遺伝子治療製剤の供給基盤整備と遺伝子医療への応用(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100434A
報告書区分
総括
研究課題名
遺伝子治療製剤の供給基盤整備と遺伝子医療への応用(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
吉田 純(名古屋大学)
研究分担者(所属機関)
  • 高橋利忠(愛知県がんセンター研究所)
  • 妹尾久雄(名古屋大学)
  • 小林 猛(名古屋大学)
  • 田沼靖一(東京理科大学)
  • 斎田俊明(信州大学)
  • 水野正明(名古屋大学)
  • 舛本  寛(名古屋大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究事業(ヒトゲノム分野)
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は名古屋大学医学部附属病院に設置され、すでに稼働している我が国初の遺伝子治療用製剤調製施設(遺伝子治療製剤調製室)を中心に総合的な遺伝子医療システムを構築し、我が国における遺伝子治療臨床研究を強力に推進しようとするもので、今年度は3年計画の2年目にあたる。この目的を実現するため、以下の3つの課題を押し進めている。【課題1】遺伝子治療製剤の供給基盤整備及び凍結乾燥製剤の開発と実用化:クリニカルグレードのプラスミドDNAや遺伝子治療用リポソーム製剤を十分に供給できる体制を作り上げる。一方で、我が国における遺伝子治療臨床研究の実施を加速するため、2000年4月からスタートしている悪性グリオーマに対する遺伝子治療臨床研究をさらに推し進め、名古屋大学で調製している遺伝子治療製剤(ヒト?型インターフェロン遺伝子包埋リポソーム製剤)の安全性と有効性を検討する。【課題2】基盤研究:基盤研究としては、①インターフェロン(IFN)遺伝子で誘導されるアポトーシスのシグナル伝達機構を明らかにする。一方で、PPARγを中心としたシグナル伝達機構を解明する。②ヒト人工染色体形成に関わる因子を解明する。③遺伝子工学技術を用いた単鎖抗体の調製とその応用を検討する。④遺伝子治療との併用効果をシステム工学的に理解するために、DNAチップを用いた網羅的遺伝子発現プロファイルの知識工学的解析を行う。【課題3】遺伝子医療への応用:これまでに臨床研究がスタートしている悪性グリオーマに対するヒト?型IFN遺伝子治療を悪性グリオーマ以外の他の癌腫(悪性黒色腫、腎細胞癌等)に適応拡大する。そして本遺伝子治療を遺伝子医療として総合的にとらえた医療体制を確立する。
研究方法
【課題1】昨年度は、ヒト?型IFN遺伝子包埋リポソーム製剤(液剤)の剤形変更を検討し、中長期保存型の凍結剤及び凍結乾燥剤の開発に成功した。本年度は、これを他施設に十分供給できるよう大量調製法の確立と大量調製施設の設置を計画した。一方で、昨年度は悪性グリオーマの患者1名に対し、液剤の遺伝子治療製剤を用いた遺伝子治療臨床研究を行ったが、本年度は、製剤の剤形を凍結剤に変更し、4症例を追加し、計5症例とした。【課題2】①IFN遺伝子で誘導されるアポトーシスのシグナル伝達機構を検討した。具体的には、IFNのmRNAの量とIFNに対する感受性の相関をみた。また、IFNのシグナル伝達を担うJak-Stat系経路を構成するJak2、Tyk2、Stat1のリン酸化時間をウエスタンブロット法で調べた。さらにDNaseγの活性化を蛍光免疫法で観察した。一方で、PPARγを中心としたシグナル伝達機構について検討した。具体的には、臨床検体及びヒトグリオーマ細胞株におけるPPARγmRNAの発現をRT-PCRまたはノザンブロット法により検討した。同時に増殖抑制効果を調べた。さらに一部で誘導される細胞死の性状をTUNEL法等で解析した。②ヒト人工染色体形成に関わる因子について検討した。はじめにヒト人工染色体を効率よく形成するアルフォイドDNAの野生型繰り返し配列とセントロメアタンパクCENP-B結合配列に2塩基だけ塩基置換した変異型のアルフォイド繰り返し配列をそれぞれ合成し、大腸菌環状人工染色体(BAC)へクローン化した。この配列をヒト培養細胞へ導入し、人工染色体形成に必須な配列の限定を進めた。次にヒト人工染色体前駆体YACへ挿入したマーカー遺伝子からの転写を効率よくおこさせる技術の開発を進めるため、この遺伝子からの転写とクロマ
チン構造との関連について調べた。その後このマーカー遺伝子の両外側にβーグロビン遺伝子由来境界配列を挿入し人工染色体前駆体へ組み込んだ。③lipid tagを付加した単鎖抗体を作製し、得られた抗体の活性について検討した。④発現プロファイルのクラスタリング手法として教師信号なし学習であるFuzzy-ARTの開発研究を行った。
結果と考察
【課題1】大量調製法の作業手順書を作成した。また、名古屋大学医学部附属病院遺伝子治療製剤調製室に凍結乾燥機を設置し、凍結乾燥工程のプログラミングを行った。その結果、1回の作業で最高600バイアル程度の調製が可能となった。これにより多施設共同研究を遂行するための製剤供給準備がほぼ完了した。一方、臨床研究を実施した5症例では、特に大きな有害事象を認めなかった。また、一定の抗腫瘍効果も観察できた。【課題2】①IFN遺伝子が誘導する細胞死のメカニズムには、(1)脳腫瘍細胞のIFNに対する感受性は、細胞内で産生されるIFNのmRNAの量に比例する。(2)IFNが受容体を介して細胞内にシグナルを伝達する経路のひとつであるJak-Stat経路でのリン酸化が延長・増強される。(3)(1)と(2)の状況が細胞に備わった上で、リポソームが細胞膜と相互作用することで最終的にはDNaseγが活性化される。以上、3つのメカニズムのあることがわかった。一方で、PPARγの発現している脳腫瘍細胞株ではリガンドによりPPARγを活性化することで細胞の増殖抑制とアポトーシス(一部)を誘導することがわかった。②人工染色体前駆体へ挿入した遺伝子からの転写は、セントロメアクロマチン構造形成に影響を与えることが判明した。③lipid tagを付加した単鎖抗体は、親抗体、及びlipid tagの付加されていない初代単鎖抗体とほぼ同様の反応性を保っていることが明らかになった。④非線形モデリング手法である人工ニューラルネットワーク発現プロファイルデータから直接、リンパ腫の4年生存率が93%の高い正答率で予測できることを示した。【課題3】悪性黒色腫においてはその基盤研究及び前臨床研究の成果がまとまったことから国へ申請することとなった(図3)。
結論
①汎用性の高い凍結乾燥製剤の大量調製法を確立し、調製施設を整備した。②純国産技術で開発された我が国最初の遺伝子治療臨床研究に、新たに4症例を加えた。③新しい遺伝子治療開発のための基盤研究が進んだ。④ヒトβ型インターフェロン遺伝子治療を悪性黒色腫に適応拡大できる準備が整った。

公開日・更新日

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