CD34陽性細胞を標的とするADA欠損症における遺伝子治療臨床研究

文献情報

文献番号
200100436A
報告書区分
総括
研究課題名
CD34陽性細胞を標的とするADA欠損症における遺伝子治療臨床研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
崎山 幸雄(北海道大学大学院医学研究科・遺伝子治療)
研究分担者(所属機関)
  • 小林邦彦(北海道大学大学院医学研究科・小児発達医学分野)
  • 小林正伸(北海道大学遺伝子病制御研究所)
  • 有賀 正(北海道大学大学院医学研究科・遺伝子治療)
  • 川村信明(北海道大学大学院医学研究科・小児発達医学分野)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究事業(ヒトゲノム分野)
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
27,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
アデノシンデアミナーゼ(ADA)欠損症における末梢血T細胞を標的にした酵素補充療法併用下の遺伝子治療臨床研究について遺伝子導入細胞の投与中断後の長期的な有効性、安全性については開始後7年間の経緯を解析する。新たなADA欠損症家系の遺伝子解析と治療方針の決定、その効果を評価する。さらに、骨髄血CD34陽性(+)細胞を標的とした遺伝子治療臨床研究に向けて新規レトロウイルスベクターを用いた基礎研究を行い、プロトコールを作成する。
研究方法
1)ADAGENによる酵素補充療法(週1回、1バイアル筋肉内注射)継続下に遺伝子治療中断後の臨床経過、一般血液生化学検査、リンパ球T細胞亜分画、T細胞レパトア、導入遺伝子のリアルタイム定量的PCR法による検索等を経時的に解析する。2)新たなADA欠損症2家系の遺伝子解析、ADAGENによる酵素補充療法後の治療効果を解析する。3)臍帯血、正常人・患児骨髄血由来のCD34+細胞を標的に新規レトロウイルスベクターPG13/GCsapM-ADA(MPSV)、レトロネクチン、SCF,TPO, Flt3リガンドを使用してADA遺伝子導入効率を解析する。さらに、ADA遺伝子導入CD34+細胞を放射線照射NOD/SCIDマウスの尾静脈内に投与し、末梢血、脾臓、骨髄におけるCD45+CD19+細胞, CD45+CD34+細胞の経時的解析、ADA遺伝子の検索を行う。
結果と考察
1.酵素補充療法下に患児末梢血T細胞を標的とした遺伝子治療臨床研究について治療開始後7年を経て以下の結果を得た。
1)ADAEGNは遺伝子治療前25単位/kg体重/週から14単位/kg体重/週に減量が可能になった。2)末梢血リンパ球数は、500? 1,000 /μL と低値である。3)導入ADA遺伝子は末梢血単核球の0.045?0.09copy/cellに検出される。4)末梢血単核球中ADA活性は5?10単位を維持し、抗CD3抗体による試験管内刺激によって20?30単位に増加を認める。5)水痘、麻疹罹患後にそれぞれの特異抗体価の上昇を認め、正常下限域の血清免疫グロブリン値が維持され、遺伝子治療前に施行されていた静注用グロブリン製剤の定期的投与は中止されている。6)副作用は認められていない。7)増殖性レトロウイルス検査は全て陰性である。8)患児の身体発育は正常域である。
2.新たなADA欠損症2家系を遺伝子診断し、HLAの一致する血縁骨髄ドナーを得られなかったADA欠損症家系Iの症例はADAGENによる酵素補充療法を開始した。治療開始後2年8ヶ月を経て末梢血リンパ球数は僅かに増加するも依然、300-500/μLで、低γグロブリン血症を認める。また、この症例ではADAGENによる酵素補充療法前に生体内にADA遺伝子の変異が自然消失したと考えられるT細胞の存在を見いだしたが、補充療法開始後は検出されなくなった。
3.新たなADA欠損症家系IIにおいて保因者である母、兄に極めて低いADA活性と病因とはならないが、不安定なADAタンパク質の原因と考えられる遺伝子変異を見いだした。
4.レトロネクチン使用下にFlt3リガンド、TPO,SCFで前培養した臍帯血由来CD34+細胞(N=14)、正常人骨髄血由来CD34+細胞(N=6)、ADA欠損症骨髄血由来CD34+細胞(N=2)への遺伝子導入、遺伝子導入細胞のNOD/SCIDマウスへの尾静脈内注入実験を実施した。遺伝子導入効率は臍帯血由来CD34+細胞:0.44±0.19copy/cell、正常人骨髄血由来CD34+細胞:0.45±0.14、患児骨髄血由来CD34+細胞;0.46±0.14で、これらの導入細胞を注入6-8週後のマウス脾臓、骨髄細胞中にCD45+CD19+細胞の出現とベクター由来ADAcDNAを検出した。
酵素補充療法下の患児末梢血T細胞を標的とした遺伝子治療は年余にわたる遺伝子導入細胞の存在、ADA酵素活性の発現を末梢血単核細胞に見いだして、抗体産生能の再建に関わっていると考えられた。しかし、末梢血リンパ球数は低値で、常用量の1/4量の酵素補充療法は維持されている。酵素補充療法を中断できる可能性を持つ血液幹細胞を標的とする遺伝子治療臨床研究の適応と考えられる。
レトロネクチン,Flt3リガンド,SCF, TPOの使用下に新規レトロウイルスベクターGCsapM-ADAによるヒト臍帯血、骨髄血CD34+細胞への遺伝子導入は有用と考えられた。また、NOD/SCIDマウスへの遺伝子導入ヒトCD34陽性細胞の静脈内投与によって導入遺伝子を発現するヒトB細胞を検出することが可能と考えられた。
結論
ADA欠損症に於ける末梢血T細胞を標的にした遺伝子治療臨床研究は開始後7年を得て、導入遺伝子の持続と酵素活性の発現を認め、低用量の酵素補充療法併用下に免疫機能の再建が得られた。骨髄血・臍帯血CD34陽性細胞を標的に新たなレトロウイルスベクターを用いた遺伝子導入実験により酵素補充療法中断下の遺伝子治療臨床研究の実施が可能と考えられた。

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