サル及びマウス脳完全長cDNAの分離とその細胞・個体での機能解明のための供給方法等に関する研究

文献情報

文献番号
200100437A
報告書区分
総括
研究課題名
サル及びマウス脳完全長cDNAの分離とその細胞・個体での機能解明のための供給方法等に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
橋本 雄之(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 平井百樹(東京大学大学院新領域創生科学研究科)
  • 菅野純夫(東京大学医科学研究所)
  • 小倉敦郎(国立感染症研究所、現理化学研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究事業(ヒトゲノム分野)
研究開始年度
-
研究終了予定年度
-
研究費
70,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ヒトゲノム解析プロジェクトの一環として発現遺伝子部分(cDNA断片、expressed sequence tag, EST)のクローン化が大規模に進められ、ヒトEST300万以上がデータベースに登録され、予想遺伝子数を越えるクラスターに分類されたクローンが分離されている。また、ヒト全塩基配列決定は昨年3月にドラフトが公表され、2003年には完了することが計画されている。しかし、遺伝子機能解明は並行して進められたとしても、全体としては残された課題となる。したがって、ゲノムの遺伝子部分の確定とその機能解明のために新たに完全長cDNAクローンの分離を試みるとともに、それらを細胞や個体レベルで発現できる形として、産物の機能、発現制御等の研究の資源とすることは依然として必要なことである。 本研究では特にヒト材料からでは分離しにくいcDNAを得ることにより、ヒトに近いモデル動物としてサルcDNAのヒト染色体へのマッピングによる相同遺伝子の発見と新規の機能予測を行い、未知のヒト相同遺伝子探索のためのリソースとするとともに、ヒト遺伝子との比較解析のためのサルcDNAのカタログ化をめざす。さらに、マウスcDNAとあわせて、バンクを通じてDNAマイクロアレイや遺伝子導入マウス等の形で供給するシステムを検討することを目的とする。比較ゲノム手法によりヒトホモログの生体機能を推定し、ヒト疾病関連遺伝子の同定から機能解明、さらにその疾病の成因解明そして診断、治療に結び付く研究の発展に資することが期待される。これにより遺伝子治療など先端的医療の基盤づくりの一翼を担い、もって国民の保健・医療の一層の向上をめざす。
研究方法
1)サル脳 各部の8組織(大脳皮質、頭頂葉、側頭葉,前頭葉、後頭葉、脳幹、小脳皮質、 延髄)及び精巣について、オリゴキャップ法により作製した完全長cDNAに富むライブラリーDNAから、細胞発現用プロモーター付きベクターに組み込んだcDNAクローンを総計100,000個、今年度3万個を分離し、96穴プレートのアレイにして凍結保存する。(菅野、橋本)2)そうした多数 クローンを増幅して保管するとともに、一部を用いてDNAを調製し、自動DNAシークエンサーを用いて年30,000個(3年間で9万個)の部分塩基配列を決定する。シークエンスのホモロジーサーチを自動的に行えるプログラムを利用して、既知ヒトcDNAとの相同性や、全く新規のものか等を調べ、その結果をデータベースに登録し、バンクから供給可能とする。(橋本)3)新規のクローンについては年約1,000個(3,000/3年)を目途に全長塩基配列を決定するとともに、組織での発現状況等による機能予測や染色体ごとのヒトドラフト配列との比較と蛍光インサイツハイブリダイゼーション(FISH)法によるヒト染色体へのマッピ ングを行い、対応するヒト相同遺伝子のポジショナル・クローニングの基盤とする。(平井、橋本)4)入手困難であったチンパンジー組織が入手できたので、カニクイザルに適宜チンパンジーcDNA配列比較を加えてヒト既知mRNAと配列比較することにより、遺伝子の配列保存、進化から機能予測を試みる。(平井、菅野、橋本)5)既に5'側シークエンシングを行い、公共DNAデータベースに登録したマウスおよびカニクイザル脳cDNAクローンを用いて、重複の少ないセットアレイを作製する。それをもとにマイクロアレイ作製技術を持つところと共同研究としてcDNAマイクロアレイを作製する。それらを脳・神経変性疾患等の研究で必要としているところに供与できるようにする。(橋本)5)機能解析を目的とするcDNA(年5種)をマ
