文献情報
文献番号
200100432A
報告書区分
総括
研究課題名
GM-CSF遺伝子導入自己複製能喪失腫瘍細胞接種による遺伝子治療法の開発と臨床研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
谷 憲三朗(東京大学医科学研究所)
研究分担者(所属機関)
- 浅野 茂隆(東京大学医科学研究所)
- 奥村 康(順天堂大学)
- 藤目 真(順天堂大学)
- 赤座 英之(筑波大学)
- 東 みゆき(東京医科歯科大学)
- 佐藤 典治(東京大学医科学研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究事業(ヒトゲノム分野)
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
過去約3年にわたり我々が実施してきた第IV期腎癌を対象にした臨床研究では此迄の米国での臨床研究結果を元に、患者の抗腫瘍免疫活性をより増強させ臨床効果に結びつける目的で新たなGVAX投与量を設定し、その投与実施の可能性と安全性の評価を行った。同時に実際に患者に誘導された抗腫瘍免疫を、免疫学的検査と画像診断で詳細に検討・評価した。この結果を基に、今後本療法の経済性・汎用性を考慮し、遺伝子導入同種細胞株を用いる方向性がより現実的であるとの結論に達したため、次期の遺伝子治療臨床研究として、遺伝子導入高GM-CSF産生同種細胞株と自家腫瘍細胞を混合接種する方法を用いた、移植後再発性白血病ならびに進行性腎癌に対する遺伝子治療研究を計画する。さらに本研究ではGM-CSF遺伝子導入細胞接種が患者体内で誘導する抗腫瘍免疫を分子生物学的に詳細に解析し、関与する新規分子の検出、併用治療法開発の可能性についても検討し、治療法開発につなげることを目的とする。
研究方法
(1)第IV期腎癌患者への免疫遺伝子治療の実施ならびにその臨床的・免疫学的検討: GM-CSF遺伝子導入自家腎癌細胞ワクチン接種を完了した4患者に対しては定期的採血による血液学的、生化学的、免疫学的な追跡検査を行うとともに画像診断により転移病巣の経過観察を行った。本年度は特にこれら患者血清について、自己腫瘍細胞タンパク質を認識する抗体の検索をウェスタンブロット法を用いて行った。
(2)mRNA連続解析システム(SAGE法)によるGM-CSF遺伝子導入腫瘍細胞の増殖抑制機構の解析:マウス自家腫瘍モデル系を用いてSAGE法により抗腫瘍免疫誘導を活性化させる可能性のある遺伝子を検出した。
(3)GM-CSF遺伝子導入癌ワクチン接種における免疫抑制シグナル分子の関与に関する検討:GM-CSF遺伝子導入癌ワクチン接種による抗腫瘍免疫強化の免疫補助療法として免疫抑制シグナル解除の試みが検討されており、その代表的分子であるCTLA-4と同じCD28ファミリーに属する抑制補助シグナル分子としてprogrammed death-1 (PD-1) および、リガンドPD-L1とPD-L2が同定されており、腫瘍細胞におけるこれら分子の発現および抗腫瘍免疫応答におけるPD-1の関与について検討した。
(4)新規TNFファミリー分子の腫瘍細胞傷害機構と腫瘍拒絶における意義:種々の腫瘍細胞(HT29, HSC3, Kym1)のリコンビナントTWEAKに対する感受性を、caspase阻害剤およびcathepsin B阻害剤の存在下で調べ、それぞれの細胞におけるTWEAKによる細胞死の誘導機構を解析した。また、TRAILの中和抗体の継続的投与およびTRAIL遺伝子のノックアウトが発癌に及ぼす影響、およびTRAILの発現誘導に重要なIFN-γの腫瘍監視機構における意義の解析をメチルコラントレン(MCA)による発癌の系等を用いて解析した。
(5)泌尿器癌に対する癌特異的免疫療法に関する研究:(i) CTL養子免疫療法ならびに(ii) BCG抗腫瘍ワクチンモデルを用いたBCG併用療法についてマウスin vivoでの検討をおこなった。
