  • 太田成男(日本医科大学老人病研究所)
  • 丸山和佳子(国立療養所中部病院長寿医療研究センター)
  • 三木哲郎(愛媛大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究事業(ヒトゲノム分野)
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
29,995,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は「高齢者疾患の遺伝子の解明に基づくオーダーメイド医療」を実現するため、脳血管障害およびパーキンソン病に関する多くの遺伝子多型、広範な関連要因を徹底して調査することを目的としている。脳血管障害およびパーキンソン病では今後、遺伝子の解明に基づく一次予防、早期発見、重点的治療が今後重要になってくると考えられる。脳血管障害は日本人における寝たきりの最大の原因である。また、パーキンソン病は慢性に進行し高齢者の日常生活の大きな支障となる。高齢化する日本の社会にとって、この2大疾患の予防および治療の開発はきわめて重要である。脳血管障害およびパーキンソン病には遺伝素因に加えて、食事や運動などの生活習慣が関与している可能性がある。そのため両疾患のリスクファクターの研究には、数多くの背景要因の相互作用を考慮する疫学的手法を用いたいわゆる分子疫学的解析が必須である。しかし分子疫学的研究は我が国では始まったばかりであり、十分なデータは出ていない。個人個人の疾病罹患の危険率が遺伝子診断によってある程度予測できれば、発症する前に対象を絞っての効果的な対処が可能となり、疾病予防、早期治療および結果として医療費の低減に役立つものと期待される。
研究方法
調査の対象は平成9年度より2年ごとに継続して追跡されている長寿医療研究センター周辺(大府市および知多郡東浦町)の地域住民からの無作為抽出者(観察開始時年齢40-79歳)である。対象は40,50,60,70歳代男女同数であり合計2,267人である。平成12年4月より第2回調査が開始され平成13年12月までに約1,800名の調査が終了した。
調査は医学・心理学・運動生理学・形態学・栄養学など広い分野にわたっての学際的かつ詳細な総数千項目以上にも及ぶ検査・調査を施設内で年間を通して行っている。これらの調査を2年間で2,400名、年間1,200名を実施するために、一日6名ないし7名に専用の検査センターに来ていただき、火曜から金曜までの週4日、年間200日の検査を実施している。2年ごとに追跡を行い、出来るだけ長期にわたる継続的な研究を目指している。調査開始当初より、調査参加者からの血液サンプルを用いてDNAを自動抽出装置で抽出し、すでに2,200人分以上を蓄積している。遺伝子多型は、脳血管障害およびパーキンソン病に関する特定の多型を384ウエルで同時に検出できるSNPプレートを使い、それを東洋紡ジーンアナリシス社の自動一塩基置換検出装置HybriGeneにて検出した。
(倫理面への配慮)
本研究はミレニアムプロジェクトのための倫理指針を遵守して行っている。研究は国立中部病院における倫理委員会での研究実施の承認を受けた上で実施し、調査の対象者全員から遺伝子検査の実施および検体の保存を含むインフォームドコンセントを得ている。また同一の人に対して繰り返し検査を行っており、その都度インフォームドコンセントにて本人への確認を行っている。各班員の疾病別コホートにおいてもそれぞれミレニアムプロジェクトのための倫理指針にそった倫理委員会で承認を受けている。
結果と考察
脳血管障害やパーキンソン病の両疾患に関連する様々な遺伝子多型と脳血管障害やパーキンソン病の既往歴および家族歴、頭部MRI所見、頸動脈内中膜肥厚およびプラーク形成、認知機能、運動平衡機能等の関連を検討した。平成13年12月までに全対象者での60の遺伝子多型検査が終了し、疾患との関連について検討を行っている。さらに9の多型について13年度末までにタイピングが終了する予定である。
脳血管障害:無症候性ラクナの出現率と白質障害の頻度は、加齢とともに増加した。全対象者の検討では、MTHFR TT型とC保因者(CC+CT)群間に有意なラクナの出現頻度の差を認めた(13% vs. 8%, p=0.019)。一方、60歳以上の844例の検討では、MTHFR TT型とC保因者(CC+CT)群間において、ラクナ(15% vs 25%, p=0.007)、中等症以上の白質障害の頻度(49% vs 61%, p=0.01)に、ともに有意な差を認めた。さらに、年齢と遺伝子多型の交互作用が、ラクナ(F[3,1706]=2.24, p=0.08)および中等症以上の白質障害の出現(F[3,1706]=2.68, p=0.046)に対して認められた。AGTR1(A1166C)多型と女性の心機能、高血圧の既往で若干の有意差がみられ、男性では心電図異常との関連が見られた。頭部MRI所見との関連は認められなかった。ecNOS遺伝子I/D多型では、女性ID/DD多型者に脳梗塞やラクナ塞が高率であった。ecNOS遺伝子G894T遺伝子多型では、脳卒中の既往が男性GT/TT多型群で少なくなっていた。頭部MRI所見では、女性の前頭葉萎縮がGT/TT多型群で少なくなっていた。GNB3遺伝子C825T多型は,血圧,心電図変化,眼底変化,頸動脈内中膜肥厚,高血圧症既往,心疾患既往,脳卒中既往、喫煙,頭部MRI所見のいずれとも有意な関連は認められなかった.FGB G-455A多型は、女性での心電図変化に少し有意差が見られた以外に明らかな差はみられなかった。
パーキンソン病:Mt15497A→G、24 kDa protein of complex I、 dopamine transporter (DAT)、CYP2D6遺伝子多型について対照群の結果を得た。Mt15497A→G (Cytb, Gly251Ser) 多型については、中年以降の肥満傾向とインスリン抵抗性との相関が得られたが、PDとの関連は認められなかった。DAT (exon 9, 1215 A/G)については、PD家族歴のあるケースにはA型の頻度が高かった。さらに昨年度行った多型の中で、PD家族歴のある群で高頻度に認められたtype B monoamine oxidase (MAO-B)多型について、順天堂大学医学部神経内科から供与された連結不可能PD患者サンプルを用いて分析を行ったが、患者群との有意な差は認められなかった。DLSTとALDH2遺伝子多型を調べ、アルツハイマー病患者と健常人と比較すると、アルツハイマー病患者と健常人のちょうど 中間の値を示した。また、パーキンソン病患者の大脳皮質のsDLST mRNAの相対値は健常人のそれよりも有意に低下していた。また、アルツハイマー病患者脳よりも有意に多かった。
遺伝子多型と老化・老年病との関係については、遺伝子多型間の相互関係、遺伝子と環境因子との相互関係が複雑に関与する。また、検査を行っているさまざまな遺伝子多型は、特定の疾患のみならず老化や老年病全体に関わりを持っている可能性が強い。例えばACEやアポE4は、多型が循環器疾患だけでなくアルツハイマー病とも関わっていることが見いだされており、今後、環境因子まで含めた遺伝子多型と老化・老年病との間の幅広い検討を行っていく必要がある。
結論
特定の遺伝的素因を持つ者を発症前に見いだし、積極的に対処することで疾病予防を効率的に行うための疫学研究を目指し、血管障害およびパーキンソン病関連遺伝子について地域住民を対象に遺伝子、関連マーカーおよび詳細な背景因子の調査を行い、遺伝子多型解析を行った。その結果、平成13年12月までに検査の終了した60の遺伝子多型とパーキンソン病関連遺伝子疾患や両疾患関連マーカーとの間に多くの有意な関連を示すことができた。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-