ウス培養細胞(線維芽細胞あるいは胚性幹細胞)ゲノムへ 導入し、薬剤耐性またはレポーター遺伝子をマーカーとして導入遺伝子を持つ細胞を選択した後、核移植クローン技術を用いて 細胞由来のゲノムを持つ胚、胎仔、個体を作出する(年30系統)。種々の細胞を用いて遺伝子導入クローンマウスをえることにより、遺伝子の位置効果や発現機構、臓器特異性などの情報を得る。(小倉)
結果と考察
1)カニクイザル脳 各部の7組織(頭頂葉、側頭葉,前頭葉、後頭部、脳幹、小脳皮質、 延髄)および精巣について、完全長cDNAに富むライブラリーDNAから各5,000~1万クローンを分離し、96穴アレイにして凍結保存した。計50,000個以上の5'端部分塩基配列を決定し、ホモロジーサーチの自動プログラムを利用して、既知DNA配列との相同性や新規性等を調べ、その結果をデータベース化して、バンクから供給可能とした。 2)これらから新規 cDNAクローン約2,500を選び、その全長塩基配列を決定して、1,882配列を公共データベースに登録した。そのうち、一定のORFを持つものについて、そのコードするタンパク質想定などの解析を行った。3)FISH法でカニクイザル染色体とヒト染色体とのシンテニー関係を調べ、ヒト21+7,15+14,20+22が融合し、逆に2番は2つに分かれていることを明確にした。また、新規クローン65については、ヒト染色体上へのマッピングを試み、うち53クローンの位置を決定し、ヒト相同遺伝子のポジショナルクローニングへの情報とした。4)カニクイザルの脳7領域、心臓、腎臓、肝臓とチンパンジー大脳、小脳、肝臓、皮膚由来完全長cDNAライブラリーから単離したカニクイザル約 4万、チンパンジー約4,000クローンから得られた5'端配列について対応するヒト既知mRNA各々734種、74種と比較したところ、5'UTR領域はヒト- カニクイザル94.9%、ヒト-チンパンジー98.2%、5'側のCDS領域はヒト-カニクイザル97.8%、ヒト-チンパンジー99.3%と非常に高い相同性を示した。5)マウス脳cDNAの約2,300クローンのマイクロアレイを作製し、脳で高発現している新規クローンを分離した(ヘリックス研究所との共同)。6)核移植クローン技術を用いて核移植クローン胎仔や個体の産出効率および遺伝子発現の解析結果をもとにドナーとなる適切な細胞種や遺伝子型そしてクローン胚の培養条件の適正化に成功し、安定してクローン個体を作出する技術を確立した。
結論
カニクイザル脳 各部および精巣から完全長cDNAに富む6万クローンを分離・保存した。それらの5'端部分塩基配列を決定し、既知DNA配列との相同性や新規性等を調べ、データベース化してバンクから公表・供給可能とした。新規 cDNAクローン約2,500について、その全長塩基配列を決定して、1880配列程を公共データベースに登録した。そのうち約300について、配列相同性に基づいてヒト染色体上での位置を決定し、ヒト相同遺伝子のポジショナルクローニングへの情報とした。カニクイザル約 4万、チンパンジー約4,000クローンから得られた5'端配列に基づき対応するヒト既知mRNAと各々比較したところ、5'UTR領域はヒト- カニクイザル95%、ヒト-チンパンジー98%、5'側のCDS領域はヒト-カニクイザル98%、ヒト-チンパンジー99%と非常に高い相同性があることを示した。 核移植クローン技術を用いてマウスクローン胎仔や個体の産出効率および遺伝子発現の解析結果をもとにドナーとなる適切な細胞種やクローン胚の培養条件の適正化に成功し、安定してクローン個体を作出する技術を確立した。

公開日・更新日

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