(6)前立腺がんの糖鎖発現と浸潤・転移能との関係についての検討:MUC1ムチンの基本骨格に少し糖鎖が付いただけのものを認識するHMFG2、さらに糖鎖のついたものを認識するHMFG1、さらにシアル酸が付いたものを認識するMY1E.12の、3種類の異なる認識部位をもつ、モノクローナル抗体を用いて、前立腺癌組織を染色した。
(2)mRNA連続解析システム(SAGE法)によるGM-CSF遺伝子導入腫瘍細胞の増殖抑制機構の解析:マウス自家腫瘍モデル系を用いてSAGE法により抗腫瘍免疫誘導を活性化させる可能性のある遺伝子を検出した。
(3)GM-CSF遺伝子導入癌ワクチン接種における免疫抑制シグナル分子の関与に関する検討:GM-CSF遺伝子導入癌ワクチン接種による抗腫瘍免疫強化の免疫補助療法として免疫抑制シグナル解除の試みが検討されており、その代表的分子であるCTLA-4と同じCD28ファミリーに属する抑制補助シグナル分子としてprogrammed death-1 (PD-1) および、リガンドPD-L1とPD-L2が同定されており、腫瘍細胞におけるこれら分子の発現および抗腫瘍免疫応答におけるPD-1の関与について検討した。
(4)新規TNFファミリー分子の腫瘍細胞傷害機構と腫瘍拒絶における意義:種々の腫瘍細胞(HT29, HSC3, Kym1)のリコンビナントTWEAKに対する感受性を、caspase阻害剤およびcathepsin B阻害剤の存在下で調べ、それぞれの細胞におけるTWEAKによる細胞死の誘導機構を解析した。また、TRAILの中和抗体の継続的投与およびTRAIL遺伝子のノックアウトが発癌に及ぼす影響、およびTRAILの発現誘導に重要なIFN-γの腫瘍監視機構における意義の解析をメチルコラントレン(MCA)による発癌の系等を用いて解析した。
(5)泌尿器癌に対する癌特異的免疫療法に関する研究:(i) CTL養子免疫療法ならびに(ii) BCG抗腫瘍ワクチンモデルを用いたBCG併用療法についてマウスin vivoでの検討をおこなった。
(6)前立腺がんの糖鎖発現と浸潤・転移能との関係についての検討:MUC1ムチンの基本骨格に少し糖鎖が付いただけのものを認識するHMFG2、さらに糖鎖のついたものを認識するHMFG1、さらにシアル酸が付いたものを認識するMY1E.12の、3種類の異なる認識部位をもつ、モノクローナル抗体を用いて、前立腺癌組織を染色した。
結果と考察
結果;
(1)GM-CSF遺伝子導入腎癌細胞ワクチン接種完了患者3名の経過観察:規定のワクチン接種を完了し、生存中の患者3名については現在東京大学医科学研究所附属病院もしくは順天堂大学附属病院にて経過観察中である。3患者(第2,3,4症例)には接種中問題となる副作用は発現せず、接種開始よりそれぞれ2年10ヶ月、2年2ヶ月、1年4ヶ月間安定した状態で生存中である。特に第2症例では接種後変化ない状態が2年6ヶ月続いた。これら患者の末梢血中にはその後も自家腎癌細胞に対する細胞障害性Tリンパ球活性が検出され、第2,3症例においてはオリゴクローン性のTリンパ球の増生が検出された。
患者血清を用いた自己腫瘍細胞タンパク質を認識する抗体の検索:GM-CSFワクチン細胞接種を受けた4患者において250 kDタンパク質に強いシグナルがみられ、当該タンパク質に対する抗体が治療によって誘導されたものと考えられた。さらに4患者中2患者では、60 kDタンパク質にも同様の反応性が治療によって誘導されることも観察された。このうち60 kDタンパク質は正常自己腎細胞ライセートではシグナルが見られないため、腫瘍特異的に発現している可能性が示唆された。
(2)mRNA連続解析システムによるGM-CSF遺伝子導入腫瘍細胞の増殖抑制機構の解析:マウスモデルの腫瘍拒絶の系から共通して10倍以上発現増強される既知遺伝子が15種類同定できた。この中で特にケモカイン遺伝子5種に注目し、免疫組織化学的解析を行った結果、退縮する腫瘍組織にこれらの発現が検出された。従って腫瘍の退縮にはケモカインが関与している可能性が強く示唆されたため、ケモカイン発現レトロウイルスベクターを作製した。
(3)GM-CSF遺伝子導入癌ワクチン接種における免疫抑制シグナル分子の関与に関する検討:PD-L1は検索した殆どの腫瘍細胞表面に発現していた。PD-1は活性化刺激によりT細胞およびB細胞に誘導されるが、リガンドのひとつであるPD-L1はT、B、NK、マクロファージ、樹状細胞(DC)にすでに発現が認められ、活性化刺激により増強された。PD-L2は、GM-CSF刺激後のDCにのみ発現誘導され、その他の細胞分画における発現誘導は認められなかった。WEHI3BおよびGM/WEHIの細胞表面上には、わずかではあるがPD-1およびPD-L1、PD-L2の発現が認められたが、in vitroならびにin vivoにおける両細胞の増殖は、これら3分子に対する抗体により影響されなかった。
(4)新規TNFファミリー分子の腫瘍細胞傷害機構と腫瘍拒絶における意義:TWEAKはcaspase依存的なアポトーシスによる細胞死の誘導以外に、腫瘍細胞によっては主にcathepsin B依存的なネクローシスを誘導した。一方、TRAILの中和抗体の投与やTRAIL遺伝子のノックアウトにより、MCAやp53の変異による発癌が助長され、TRAILが発癌に対してサーベイランス効果を担っていることを明らかにした。この効果の発揮にはIFN-γおよびNK細胞が重要であり、同時にIFN-γにはMCAにより誘導される腫瘍のTRAIL感受性を上げる作用があることも明らかにした。さらには、NK細胞から産生されるIFN-γがNKT細胞のリガンドであるα-galactosylceramideの抗腫瘍作用において最も重要な作用機序であることを示した。
(5)泌尿器癌に対する癌特異的免疫療法に関する研究:(i) CTL養子免疫療法を実施した3例について経過観察を行なったところ2例はPD、 1例は長期間PR(約3年)であった。PR例の病理解剖結果から原発巣に比べ転移巣では組織学的により悪性度が高い傾向を認め、縮小したリンパ節転移巣では広範な繊維化及びCD8陽性Tリンパ球の浸潤を認めた。(ii) BCGとの混合接種によりMBT2細胞を拒絶したマウスに4週後にBCGと共培養したMBT2細胞を接種したところ、腫瘍の生着は認められなかった。腫瘍を拒絶したマウスの脾細胞はBCGと共培養したMBT2細胞のみに対して傷害活性を示した。
(6)前立腺がんの糖鎖発現と浸潤・転移能との関係についての検討: MUC1ムチンのシアル化の進行と転移との関連が示唆された。
(1)GM-CSF遺伝子導入腎癌細胞ワクチン接種完了患者3名の経過観察:規定のワクチン接種を完了し、生存中の患者3名については現在東京大学医科学研究所附属病院もしくは順天堂大学附属病院にて経過観察中である。3患者(第2,3,4症例)には接種中問題となる副作用は発現せず、接種開始よりそれぞれ2年10ヶ月、2年2ヶ月、1年4ヶ月間安定した状態で生存中である。特に第2症例では接種後変化ない状態が2年6ヶ月続いた。これら患者の末梢血中にはその後も自家腎癌細胞に対する細胞障害性Tリンパ球活性が検出され、第2,3症例においてはオリゴクローン性のTリンパ球の増生が検出された。
患者血清を用いた自己腫瘍細胞タンパク質を認識する抗体の検索:GM-CSFワクチン細胞接種を受けた4患者において250 kDタンパク質に強いシグナルがみられ、当該タンパク質に対する抗体が治療によって誘導されたものと考えられた。さらに4患者中2患者では、60 kDタンパク質にも同様の反応性が治療によって誘導されることも観察された。このうち60 kDタンパク質は正常自己腎細胞ライセートではシグナルが見られないため、腫瘍特異的に発現している可能性が示唆された。
(2)mRNA連続解析システムによるGM-CSF遺伝子導入腫瘍細胞の増殖抑制機構の解析:マウスモデルの腫瘍拒絶の系から共通して10倍以上発現増強される既知遺伝子が15種類同定できた。この中で特にケモカイン遺伝子5種に注目し、免疫組織化学的解析を行った結果、退縮する腫瘍組織にこれらの発現が検出された。従って腫瘍の退縮にはケモカインが関与している可能性が強く示唆されたため、ケモカイン発現レトロウイルスベクターを作製した。
(3)GM-CSF遺伝子導入癌ワクチン接種における免疫抑制シグナル分子の関与に関する検討:PD-L1は検索した殆どの腫瘍細胞表面に発現していた。PD-1は活性化刺激によりT細胞およびB細胞に誘導されるが、リガンドのひとつであるPD-L1はT、B、NK、マクロファージ、樹状細胞(DC)にすでに発現が認められ、活性化刺激により増強された。PD-L2は、GM-CSF刺激後のDCにのみ発現誘導され、その他の細胞分画における発現誘導は認められなかった。WEHI3BおよびGM/WEHIの細胞表面上には、わずかではあるがPD-1およびPD-L1、PD-L2の発現が認められたが、in vitroならびにin vivoにおける両細胞の増殖は、これら3分子に対する抗体により影響されなかった。
(4)新規TNFファミリー分子の腫瘍細胞傷害機構と腫瘍拒絶における意義:TWEAKはcaspase依存的なアポトーシスによる細胞死の誘導以外に、腫瘍細胞によっては主にcathepsin B依存的なネクローシスを誘導した。一方、TRAILの中和抗体の投与やTRAIL遺伝子のノックアウトにより、MCAやp53の変異による発癌が助長され、TRAILが発癌に対してサーベイランス効果を担っていることを明らかにした。この効果の発揮にはIFN-γおよびNK細胞が重要であり、同時にIFN-γにはMCAにより誘導される腫瘍のTRAIL感受性を上げる作用があることも明らかにした。さらには、NK細胞から産生されるIFN-γがNKT細胞のリガンドであるα-galactosylceramideの抗腫瘍作用において最も重要な作用機序であることを示した。
(5)泌尿器癌に対する癌特異的免疫療法に関する研究:(i) CTL養子免疫療法を実施した3例について経過観察を行なったところ2例はPD、 1例は長期間PR(約3年)であった。PR例の病理解剖結果から原発巣に比べ転移巣では組織学的により悪性度が高い傾向を認め、縮小したリンパ節転移巣では広範な繊維化及びCD8陽性Tリンパ球の浸潤を認めた。(ii) BCGとの混合接種によりMBT2細胞を拒絶したマウスに4週後にBCGと共培養したMBT2細胞を接種したところ、腫瘍の生着は認められなかった。腫瘍を拒絶したマウスの脾細胞はBCGと共培養したMBT2細胞のみに対して傷害活性を示した。
(6)前立腺がんの糖鎖発現と浸潤・転移能との関係についての検討: MUC1ムチンのシアル化の進行と転移との関連が示唆された。
結論
結論と考察;
本臨床研究結果よりGM-CSF遺伝子を用いた免疫遺伝子治療は安全に患者に対して実施できると共に、患者体内に腫瘍特異的免疫反応を誘導可能であることが明らかになった。特に本年度の研究結果からGM-CSF遺伝子導入自家腫瘍ワクチン接種によって、患者免疫系に新たな液性免疫反応を誘導できることも明らかになった。今後、患者末梢血T細胞の機能検索と合わせて、本療法により如何なる抗腫瘍免疫応答が誘導されているか明らかにし、これらの知見からさらに有効性が期待できる抗腫瘍免疫療法・遺伝子治療を開発することが今後の課題である。なお次期遺伝子治療臨床研究プロトコールの準備状況としては、白血病、腎癌、膵臓癌を対象としてGM-CSF発現K562バイスタンダー細胞を用いた新規遺伝子治療臨床研究プロトコールを作成中であり、14年度中には学内審査を開始する予定である。
また今後のより効果的な遺伝子治療法開発を目指す上で、GM-CSF遺伝子とそれ以外の遺伝子を組み合わせた複合的遺伝子治療法を導入することも将来的には重要である。本年度の研究で腎癌に対する養子免疫療法については有用性が示唆されており引き続き臨床症例における検討を行い有効性及び安全性について明らかにする。基礎研究結果としてi)局所的にケモカイン産生を増加させるベクターの使用の可能性、ii)TWEAKならびにTRAILなどのTNFファミリー分子の腫瘍拒絶における重要性が示されており、今後のGM-CSF遺伝子治療との併用の可能性が示唆された。一方、抗PD-1抗体あるいは抗PD-1リガンド抗体投与では抗腫瘍免疫効果は期待できないことが明らかになった。今後の検討として、BCGの抗腫瘍効果の検討、シアル化MUC1ムチンの発現の抑制の検討などを行うことも抗腫瘍免疫療法開発の上で重要な示唆を与えてくれるものと考えられた。
以上の様に、本年度の研究成果は現在完了したGM-CSF遺伝子を用いた免疫遺伝子治療臨床研究をさらに進化した形で実施していく意義を示すと共に、がん免疫療法の進展に有益な情報を与えた。さらに本臨床研究に付随した基礎研究は今後の新規免疫遺伝子治療法開発に向けて多くの示唆を与えてくれるものであった。これらの方法の複合的利用により、より効果的で副作用の少ない新規免疫遺伝子治療の開発が可能になるものと期待される。
本臨床研究結果よりGM-CSF遺伝子を用いた免疫遺伝子治療は安全に患者に対して実施できると共に、患者体内に腫瘍特異的免疫反応を誘導可能であることが明らかになった。特に本年度の研究結果からGM-CSF遺伝子導入自家腫瘍ワクチン接種によって、患者免疫系に新たな液性免疫反応を誘導できることも明らかになった。今後、患者末梢血T細胞の機能検索と合わせて、本療法により如何なる抗腫瘍免疫応答が誘導されているか明らかにし、これらの知見からさらに有効性が期待できる抗腫瘍免疫療法・遺伝子治療を開発することが今後の課題である。なお次期遺伝子治療臨床研究プロトコールの準備状況としては、白血病、腎癌、膵臓癌を対象としてGM-CSF発現K562バイスタンダー細胞を用いた新規遺伝子治療臨床研究プロトコールを作成中であり、14年度中には学内審査を開始する予定である。
また今後のより効果的な遺伝子治療法開発を目指す上で、GM-CSF遺伝子とそれ以外の遺伝子を組み合わせた複合的遺伝子治療法を導入することも将来的には重要である。本年度の研究で腎癌に対する養子免疫療法については有用性が示唆されており引き続き臨床症例における検討を行い有効性及び安全性について明らかにする。基礎研究結果としてi)局所的にケモカイン産生を増加させるベクターの使用の可能性、ii)TWEAKならびにTRAILなどのTNFファミリー分子の腫瘍拒絶における重要性が示されており、今後のGM-CSF遺伝子治療との併用の可能性が示唆された。一方、抗PD-1抗体あるいは抗PD-1リガンド抗体投与では抗腫瘍免疫効果は期待できないことが明らかになった。今後の検討として、BCGの抗腫瘍効果の検討、シアル化MUC1ムチンの発現の抑制の検討などを行うことも抗腫瘍免疫療法開発の上で重要な示唆を与えてくれるものと考えられた。
以上の様に、本年度の研究成果は現在完了したGM-CSF遺伝子を用いた免疫遺伝子治療臨床研究をさらに進化した形で実施していく意義を示すと共に、がん免疫療法の進展に有益な情報を与えた。さらに本臨床研究に付随した基礎研究は今後の新規免疫遺伝子治療法開発に向けて多くの示唆を与えてくれるものであった。これらの方法の複合的利用により、より効果的で副作用の少ない新規免疫遺伝子治療の開発が可能になるものと期待される。
公開日・更新日
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